第131話 チェスガン襲撃⑥

【マグナ視点】


 私は何でこんな事になってしまったのだと思いながら、無数に迫ってくる魔獣の群れを切り刻んでいた。


 チェスガン等という重要な拠点も無ければ、守らなければいけない財も無いだろう、普通よりちょっとだけ大きいというだけの街なのに、何故これ程までの魔獣が攻めてきたのか、未だに謎過ぎて困惑してしまう。


 まあ、私1人ならば魔獣の群れなど華麗に避け、チェスガンから脱出は出来るのだが……今は守るべきマーティナさんがいるので、流石にマーティナさんを連れ回しながら魔獣と戦うにはリスクが高いと判断し、治療施設に攻めてきた魔獣のみを倒すという守りの作戦を実行していた。


 マーティナさんが普通の適正者ならば、多少のリスクは覚悟して強硬突破していたかもしれないけど、【バベル】宗主より直々に『マーティナが安定し次第、必ず本部へ連れてこい』って言われたら、命をかけてマーティナさんを死守するしか選択肢は無かった。


「はぁ、はぁ……流石に疲れてきましたね……実戦から離れてデスクワークばかりだった身体には堪えるわね……」


 魔獣は二足歩行に武装という意味の分からない変異種だったけど、動きが人族に似ていたので、私としては非常に戦いやすく、かすり傷はあるけど、大きな怪我が無い代わりに体力がカツカツだった……


「マグナさん、だ、大丈夫ですか?」


「え、ええ。大丈夫よ。マーティナさんは絶対に守るから、安心して」


 私はマーティナさんを心配させないためにも強がってみせる。


 体力回復ポーションはこれで最後か……


 魔獣の勢いはちょっと落ち着いてきた。


 そろそろ、このまま雑魚魔獣の群れは終わってくれないかな……?


 まだ、明らかに別格な魔獣が最低でも3匹はいるんだから、その魔獣と戦う体力を残しておかないと、完全に詰んでしまう。


 出来れば、最終手段は使わずにこの危機を脱したいな。


 それにしても、マーティナさんを街中で見かけた時は、ものすごい才能を発見して興奮したけど、まさか命をかけることになるとは思わなかったわ……でも、マーティナさんは良い子だし、嫌いではないから出会ったことには後悔してない……ってか、まさか、数百年に一度のレベルの逸材になるのは予想外だったわ。


【バベル】での勤務歴は長いけど、ここまで薬が完全適合したのを見たのは初めてだった。


 強いて欠点を上げれば、マーティナさんがもっと幼少期の時に出会えていれば、超エリート育成コースに入れて私みたいに技術をガンガン鍛えるって事が出来たけど、今からだと一部の能力は発現しないかもしれない。


 まあ、私みたいに神童と呼ばれていたけど、伸び代の無かった私みたいには……っ!?


「……!?」


「どうしたんですか?」


「危険な魔獣の2匹が動き出した……」


 1匹は街よりかなり離れた位置で相変わらず動かないけど、2匹は突然、ものすごいスピードでチェスガンに突っ込んで来たのが分かった。


 私は、この治療施設には来ませんように……と祈るが……


「マーティナさん、私が逃げてって言ったら素直に学園に逃げてね?」


「え……どうしてそんな事を……」


「危険な魔獣の1匹は入口で止まったけど、何故かはわかりませんが……もう1匹は真っ直ぐこちらに向かって来ています」


「えっ!?」


 明らかにここをターゲットにして来ているので、もう戦闘は不可避だろうと諦めるけど、実際に戦ってみないと、魔獣の強さは分からないので、戦う前から学園に向かわせるか、無理そうなら学園に逃がすか……どちらが正解か判断に迷ったけど、とりあえず戦って魔獣の強さをみることにした。


