第128話 チェスガン襲撃③

 【クリエラ視点】


「間もなく魔獣が来るぞ! 全員、門を死守しろ!」


「「はい!」」


魔獣後方に放たれた三度の謎の閃光により、当初攻めてくる筈だった大量の魔獣はかなり少なくなり、魔獣の半分以上が謎の閃光の方へと流れていった。


これにより絶望的な状況は変わらないが、多少は希望が見えてきた気がした。


「遠距離攻撃や広範囲攻撃がある者は全員、攻撃開始!」


少しでも魔獣の数を減らすため、乱戦では同士討ちになってしまい使えない遠距離攻撃や広範囲攻撃を初撃のみ撃つことにした。


私も持っているスキルの中でも1番強力なスキルを発動させる。


「グランドバスター!」


ズシャャッ!!


グランドバスターは込める魔力量により、威力と射程距離が伸び、無数の土斬撃を飛ばすスキルだ。


無数の土斬撃により、私の前面に攻めてきていた数十匹の魔獣はバラバラになり、死んでいく。


魔獣の強さが分からなかったから、私の攻撃が効くか不安だったが、しっかりと斬撃が効いているので、ほっとするが……


「だ、団長、私の攻撃が効いてません!」


「私の攻撃も効いてません!」


しかし、団員の中には威力が足りないからか、攻撃が魔獣の皮膚を切り裂けない者もいた。


我が騎士団の強さは、1番弱くても魔狼位は倒せる位はあるので、この犬顔の魔獣は最低でも魔狼を超える耐久力があるみたいだ。


「今の攻撃で倒せなかったものは、支援に回われ! 止めは倒せる者に任せ、連携して倒していけ!」


「「はい!」」


「あと、武器の耐久力にも気を付けろ!」


「「はい!」」


私達の長く辛い戦いが始まった……


やっぱり、街の外の防衛担当を志願していたアリエルと弟のブルーノを団長命令で、学園前の防衛担当に変えておいて良かったな。


アリエル自体の強さは騎士団内でも高い方だが、ブルーノに依存しているから、近くに居ないと不安という理由で、ブルーノも街の外担当にして欲しいと言ってきた時は耳を疑ったが、アリエル的にはブルーノの防御力ならば、何とかなると思っていたのだろうが、この魔獣の強さと数は学生が何とかなる次元を超えている。





 私達騎士団は街の入口での防衛戦を続けていたが、かなり厳しい状況になっていた……。


 魔獣の侵攻が始まってから2時間位は戦い続けているが、その中で生き残っている仲間は私を含めても11名だけになっていた。


 しかし、ここまで魔獣と戦えているのは私達の実力だけではなくて、2年前位から出没し始めた謎の露店で購入したという高性能なアクセサリーを装備すると得られる自然治癒によるものと、1時間位前に空が白く光る現象の後に発生したものすごい爆風により、魔獣の攻めてくる数が激減したからだろう。


最初のペースのまま、魔獣が攻めてきていれば、今頃私達は皆死んでいただろう……。



 しかし、アクセサリーの自然治癒力よりも攻撃を受けてしまう団員や即死レベルの攻撃や魔力切れ、体力が限界に来ている者ばかりになっていた……。


「門の一部が破壊されました!」


「なにっ!」


私は団員の叫ぶ方を少し見ると、固く閉ざしていた門の一部に穴が空いており、その穴から数匹の魔獣が街に侵入しているのが見えた。


「門の破壊された箇所を重点的に守れ! 私は反対側を守る!」


「もう魔獣にダメージを与えられる者がほとんどいません! 限界です!」


「くっ……」


魔獣も馬鹿ではないのか……危険度の高い団員に攻撃を集中している傾向があり、騎士団内での高火力者はほとんど倒されていて、私以外は守りに強いか支援特化した団員ばかりだった……。


 そして、私のいた周囲は防衛が出来ていたが、他の団員が倒れてしまったのをキッカケに防衛線が崩れてしまい、それにより門が大きく破壊され、そこから魔獣達は一気に街へなだれ込んでしまった。


「くっ、なだれ込んだ魔獣は仕方ないから街中の団員に任せるぞ! 私達は街の外にいる魔獣だけでも確実に殲滅して、これ以上は街の中に魔獣を入れないようにするぞ!」


「「はい!」」


 なだれ込んだ魔獣は100匹位か……いや、もっとなだれ込んでいるかもしれないな。


 学園前の団員にはかなり厳しいだろうな。


 街の外に残っている魔獣を倒してからすぐに救援に向かわなくてはと思っているが、街に攻めてきている魔獣の数が減っている感じがしなかった……


どれだけの数の魔獣がいるんだ……?


 例の武装したメイドがかなりの数の魔獣を倒してくれていた筈なのに、魔獣の波は途切れる気配が全くしない。


「……ハヤクシロ」


「何だ?」


後ろの方から聞き取りづらい声が聞こえたが……。


もしかして、魔獣を指揮しているのは人族なのか?


「マダ、ニンゲンガノコッテイルデハナイカ、ハヤクシマツシテ、アーサーサマニ、ホウコクシタイノダ。」


「なっ、魔獣が喋っただと?」


 びっくりして振り返ると、そこには人類に近い容姿をした女性の魔獣?が居た。


しいて獣人族と違うのは、顔が少しだけ獣っぽいのと、体毛が薄く全身に生えているくらいだった……遠くから見たら獣人族に近いから見間違うかもしれない位だ。


 しかしそれよりも持っている巨大な棍棒が異様な大きさだった。

 多分だが、5m以上の長さで太さも1m位はありそうだ……。

 

そして、それを軽々と方に担いで持っていた。


「キサマ、ジャマダナ。」


「しまった……」


ガゴンッ!


