第116話 文化祭 最終日③

 魔技の部は、遂に自分達クラスの番になった。


 クラス内での順番は、シンシアさん、コーデリアさん、自分の順だ。


「シンシアさん、リラックスしていこう。」


「はい、頑張ります。」


 シンシアさんは深呼吸をスーハー、スーハーしている。


「行きます!」


 シンシアさんは開始と同時に2個、火属性付与した【ファイアボール】を展開する。


 相変わらず威力がデカいが、それにしては【魔力操作】も良く出来ていて、ちゃんと制御されているな。


 一年間、自分とシンシアさんは【魔力操作】する事に時間を費やした事により、シンシアさんの実力は去年とは全く違っていた。


 しかし、命中率まではどうにもならなかったみたいで、1個目の【ファイアボール】は的から外れた……だけど、2個目の【ファイアボール】はちゃんと的には当たる。


 ズガッーン!


 今までにない爆風と衝撃、激しい音がする、そして会場も少し揺れた……。


やはりシンシアさんの【ファイアボール】は、他の人が使うものとは別次元の威力だな……。


「ダメージ点は直ぐには分からないけど、かなりのダメージだよね、あれは。」


「そうですね、一発に賭ける辺りは、シンシアらしいですね。」


 その後も【ファイアボール】の展開に時間がかかったが、4発撃ち、2回的に当てて計3回当てていた。


「「おおおっ!!」」


シンシアさんの結果に、今までにないくらいの大歓迎が聞こえてきた。


 合計点 945点


 平均105ダメージ×3×3回=945


「予想以上に高得点だね……。」


「かなり堅いはずの的に傷が付いてますからね。 次は私が頑張ります!」


コーデリアさんは両手を握り、気合いを入れるポーズをとる。


「コーデリアさんも頑張ってね。」


 頑張ろうとしている姿が、妹のフローラみたいに可愛いので、つい頭を撫でてしまった。


「ふにゃ~。」


 コーデリアさんの顔が真っ赤になってしまう。


撫でるのは、まずかったかな?


「コーデリアさん、ごめん。 大丈夫?」


「だ、大丈夫です! やる気200パーセントです。」


「そ、そう? ……それならよいけど。」


 コーデリアさんに変なスイッチが入った気がした。


 コーデリアさんは開始と同時に膝をつき、祈りのポーズを始める。


相変わらず、コーデリアさんからは【魔力】を感じるが、【精霊魔法】を使用する時は、【魔力】の流れが全くないんだよな……


もし、自分みたいな、相手の【魔力】から動きを予想して行動している戦闘タイプには、コーデリアさんの【精霊魔法】は天敵みたいなものかもしれないな。


逆にエレナやブラットは問題無く対応出来てしまうだろうけど。


 そして、その光景に観戦している【精霊魔法】を知らない人達には、何してるんだ?と思っている筈だ……。


 スコーン!


 的が現れると同時に突然コーデリアさんの周囲に現れた水球が的めがけて撃たれる。


 その後もコーデリアさんは祈りのポーズを続けていたが、的が現れるたびに、全部水球に撃たれていた。


 スコーン! スコーン! スコーン!


やはりシンシアさんと比べると威力は落ちるが、命中率は凄かった。


 コーデリアさんの【精霊魔法】は何度見ても、エレナの【野生の勘】並みに謎ばかりだ。

 

 エレナの【野生の勘】は、エレナ曰わく、誰かが囁くように最善の選択肢を教えてくれるらしいけど、コーデリアさんの【精霊魔法】も、見えない精霊にお願いをし、協力してもらっているらしいし……あれ?

 

 【野生の勘】と【精霊魔法】には意外な共通点があるな……。


「「おおおっ!!」」


先ほどのシンシアさん以上の歓声が聞こえてきた。


 そしてコーデリアさんの結果は……



 合計点 1000点


 平均10ダメージ×10×10回=1000


 コーデリアさんはシンシアさんに少し勝っていた。


「これはやはり、自分も本気を出さないとダメかもしれないな……」


幼なじみのブラットは闘技の部で優勝、エレナは軽技の部でほぼ優勝するだろう……ならば自分の目指すは、もちろん優勝。


シンシアさんやコーデリアさんは特別凄い部類だとは信じたいが、4年生には魔技で無敗のアメリア先輩がいるし、他にも急成長した先輩がいるかもしれない。


ならば、手加減したせいで優勝を逃す後悔をする位ならば、全力を出して後悔した方が何倍も良いだろう。


 なので、自分は今回、エレナ戦の為に考えた新技を使おうと考えていた。


 この新技は、既に実験済みだからスキルも取得しているのだが、エレナに見られると、あっと言う間に対策をたてられてしまうから、エレナの前では使用するのが躊躇われるが……そのエレナは軽技の部で今はいない。



【有線遠隔射撃】 銃口の付いた触手を任意に操作する。


 このスキルは【魔導操作】と思考処理能力次第で範囲と本数、威力を操作出来るので、常日頃から【魔導操作】と【パラレル思考】を鍛えている自分には相性が抜群に良いものとなっている。


 しかも今回の様に、自分が動かず、準備時間があり、しかも射程も短いと、自分からしたら一番やりやすい環境であるので、この魔技の為に覚えたのではないかというレベルで有効なスキルだ。


 まあ、壁などには怖くては撃っておらず、空に向けてしか撃っていないから威力は試していないという不安材料はあるが、威力が低いという事はないだろう……まあ、シンシアさんの【ファイアボール】には威力的に負けてるような気がするが、そこは仕方ないだろう、シンシアさんのふたつ目の謎【魔力】は抑えていても、とんでもない威力を発揮するからな……。


