第109話 文化祭⑧ 闘技の部 下

 次はアランとヒルダさんが戦い、勝った方とブラットが戦う事になる。


「このトーナメントはアランが不利すぎない?」


ヒルダさんはシード枠なので1戦少ないし、アランが勝てたとしても、ブラットと連戦になってしまう。


「全部くじ引きだから、アランが不運だったにゃ。」


「運も勝負の内なんだね……。」


そもそも、アランがヒルダさんに勝てるのかも分からない。


「ヒルダ! 今日は負けねぇーからな!」


アランとヒルダさんが戦い始める前に話し始めた。


「あはは、アランはいつもそんな事を言いながら負けてるじゃないですか。」


「ぐぬぬ……。」



「あれ? ふたりって知り合いなの?」


「同じ魔大陸出身の知り合いらしいにゃよ。私とレイみたいなもんにゃよ」


「なるほど……アランは確か他のクラスにも友達がいるって言っていたから、それがヒルダさんだったのかな?」


「たぶん、そうだにゃ」


 そんな話が終わると、ふたりの戦いが始まった。


 ヒルダさんは、前回同様に闇属性の【ダークテリトリー】を展開し、片手斧を両手に構え、アランを待ちかまえている。


「アランの【エレメンタルブレイク】は、ああいう常時展開型のフィールドは破壊が出来にゃいから弱いにゃね。」


「なるほど、僕もそうすれば良いんだな。」


「そうにゃね、レイみたいに常時複数の防御シールドを展開している人は少ないにゃけど、アランにはかなり有効にゃね」


 アランは大剣を持ちながら、ジリジリとヒルダさんに詰め寄り、そこから一気に攻める。


「アランは【ダークテリトリー】に慣れてる感じだね。」


「知り合いだから、何回も戦ってるんじゃないかにゃ」


確かにアランの動きには迷いがない感じだな。


【ダークテリトリー】の厄介なところは、ステータスが下がるというのもあるが、やはり狭いフィールドを出た瞬間にステータスは戻り、フィールド内に入るとまたステータスが下がるという、ステータスの落差だろう。


だから、アランの取っている作戦は、常に超近接戦闘をすることだった。


そして、よく見たらアランは普段使っている大剣ではなく普通サイズの剣を使っていた。


そう考えると普段からエレナやブラット対策をしている自分と、ヒルダさん用に対策を立てているアランは似ているのかもしれない。


ってか、アランの全力に対応出来ているヒルダさんは強いな……


「見た感じは互角の接戦だね。パワーがある分、アランの方が有利なのかな?」


「どうかにゃ? お互いにまだスキルを隠し持ってるはずにゃ」


パリンッ


しばらくアランとヒルダさんの超近接戦闘が続いていたら、ヒルダさんの持っていたショートソードが砕け散った……


なんだ、あの刀身の砕け方は?


