第134話 チェスガン 療養中

 自分はモロットで、療養生活を送っていた。


 療養生活とは言っても、学園でやっていた朝練やエレナと共に山へ薬草取りや、【魔導操作】の修練などは日課みたいなものなので毎日やっていた。


 それに、モロットには遊ぶようなところは全く無いので、コーデリアさん、シンシアさん、フローラの4人で自分が作ったボードゲームをやったり、ブラットやエレナとで模擬戦をやる位しか無いのだ。



 チェスガン襲撃事件の時、自分が活躍出来ないのは子供だから仕方ないのかもしれないが、あんなに強い魔獣達がまた襲ってこないとも限らないので、その時にはもっとしっかりと対応出来る様に強くなりたいなと思った。


 その為にも、セシリアショップでお金を稼ぎ、武具を改良したりしようと思っていた。


 しかし、チェスガン襲撃事件以降、セシリアにも変化が現れたのだが……。


「セシリア、いつも一緒にいなくても大丈夫だよ? 特にモロットにはお母さんやエリーさん、ガインおじさんがいるからね。世界でも、こんなに安全な町は無いと思うよ。」


「いえ、町が襲われなくても危険はたくさんありますから、油断してはいけません、マスターに何かあっては……。」


 セシリアはもの凄い心配症になっていたのだ……。


 ちなみに、セシリアは瀕死のところを自分の回復薬で助けてもらい、その時の恩から自分の護衛をしてくれる事になったセシリアショップのお姉さんという説明を両親にしたらしいのだが……自分は最初聞いたとき、こんな設定を誰が信じるんだ?と思ったが、みんなが割とすんなり信じてくれたらしい。


 という訳で、セシリアショップは従業員に指示などが出来るように試作型の【魔導中継機】を設置し、運営は従業員に任せて、自分とセシリアは強くなるための研究をする事になった。


「セシリア、今までは漠然と強くなれたり、自由な生活が出来る為の資金稼ぎだったけど、今後は今回みたいな強敵が襲ってきた時のために、本格的に強化案を考えようと思っているんだよね」


「分かりました。それでしたら今まで以上に資金稼ぎのための販売ルートと資材購入するルートを新たに開拓しなくてはいけませんね」


「そうだね……資材購入はクライブの商会経由で広げられたら良いんだけどな。学園が復帰したら相談してみようかな。資金稼ぎは……ちょっと考えるかな」


 モロットにいる間は、これという稼ぎ方が思い付かなかったので保留にした。


「あとは【魔導スライム】の研究というか……新たな活用法を考えたいと思っているんだよね。」


 現状では、【魔導スライム】はセシリアの指揮の元でしか正しく動かないが、そのうち自立した【魔導スライム】を作りたいと考えていた。


 まあ、それもセシリアが属性化したものを吸収するまでの間だけど……学生の間は世界を旅する事が出来ないから、当分先の話しかな……。


「それは【虹結晶】をもっと作ると言うことでしょうか?」


「うん。セシリアに回収してもらった魔獣の魔石と魔獣の血が大量にあるからね。それらを使って【虹結晶】や【虹魔石】を大量生産するつもりだよ。セシリアが回収しておいてくれて良かったよ」


 セシリアは、いつかは必要になるだろうと、セシリアが倒した分として、街から離れた場所にあった魔獣の死体から、魔石と血の回収をしておいてくれていた。


 しかし、二足歩行して人族っぽい見た目でも、心臓部分に魔石があるという事は、やっぱり魔獣なんだなと思った。


「それでは、私の方で【虹結晶】の量産を開始します。」


「うん、よろしくね……そうだ、強化と言えば試したい事があったんだった。」



 ☆



「お母さん、属性付与について聞きたいんだけど」


「なにが聞きたいの?」


「この前、僕が【光雷の魔剣】を使った時にさ……」


「あの魔剣は使わせないわよ? あの時、私が回復するのが数十秒遅かったら、レイは今頃は死んでいたか、良くても脳に障害が残るレベルで危険だったんだからね? 分かってる?」