 雰囲気からして、私が瞬殺されるほどの実力差は無いと思うから大丈夫かな……



 ☆



【マーティナ視点】



 私はマグナさんと人型の魔獣との壮絶な戦いに言葉が出ないでいた。


 人型の魔獣は2メートル以上ある女性っぽい特徴がある獣で、両手に金属製の籠手を付けていて、マグナさんの4刀と殴りあっていた。


 マグナさんと魔獣との戦いは、当初マグナさんが押されていたけど、マグナさんが薬みたいなのを飲みだしてから、マグナさんの背後に巨大な人影が現れ、空中に浮かべて戦ったいた巨大な剣を人影が持つと急に強くなり、現在では実力が拮抗しているように見えた。


 だけど、マグナの顔色はどんどんと悪くなっている気がする。


 マグナさんは私のために頑張って戦ってくれているのに……私は見ていることしか出来ないのが、凄く悔しかった。


 本当ならマグナさんの加勢をしたいけど、確実に邪魔をしてしまうのが分かるので、離れた場所で見ている事にした。


 そして、実力が拮抗しているように見えていたけど、マグナさんが右腕を魔獣に掴まれ、そのまま右腕を折られてから均衡が崩れてしまう。


「マーティナさん! やっぱり念のため、学園に向かって下さい! こいつは私が確実に殺しますか……」


「オマエタチガシネ」


「あ、マーティナさん、避け……くっ」


 魔獣は両手に魔法の様なものを瞬時に溜め、何かが光ったものをマグナさんが弾いてくれた。


「え……」


 私は目の前の光景が信じられなかった……


 え、どういうわけ?


 頭部の無くなったマグナの身体が、糸が切れた人形の様に倒れてしまう……


 さっきまで……


 もしかして、わたしのせい?


 マグナさんの意識が一瞬、私に向いてしまったから……?


 魔獣の拳を頭でまともに受けてしまった……?


「いやあああああっ!!!」


「フウ、ツヨカッタナ、ツギハオマエダ」


 私は目の前でマグナさんが殺されたショックと、魔獣の恐怖により、身体が震え……上手く思考することが出来なくなっていた……


「いや、いや、いや……」


「ナンダキサマハ、タタカワナイノカ……ツマラナイ」


 いや……魔獣が私に向かって歩いてくる……



 ……



『困っているようじゃな? 助けてやろうか?』


 気が付いたら、私は真っ白な部屋にいた。


 そして目の前には仮面を付けた怪しい人がいた。


『ここは……?』


『以前、来たじゃろ?』


『え、前に来たことがある?』


 そう言われると……来たような……


『なんじゃ……覚えておらんのか……』


『来たことがある気はするんですが……覚えていません……』


『まあ、良いじゃろ……ワシに身体を少し貸してくれればあんな雑魚は一瞬で倒してやろう』


『身体を貸す?』


 身体を貸すってどういう意味だろう?


