第122話 魔法戦
【ディアナ視点】
「ねぇ、アメリア。あなた文化祭が終わってから、なんか様子が変だけど……大丈夫なの?」
私は文化祭が終わってから、抜け殻のようになってしまったアメリアが心配になったので話しかける。
昨日は心配だったけど、下級生に負けたショックもあるだろうと思って、そっとしておいたけど、今日は昨日の数倍悪化しているように見えたので、流石に話をすることにした。
私も下級生に負けたことにより、4年間無敗という更新記録が終わってしまい、在学中無敗という記録を打ち立てるチャンスは無くなったので、かなりショックだったけど、アメリアはそれとは別のレベルでヤバい感じだった。
「え……なんのこと?」
アメリアは、ぼぉ~としながら、生返事をする。
「本当に大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫よ。学園を卒業したら、実家に帰って花嫁修行をするわ」
「えっ、ちょっと、どうしたのよ!? 学園を卒業したら、私と一緒に高学年の学校に行くんでしょ!?」
私はいきなりアメリアから花嫁修行という、アメリアからは想像出来ない言葉が出てきてびっくりする。
「私なんか、所詮は小さな学園でいい気になっていたザコだったのよ……」
「ちょっと!? 文化祭で何があったのよ!」
「それは……」
アメリアから魔技の部での結果を聞いてびっくりした。
まさか、アメリアの最高記録の10倍を2年生が叩き出すとは……
その圧倒的な差を見てしまったため、心がポッキリと折れたのだ。
魔技の難しさはよく分からないけど、アメリアが4年間、1位を維持する為に一生懸命頑張っていたのは知っていたから、アメリアの記録を出すのも大変なんだろうと思うわ……その10倍に記録に追い付くには、どこまでの努力……いや、努力では覆らない才能に絶望したのみたい。
私も闘技の部で負けてショックだったけど、私の場合は頑張れば勝てるかもしれないというレベルの差だったから、頑張れるけど……
「才能の無い私が頑張っても……」
「アメリア、魔技で負けたのは残念だったと思うけど、アメリアが4年間頑張ってきたのは魔技だけじゃないでしょ?」
「……魔技だけじゃない?」
「そうよ、アメリアは魔技よりも実戦の方が得意じゃない! その2年生は集中して出来る魔技は得意でも実戦ならきっとアメリアが勝てるわ。だから、一緒にまた頑張りましょ」
私はアメリアがやる気を取り戻すために励ます。
私も2年生に負けたから、絶対にアメリアが勝てるとは、強くは言えないけど……あら?
アメリアが負けたのも2年生……確か軽技も2年生が圧勝していなかったかしら?
もしかして……
「……そうよね……私には、ディアナと戦ってきた経験があるわ……私、決めたわ!」
アメリアが急に立ち上がる。
「えっ、何を決めたの?」
「私は決闘を申し込んでくるわ!」
「は? え? あっ、ちょっと待ちなさいよ!?」
アメリアはいきなりスキルをしようして、どこかへ走り去ってしまった……え、決闘って聞こえたんだけど……聞き間違えよね?
流石にアメリアでも決闘なんていう暴挙をしないと信じたかった。
☆
【レイ視点】
学園の昼休み中、セシリアの更なる強化案などを考えていたら、自分を呼んでいる上級生がいるとブラットに言われた。
「レイ、何かしたのか? 何かヤバい雰囲気だぜ?」
「え、何それ……行くのが怖いんだけど……あ、僕はいないって言ってくれないかな?」
「いや、もう居るって言っちゃったぜ」
「うぐっ……仕方ないか」
自分には上級生の知り合いなどほとんど居ないのに誰だろう?と思って教室の外に行ってみると、銀髪の綺麗な女子がいた。
この人が自分を呼んだのかな?
う~ん、面識ないよね?
