第112話 結晶化の治療

 文化祭の闘技の部が終わった日の夜に、ガーランさんの治療について説明するために、個室のあるレストランに呼んで話をする事にした。


 このレストランはブラットのお母さんであるシーラさんの弟子が経営している店で、最近になってチェスガンでオープンしたらしいのだが、自分が学園に通う前に職場体験をした際に、プリンの大ファンになったひとりで、何か秘密にしたいことがあれば、プリンをお土産に持っていけば、安心だよとシーラさんに言われていた。


そして、プリンを12個持って訪ねたら、店長の女性は泣いて喜び、一番高そうな個室に案内されてしまった……この店長はシーラさんのお店で副店長をしていた女性で、あまり話した事は無かったけど、凄く優しくて美人だけど、何故か独身の凄腕料理人だ。


本当にこんな豪華な部屋で良いのか聞いたのだけど、最上級のお客様用だから大丈夫と言われた……何が大丈夫か分からないけど、諦めて最上級の部屋でガーランさんを待つことにした。


 しばらくして、ガーランさんがウェイターに案内されて来たので、ドリンクと料理をお任せで頼んだ。初めて来る店なので店長のお任せにしておいた。

 ガーランさんとは料理が来る前に少し話す事にした。


「ガーランさん、わざわざ呼んでしまいすいません。」


「いや、こちらから話がしたかったから良かったのだが……こんな立派なお店に招待されるとは思ってもいなかったよ。私達の集落での収入では、こんな店に来る機会が無いからね。」


「秘密の話をするには個室である方が丁度良いんですよ。」


「秘密の話か……確かに私は息子達に秘密にしている事があるが、まさかそこまで考えて?」


「僕の方も秘密にしないといけない事があるもので……。」


「それはそちらの女性もかな?」


 ガーランさんはセシリアを見ながら話す。


「そうですね、まずガーランさんには僕達の能力を秘密にして欲しいので、この【誓約書】にサインをして欲しいのです。」


 A4サイズの金属板に契約内容と署名欄のある【誓約書】をガーランさんに渡す。

 契約内容は僕達の能力を他人に伝えないこと。

 契約内容に抜け道が出来ないように、内容は拡大解釈されるようになる。 


「この【誓約書】は【魔道具】で約束を必ず守る催眠効果があります、その効果は10年続きます。」


「都会ではこんな【魔道具】があるとは凄いな……契約の内容に関しては問題ないから署名をしよう。」


これは市販されているものではなく、自分の作った【魔導具】なのだが、これは魔鋼材のあまりを薄くのばしたペコペコした金属板で、それに【虹魔石】を砕き、インクと混ぜたもので、たまたま作ったら、強制力のある契約書が出来てしまってびっくりしたが、今まで使い道は無かったので、【ストレージ】内に眠っていたものを引っ張り出してきたのだ。


 それにしても、怪しい契約書なのにガーランさんがあまりに迷いなく署名したのでちょっとビックリしてしまった。


「そんな簡単に僕達を信用して良いんですか? 騙されているとか、考えないのですか?」


「ああ、その事に関しては大丈夫だ。私は君達を信用している。理由は君の同級生であるコーデリアには周囲に悪意ある者を知らせてくれる精霊がついていると言われていてね、彼女が君に懐いているって事は信用が出来るって事になる。もし、それでも騙されるなら諦めるしかないだろうがね。」


それでコーデリアさんは最初から自分に対して親切にしてくれていたのかな?


「そうだったんですね。コーデリアさんの精霊に関してはよく解らない事ばかりですね。それでは契約書に署名されたのでお話します。ガーランさんが僕に話をしたいことは……多分ですがガーランさん自身の状態がマティアスくんに起こらないか心配しているんですよね?」


「流石はコーデリア達が大絶賛する程の天才少年だな、私が話したかったのはまさにそれなのだ、私自身は【聖霊眼】を継承する時に詳細を聞かされていて覚悟は出来ていたが……息子は何も聞かされる前にあそこまで【聖霊眼】が開眼してしまったのだ。私としては息子には【聖霊眼】や族長など気にせずに普通に生きて欲しいのだ。」


