第132話 勇者(笑)③

 【アーサー視点】


 俺は軟禁状態だった建物から【聖剣召喚】を使い、建物の壁を破壊して脱出してから数日が経過し、俺は女神に言われた地点を目指し旅をしていた。


 何でも、その場所には魔王に対抗する為の重要な施設が隠されているらしい。


 目的地は徒歩で数ヶ月はかかるらしい……


「まあ、最初の旅と思えばいいか……」


 ちなみに脱出する時、女神の助言により建物内にある宝物庫から盗んできたお金と高そうな剣と盾を使い、冒険者になろうとしたが、女神が言うには冒険者とは、実は魔王の手先であり、冒険者になると殺されてしまう恐れがあると言われたので、仕方なく冒険者になるのは諦めた……。


 冒険者になりたかったのに……ここでも魔王は俺の野望を邪魔するとは……


 俺はどんどん魔王に対する復讐心が増大していた。


 ☆


 旅を数ヶ月したのだけど……俺が想像していた旅とは全く違う酷い旅だった……


 何が一番酷いかというと、俺は【認証の指輪】が無効化されていて、街に入ることが出来なかったのだ……


 小さい町ならば、わざわざ入るのに厳しいチェックはないから、問題なく入れたが……小さい町は宿もボロいし娯楽もないから、全く楽しくなかった。


 せっかく宝物庫で盗んだお金があっても、遊べる場所が無ければ意味がない。


 そんなつまらない酷い旅も今日で終わりだ。


「あれが目的地の施設……?」


 目の前に見える場所……洞窟か?


 こんな小さな洞窟に本当に重要な施設があるのか?


 俺は女神の助言を信じ、暗い洞窟を歩き進むと……次第に洞窟の奥が明るくなっていき、見えてきた光景に俺は絶句する……


「これは……」


 目の前に広がる光景は、明らかにファンタジー世界にはそぐわない近未来……いや、俺が元いた世界に近い科学力で作られたかの様な巨大な建物がいくつも建てられた地下空洞があった。


 俺が軟禁されていた建物もそうだが、この世界はチグハグな科学力をしているなと違和感を感じていた。


 そして、いくつもあるビルの中でも一番大きな建物に入ってみる。


 ビービー!


「シンニュウシャニケイコク……」


 ビービー!


「シンニュウシャニケイコク……」


「くっ、警報か?」


 施設に防犯システムがあるなんて聞いてないぞ……



 しばらくすると二足歩行をするロボットが大量に現れる。


 俺は剣を構え、ロボットを攻撃すると、ロボットは手からビームみたいなものを発射された……


「うおっ! ロボットか、ビームとか反則だろ!」


 ヤバイな……今のビームには全く反応出来なかったぞ……


 どうする……


 一旦逃げるか?


 そうだな、俺はこんなところで死にたくないし、逃げるか!


 今度女神と話すタイミングがあったら、絶対に文句を言ってやるからな……


 俺はロボットから全力で逃げようと振り返ったとき、背後から女性の声が響き渡る。


「お待ち下さい!」


「え?」


 俺が女性の声がする方を見ると、ピンク色のゴスロリドレスを着た小さな女の子が立っていた。



 ☆


 俺はゴスロリ少女と共に、案内された質素な部屋で話をすることになった。


「防衛機構が勝手に攻撃してしまい申し訳ありませんでした。」


「まあ、怪我は無かったからいいが、ここは何なんだ?」


 本当はいきなり攻撃された件を怒鳴りちらしたかったが、あんなビームを搭載されたロボットを大量に抱えている、このゴスロリ少女を怒らせるが怖かったので、怒るのは止めておいてやった。


「ここは我らが神が創りし研究施設です。」


「研究施設? と言うことは、お前は研究員か何かか?」


 我らが神というのは、きっと俺をこの世界に転生させた女神の事だろう。


「私はこの研究施設を維持するために創られたアンドロイド・グリムドロアです。」


「アンドロイド? それじゃあ、お前もロボットなのか?」


「正確には人工生命体です。」


 人工生命体……さっきのロボットもそうだが、科学力が元の世界を遥かに超えているな……


 それなのに、俺が生まれた町や、この施設に来るまでに寄った町は文明レベルは最底辺に近かったのは何でだ?