『お主がこの部屋に残り、代わりにワシが現実世界のお主の身体を使って敵を倒すのじゃ。悪い話ではないじゃろ?』


『……』


 代わりにあの魔獣を倒せるのなら、悪い話では無いのだろうけど……知らない仮面の人に身体を貸す事に嫌悪感を感じていた。


 コレがマグナさんに身体を貸すと言うならば、喜んで貸していたが……


『お主が戦えば確実に死ぬぞ?』


『貴方が戦えば……本当に私の身体で勝てるのですか?』


『勝てるな』


『すぐに身体は返してくれるんですよね?』


『用事が済めばすぐに返すぞ』


『分かりました。』


 本当は嫌だけど、マグナさんの仇がとれるなら……






 ☆


【レイ視点】


  チェスガンへ向かう馬車の中は自分とお母さんだけとなっていた。


「お母さんはエレナとブラットが馬車から降りるのを知っていたの?」


「ええ、エリーさんからエレナちゃんとブラットくんが、馬車から降りるかもしれないけど、好きなようにさせてあげて欲しいと言われていたのよ」


「エレナは大丈夫な気はするけど……ブラットは大丈夫なんだろうか……」


 きっとエレナ主導でブラットが振り回されている未来しか見えない。


「エリーさんが許可してるから、危険はあっても最終的には大丈夫なんじゃないかしら」


「なるほど……」


 エリーさんはエレナ以上に不思議な人だからな……エレナが大人になったらエリーさんみたいになるんじゃないかと思える位、顔や表情、声までがそっくりなんだよね。


 だからなのか、エリーさんの言うことはエレナ並に言うことを聞いていれば問題無いと信用できた。


 しかし、2人は魔獣と戦ってるのかな……


 自分もちょっと2人と戦いたかったな。


「エレナちゃんとブラットくんが魔獣と戦うのはエリーさんからの話があったから良いけど、レイは魔獣と戦っちゃダメよ?」


「え、うん……わかってるよ?」


「本当かしら?」


「大丈夫だよ。みんなの無事を確認したいだけだから……」


『マスター、よろしいですか?』


『うん、どうしたの?』


『現在、レオン様がチェスガン学園前に到着しまして、学園前に攻めてきていた魔獣の群れを一掃してくれました。』


 セシリアの話では現在お父さんは街中の魔獣を殲滅中みたいだ。


 完全に街中に潜んでいる魔獣がいないかを確認するまでは、学園の地下シェルターに避難している人達の避難解除はされないらしい。


 その事をお母さんに話すと、強いお父さんでもチェスガン内に入ってしまった魔獣を全て倒すにはかなりの時間がかかるみたいだ。


 それにしても、チェスガンの街はかなり荒らされているらしく、被害は甚大みたいだ……2年も過ごした街が破壊されているのを見るのは辛いな。




 ☆


「これは酷いね……」


「ええ、予想以上に酷いわね」


 自分とお母さんはチェスガンに到着したのだが……目の前の光景にそれしか言葉が出ないでいた……。


 チェスガンの入口前には欠損の激しいぼろぼろの女性達がおり、その周辺には数百匹はくだらない数の人型魔獣の死体が大量に積み重ねているのを見て、魔獣と分かっていても人型の死体と強烈な血の匂いに吐き気がおきた。


 もうこれは戦争みたいなものだな……



 まず、お母さんは怪我をしている騎士団員の回復をしてからお父さんと合流して街の中を見て廻る事にしたらしい。


 お母さんの回復魔法ならば欠損もある程度は回復することは出来るだろうが……女性騎士団は生き残りは7名だったらしい。


 基本的に騎士団の人は街周辺の警護しかしないから死者は出ないらしいので、今回の死者50名を超えるのは王国始まって以来かもしれない。


 自分とセシリアの関係をあまり知られたくない理由から会うわけにはいかないので、セシリアには店舗で避難中のリリさんとネルさんの様子を見て貰った後は【魔導砲】と【魔導散弾銃】を回収してもらう事にした。

 まあ、これだけセシリアが動いてしまっては自分との関係がバレるのも時間の問題かもしれないけど、人命にはかえられないだろう。


 そして、自分は馬車にて学園に向かい避難中のコーデリアさんとシンシアさんの様子を見に行くことにした。



 ☆


 学園内にて地下シェルターから出ていたコーデリアさんとシンシアさんを発見した。


 避難している人は地下シェルターにいる筈なのに、何で2人が地上に?


「コーデリアさん、シンシアさん!」


「レイくん!? なんで学園にいるのですか?」

「レイさん!」


「チェスガン襲撃の情報が入って、両親が救援に行くことになったから、僕もみんなが心配で付いてきたんだよ。」


「来てくれたのは嬉しいですが、こんな時に来たら危ないですよ!」


 コーデリアさんとシンシアさんがちょっと怒ってる?


「いやふたりが心配でさ……。」


「「……心配。」」


 なんか2人の怒りが無くなった?


 ふたりから地下シェルターでの話を聞いていたら。


『マスター! 学園の方に高速で移動する魔獣が一匹いますので気を付けて下さい!』


『えっ?』


【魔素通話】を聞いて直ぐに……


 ズドンッ


「ヤハリ、アイツラハ、シッパイシタノカ! ワタシガ、カワリニココヲ、ホロボス。」


「なんだこいつ?」


 ラノベによく出てくる、犬の耳に体毛、顔に至るまで犬獣人って感じの女性だか……街の外に魔獣よりも、もっと人族寄りの見た目だった。


 そして魔獣に気がついた時には20メートルは有りそうな巨大な岩を作り、投げてきた。


 なんだ?