「えっと、僕を呼んだのは先輩ですか?」
「ええ、そうよ。私の事くらいは知ってるでしょ。」
胸を張って言われても知らないよ……この銀髪の女の子は背は自分と同じくらいだが、胸の強調が激しかった。
きっとエルフ族の宿敵だろう。
低学年でこの大きさはカリーヌ先生並に将来はヤバいな。
「いえ、分からないです。」
「そう……私になんて眼中に無いのね……それに、あなたは私の胸を見過ぎよ!」
「あっ、すいません。」
胸を見ながら話しかけてしまったからな……。
というか、後からコーデリアさんとシンシアさんの視線がいたい……。
「はぁ~、まあいいわ。私はアメリア、4年生よ。この前までは学園最強の魔法師って呼ばれていたわ。」
自分で学園最強って言えるのは凄い自信だな……その自信を持っていることに尊敬する。
自分なんて家族や幼なじみと比べてしまうと全然自信もてないから、羨ましい。
「アメリア先輩でしたか、噂は良く聞いています。 それで何の用ですか?」
「要件は魔法戦の決闘をしましょう!」
「決闘? なんでですか?」
「それは学園最強の魔法師のままで卒業したいからよ。『学園最強』と『学園二位』では全然違うし、将来の就職にも影響が出るわ。それに最強って響きが好きなのよ! だから『魔法戦で学園最強』になりたいのよ。」
また凄い人が居たものだな……
アメリア先輩はとりあえず最強ってものになりたいんだなと思った。
それにしても、決闘か……
「な、なるほど。それじゃあ、僕が決闘で負けたって事にしてもらって構わないですよ。」
自分は幼なじみには負けたくないが、別に最強を目指してもいないし、不戦勝にしてもらって構わないと思った……というか、決闘みたいな不穏なことはしたくないなと単純に思っていた。
「そうじゃないわ! 私はあなたに勝って『魔法戦で学園最強』になりたいのよ!」
「いや、大会とかでも無いのに、僕がアメリア先輩と決闘する事にメリットが無いですから。 そうだ、エレナと戦って勝てれば『実戦で学園最強』ですよ。 エレナは実戦ならブラットより闘技で強いし、僕より魔技で強いですよ。」
「そうなの? ……でもエレナさんの強さを証明する機会がもう無いですわ。あなたにメリットがあればやるのね?」
「……ええ、僕にメリットがあれば良いですよ。」
なんとなく、アメリア先輩の表情を見たら、断れない気がした……
「それなら、あなたが勝ったら私の胸を好きにして良いわ。私は負けないけどね!」
「な、なんだって!?」
胸を好きにして良いって……低学年にして推定Gはありそうなあの山を……自由に?
「「うおおおっ!!」」
気か付いたら他クラスの生徒達まで集まって来ており、主に男子達があの胸を揉みたいと言わんばかりに絶叫していた。
しかし、背後から只ならぬ殺気が2つ……。
「……レイくんはやっぱり大きな胸が好きなんですか?」
「やっぱり、巨乳が、勝つのですか?」
「いや、そんなこと無いよ? ふたりにも巨乳には無い強みがあるよ。」
「それはなんですか?」
「是非、聞きたい……。」
この選択肢が正解かは分からないけど、もう後戻りは出来ない……。
「ふたりにある強みは『幼女』というアドバンテージだよ!」
「それは強みなんですか?」
コーデリアさんが疑いの眼差しで自分を見てくる……
「レイさんは、『幼女』が、好きなんです、か?」
う~ん。自分が『幼女』を好きだと言ったら変態な感じがするぞ……。
でも……。
「まあ、好きかな?」
「ちょっと、そこで変な雰囲気を作らないでくれる? 私との決闘はどうなるのよ!」
「えっと、無しで?」
あの胸を自由に出来る権利は捨てがたいが、2人の幼女が怖いのでお断りする。
「それは困るわ! 負けたら何でも言うこと聞くから、決闘してよ!」
う~ん、アメリア先輩って、目的に集中するあまり、周りが見えなくなってはどんどん泥沼にハマっていくタイプだな……。
「分かりました。決闘するとしてルールはどうするんですか? 魔法戦ってのと普通の戦いの違いが分からないんですが……。」
「やっと受けてくれるのね! 魔法戦は物理スキルに分類されるスキルが禁止の戦いよ。魔法スキルに分類されるスキルを使った攻撃なら近接攻撃もありよ。まあ、魔法戦で近接攻撃をする人はほとんどいないけどね。」
「なるほど、魔法スキルならば、何でもありって事ですね。武器や防具は制限があるのですか?」
自分の持っているスキルはほとんど魔法スキルに分類されるだろうから、大丈夫だろう。
「そうなるわね。あと、武具に関しては制限が無いわ。でも、私の装備はかなり良いから……ハンデが必要かしら?」
アメリアさんの制服をよく見たら、生地に【魔力】を纏っているのが見えた。
あれって制服を改造してるのか?
