第255話 ニナ

 総当り戦が終わった日の放課後、自分はブラットと共にブラットが通っているパン屋に来ていた。


 そのパン屋は小さな店構えで、普通の家の一部屋を改装してお店にした様な感じだった。


「美味しそうな匂いがしているね。」


「そうだろ? 実際に食べても美味しいんだぜ。」


「そうなんだ。 だけど、夕方近いのに焼いた匂いがするのはなんでだ?」


 自分のイメージではパン屋は朝早くに焼いて、あとは足りないものだけを焼き、夕方近くになれば売れ残りを避けて焼かないものかと思ったのだが。


「そりゃあ、焼き立てが美味いからだろ?」


「いや、そうだけどさ。」



 ちょっと経営的に大丈夫かな?と思いながらも、ブラットと一緒にパン屋に入ってみる。


 カラン、カラン。


「いらっしゃいませ! あっ、ブラットさん!」


 店に入ると可愛い感じの女の子が出迎えてくれた。


 自分達と似た位の年齢かな?


「今日は以前に話をしていたレイを連れてきたよ。」


「えっ!? 思ったより大人っぽい人なのですね……。」


「そうか? 俺と変わらなくないか?」


 いや、ブラット。 お前は十分大人っぽいぞ。


 そして、自分が大人っぽいと言われたのは初めてだな。


 ちょっと嬉しいかもしれない。


 ん?


「初めましてレイさん、私はここのパン屋【龍の胃袋】の娘でニナって言います。」


 ニナさんは何故か自分ではなくセシリアに自己紹介を始めた。


「ニナ、レイはこっちだぞ。 その人はセシリアさんだ。」


「初めまして、僕がレイです。」


「えっ、てっきり女の子の幼馴染だと……。」


 なんだかニナさんはほっとした感じになっている。


 なるほど……。


 鈍いブラットは分からないかもしれないが、自分には今のやり取りだけで何となく察した。


「レイは男だって言わなかったか?」


「料理や家事が得意なレイさんとしか聞いてなかったです。」


「そうだったか。」


「ちなみにセシリアさんは?」


「セシリアは僕の護衛をしているメイドですよ。」


「メイドを雇うなんてレイさんはお金持ちなんですね。」


「いや、そんな事はないよ。」


 セシリアは自分が作りましたとは言えないからな。


 確かに知らない人からしたらメイドを雇えるほどのお金持ちって認識になるのか。


 もしかしたら、クラスメイトもそう思っているのかな?


「そうだ。 ブラットさん。 作りたての菓子パンを用意してありますよ。」


「ありがとう。 出来たてがやっぱり美味いよな。」


「あれ?」


 焼き立ての匂いはするが、店内にあるパンからは出来たて感のあるパンは無いぞ?


 もしかして、ブラットの為にわざわざ焼いてるのか?


「レイ、どうしたんだ?」


「いや、なんでもないよ。 僕もいくつか買っていこうかな。」


「おう、近くにある公園で食おうぜ。」


「あっ、ブラットさん、今日は食べていかないんですか……。」


「食べるスペースもあるの?」


 見た感じ、食べるスペースなんか無い様な感じだが……。


「いつもは中で食わせて貰ってるんだが、今日はレイもいるからな。」  


「あー、ニナさん。 なんか申し訳ないね。」


「いえ、大丈夫です……。」


 自分が一緒に来たことでニナさんに大事な時間を奪ったみたいになって申し訳無くなっていた。




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