第121話 セシリア強化 ②

 文化祭が終わってから数日間が経過して、ガーランさんの治療は順調に進んでいた。


「ガーランさん、眼と身体の調子はどうですか?」


「大分良いと思う。 片眼に関しては昔に戻ったみたいに視力が回復したが、もう片方は変わらずに失明したままだな。 あとは身体能力は落ちた気がするが調子は良いな。」


「片眼は完全に【結晶化】して【風の結晶】になっているので戻らないですね。身体はもう少し治療をすれば昔の様になると思います。」


「しかし、まさか【聖霊眼】の適正者が風の【巨大結晶】の影響を強く受ける特殊体質の者とは思わなかったな……。」


「【巨大結晶】の影響を受ける事で能力向上などの恩恵もある代わりに、徐々に身体が不自由になるから難しい問題ですね。」


多分、風の【巨大結晶】から溢れ出る【魔素】を限界以上に体内へ溜め込んでしまう体質が、ガーランさんやマティアスなんだろうな……溜め込まずに体外に排出出来ていれば問題無いのだろうけど、直接見たことはないから、予想になってしまうけど、【巨大結晶】から溢れ出る量が相当な量なのかもしれない。


結晶化してしまう症状の副産物として、たまたま【聖霊眼】みたいな使えるスキルを取得出来ただけな気がする。


「ああ、そうだな……それにセシリアさんが、私にしてくれた治療法がもっと誰にでも出来れば、里のみんなに話しても良いが、現状はセシリアさんしか治療が出来ないなら誰にも言えないな……それでも私の症状を見ればすぐにわかるだろうから、その時は混乱も起きるかもしれないな。」


「エルフ族の人口に対して【結晶化】している人の割合ってどれくらいか分かりますか?」


「レイくんは、我々エルフ族については、どれくらい知っているのかな?」


「僕の知識は、シンシアさんとコーデリアさんから教えて貰った知識がほとんどですね」


というか、シンシアさんとコーデリアさん以外のエルフ族って、街中では全く見たことが無いんだよな。


閉鎖的な部族なのは分かるけど、図書館などで調べてもほとんど分からなかった。


「なるほど、彼女達の部族は……また特殊だからな、そうだな……大きな括りで、全てをエルフ族とするならば、総人口は200人ほどしかおらず、【結晶化】する可能性がある者は……約10人ほどかな」


「結構少ないんですね……」


ガーランさんはちょっとひっかかる表現をしていたが、まあ、エルフ族には秘密にしなくてはいけないことがあると、シンシアさんから聞いていたので、深くは聞かないことにした。


それにしても、エルフ族が少ないと言っても、1000人以上は居るかと思っていたけど、予想以上にエルフ族が少なくてびっくりする。


そんなに少ないと、何かあれば直ぐに絶滅してしまわないか、心配になるくらいだ。


しかし、エルフ族は長寿らしいし、それが関係しているのかな?


「レイくん、今後なにか困ったことがあれば、私は全力で協力するから、何かあればマティアスに言ってくれ」


「分かりました。何かあった時にはご相談します」


「ああ、気兼ねなく頼ってくれ」


 その後、ガーランさんは片眼と身体の【結晶化】を完全に治療してから、エルフ族の里に帰って行った。



 ☆



 自分とセシリアは自宅地下にて、セシリアからの状況確認をしていた。


「ガーラン様の【結晶化】をかなり吸収しましたので、風の【結晶能力】を使いこなせる様になりました。」


そう言うと、セシリアは右手に小さな風の球を作り出す。


「凄いな……」


風の球を【鑑定】してみると、【ウィンドボール】ではなく【風弾】と表記されていた。


セシリアが作り出した【風弾】はとても安定しているが、ちょっと違和感を感じていた。


「う~ん、なんだろう?」


「どうしたしたか、マスター?」


「えっと、説明が難しいんだけど、セシリアの【風弾】は他の人が使う【ウィンドボール】と違う感じがするんだよね……何かがちょっと違うって違和感程度だから、気にしなくても良いんだけど、ちょっとモヤっとしてね」


