第127話 チェスガン襲撃②

 【騎士団長のクリエラ視点】



 チェスガンにある騎士団の建物内にて。


 今日は夕方になったので夜勤の団員以外は皆が帰ろうとしていたら、街の外を巡回していた団員から良くない知らせが届いた。


「団長! 街の周囲に見たことの無いタイプの魔獣が多数発見されました! 数は現在調査中になります!」


「新種だと!? 新種が現れるのは初めてだな……現状分かっている魔獣の数と詳細を報告しろ。」


「はい、数は正確には解りませんでしたが、ざっと見積もっても500匹以上はいます、そして魔獣の詳細は二足歩行をする魔獣で顔が犬の様です。あと全ての魔獣が何かしらの武装をしています」


「なに……二足歩行に武装? ……それは本当に魔獣なのか? 仮面を被った人族の犯罪組織じゃないのか?」


そもそも魔獣に知識などはなく、動物の狂暴性のみで動いている様な魔獣が武器を持つなど聞いたことはない。


「はい! 何度も確認しましたが、本当です。遠距離からの確認なので、仮面を被っている可能性はありますが、体毛が全身に生えており、人族には見えない体格をしております」


「なるほど……それにしても、武装した人型の魔獣が500匹以上……いくらなんでも想定外過ぎる事態だぞ」


これが、団員の冗談なら笑えるが……。


 さて、どうするか。


数を聞いただけでも、我々だけで対処するのは不可能だろう。


「……まずは馬の扱いが上手い4名を選び、王都と近隣の騎士団に救援要請に走らせろ! 斥候部隊はすぐに更なる正確な情報を集めてこい。その情報を元に住民を学園へ避難させると共に、防衛戦の支援を学園に要請する。すぐに取りかかれ!」


「「はっ!」」



 ☆


 斥候部隊から敵の詳細が届いたが、数は最低でも約600匹……更に増えているらしいから、600以上の魔獣全てが武装をしていて、待機していることから、統率も取れている。

 もはや、これは魔獣の軍隊のようだった。


 我々、騎士団は基本的に集団戦闘や遥か昔にあったとされる戦争という国同士の戦いなどを想定していないので集団戦が苦手なのだ……。


だから、


 我が王国女性騎士団の総数は60名。


 戦力差は約10倍以上か……。


もし、普通の魔狼だったら、私や副団長が1人で50匹以上は軽く倒せるが……強さが全く予想出来ないのは辛いな。


 チェスガンの外周壁は強度と高さはあるから、魔龍を超える強さがなければ壊れないと聞いているので、私を含む40名を街の入口付近で防衛戦を展開する事にした。


街の全ての住人は、チェスガン学園に避難してもらい、副団長を含む残り16名で、学園の教師と共に学園前でバリケードを張り、防衛することにした。

人数がとにかく足りないので、戦力と住人を集中して、増援が来るまで時間稼ぎをしなくてはならない。

 街の外に罠を仕掛ける余裕は無いが、学園前には大量の罠を仕掛けて貰っている。


 魔獣は統率が取れているが、どの魔獣が指揮を取っているのか分からず、それらしい魔獣は発見出来ていないのがとても気になる。


 もしかしたら別働隊でもいるのか?


 本来、魔獣は動物と同じ動きをするから、予測しやすいが新種だから魔獣だと決め付けて行動すると命取りになりかねない……。


 本来、私は作戦を立てるより動く方が好きなんだが……。





 魔獣発見から3時間が経過した時に、魔獣達が侵攻を始めた。


最終的な魔獣の数は計測出来なかったが、1000匹以上はいるだろう。


もう既に絶望的な数だが、もしかしたらまだ増えるかもしれない。


それにしても、もう魔獣が侵攻してきたか……


「皆、可能性は低いが、応援が到着するまで街を死守する! すまないがみんなの命を私に預けてくれ!」


近隣の街から応援がこれても、早くて半日位か……


我々の戦力だけで半日も耐えるのは無理かもしれない……私は皆と共に死ぬ覚悟をもって団員を鼓舞する。


「「私達は団長に着いていきます!」」


「よし、まずは遠距離攻撃から始め!」


「はっ!」


ズガガガガガガッ!!!!


