第129話 チェスガン襲撃④

【マーティナ視点】


私は冬休みになっても地元には帰らずに治療施設内に引きこもっていた……


私が治療施設にいるのは、治療の為ではなく、髪と瞳の色が変わり、持って生まれた属性すら変わってしまった原因を調べる為という理由ではあるけど、本当は私自身がみんなの前に……いえ、ブルーノくんの前に見た目が全く変わってしまった姿で会うのが怖かったから、治療師に頼んで原因を調べて欲しいと言って治療施設に引きこもっていたのだ。


そんなとき、マグナさんが部屋に慌てて入ってきた。


「マーティナさん、大変です! 現在、チェスガンは謎の魔獣の群れに包囲されているらしく、ほとんどの住民はチェスガン学園に避難しています。」


「えっ、謎の魔獣?」


様々なことに詳しいマグナさんが、謎の魔獣という言い方をしたことに違和感を覚えたけど……


「はい、謎の魔獣の総数は騎士団の話では500匹を超えているらしいです」


「それなら、私達も避難しないと!」


「いえ、マーティナさんは私と一緒に治療施設に残りましょう。私の予想ではほとんどの魔獣は学園を目指すのではと考えています。」


「えっ、でも、もし魔獣がこの治療施設に攻めてきたら……」


「その時は私がマーティナさんを守ります。私はこれでも強いんですよ~」


その時のマグナさんの笑顔がとても悪女の様な雰囲気だったけど、頼もしくも思ってしまった。




「ああ、何となく嫌な感じになって来ましたね……そろそろ魔獣がチェスガン付近まで来ているかもしれません」


「えっ、マグナさんはここから街の外周までの気配が分かるんですか?」


チェスガンの全体が何キロくらいあるかは分からないけど、治療施設から街の外周までは最低でも3キロ以上はあるはず……


そこまで広範囲の気配が分かるとしたら、凄い索敵能力なんじゃ。


「ん~、勘みたいなものですから、正確ではないですし、私なんて【バベル】の中では中堅クラスなんで大したことはないですよ。私なんかよりマーティナさんの方が才能はありますから、ちゃんとした訓練を受ければ、あっという間に私なんて追い抜いちゃいますよ」


「私なんかが、本当にそんな強くなれるのでしょうか?」


「マーティナさんの自信の無さは筋金入りですね……そしたら、この魔獣問題が解決したら旅行しましょうか」


「えっ、旅行ですか?」


「はい、【バベル】の本部にご招待しますよ。【バベル】本部は楽しいですから……あ、そろそろ騎士団と戦闘を……」


その時、暗闇が一瞬明るくなる程の光がチェスガン入口方向で光っていた。


なに、あれ……


「これは【魔王】のスキル……? いや、似ているけど、もっと別の……」


マグナさんは光を見て、真剣な表情で考え出す。


「なんか良くない感じですか?」


「マーティナさんは私が守りますから安心して下さい……ああ、でも念のためにマーティナさんにはお守りを渡しておきましょう。」


そう言って、マグナさんは私に宝石の付いたネックレスをくれる。


宝石は真っ黒な筈なのに、何故か不思議な色をしている様な気になるもので、今が魔獣の驚異にさらされていなければ、ずっと眺めていたい気分になる不思議な宝石だった。


「ありがとうございます。これはどんな効果のあるものなんですか?」


「それは【バベル】製のお守りで、マーティナさんみたいな才能のある人の強い願いにより力を与えてくれるとされていますが、まだマーティナさんには早いと思いますから、本当の本当にピンチな時にだけそれに頼って下さい」


「分かりました。ありがとうございます」


マグナさんがここまで念をおすのだから、きっと使うと私に良くない現象が起こるのだろうなと予想出来たので、出来れば使いたくないと思った。





それから、数時間後……チェスガン内に大量の魔獣?が侵入して来たのだけと、私は2つのことにビックリしていた……


まず1つ目は、魔獣の容姿が想像と全く違うことで、2本足で走る人族っぽい獣といった印象だった。


しかも剣や槍、盾など様々な武具を身に付けていて、それが普通の魔獣が攻めてくる以上に恐ろしく感じた。


あんなのはもう、ほとんど人族が攻めてきたみたいなものではないのか……そんな感想すらした。


そして、もうひとつのビックリしたことは……マグナさんだった。


「マーティナさん、どうです? 私もまあまあ強いでしょう?」


マグナさんはそう言いながら、私に微笑みかけてくれるが、その見た目は殺した魔獣の返り血で黒い服がびしょ濡れになっていた。


マグナさんはもう1時間ほど魔獣と戦っていたけど、魔獣から攻撃を受けることは一切無く、圧倒的な武力により魔獣を倒していて、そのマグナさんが戦う姿が美しく見えた。


「はい、凄いです! それにしても変わった戦い方ですね……」


「普通の人には馴染みの無い戦闘スタイルでしょうね。私のこれは【バベル】発祥のバベル式魔刀四刀流と言われてます。」


「四刀流……?」


マグナさんは両手に不思議な形の剣を2本持ち、更に空中に似たような不思議な形の長い2本の剣が浮いていて、その4本の剣を巧みに操り、4本全てが様々な属性付与をされた魔剣なのか、キラキラと輝いていて美しく見えていた。


