第107話 文化祭⑥ 闘技の部 上

 文化祭の前半である自分達のクラスによるメイドカフェと他のクラスなどがやっていた出し物などを見て回るのが昨日終わり、今日からは文化祭も後半に入り、今日と明日は闘技の部でトーナメント戦が開催される。


 何で文化祭なのに戦ったりするのかは非常に謎だが、昔から学園ではそういう流れらしい。


 どうせなら闘技の部などは、体育祭の時にやれば良いのにと先生に話したら、体育祭で疲れるのに、その上戦ったら生徒がぶっ倒れるからという理由みたいだ。


 前世の学校行事と名前は同じでも中身が微妙に違うんだよな……。


 チェスガン学園の全校生徒は、現在136人が居て、闘技の部に参加するのが、その中の52名だった。

 3つの部門の中では一番参加率が高いので、トップを取るのは大変そうである。


 トーナメント戦の組み合わせは、まずは学年別に4ブロックに別れて、各学年の優勝者である4名が最終戦をすることになっている。


 この辺は最初から上級生に当たったり等が無い様に配慮されている、1年生が4年生にいきなりあたったら可哀想だしね。



 ☆


 ブラット達、2年生のブロックは参加者が10名いて、1組のシード枠をくじ引きで決めていた。

 対戦数がかなり違うが、その辺は運って事で納得してもらうみたいだ。



 第1戦の組み合わせ。


 ブラット【グラディエーター】

 vs

 セレスタン【重装騎士】


 ブルーノ【ホワイトナイト】

 vs

 マーティナ【フェンサー】


 ガジ【闘拳士】

 vs

 カルメーラ【魔剣士】


 アラン【ブレイカー】

 vs

 カミーユ【双剣士】


 ヒルダ【ダークソルジャー】(シード)

 vs

 ルイーザ【槍術士】(シード)




 2年生のブロック初戦は、【グラディエーター】のブラットと【重装騎士】のセレスタンと戦いになった。


【重装騎士】の職種は、かなり重いフルプレートを装備しても【装備重量軽減】のパッシブスキルがあるため、大盾を装備しても身軽に動き回れるという理由から、騎士団の中では就職率の良い人気職らしい。

 簡単に言えば、動き回れる盾職である。


 小さい頃からブラットとは模擬戦をしていたが、あまりブラットから、所持しているスキルなどは聞いた事無いから、自分達以外の人とはどう戦うのかなぁと思っていたら、ブラットの一撃でセレスタン君が沈んでいた……。


 いやいや、試合が終わるの早すぎるだろ……。


 ナニコレ?


「エレナ、なんでブラットの攻撃が盾でしっかり防がれたのに【重装騎士】のセレスタン君にダメージ入って倒れたの?」


自分はブラットの勝ち方が意味分からなすぎ、隣にいたエレナに聞いてみた。


「あれはブラットが【浸透打】と【重撃】のスキルを同時に発動させた合わせ技で、盾と鎧を貫通してダメージが入ったんだにゃ。」


「それってどんな防具を装備しても貫通してダメージが入るの?」

 

「ブラットの話では【浸透打】は魔法系の防御には効かないらしいから、物理系の防御である盾や鎧などはほとんど貫通するみたいだにゃ。」


「あ~。それで僕が見たこと無いのか。僕の防御は魔法障壁とかだからね。」


「そうにゃ。レイは魔法の防御だし、私の戦いは基本的に全回避にゃ。」


「【重装騎士】のセレスタン君が可哀想そうだな……。 文化祭でのルールで属性付与の武具は使用禁止だから、ブラットの【浸透打】と相性が悪かったね。」


「職種の相性と言えば、次のブルーノとマーティナも相性が悪いにゃ。」


「ブルーノが万能型の盾職だったけど、マーティナさんの戦いってあまり見たこと無いな。【フェンサー】だから細身の剣を使うんだよね?」


「マーティナは【風魔法】と細身の剣で戦うスピードタイプにゃ。 まだマーティナは風魔法を上手に使いこなせないから細身の剣を主体で使うにゃ、しかしそれだとブルーノの得意な物理と魔法の防御壁を二重に展開する守りは突破するのが難しいにゃ。」 