「それは、この世界を支配している【聖教会】という悪の組織が科学技術を独占していて、科学を研究しようとすると秘密裏に消却されているからです」


 俺はグリムドロアのいう説明を聞いて、全てが納得出来た。


「やっぱり【魔王】を崇拝する【聖教会】は悪の組織なんだな」


「はい、そしてこの施設は【聖教会】に対抗する為の戦力を作る場所になります。」


 グリムドロアが言うには、この施設を使って戦力を作るには足りない材料がたくさんあるのだが、グリムドロアはこの施設からは出れない様に創られており、代わりに足りない材料を街から集めてきてくれる人材を探していたらしい。


 きっと女神がグリムドロアの手伝いをさせる為に、俺を施設に行かせたのだろう。


「だけど、残念ながら俺には【認証の指輪】が無効化しているせいで大きな街には入れないぞ?」


「それは問題ありません。【認証の指輪】を誤認させるものがあります」


「そんな便利なアイテムがあるのか?」


「はい。【認証の指輪】も神の創ったものならば、我らが神にも似たのとが出来るのは当然です。」


「なるほど……?」


 俺はこれで冒険者になれるのかと思ったのだが、グリムドロアからは、無理と言われた。


 何でだよっ!?って思ったが、どうやら【認証の指輪】を誤認させるアイテムは、街に入る程度の緩いシステムを誤認させるには有効だけど、システムとリンクさせるような冒険者登録やクレジット機能を使えば、速攻で【聖教会】にバレるらしい。


 くそっ、やっぱり今度女神と話すときに文句を言ってやる!



 ☆


  それから俺はグリムドロアの指定したアイテムを街へ買い出しに出ながら、街で情報収集しながら生活していた。


 ある時俺の見た目が子供の姿から変化していない事に気が付いた。


「これは不老だったりするのか? もしかしたら、女神からの転生特典なのか?」


 どうせなら青年の姿で固定して欲しかったが、もしかしたら成長が遅いだけかもしれないし、数年ったら気にならなくなった。



 ☆



 女神からは数年に1度のペースで話をかけてきた。


『おい! 俺は冒険者として活躍したいんだ! 何とかしろよ!』


『分かっていますよアーサー。今日はちゃんとあなたの望みを叶えるスキルを持ってきましたよ』


『ほんとうかっ!?』


 そして、女神は新しいスキルをくれた。


 女神がくれたのは【隠蔽偽装】という異世界転生主人公には定番のスキルだった。

 これはステータス画面を自由にいじれるという超便利なスキルで、これにより街中でも怪しまれることなく自由に行動出きるらしい。


 このスキルにより、俺は職種を【剣士】にする事にした。

【勇者】だと目立ってしまい、また変な建物に連れて行かれたくないからだ。


  それから女神は数年に一度の頻度で様々なスキルをくれた……中には使えないだろってスキルもたくさんあったが、有能なスキルもあった。


【魔獣魅了】

 これは町の外で試したが、魔獣と戦わなくても魔獣を仲間に出来た。

 女神の話では、将来の獣人ハーレムを作るために今の内から魔獣の仲間を増やすように言われた。

 そんな事を言われたら一気にやる気が出て、たくさん魅了していった。

 魔獣が獣人になるまで何年もかかるらしいから、育成ゲームだと割り切って楽しんだ。


【倫理解除】

 このスキルはよく分からないが、女神に絶対必要だと言われた。

 悪い神が学校にて、都合の良い倫理を押し付けてくるからだと説明され、確かに知らない間に洗脳みたいになるのも嫌だなと思うようになった。



 ☆


「アーサーのおかげで新しい戦力を作り出す目処が立ちました。ありがとうございます。」


「俺のほうも魔獣を強化するアイテムをいくつももらったからな。気にしなくていい」


 グリムドロアからもらった魔獣を強化するアイテムを魔獣に使うと、一定確率で獣人化する進化アイテムだった。


 これにより数十年はかかる進化を一瞬で完了させる課金アイテムみたいなものだから、グリムドロアの手伝いもクエストと思えば楽しめた。



 そして俺は研究施設からは離れ、素性を隠した仮面の冒険者として活躍しながら、 隠れて街周辺の魔獣達を【魔獣魅了】して仲間を増やしていった。



 ☆


 魔獣の中には次第に、会話の出来る賢い魔獣が産まれ、徐々にだが、人型の魔獣が増えて、隠れ里的な感じで魔獣の集落が沢山出来ていった。


 そして、俺は優秀なメスは近くに置き、オスや使えないメスにはこの地を離れて俺の住みやすい世界を作れと命令して追い出した。

 基本的に俺はハーレムが作りたいからオスはいらないのだ……次第に数は増えていき、メスの中でも可愛く無さそうな魔獣はオス同様の命令だけして追い出した。



 ☆


 俺はハーレムの小さな国を形成していた。

 魔獣も賢い個体はほとんど人類と見分けがつかないレベルに進化していた。

 ハーレムの国には5万人近い数がおり、その100倍以上の個体を追放していたが、追い出した個体に関しては、それ以降何をしているかは解らなかった。


 まあ、どこかで俺の為に働いているだろう。



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