 見た目は巨大な【ストーンボール】の様に見えたが、全く【魔力操作】などをした気配もなく、いきなり巨大な岩を精製したように見えた。


「みんな! 避けて!」


「「え?」」


  やばい、みんな魔獣からの攻撃に反応出来ていない!


 コーデリアさんとシンシアさんの前に立ち、最大数の【魔導壁】を展開する。



 ドガガガガッ!



 巨大な岩は【魔導壁】を貫通していく……


 くっ……


 何て威力なんだ!


 岩の硬さとあるかもしれないが、これは単純に岩を投げた魔獣の腕力が凄まじいんだろう。


 かなり威力は弱まっていたが、全ての【魔導壁】は破壊され、自分はまともに受け吹き飛ばされる。


「ガハッ……」


「レイさん!」

「レイくん!」


 ヤバイな……


 そして自分がダメージを受けたことにより、自動的に魔獣に対して【重力カウンターの指輪】が発動する。


「ナンダ、コノカラダノ、オモサハ。」


 魔獣は、さっきの巨大な岩同様、瞬時に巨大な土の剣を精製し、それを軽々と片手に持ち、凄い速さで自分に突っ込んでくる。


 くそっ、あんな大きさの武器を軽々と持ち上げるってことは、やっぱり相当な腕力だな!


 自分は咄嗟にお父さんから借りた【光雷の魔剣】を抜き、構えながら【魔導壁】を展開するが、魔獣の攻撃するスピードが速すぎて【魔導壁】がすぐに壊されていく、お父さん程ではないが実力差が有りすぎるのがよく分かる……。


 しかし、そこは先ほどとは違い、【魔導腕】を使い自分の身体を後に引っ張りながらバックステップすることで高速バックステップにて魔獣の攻撃を回避する。


 朝練によって身体能力をあげておいて良かった……


『マスター、ソフィア様に魔獣の件を連絡したので間もなく到着するはずなので、それまで耐えてください。』


『セシリアありがとう。そしたら僕は時間を稼ぐだけで良いんだね』


 よし、倒さなくても良いのなら、何とか希望が見えてくる。


 とりあえず自分は魔獣の動きを出きるだけ制限させ、時間を稼ぐ方法を実行する。


 自分は魔獣の周辺に【魔導腕】を出現させ、魔獣の足に絡み付かせる。


 更に魔獣と自分との間に何枚もの【魔導壁】を多重展開する。


「サッキカラ、イマイマシイコトヲ……」


 魔獣は先ほどと同じ様に巨大な土の剣で攻撃してくるが、自分も先ほど同様にバックステップにて回避する。


 よし、これならお母さんがこっちに来るまでの時間稼ぎが出来るな。


「ナラバ……」


「えっ……くっ!」


 魔獣は剣による攻撃を早々諦め、巨大な岩を両手に精製すると、2つの岩を投げてきた!


 2つの岩により、多重展開していた【魔導壁】はあっという間に消されていき、自分は【魔導腕】を使いサイドステップで回避するが、魔獣は既に次の岩を2つ投げようとしているのが見えた。


 くっ、【魔導壁】の展開が間に合わない!