「なるほどね。マーティナさんの攻撃力や技術力では厳しいんだね。」


「しかもブルーノはダメージが蓄積される度に防御力が上がるスキルがあるからマーティナは急所や鎧の隙間を上手く突くしか無いにゃ。」


聞けば聞くほどブルーノとマーティナさんの相性は悪いな……





 そして、ブルーノとマーティナさんの戦いが始まった。


 予想通りにマーティナさんが繰り出す急所狙いの突きは、全てブルーノの盾によって弾かれていた。


マーティナさんのスピードが劇的に上がっていたとしても、ブルーノもかなりの反射神経を持っているから、あのブルーノの守りを突破するのは至難な気がする。


「てか、マーティナさんはブルーノにあんなガチガチに防御されたら辛いな。エレナもマーティナさんみたいに軽いタイプだけど、いつもどうやって戦ってるの?」


「私にはブルーノの弱点が勘でわかるにゃ。」


「……よくわからない事がよく解ったよ。」


 そんな話している間にマーティナさんの剣がブルーノの【シールドバッシュ】に弾かれ、マーティナさんの剣は、運悪くブルーノの後方に飛ばされてしまう。


ああ、これは勝負がついたか?


素手になったマーティナさんにブルーノは【タックル】をして勝負がついたかのように思えたが、マーティナさんは身体が微かに発光し、次の瞬間、先ほどのマーティナさんから想像が出来ないレベルのスピードでブルーノのタックルを回避していた。


「にゃ!?」


「は? アレを回避した?」


あれは確実に回避不能なタイミングだったぞ……


そして、マーティナさんは今までのスピードとは比較にならない速度で移動しながら、ブルーノの正面には立たず、常にブルーノの側面から素手で攻撃し始めた。


マーティナさんの攻撃は、スピードは上がっているが力は上がっていないのか、ブルーノはダメージを受けているみたいだが、倒れる程ではなく、ブルーノの防御力を突破することはできないみたいだった。


しかも、マーティナさんの周囲で光っていた何かが徐々に小さくなっていく。


「レイ、マーティナを魔眼で見るにゃ!」


「えっ、魔眼で?」


「早く見るにゃ!」


エレナが何か焦っている感じだけど……何があるのだろうか?


ん?


なんで、あれは……あれ?


「レイ、マーティナの魔力は何色に見えたにゃ?」


「一瞬、虹色に見えたけど……今は魔力が見えない」


今はマーティナさんから魔力を見ることが出来なくなっていた。


「ヤバいにゃね……」


エレナがそう言った直後、マーティナさんは倒れて試合終了になった。


エレナは試合終了後、マーティナさんを見に行ったが、数分後に戻ってきた。


エレナの話ではとりあえず命に関わりはないけど、エレナが出来る事はないので、すぐに戻って来たらしい。


でも普通、体内に魔力が無い状態なんてあり得るのだろうか?

スキルなどで隠蔽されているのなら、あり得るかもしれないが、マーティナさんに限ればそれは無いだろう。

自分の想像では魔力が無い状態は死んでいると思っていたけど、マーティナさんは生きている……


それに、直前に見たあの虹色の魔力は……


マーティナさんに何が起きているのだろう?