「それは、私の【風弾】は属性付与をしていないからではないですか?」


「属性付与をしていない……ああ、そう言うことか」


通常、属性関係のスキルは、無属性の【魔力】に属性付与をするという工程を踏むので、難易度が上がる原因だったりするのだが、セシリアの場合は体内にある【風の魔結晶】から、直接風属性の【魔素】を作りだし、【風弾】にしているので、違和感を感じていたのだ。


これは【職種】関係のスキルと発動方法が似ているなと思った。


もしかして、自分も【魔導弾】や【魔導剣】を経由せずに、いきなり属性を操れば雷属性以外も使いこなせるのでは?と思った……あとで試してみようかな。


「あ、そうだ……セシリアは【風の魔結晶】と【虹結晶】を体内に取り込んだけど、取り込んだことで不都合はある?」


「それも報告しようと思っていました……現在、私は【虹結晶】を7個取り込み、私のメインコアになっている【虹結晶】と内部で【同期】しましたら、取り込んだ【虹結晶】7個の名前が【虹多重結晶】になりました。」


「なんか凄そうな名前だね。しかし、何でそんな変化が起こるのかよく分からなくなってきたな。」


 イメージ的にパソコンのCPUが8コアに進化したみたいな感じなのかな?


 う~ん、分からん。


 こういうとき、エレナに聞けたらズバッと答えを教えてくれそうだけど……流石に分からないだろう。


「変化の原因が正確には解りませんが、性能は簡単に言うと以前、話した通りに演算処理能力が上がり、私は風属性能力を使えるようになりました。」


「そしたら、セシリアは風属性能力を全て使えるの?」


「将来的には使用出来ますが、現在は練度不足によりほとんど使用出来ないみたいです。とりあえずは初級レベルの【風弾】【風剣】程度なら使えますが、実戦に耐えられるレベルかは検証をしてみないと分かりません。」


「練度不足は訓練とか1人でやってるから上がりにくいのかも。本当は師匠みたいな人がいれば良いけど、セシリアの秘密がバレるにはまだ早いからな……。」


「バレるにしてもマスターが成人後が良いんですよね。」


「うん。まだ親に迷惑かかることはしたくないからね。セシリアには悪いけど、それまで地味な修練を頼んだよ。」


「わかりました。マスター。」


「ガーランさんの治療でわかったけど、他の【巨大結晶】から【結晶能力】の吸収が出来そうだよね?」


「いえ、多分ですが【巨大結晶】は既に【結晶化】が終わっているものとすれば吸収する余地が無いと思います。なので【結晶化】中の人からしか吸収が出来ないと思います。」


「セシリアの強化の為にガーランさんみたいな人の治療をするのも気持ち的に微妙なんだよね。全員の治療するなら良いけどね。」


「もしかしたら私の吸収能力の問題かもしれません。」


「あ~。その可能性はあるね。【巨大結晶】になるともっと高い吸収能力が必要になるのかも。」


「全ては推測ですけどね。」


「そうだね。しかし、セシリアに搭載されている吸収能力以上のものを作るのは現状は無理かな。」


「マスターは【魔導スライム】に吸収能力を付けられずに苦戦していましたからね。」


「【魔導スライム】は【魔石分解珠】と【魔素属性変換珠】を使い、食べさせて消化させるのが精一杯だったからね。結局は何でセシリアだけ【魔素圧縮吸収】の吸収能力があるかは解らなかったしね。」


「私も元々の能力や体内での変化がなんで起きているか解らないことが多いんですよね。」


「将来的に【巨大結晶】の近くを冒険して【結晶化】で困っている人を治療するのが無難かな……。」


「それか自然に【虹結晶】が【魔結晶化】するのを待つのもありだとは思います。」


「時間はまだまだあるしね。成人するまでは気長に行くしかないかな。」


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