 さっきまでは【魔導壁】によりスピードが殺せていたから回避出来ていたけど……ヤバイ、これは死んだかも……



 そして、自分の身体には威力が殺しきれていない巨大な岩が突き刺さる。



【身代わりネックレスが発動……】


【身代わりネックレスは崩壊しました】


 ああ、そうか。


 危ない攻撃を受けたことにより【身代わりネックレス】が自動で発動してくれたみたいだ……


 作っておいて良かったな……【身代わりネックレス】



 しかし、こんな死にそうなダメージを受けたのは初めてだな……。


 自分は【身代わりネックレス】により、無傷の状態で起き上がる。


「オマエハ、ナゼシナナイ!」


 まあ、普通はあんな攻撃を受けたのに平然と立ち上がれば、叫びたくもなるだろう……


 しかし、これならどうやって時間を稼ごうか……そろそろお母さんが到着しそうな気もするけど、一瞬でも気を抜いたら即死しそうだしな……


 最低でも10分位は時間稼ぎ出来るような手段は無いだろうか……


 そんなことを考えていると、強烈な熱気と共に物凄く濃密な【魔力】を感じたので、そちらに振り向くと……


「レイくんは、やらせない……力を貸して【魔女】……【ファイヤーストーム】!」


 ゴオォォォゥ!!!


 シンシアさんが今までにみたことの無いレベルで、奇跡的な【魔力操作】を実現させ、強烈な火の渦が魔獣を襲った。


 凄い威力だ……


 これで倒せれば良いのだけど……火の渦が強烈過ぎて、魔獣がどうやっているのか分からなかった。


 そして数秒後には、シンシアさんの魔力が尽きたことにより、火の渦が消えていく……


 シンシアさんみたいな膨大な魔力量があるのに数秒しか使えない【ファイヤーストーム】は威力に比例して燃費も物凄く悪いみたいだった。


 次第に火の渦が消えると……そこから現れたのは、岩の塊だった……もしかして岩で身体の回りを囲って防いだ!?


 岩の塊がぼろぼろと崩れさると、中からは無傷の魔獣が出てくる……


 いや、少しふらついているから、多少は蒸し焼きにされてダメージは入ったかもしれないが、まだまだ動きを止めるレベルでは無さそうだった……


「キサマ……コロス!」

 

「ヤバイ! シンシアさん逃げて!」


「え!?」


 魔獣は巨大な剣を作り出すと、すぐさま自分ではなくシンシアさんに向かって走り出す。


 ヤバイ、シンシアさんは魔力切れで倒れているし、コーデリアさんには剣を防ぐ手段はない!


 そして、あんな魔獣の攻撃をコーデリアさんとシンシアさんが食らえば、確実にしぬ……


 しかも、自分の位置からでは距離的に間に合わないし、【魔導壁】を展開する時間もない……どうする?


 どうする? どうする?


 何か、手はないのか?


 そして、右手に【光雷の魔剣】を持っているのを思い出す。


 これだっ!と一瞬で思い、お父さんに禁止されていたが、【光雷の魔剣】に雷属性付与をすることを思い付く。


 直感的に2人を助けるにはこるしかないと思い、迷わず雷属性付与を開始する。


 雷属性付与はかなり練習して甲斐があって、難易度は相変わらず高いが、【光雷の魔剣】の雷属性付与が成功した。


【条件を満たしさましたので、雷帝化をいたします】


 ドウッ!


 バチバチバチバチ……!!


 脳内アナウンスが流れると共に、視界に映る光景に違和感を感じた。


 まず、魔獣の動きが止まっていた……いや、微かに動いているのか?


 つまり、自分の思考が加速しているのだろうか?


 あんなに高速移動していた魔獣がスローモーションに見える程の思考加速?


 不意に恐怖を感じたが、今はそんな事に時間を使っている場合ではない。


 自分はシンシアさんを助けるため、思考加速しながら身体を動かそうと一歩踏み込んだ次の瞬間には、シンシアさんの前に立っていた……


 なっ……


 瞬間移動?


 違う……自分の全てが加速している?


 思考だけでなく、身体も?


