第338話 聖女候補者 ②

【マリア視点】


 私は報告にあった【精霊魔法】を使えると言われる少女に会うため、【スカウトフォート】に向かっているのだけど……


「マリア! 私も【スカウトフォート】へ行くぞ!」


「はぁ……何でアミルがきたのよ……」


 トラブル防止の為に【魔王】達には内緒で【スカウトフォート】行きの馬車に乗ったはずなのに、途中から走って追いかけてきたアミルが馬車に乗り込んできたのだ。


 まあ、アミルほどの身体能力なら馬車の数倍近いスピードで走る事は出来るからそこは驚かないけど……


「何でアミルは私が【スカウトフォート】へ向かってるって分かったんですか? 私の行動は極秘事項の筈ですが?」


「あ? マリアがいないと思ったら【スカウトフォート】方面からマリアの匂いがしたからな、ピンときたぜ」


「え?」


 もしかして、聖女候補の話が漏れていた?


「ひとりで舞演祭の視察にいくつもりだったんだろ?」


「ぶ、舞演祭? 何ですか、それは?」


 アミルは何の話をしているのかしら?


「【スカウトフォート】で毎年やってる祭りだろ。私より【スカウトフォート】へ行ってるのに何で知らないんだよ」


「それは知らなかったわ……私は【マリア学園】の視察にいくつもりだったのよ。それでアミルは舞演祭に興味があるの?」


 アミルは私の本当の目的には気付いていないみたいだから、嘘の無い範囲で答えておいた。

 下手に嘘を付くと勘の良いアミルは疑い出すのよね……


「ああ! 中央にある大通り両サイドを屋台がたくさん出店しているらしくてな、マリアが向かうならと思ったんだけど、違ったんだな」


「アミル、任務は大丈夫なの?」


「今のところは私の出番は無さそうだぜ。マリアの探してるっていうアーサーの足取りも分からないみたいだしな」


「そう……」


 どうしようかしら……


 アミルに任務があったなら、帰りなさいって強く言えるのだけど、任務を無い武闘派【魔王】はすぐに戻ってこれる距離なら自由にしていて良い権利が与えられているのよね。


「【スカウトフォート】の屋台は楽しみだなぁ~」


 これは絶対に帰らないパターンね……


「そう言えば、アミル。この前は【チェスガン】に行きたいっていってなかったかしら?」


 出来れば【スカウトフォート】へはひとりで行きたかったので、アミルが以前に行きたがっていた【チェスガン】の話題を振ってみる。


 確か、あそこに出店したカフェが大人気でこの世のものとは思えない程に美味しいって評判らしいって聞いた気がしたわね。


「ああ、あそこは魔獣の大量襲撃によって街が半壊して休業中らしい。【チェスガン】に派遣された調査員に聞いたら、何故かセシリアショップだけが無傷で残っていたらしいが、しばらくしたら休業になって、それっきりらしい」


「あの魔獣襲撃事件は私も聞きましたけど、建て直したんじゃなくて無傷だったなんて有り得るの?」


 魔獣は集団になると、基本的に本能のままに直進する傾向があるのに、そのカフェだけを避けて進んだのかしら?


「凄い頑丈な壁だったらしいぞ、街を守る壁よりも丈夫なお菓子屋さんなんて冗談みたいだが、本当らしいぞ」


 何気なく【チェスガン】の話題を振っただけだったけど、そんなに丈夫なお店があるなんて、興味が湧いたのだった。




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