「あ、うん。凄く分かってるよ」


 僕が目覚めてから、同じ事を10回以上は言われてるからね……流石にやらないよ……というか、手元に魔剣なんて無いし……


「レイの場合、勝手に魔剣クラスの武器を作ってそうで不安なのよね……」


「僕でも魔剣は作れるの?」


 図書館や武器屋でいろいろ調べても、魔剣に関しては分からないと言われて、主な入手先はダンジョン内だと言われたんだよね。


「私は詳しくは分からないけど、材料さえ集まったらレイも作れるかもしれないわね」


「ちなみに、材料は……」


「教えないわよ」


「だよね……」


 うん、分かってたよ。


 魔剣はダメだって言われてるのに、作り方を教えてくれる筈がないもんね……


「それで、レイは属性付与の何が知りたいの?」


「僕は【光雷の魔剣】を使った時の記憶が無いから、当時の状況は分からないけど、僕が死にかけたのは属性付与を失敗したから? それとも成功したから?」


「コーデリアちゃんやシンシアちゃんの話を聞く限りでは成功しているみたいね」


 お母さんが2人から聞いた話では、シンシアさんが襲われそうになった瞬間、轟音と共に気が付いたら魔獣は細切れになっていて、自分も全身火傷状態で倒れていたらしい。


 なるほど……そりゃ全身火傷状態なら瀕死だよなと思ってしまった……


「その僕が全身火傷した理由って、魔剣のせい? それとも僕の属性付与が悪かったのかな?」


「まず【光雷の魔剣】はレオンですら長時間属性付与をすれば危険な魔剣だから、レイには早すぎたってのと、そもそも【光雷の魔剣】は光属性と雷属性の2属性を内包している特殊な魔剣なのよ。」


「お父さんですら危険なのか……って、長時間じゃなければ平気なのか。」


 それに2属性を内包している魔剣か……


 自分はまだ雷属性しか使えないからあれだけど、将来的に全属性が使えるようになったらまた試したいな。


「あと普通は属性付与をしても全身火傷にはならないから、何かしら反動の激しいスキルを同時に使った可能性が高いわね……」


「僕にはそんなスキル無いけどな……じゃあ、普通の武器に属性付与なら……」


「それも本来ならダメだけど、もしやりたいなら私かレオンの前でやるなら良いわよ」


「じゃあ、お母さんに見て貰おうかな」



 ☆


 その後、お母さんの前で雷属性付与を試してみたんだけど……


「おえぇ……」


 属性付与をやろうとしたら、急に吐き気が込み上げてきた。


 こんなことは初めてなんだけど……何でだ?


「もしかしたら、記憶は無くても身体が拒絶反応を示してるのかもしれないわね……」


「マジかー」


 トラウマってことか……




 ☆



「レイくん、今日は負けませんよ?」


「私も、負けない……。」


「まだ、3人には難しかったかな。」


 今、4人で遊んでいるボードゲームは、異世界版人生ゲームである。


 前世の子供の頃に、今は思い出せない家族とよく遊んだ記憶があり、親が自分にお金の計算を覚えさせる為に銀行役をやらされていた。


 異世界版人生ゲームは、村人の子供から始まり、冒険者になったり、街でお店を開いたり、騎士団に入ったりとする内容にした。


 そして、人生の岐路でいくつもの選択肢を選ばせるのだが、3人は目先の利益を優先して進むのだが、最終的には損をする内容にしていたので、自分に勝てないでいた。


 そもそも製作者である自分に運の要素があるとはいえ、勝つのは難しいと思うのだが、3人は勝てそうで勝てない状況にはまり、何回も挑戦しては負け続けたのだった。


「う~、なかなかお兄様のお嫁さんになれない……。」


「いや、フローラ? このボードゲームにそんな選択肢は無いからね?」


 競争しているプレイヤー同士で結婚するって……


「えっ? なら私がお兄様と結婚出来る様に作り直して欲しいです!」


「それは……却下!」


 そんな選択肢を人生ゲームに取り入れたくないので却下だ……。


「ええっ……ショックです……じゃあ、お兄様の愛人になれるコマを作ってください!」


「どこでそんな言葉を覚えたんだ……却下!」


「残念です……」




「フローラちゃん、実は、ライバル……?」


「まさか、フローラちゃんがレイくんと結婚したいなんて……。」



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