 次は【闘拳士】のガジ君と【魔剣士】のカルメーラさん(女性)。


「今度は、別クラス同士かにゃ。ガジは分からないけど、カルメーラとは何度か話したことあるにゃ。」


「そうなんだ。話すって修練所とかで?」


「そうにゃ、最近はレイが修練所に来ないから、私とブラットの対戦相手が不足しているからにゃ、たまに相手してもらってるにゃよ。」


「修練所になかなか行けなくて悪かったね。最近は学業以外も忙しくてね。時間が取れないんだよ。」


「それは仕方ないにゃ。カルメーラは武器に火属性付与して、付与した状態からスキルを発動して戦うのが得意にゃ。」


「僕達と同じ年齢なのに属性付与を戦闘に使えるなんて、それは凄いね。」


「属性付与が入学前から使えるレイが言うと完全に嫌味に聞こえるにゃ。」


「僕の場合は出来ていても制御が上手くいかないから……。」


 試合が始まると、カルメーラさんが火属性付与の剣でガジ君との距離を詰めていく。


 ガジ君は土属性みたいで、両手に付けているグローブにトゲトゲの石を纏わせ、カルメーラの剣を捌きながら回避していく。


それを見て、自分は凄いなと思った。


「2人とも属性付与をしながら普通に戦うことが出来るんだね。まあ、【魔力操作】がうまくないのが残念だけど。」


自分も一度属性付与してしまえば、待機状態にすれば近接戦闘も出来るが、自分は雷属性付与を発動しながら近接戦闘を行うのは無理なので、純粋に凄いなと思った。


「【魔力操作】の上手さは私には分からないにゃけど、あれでも他のクラスでは【魔力操作】も天才扱いらしいにゃよ?」


「……そうなんだ?」


【魔力操作】だけで言えば、苦手なブラットよりも若干劣っており、クラス内ならばクライブよりは上手いってレベルだ。


 周りに化け物クラスが多いと強さの感覚が分からなくなるな。


 戦いの方はカルメーラさんの火属性付与が強さを増していくにつれてガジ君は身体に火傷が増えてくると動きが鈍っていった。


カルメーラさんが武器を振るう度に、身体全体に火が当たっている位の火力があった。


ガジ君もあの石を全身に装備でき……いや、重くて無理か。


そう考えると、土属性なのに石を纏っているのは微妙な気がしてきた。


 次第にガジ君の身体は火傷で皮膚がただれてきた……


「あのカルメーラさんの攻撃はえげつないね……ギリギリで回避していたら火の追加効果で火傷するし……」


「レイなら多分楽に勝てるにゃけど、これも相性が悪すぎるにゃね。ガジが遠距離スキルを持っているか、防御系スキルを持っていれば、結果はかなり違うと思うにゃ」


「確かに、アレくらいなら、ブラットの攻撃に比べたら楽かもしれないね……」


やっぱり他のクラスと比べると、エレナとブラットの強さがぶっ壊れてる気がするな。


 そして、ガジ君はカルメーラさんの攻撃を徐々に被弾していき、ガジ君が棄権する事で試合は終わった。


「やっぱり駄目だったかぁ。次はアランか、アランには頑張って欲しいね」


 次は【ブレイカー】のアランと【双剣士】のカミーユさんだ。


「カミーユはカルメーラと同じクラスで2人はライバルにゃ。ちなみに氷属性だからカルメーラと相性も悪いにゃ。」


「それならブラットとエレナも同じ属性じゃないか?」


火と氷のどっちが強いとかは無いけど、あまりブラットとエレナの戦いで、属性を気にしたことが無いな……


「私は模擬戦で氷属性を使った事は無いのもあるにゃけど、ブラットは不慣れな火属性付与を使うよりも、近接スキルの方が強いにゃよ。」


「なるほど……って、エレナが氷属性を使うの見たこと無いけど、属性付与は使えはするよね?」


エレナは確か自分と同じ位には【氷属性】のスキルを使えていたから、属性付与も出来ている筈だよね?


「初級レベルならいけるにゃ、だけど、お母さんから止められてるにゃ。」


「僕と同じ理由……?」


「たぶん、レイと同じ理由かにゃ……私も人に使うと危ないからにゃ」


「やっぱりか……」


「私の場合【必中】圏内なら、初級の【アイスアロー】が相手に確実に当たっちゃうにゃよ。」


「【必中】ってズルいよね? ちなみに【アイスアロー】で本気出すとどうなるの?」


「私はレイみたいに発動後のコントロールが無いにゃから、全力なら同時に150本の【アイスアロー】は出せるにゃ」


「……それって確実に死ぬよね?」


「動きを止めなければ当たらないにゃ、子供だと体力的に止まらずに戦うのは難しいからほぼ勝つにゃ。だから訓練にならないからって、止められたにゃ。」


止まってる標的になら、150本の【アイスアロー】って、それはどこの無理げーだよ……


いや、全て防げば良いのか?


ブラットやエレナの物理攻撃だと、簡単に【魔導壁】は破壊されてしまうけど、【アイスアロー】ならば防げるかもしれないよな。


それに、自分からも【魔導剣】を飛ばせば、迎撃出来るか……?


何となく自分ならばエレナの【必中】は対策出来る気が……ってか、物理攻撃にも必中は発動するのか……


「……強すぎるからって理由は凄い……あっ!」


「試合が終わったにゃ……。」


 アランもブラットみたいに一撃でカミーユさんを武器ごと壁まで吹き飛ばして終わってしまったので、あっと言う間だった。


「あいつら容赦なさすぎだろ。」


「だから2人は顔は良くてもモテないにゃ。」


「なるほどね。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る