 何だよ、このチート魔剣は……


 いや、自分の命と引き換えに手に入れたチート能力だと思えば、悪くないかもしれない。


 そして、自分は【光雷の魔剣】を使い、未だにスローモーションでシンシアさんへ向かって攻撃しようとしている魔獣を斬りつけると、まるでゼリーを切っているような感覚になるくらいあっさりと魔獣の首が斬れた。


 バチバチバチ…………


 ヤバイ……


 感覚的に【雷帝化】が解けそうな気配がした。


 魔獣の首を斬ったから、多分死んだと思うが、こんなところで慢心してはいけないと思い付く、魔獣を細切れになる程斬り裂き、【雷帝化】が終わり時間が動き出した。


「え、レイくん?」


 シンシアさんは目の前に迫っていた筈なのに、気が付いたら目の前には自分がおり、魔獣は八つ裂きにされてびっくりしている感じだった。


「なんとかシンシアさん達を助けられて良かったよ……」


 そこで自分の意識はぱったりと途絶えてしまった……


「「レイくん!?」」




 ☆



 自分は目を覚ましたら、自宅のベッドの上で寝ていた……。



 確か自分はチェスガンへの魔獣襲撃に対応していたはずなのに、自分はなんで自宅に寝ているんだろうか?


 ……。


 そういえば、チェスガンに向かっている記憶はあるけど、その後はどうなったのか覚えてないぞ?



 自分は上体を起こして、周りを見るとコーデリアさんとシンシアさんがソファーに座り、肩を並べて眠っていた。


 もしかしたら、ふたりは自分の看病をずっとしてくれていたのかな?


 というか、自宅になんで2人がいるんだ……。


『マスター、お目覚めになったのですね。』


『ああ、セシリアおはよう。 僕はどうして自宅に寝てるの?』


『チェスガンの襲撃事件から、既に2ヶ月が経過していて、マスターはずっと眠っていました。』


『え! 僕は2ヶ月も寝ていたの? ……僕はチェスガンへの魔獣襲撃の途中から記憶が無いんだけど、怪我でもしたの?』


『マスターは戦いの中で頭にダメージを受けて気を失いました。 傷自体は治っているのですが、意識だけが戻らず、両親の意向で目覚めるまで自宅で面倒を見ることになったのです。』


『なるほど……それは分かったんだけど、なんでコーデリアさんとシンシアさんが部屋にいるの? 学園の授業は?』


『現在、街がかなりのダメージを受けた為に、学園はお休みしています。 コーデリア様とシンシア様はマスターの事が心配という事で、一緒にモロットの町に来ています。』


 いろいろ細かく確認したい事ばかりだな……


『そうなんだ……それで学園の再開する目処は?』


『学園自体は外壁が壊れただけですが、教師や街の防衛をしていた騎士団が崩壊しましたので、学園の再開はあと3週間はかかると思われています。』


『なるほど……。』


 そうか、騎士団が崩壊したのか。



『そろそろ、そちらにソフィア様と一緒に到着します。』


 え!


 セシリアも家にいるの?


 しかも、お母さんと一緒って、どういうこと?


「レイ! 目が覚めたみたいね!」


 お母さんが勢いよく部屋のドアを開けて入ってきた。


 その音にコーデリアさんとシンシアさんがびっくりして目を醒ましてしまう。


「あっ、レイくん!」

「レイくん。 目が、覚めた……。」


「みんなおはよう。心配させてしまったみたいでゴメンね。」


「レイが目を覚まして良かったわ。」


「レイくん、おはようございます。 目覚めて良かったです。」


「レイさん。 目が、覚めて、良かった……。」


 4人が自分の目覚めを喜んでくれていた。


「何でセシリアが自宅にいるの?」


「マスター、すいません。チェスガン襲撃事件の時にレオン様に見つかってしまい……」


 その後、自分が怪我をしてしまい、お母さんやお父さんと連携した方が良いと判断したらしい。


「まあ、バレてしまったのなら、仕方がないかな。」


「初めて聞いた時はびっくりしたわ。 レイにセシリアさんみたいな知り合いがいたなんてね。」


「レイくんにこんな年上の女性の知り合いがいたなんて……。」


「急に、ライバル、出現。」


「ん?」


 あれ? 


 セシリアはどういう説明をしたんだ?


 あまり余計な事を話すと墓穴を掘りそうだから、後でセシリアから詳細を聞こう。


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