「僕も装備にはこだわっているので、ハンデはいらないですよ。」
どちらかというと自分は武具が強力で、道具で強さを底上げするタイプだから、【魔導服】などを着だしたらアメリア先輩の方が不利になるが……それを言うとキリがない。
「わかったわ。それじゃあ、明日か明後日に決闘で良いかしら?」
「今日でも良いですよ?」
というか、問題ごとはすぐに解決したい。
「……分かったわ。それじゃあ、一応、先生に報告してからやりましょう。あなたのクラスはロナルド先生だったわね。」
☆
それからお互いの担任に話をつけて、先生がいる前での決闘になった。
危ないときは先生が割って入る為だ。
決闘場所はいつもブラット達が使っている修練所で、みんなには申し訳ないが少しの間、スペースを開けて貰う事になった。
「おい、レイ。間違っても修練所は壊すなよ? 出来れば防御壁も壊すな。再度、展開させるにはお金がかかるからな。」
「それはアメリア先輩次第ですね。アメリア先輩の強さがよく分かりませんから……」
アメリア先輩は先程の制服とは違い、魔法師っぽい高そうな生地の服やアクセサリーを着ていた。 武器は小さなワンドみたいなものを持っている。
それに対して、自分は【魔導服】だけを着ていた。
【魔導服】だけでもアメリア先輩の装備全てよりも高性能みたいだから、武器を使うのは止めた。
決闘の勝敗は相手が降参するか先生が止めるかで、重傷をおわせるのは禁止されていた。
ちなみに自分の作戦は、ひたすらアメリア先輩の攻撃魔法を防ぎ、適当な攻撃で決闘を長引かせ、最終的には負けるのが狙いだ。
ぶっちゃけ、アメリア先輩に勝っても変なフラグが立つ気がするから、出来れば避けたい。
そしたら負けるか引き分けしかない……。
そう言えば引き分けって時間切れ? 時間制限も決めていないからな。
いきなり引き分けの条件も聞きづらい。
そんな事を考えていたら、審判のロナルド先生とサポ審判のアンリカ先生の準備が出来たみたいだ。
「それじゃあ、アメリアとレイの決闘を始める。 アメリアが勝利した時の条件は『実戦で学園最強を名乗れるようになること。』、レイの勝利した時の条件は『アメリアがどんなお願いでも1つ叶える。』だ。というか、アメリアはこの条件で本当に良かったのか?」
「だ、大丈夫よ。 私、負けないですから!」
「……レイ、仮に勝っても学生らしいお願いを期待しているぞ。」
「はい、大丈夫ですよ。」
自分とアメリア先輩は構える……。
「それじゃあ、始め!」
自分はいつも通り【魔導壁】を多重展開していく。
確かアメリア先輩の得意魔法は光属性の【光収束魔法】である【レーザーガン】が得意魔法というのは、アメリア先輩の顔を知らない自分でも知っている位は有名だった。
とりあえず、牽制の意味を込めて、弱めの【魔導弾】を20発ほど撃ち込んでおこう。
多分、アメリア先輩も防御魔法で防ぐだろう。
自分としては牽制をしている間に、アメリア先輩の実力を計りたい。
「きゃあ!」
「あれ?」
……と、思ったらアメリア先輩に【魔導弾】が全て直撃してしまった。
え……何故、防がない。
「さ、流石噂通りの【魔眼】使いね。【無属性魔法】を使いこなすなんて……。」
「えっと、なんで今のを防がないのですか?」
素朴な疑問を聞いてみる。
手加減した【魔導弾】でも一発一発が子供のパンチ位の痛さはあるから、20発も受ければかなり痛いはずだ。
現にアメリア先輩はちょっと涙目だ……。
「そんな事、上級クラスの戦闘のプロじゃないんだから、見えないものは防げないわよ!?」
えっ?
ブラットや、エレナは普通に回避したりするんだけど……?
「こうなったら、やられる前にやってやるわ!」
アメリア先輩は魔力を手の前に集め始めてから圧縮し始める。あれは自分の【圧縮魔導砲】に近い感じがするな。
それからアメリア先輩は圧縮した魔力弾に光属性を付与した【レーザーガン】が放たれるが、簡単に自分の【魔導壁】に防がれる。
「なんですって、【無属性魔法】で私の【光属性魔法】を防いだ!?」
アメリア先輩は凄くビックリしている。
しかし、自分にはアメリア先輩が圧縮する時の【魔力操作】の効率が悪い印象を受ける……。
それからアメリア先輩は【レーザーガン】を防がれたのが納得しなかったのか、先程よりも威力を上げて撃ってきたが、自分の【魔導壁】を壊すまでには至らなかった。
予想以上にアメリア先輩は弱かったが、この位で良い勝負が出来ている演出は出来たはずだ。
自分が負けるにしてもいきなり【レーザーガン】1発で負けたら嘘臭いので、お互いに数発を撃ち込んでから負ける計画だった。
そして、これからは負ける為に【魔導壁】を破壊されて、ピンチになる演技でもしようかなと考えていた所で、アメリア先輩から信じられない発言が飛び出す。
「負けを認めるわ……。」
「……えっ?」
負けを認める? これから負ける演技をするつもりだったのに?
「だから負けを認めると言ったのよ! あなたの勝ちよ!」
「いやいや、もうちょっと頑張りませんか? 次、【レーザーガン】を撃ったら防御が壊れるかもしれませんよ?」
「……あなたの余裕のある顔を見れば分かるわ。あなたはまだ本気じゃないでしょ? それに比べて私はさっき放った魔法が全力だったわ。それを簡単に防がれれば実力差が分かるわ……。」
「ええ……。」
「アメリアの棄権により、決闘の勝者はレイ!」
「「うおおおっ!」」
「負けたからには約束は果たすわ。何でもするから言いなさいよ。あ、あなたなら胸を揉むでも、恋人になるでも良いわよ……。」
いや、こんなにギャラリーの居る中で胸を揉むとか発言したら完全に黒歴史だよ。
というか恋人になるってなんだ?
どう答えれば良いか分からなかったので……
「後日返答でも良いですか?」
アメリア先輩が卒業するのもあっと言う間だろうから、それまではこれで逃げ切ろうと思った。
こうなったら、保留からの無かった事にする作戦だ。
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