 戦闘が始まろうとした矢先、魔獣の後方に巨大な閃光が通過し、魔獣を凪払った!


「な、何があった!」


「わ、分かりません! 魔獣後方が光った様にしか……」


「あの閃光は魔法スキルか……? いや……」


そもそも、あんな規模の閃光は魔法スキルで可能なレベルなのか?


「あの威力は通常レベルを遥かに超えています!」


確かに、あのレベルになると、我々の理解を超えた域に……


「団長! もしかしたら救援要請に答えてくた騎士団ではないですか!?」


「……救援か? いや、救援にしては早すぎる。直ぐに確認しろ」


さっきの閃光により、侵攻を始めようとしていた魔獣の一部が、閃光の発信源に向かったことにより、チェスガンに向かう足が止まってくれた。


「先程の光が放たれた場所に立っている人が1人います!」


目の良い団員が閃光の発信源を見て、報告してくれるが……


「1人だけか?」


「しかも、あれはメイド服を着ています!」


ズガガガガガガッ!!!!


それから、更に2回も同じ閃光が走っていた。


 開始10分位で1000匹以上近く居た魔獣は600匹位が、一気に討伐されていた。


 しかし、大砲みたいなのは弾切れ?なのかメイド服を着た人は、後方に下がっていき、群の後方から攻撃してはまた下がるを繰り返していた。


「誰かは知らないがとても助かるな……。」






【セシリア視点】


 私は現在、マスターの指示通りに完全武装状態になった上で容姿を隠蔽する【魔導具】を使い、街の外で魔獣を監視していた。


【魔導スライム】に蓄えたエネルギーを消費して強力な攻撃をする【魔導散弾銃】と【魔導砲】を待機状態にしている。


 魔獣が進行するまでは、こちらからは手を出すなというマスターの指示なので、騎士団と魔獣達が戦闘を開始したら後方を叩く事で後続の敵を減らす作戦になっていた。


しかし、後方からは魔獣が続々と、何処からともなく溢れてくる感じなので、マスターに危険だという連絡をいれておく。


『セシリア、あまり魔獣が途切れない様なら、一度流れを変える意味でも、最大級の攻撃をするのも良いかもしれないけど……やっぱり魔獣が動かないのなら待機してくれる方が、良いかな』


【魔導散弾銃】は1回で50発の弾を発射する銃で、【魔導スライム】のエネルギーを1匹分消費する。


【魔導砲】は直径10メートルの【魔導弾】を好きな属性で撃ち出せる大砲で、【魔導スライム】のエネルギーを3匹分消費する。





 マスター達が到着するまで、あと約6時間というところで魔獣達の侵攻が始まった。


 観測する限りだと、騎士団は40名に対して、魔獣1100匹位おり、このままならば戦いはかなり絶望的な戦力差と思われる。


『マスター、魔獣達が侵攻を開始してしまいました。』


『そうか、僕達は間に合わなかったか……それじゃあ、セシリアは【魔導砲】を3発撃ってから、撤退しながら街以外の場所に誘導して、【魔導散弾銃】を使って纏めて倒して。』


『わかりました。魔獣達が街中に侵入した場合はどうしますか?』


『その時は学園を守って欲しいかな……迷ったら随時指示を出すよ。』


『わかりました。マスター。』




 騎士団と魔獣の戦闘が始まる前に、私は魔獣の後方で固まっている群れに向かい【魔導砲】を撃つ。


ズガガガガガガッ!!


【魔導砲】は試し撃ちをする場所が無かったので、正しく作動して私は安心していた。


3発を撃ち、約600匹位を倒すと、残りの6割位の群れがこちらに向かって来る。


 騎士団の方も魔獣との戦いが開始されたみたいだが、私もあまり余裕は無いのでゆっくり後退しながら【魔導散弾銃】を3発撃ち、さらに100匹ほど倒す。


ここで全ての【魔導スライム】エネルギーが無くなり、使えなくなった【魔導砲】と【魔導散弾銃】の【虹結晶】を回収してから、岩陰に掘っておいた穴に埋めて隠す。


 その後、残りの魔獣は街に向かい、騎士団とかなり激しく戦っていて、騎士団は苦戦しているみたいだった。


 私は魔獣の後ろから【魔導圧縮銃】で1匹ずつ倒していくのが精一杯だった……。



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