「なるほど、まず僕が魔眼でガーランさんの状態を見た感じの感想を言いますと、ガーランさんはこのまま症状が進行すると……1年位過ぎた辺りからいきなり亡くなる可能性が上がると思います。」


「1年か……私が思っていたよりもだいぶ寿命が短いな。」


「今、話してるのは可能性の中でも、最悪の場合なので、もしかしたらずっと何も起きないかもしれません。ですが、もし治療したいと考えているならばと思い、僕の隣にいる女性がガーランさんの治療が出来るかもしれないので連れてきました。」


「治療という事は、私の症状は治るかもしれないのか?」


「僕達はガーランさんの状態を【結晶化】と呼んでいます。彼女が直接ガーランさんを見てみて、治せるかを判断してもらうつもりです。見て貰いますか?」


「私の身体は好きに調べてくれて構わない。その結果、私の症状が改善されれば、息子の症状も良くなることになるのだからな。」


「わかりました。それでは食事をした後にやりましょう。」


 それから運ばれてきた料理を美味しく食べ終えてから治療をする事になった。


『それじゃ、セシリア頼んだよ。』


『わかりました、マスター。』


 まずは効果の解りやすい、ガーランさんの眼から治療を試す事にした。


『マスター、結晶は無事に分解吸収は順調に出来ていますが……かなりの時間が掛かります。』


『どれ位の時間?』


ちなみに分解してから吸収する作業は、一瞬に終わるのではなく、セシリアが手作業で結晶をジワジワと浮かせたものを分解し、それを少しずつ吸収していくという、地道な作業で、セシリアの処理能力があるから可能なだけで、自分に同じ能力があっても、同じ時間で終わらせる自信は全くない。


『今のペースなら眼だけで半日はかかるとかと思います。』


セシリアの処理能力でもそこまで時間がかかるか……


全身を治療するのに、眼だけで半日は長いなと言った。


『やっぱり【魔石分解珠】を改良した方が早いかな? ちょっとガーランさんに話してみるか……。』


「すいません、眼の治療は出来てるみたいなのですが、このペースだと半日はかかるみたいです。今日は後どの位の時間がありますか?」


「マティアスとも話したいからあと2時間位かな。 レイくんも明日は文化祭に参加するのだろう? 大丈夫なのか?」


「自分は見ているだけなので大丈夫です。それでは2時間で出来る範囲の治療を続けますね。」




 ☆



 治療を開始してから30分位経過した時、まさかの変化が起きた。


『マスター、【魔導スライム】のコアが進化しました。』


『え? 進化?』


セシリアから予想外の報告を受けた。


『コアに使われていた【虹結晶】が【風の魔結晶】になりました。』


『名前から想像すると全属性の【虹結晶】から風属性のみの【風の魔結晶】になるのは進化なのかな?』


『【風の魔結晶】は風属性のみに特化することで風属性の性能が上がるみたいです。』


『なるほどね。それは良い変化かもね。』


『【魔導スライム】のコアが進化したことで、後でマスターにお願いしたいことがあります。』


『セシリアがお願いなんて珍しいね? 分かった……後で聞くね。』


『はい、お願いします。マスター。』




 ☆


 ガーランさんの治療時間が終わり……。


「ガーランさん、眼はどうですか? 少しは変わりましたか?」


「……微かに視力が回復しているかもしれないな。 もし可能なら後日に最後まで治療をお願いします。 費用も払うので。」


「わかりました、それでしたら続きはまた後日にしますね。ちなみにガーランさんの治療に関しては費用はいりません。」


「そ、そんな。無料で良いのか?」


「こちらにもメリットがあるんですよ。」


元々、お金はもらうつもりはなかったが、【虹結晶】が進化すると分かったので、積極的にやらせて貰いたいくらいだ。


「では、私は街に1ヶ月位滞在予定だったのでその間に出来たらありがたいです。」


「1ヶ月って結構長い滞在予定だったのですね。」


「ええ、私はもう先が長くないと思ったのでマティアスとの時間を……。」 


「そうだったんですね。」



 それから数日間は別の部屋を借りて治療する事になった。


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