 魔獣?の持っていた巨大な棍棒の射程距離に入っていたのに気がつかず、もの凄いパワーで振り回され棍棒を咄嗟に盾でガードしたが、私は衝撃を吸収出来ず、そのまま吹き飛ばされ、そこで意識が無くなってしまった……。



 ☆



【セシリア視点】


【魔導砲】などを撃ったあと、【魔導圧縮銃】にて一匹ずつ倒していたら、更なる魔獣の群れが攻めてきたので、マスターに連絡することにした。


『マスター、更に魔獣の群れが攻めてきました。数は推定で2000匹以上はいます』


『は? 2000匹? ……さっきの比ではない数だね。もしかして、それが本隊なのかな?』


『それは分かりませんが、魔獣を指揮していると思われる魔獣は今のところ確認されていないのが気になります……』


『確かに、それだけに数がいるなら、普通なら指揮している魔獣がいないのは変だよね……セシリアは【魔導高炉石】を持って来ている?』


『はい、持ってきています。使いますか?』


『うん、そうだね。でも……』


『分かりました。では、自爆覚悟で……』


『ちょ、ちょっと待って待って! まだ、話が終わってないから!』


『はっ、すいません……』


『ふぅ……【魔導高炉石】はそのまま使ったら、本当にセシリアこと消え去っちゃうから……』


【魔導高炉石】はマスターが将来的に必要になると言っていた無限エネルギー機関の研究の試作品で、そのまま使うには致命的な欠点があり、試してはいないけどマスター曰く確実に暴発してしまい、チェスガンの半分は更地になってしまうと言っていた。


しかも、起動は簡単で【魔導】を少し流せば【魔導高炉石】内で、【魔導】が無限増幅し、数秒で臨界突破してしまい、暴発するみたいです。


『それで【魔導高炉石】を使った作戦だけど、ちなみな魔獣の群れはチェスガンから離れてるよね?』


『はい、チェスガンからは視認出来ない位には離れています』


『了解。作戦は簡単で、セシリアの風と空の属性を使い、空から【魔導高炉石】を魔獣の群れに投げ落とすだけなんだけど』


『風と空の属性ですか?』


『うん、セシリアには【魔導高炉石】に風と空の属性を使って、風圧と空気層の圧縮の二重圧縮して欲しいんだよ。そうすれば起動まで数分のタイムラグが出きる筈だから、その間に全力で範囲外に逃げて欲しいんだよ』


『分かりました。』


『こんなことなら【魔導高炉石】をもっと作れば良かったかな?』


『【魔導高炉石】は開発費が高いのですよね?』


『うん、材料費というよりは失敗が多すぎるって意味だけど……【魔導高炉石】の成功率は1パーセント以下だからね……まあ、それは良いとして、【魔導高炉石】を頼んだよ』


『分かりました。』


私はマスターの指示通りに【魔導高炉石】により魔獣の殲滅を成功させました。




【魔導高炉石】により魔獣の殲滅した筈なのに、魔獣は次から次へと湧いてくるように攻めてきていた。


 そして、魔獣の襲撃が開始されてから約2時間経過したところで、騎士団が魔獣を街への侵入を許してしまう。


『マスター、街の門が破壊され、魔獣が侵入してしまいました。』


『くっ、もう侵入されたか。セシリアは無事なの?』


『はい、私は大丈夫ですが、街の入口付近で戦っていた騎士団が既に30名ほどやられています。騎士団の生き残りは街の外に約10名ほど、街中に15名位は配置してるはずですが、このままでは学園に避難している人達が危険かもしれません……。』


『そしたら、セシリアは学園に行って、学園を守って欲しい。こっちはお父さんがさっき先行して走って向かっていて、お母さんの話ではお父さんの速さなら2時間もすれば到着するらしいけど、2時間も耐えられそう?』


『私だけならば平気ですが、学園内に侵入させないという条件だと2時間は厳しいですね……。』


『そうか……何か時間稼ぎをしないとな……あまり街中で使える対策って実は無いんだよね』


『倒さなくても良いのなら、幻惑効果のあるお菓子や甘い香りの劇毒などを学園周辺に設置するのはどうでしょうか?』


『ああ、間違って出来た危険物か……』


『すいません、やっぱり……』


『いや、もしかしたらいけるかもしれないな。ダメ元で時間稼ぎを出来そうな物をばらまいといて』


『分かりました。』


『セシリアも無理しないでね。』


『はい、マスター。』


 私はエネルギー切れになった【魔導スライム】達を自宅地下に隠し、代わりに危険度の高いお菓子や薬品を大量に持ち出し、チェスガン学園周辺には様々な危険物を設置し、学園に向かう。




 魔獣はまだ学園には来ていなかったので、私は学園前でバリケードを張っている、騎士団と教師に話しかける。


「皆さん、魔獣が街に侵入しました。間もなくこちらにも来ると思います!」


「なっ、メイド? まだ学園に避難していなかったのか?」


「いや、しかし武装してるな……。」


「私は学園を守るために来ました助っ人だと思ってください。あと2時間もすれば冒険者のレオン様が助けに来るので、それまで持ちこたえてください!」


「冒険者のレオンって【ソウルイーター】か!?」


「おお! レオン様が来てくれるなら希望が出てきたぞ!」


「何としても2時間は死守して学園に避難している街の人々を守るぞ!」


「「「おおおお!」」」



 こうして学園前での長い防衛戦が始まったのだった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る