第119話 文化祭(裏)③ 魔技

【クレストン視点】 


文化祭最終日。


「よし、今年こそは何としても怪我人をゼロにしますよ!」


「「はい!」」


「去年の様な失態は許されません!」


「「はい!」」


 私は昔、王都の外周壁防衛部隊の部隊長をしており、そこで当時は【鉄壁】と呼ばれるほど、戦闘には自信が無いが、【呪力結界】や【防御壁】など守りに関してはかなり自信があった私は……慢心していたのかもしれない。

 10年前に起きた大規模な魔獣襲撃により、外周壁周辺部で生活していた孤児生活施設の子供達を守りきれず、後悔の念に耐えきれず引退した……

 

その後、学園長の「子供達を見守りながら育てて欲しい」と言われ、当時の部隊員数名と共にチェスガン学園の特別教師として、4年生が習う【魔力操作】などの少し難しい事を教えながら、毎年生徒が安全に生活出来るように学園内の見回りをしながら教師生活をしていた。


 しかし、去年の運動会時にまたしても、私は失態を犯してしまう。


 あれは玉当ての競技時だった。


 現役時よりはかなり実力は落ちてしまってはいるが、決して日々の鍛錬を欠かすことは無かったので、慢心ではないと元部隊員や学園長から言ってもらえたが……運動会当日も私は自分の【防御壁】を展開する【魔力操作】は常に全力ではあり、守りに関しては学園内では一番の実力なので、その時も一番危ないとされる正面の【防御壁】を担当していた。


 そして、運動会の当日。


 最初は順調に進んでいたが、それもすぐに終わってしまった。


 当時、私は目を疑った……。


 そう、まさに天才とはこの少年の為にあるんじゃないかと思う位の【魔力操作】を目の当たりにしたのだ。

 1年生という事は、まだ6歳だから【魔力操作】を始めて、早くても3年間くらいの子供に、40年近く実戦的な鍛錬し、自信のあった私の【魔力操作】が6歳の少年に負けたんじゃないかと思った時……私は動揺を上手く隠すことが出来ず、【魔力操作】が不安定になっていた。


 その少年の完璧な制御により、攻撃が【防御壁】にギリギリ届かない距離で威力が殺される様に計算されていたのも、動揺の後押しをしていた。


 私でもそこまでの精密な【魔力操作】、そして演算能力、状況判断能力は無理かもしれないと思った。


 そして事件は次のグループで起きた。


 本来の私の全力なら防げたであろう、少女の【ボール】により、私の【防御壁】は貫通され、私は吹き飛び、意識が戻るまで5日もかかり、目覚めると

全治1ヶ月の大怪我と治療師に言われた。


 まあ、私の怪我などは自業自得だから別に良い……しかし、私に怪我を負わせた生徒が心に傷を負ってしまったと聞かされたとき、私はなんて取り返しのつかない失態を犯したのだと後悔した。


 その日から、私は現状維持の鍛錬をするという慢心を捨て、同じ様な生徒を出さない為にも、【魔力操作】の鍛錬以外にも肉体の鍛錬、精神の鍛錬を追加し、常に能力向上を目指した1年を過ごしていた。



 そして今、文化祭・魔技の部の最高責任者になっている。


 今回は安全性を確保するため、大人用の機器を導入した。


 これは的の強度も当然だが、外したとしても後ろには強力な防御シールドが自動展開されて優れもので、あとは私を含めた先生達が魔力を込め、念のために後方で常に待機していれば良いだけなのだ。


 あれを私も試したが、平均ダメージ30で7つの的に当たった。


 合計は1470だった。


 まあ、私は守りは得意だが攻撃が苦手なので結果としては、まあまあだなと思った。



 1年生は順調に終わった。

 機器も万全で問題もなかった。


「クレストン先生、今年は問題無さそうですね!」


今年から魔技の部担当になった教師が、1年生の部が終わり、ホッとしていた。


「馬鹿者! その気持ちが慢心に繋がるのだ! 常に生徒を……子供の命を預かっている気持ちで取り組むんだ!」


「は、はい! すいませんでした!」


本来なら怒鳴る場面ではないが、少し気が抜けている様に見られ、その油断が事故に繋がるのは避けたかったので、心を鬼にして怒鳴ることにした。


 そして問題の2年生の番になった。


 私を吹き飛ばしたシンシアという名の生徒が参加していた。


 ふむ……見たら良い笑顔をしていたので、あれから少女は大丈夫だったみたいだな……。


少しだけ、心が軽くなった気がした。


 その少女の結果は945点。


 私の点数には及ばないが、平均ダメージにて圧倒的に負けていた。


 将来有望な少女の未来を私の失態で閉ざされずに済んで良かった。


 しかし、精神面も鍛錬により鍛えた筈だったが、少女の出した威力が私を軽く超えている事に、ズキッっと精神にダメージを受けた気がした。



 次の青髪の少女は……何をしているのか解らなかった……。


 お祈り?のポーズをしたまま動かないのに、全ての的が当たり判定を示していた。


 私でも全ての的に当てるのは何回もやらないと無理だろう。

 それを7歳の子が一回でやり遂げてしまったのだ。


 結果は1000点


 またしても私の精神にダメージを受けた。



 そして去年、私が【魔力操作】で負けたと思わせた少年がいた。


 開始早々に私を含めた先生達に衝撃が走った!


 的の半分が吹き飛んだのだ。


 幸いにして貫通した弾は後ろの防御シールドが防いでくれていたので問題は無いが……。


 2個目の的は見逃し、1発目に全力を込めたんだなと安心したのも束の間、怒涛の的への攻撃が始まった。


「クレストン先生! 防御シールドの魔力が切れそうです!」


「ば、ばかな!? 防御シールドに保存してあった魔力は……いや、今は魔力の補充をするぞ!」


「「はい!」」


 途中から防御シールドの魔力が切れかかったので、教師みんなで必死に魔力を注いだ。



 結果は20250点……。


「ん? なんだこの点数は……? は?」


 数字の意味が理解出来たとき、私のプライドはゼロになっていた。



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