「はい、マーティナさんも将来的にはマスターしてもらいたいと思っていますが、このバベル式魔刀四刀流には習得しなくてはいけない技術がいくつかありますので、今は今後の参考に見ていてくださいね」


「はい!」


この会話中もマグナさんは、空中に浮かせている長い2本の剣で襲って来ている魔獣をバッサリと武具ごと切り裂いていた。


あの武器を浮かせて戦うスタイルは、ちょっとクラスメイトのレイくんと似ているのかな?と思った。




マグナさんが魔獣と戦い始めてから、どれくらいの時間が経過したか分からない中……


「これは……まずいですね……」


マグナさんの表情が突然曇りだした。


「……どうしたのですか?」


もう数時間も戦い続けているので、魔力が尽きそうなのかなと思った。


「今まで攻めてきた魔獣とはレベルの違う魔獣が2匹……いや、3匹は最低限攻めてきているみたいなので、チェスガンは危ないかもしれないですね……」


「マグナさんでも勝つのは厳しいのですか?」


「どうですかね……勝てるか微妙ですね……」


騎士団の団長が戦っている姿を見たことは何度もあったけど、団長とマグナさんを比べる圧倒的にマグナさんのほうが強いのが分かる。


そんなマグナさんが勝てないとなると騎士団では勝てないだろうと思った。


「あっ、でもマーティナさんは絶対に守りますから、安心して下さい。問題は、その3匹の動きでしょうか……」




【クレストン先生の視点】



 チェスガン襲撃の当日。


 私は冬休みの間、【魔力操作】を鍛える為に学園の見回り時間以外は鍛錬をしており、今日も鍛錬後に部屋で休んでいたら騎士団より街が魔獣に包囲されていると知らせが来た。


 それからは休み無しにずっと街の住民を学園内にある地下シェルターへの避難誘導をしていた。


 この学園地下にあるシェルターは災害が起きた時に街の住民全員が避難できる大きさになっている。 まさか本当に地下シェルターを使う日が来るとは、学園の誰も考えてなかったと思う。

生徒や住民の中には地下シェルターの存在自体知らない人も居たくらいだ。


 帰宅しなかった生徒や住民の避難誘導が終われば、我々魔法師は学園の防御結界を張りながら騎士団のサポートをする事になっている。


 前衛職の教師達は、学園の結界内で待機してもらう事になるが、前衛職の教師には悪いがあまり強くないので騎士団の邪魔をしない様に本当に最終手段としての待機だ。


 本人達も魔狼レベルなら良いが、それ以上の魔獣になると足を引っ張る自覚があるので素直に従っていた。

 魔法師は鍛錬次第である程度は戦闘に参加できるレベルに育つが、前衛職は魔法師以上にセンスが必要なのだ。



 ☆



 私達は学園前にて、騎士団と教師での防衛戦準備が完了した後に戦闘になった時の段取りを話していた。

 そして魔獣が侵攻を開始したと連絡が来てから2時間位が経過した時、メイド服?を着た女性が現れた。


「皆さん、魔獣が街に侵入しました。間もなくこちらにも来ると思います!」


「なっ、メイド? まだ学園に避難していなかったのか?」


「いや、しかし武装してるな……。」


「私は学園を守るために来ました助っ人だと思ってください。 あと2時間もすれば冒険者のレオン様が助けに来るので、それまで持ちこたえてください!」


「レオンって【ソウルイーター】か!?」


「おお。 レオン様が来てくれるなら希望が出てきたぞ!」


「何としても2時間は死守して学園に避難している街の人々を守るぞ!」


「「「おおおお!」」」



まさか王国冒険者のトップ集団のひとり、【ソウルイーター】が来てくれるだなんて……。


 私が今までの人生をかけて鍛えてきた防衛技術にかけて2時間は死守してみせるとこころに誓った。



 メイドの人が報告に来てから間もなくして、魔獣達が学園に向かって攻めてきた。


 魔獣達は学園の防衛シールドとバリケードに阻まれてモタモタしている所を騎士団が倒していく。


 最初は見た目に驚いたが、情報通りの魔獣だったのでみんな落ち着いて対処出来ていた。


 メイド服を着た女性も魔獣と距離を取りながら魔銃?で攻撃していた。


 あまり戦闘には慣れていないみたいではあるが、命中率や威力、速度を見るに素晴らしい【魔力操作】だと思った。


 魔獣との戦闘も1時間位続き、防衛の連携が上手く行っていたので誰も怪我をせずに耐えていた所で新手の魔獣により事態が急変した。


 巨大な棍棒を持った魔獣?が現れたのだ。

 あれは本当に魔獣か疑わしい位に、人類とほとんど変わらない様な見た目だった。


 その魔獣?によってバリケードは容易く壊され、防衛シールドも危なくなってきた所でメイド服の女性が攻撃をして注意を引いてくれた。

 あの魔獣だけは強さが別格だとすぐに分かったので、みんなにはそれ以外の魔獣を相手して貰うことにした。


 そこからは魔獣?とメイド服の女性との戦いがずっと続いてた。

 メイド服の女性は防御に意識をして時間稼ぎをする事にしたみたいだ。

 魔銃?で牽制しながら空を飛びながら攻撃を回避していた。

 魔獣?の攻撃を受けてしまったかと思った時も、風属性の防御により防いでいた。


 正直、メイド服の女性が居なければ、既に私達は死んでいただろう……。


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