ヒルダさんはショートソードが砕けても、驚く事なく【魔力】により闇属性の【魔力武器】を作り出し、またアランと打ち合いを始める。


「あの武器の砕け方はアランのスキル?」


「そうにゃね、あれは……アランの【アームズブレイク】にゃ。武器に一定期間内のダメージを蓄積させると武器破壊が出来るスキルにゃ」


「なるほど……それにしてもヒルダさんの【魔力武器】の生成は鮮やかだな。明らかにヒルダさんの【魔力操作】は抜きん出てるね……」


「……レイは遠回しに自慢してるにゃ?」


エレナに呆れた目をされた。


確かに自分の方が【魔導剣】の生成速度や量は圧倒的だけど……


「いや、そんなことはないよ……それにヒルダさんのは闇属性付与された【魔力武器】だし……」


「レイもやろうと思えば出来るにゃよね?」


「うっ、確かに出来る……かな。」


雷属性限定ならば、属性付与は出来る。



 2人は何回か武器を、打ち合っているときにヒルダさんは器用に、左手で【魔弾】を生成し、至近距離でアランに放つ。

 アランはとっさに回避しながらサイドステップをした瞬間、闇属性フィールドの地面から透明な【ハンド】が出て来てアランの足を掴む。


突然足が引っ張られることでアランは対応出来ず、後頭部から転倒する。


 その隙にヒルダさんはアランのアゴをボールを蹴るように思いっきり蹴り飛ばし、アランの頭は跳ね上がり、気絶させていた。


「うわ~。ヒルダさんはバックステップ中に透明な【ハンド】で転倒させるなんてえげつないや。」


しかも、最後の追い討ちは容赦が一切無かった。


「それはレイが言ってはイケないセリフにゃ……。 いつも私やブラットに透明な【ハンド】や【魔弾】をひたすら撃ちまくってるにゃ。」


「……確かにそうだったね。しかし、僕以外で【ハンド】を使ってる人は初めて見たよ。通常【ハンド】は魔力が見えるか感知出来ないと使えないはずだから、たぶんあの【ダークテリトリー】を支配下に置いている時に限定で【ハンド】を使用出来るのかな?」


 ヒルダさんが連戦になるのでクールタイムとして最後の試合は1時間後になった。



「アラン、さっきの試合は惜しかったね。最後はヒルダさんの作戦勝ちみたいな感じだったけど。ヒルダさんとは知り合いみたいだしね。」


「知り合いというかライバル部族だな。年に数回、部族同士で祭りをやっているんだが、部族代表の子供同士が戦って優劣をつけるんだよ。」


「ああ、魔人族は少数民族がいっぱいあるんだっけ?」


「俺達、魔人族は食料の少ない魔大陸を食材を求めて移動するんだけど、周回ルートがあってな。ヒルダの部族とは良くすれ違っているから食料の奪い合いをしない代わりに、子供同士が競って食料の狩り場を使える権利を決めるんだ。」


「少数民族ならではの平和的な解決なのかな?」


代理戦争みたいなものだろうか?


「ああ、しかし俺とヒルダの戦いは俺が全敗していて立場がないんだよな。」


 この世界は人類同士の戦争が無いのが凄いなと思った。



 ☆



 1時間経過してブラットとヒルダさんの試合が始まった。


「ヒルダさんが予想以上に強かったから、ブラットには厳しい試合になるのかな?」


「どうかにゃ、変則的な戦いにはレイと昔からやっているから大丈夫だと思うにゃ。」



 試合開始するとヒルダさんは毎度お馴染みの闇属性フィールドである【ダークテリトリー】を展開する。


 それに対してブラットは大剣を肩に担ぎながら普通に歩きながらヒルダさんに近づく……。


 ブラットが【ダークテリトリー】の範囲内に来たことで、ヒルダさんは先に攻撃を始めるが、ブラットはその攻撃を紙一重で回避し、ヒルダさんの攻撃が全く当たらなかった……


 ブラットは【ダークテリトリー】もほとんど影響が無い感じだな。


「なんでブラットは【ダークテリトリー】の影響を受けてないの?」


「ブラットは【ダークテリトリー】の影響を受けているにゃけど……レイの攻撃に慣れると、ああなるにゃ。」


「えっ? なんで?」


「レイがいつもやる、見えない【魔弾】を30個近く回避するよりは、【ダークテリトリー】の条件が悪い環境でも同級生の片手斧2本を回避する方が楽なんだにゃ。」


「……なるほど。という事は僕のおかげ?」


 ブラットは回避しながらヒルダさんの持っている両方の片手斧の柄を両手で掴み、ヒルダさんに頭突きして、頭突きに怯んだところでヒルダさんの両手から片手斧を奪いさり、両手の斧をヒルダさんに突きつけた。


 そこでヒルダさんは降参した。


「なんかさ、ブラットの戦い方って僕の時より荒くない? 頭突きとかされたことないよ。」


「ブラットが持っている大剣を相手に当てたら、防具ごと殺しちゃうかもしれないにゃ。」


「手加減ってことか、模擬戦と試合の違いか……?」


「そう言えば、コーデリアとシンシアはどうしたにゃ? いつもは一緒なのにいないにゃ。」


「ああ、マティアスの父親が来ているみたいでね、2人共挨拶ついでにマティアスの観戦に行ったみたいだね。」


「あの魔眼少年にゃ?」


「そう、マティアスも闘技の部に出てるみたいでね。どれくらい強いかは解らないけどね。」


「なら魔眼少年が1年生の部を勝ち残ったら、次はブラットと対戦にゃね。」


「うわ、勝ち残った1年生が可哀想だね。」

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