 それにしても、コーデリアさんやシンシアさんが予想以上に凄かったな……もしかしたら、2人も自分と同じ様に見えないところで訓練をしていたのかもしれない。

 

 さてと……魔技が開始される15秒前になったので、【有線遠隔射撃】スキルを発動させる。


 とりあえず、出現する的の数は10個なので、【有線遠隔射撃】を10本用意する……うーん、まだまだ制御的には余裕だけど、雷属性付与をするほどの余裕は無さそうだ……



 命中率に関して100パーセント当てる自信はあるが、威力がちょっと心配だな……


 こんなことなら、アメリア先輩の過去の点数を聞いておけば良かったと悔やまれる。


 アメリア先輩の点数が分からないから、何点以上が優勝ラインかさっぱり分からない。


 あっ、そうだ!

 

 ここで自分は名案を思いつく。


 この魔技の的は、ダメージが入った瞬間にダメージ量を計測されると仮定するならば……1つの的に対して【有線遠隔射撃】を全くの同時に5発のダメージを与えれば、威力が約5倍になるんじゃないか?


 仮にダメージ量が増えなくても、ダメージ量が下がるわけではないし、やって損にはならないだろう……そうだ、念のためにそうしよう。


 【有線遠隔射撃】とりあえず50本、用意してみたが、これならば命中率にも影響されないし、問題無いな……やってて、良かった【魔導操作】と【パラレル思考】。

 

ブーー!


 自分の番が開始されるブザーが鳴り響いた。


 自分は的が出た瞬間、伸ばしていた5本の【有線遠隔射撃】を的に張り付け、的を完全にロックオンし、そこから近接射撃を5発同時に発射する。


 ガガガガガッ!!


 射撃後、的が半分削れていた……。


 的が完全に削れてないから、威力が足りないか?


 そんな考えをしていたら、あろう事か次の的を見逃してしまった!


 くそっ、今は競技中だというのに……集中だ!


 もてる全力を出し、無心に撃ち抜くんだ!



 ガガガガガッ!!


 ガガガガガッ!!


 ガガガガガッ!!


よしっ、2回目の的は外したが、それ以外はしっかりと破壊出来たっ!!


全力を出し切って、満足していた自分は周りの静かさに気が付く。



 競技が終わり、周りを見てみると先生や生徒達がポカーンとした顔をしていた……。


「「……」」


 うん。


 そのみんなの顔を見て、大体の状況は察したよ……きっとやり過ぎたんだね……。



 合計点 20250点


 平均250ダメージ×9×9回=20250




 ☆



【アメリア視点】


私は魔技の部の前回優勝者として、生徒控え室で精神を集中させていると……


「「おおおっ!」」


開始からもの凄い歓声が聞こえてきた。


この生徒控え室まで歓声が聞こえてくるなんて、凄いわね……


「ちょっと出番まで時間があるし、見てこようかしら……」


本来なら他人の点数は見に行かないのだけど、ディアナが負けたという理由もあり、もしかしたら、今の2年生には魔技も凄い生徒がいるかもしれないという不安から、開始を見に行く事にした。


会場に到着すると、先ほど歓声を上げられた生徒は終わり、次の生徒の順番になっていたのだけど……その生徒に違和感を覚えた。


「あの子は目を閉じて何を……」


目を閉じて集中力を高めるのは分かるけど、この競技は目を閉じて的に当てられるほど大きくも遅くもないので、あの青髪の子がやっている事は、魔技を初めてやる一年生の様なものだった。


しかし、私は次の光景に絶句した……。


えっ?


なにアレ……


青髪の子はずっと目を閉じ、お祈りをするかのような姿勢でいるだけなのに、彼女の周囲に現れた水球により、的確に的を射抜いていた……


青髪の子の点数は1000点。


威力がちょっと弱いのが残念だけど、命中率が凄いわ……


「あれが2年生のトップかしらね?」


私が2年生の時には1200点を出せていたけど、あの子の才能は私に近いモノがあるわね……


でも、所詮は2年生……私と同じ世代なら分からなかったが、今の彼女では私の敵ではないわね……


私は魔技の部優勝を確信した。


しかし、次の生徒を見た途端、その確信はあっと言う間に崩れ去る。



その生徒は、的が出現した瞬間、もの凄い音と共に的を半分以上破壊していた……


私は少年の攻撃方法が理解する事が出来なかった。


多分、少年の行っている攻撃方法は、見えないことから、【ボール】なのだろうけど、あの硬い的を破壊してしまうほどの威力を出せる【ボール】など聞いたことは無かったからだ。


その後、2個目の的は完全にスルーしていたので、もしやあの攻撃には長い溜めが必要なのかな?と考えていたが……3個目以降の的は、出現した瞬間、1個目以上の破壊と共に全てを壊していた。


そして、出された得点は、私の全力に近い点数の10倍という理解を超えた点数だった。


な、何なのよ……この少年は……


私は少年の未知なる強さに、恐怖し、身体が自然と震えてしまっていた……


あんな点数に勝つなんて絶対に無理だわ。



アメリアの自信とプライドは、この瞬間にポッキリと折れてしまっていた……


そして、心の折れたアメリアは上手く【魔力操作】や属性付与が出来ず、出した点数は……43点という、アメリアの中で過去最低得点という結果で終わってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る