第105話 文化祭④ 出店廻り 前半
文化祭の1日目はメイドカフェが大成功したこと 、でバタバタとして忙しかったけど、無事終わり2日目はみんなが自由に他の学年の出店や展示を見て廻る事が出来ていた。
1日目に出店していたクラスなどを見て廻れないのが残念ではあるが、それは仕方ないのかなと思うしかない。
そして自分と一緒に見て廻るメンバーは、いつも通りでブラット、エレナ、コーデリアさん、シンシアさんの5人になった。
ブルーノと体調が治ったマーティナさんはブルーノのお姉さんと3人で廻り、クライブは前日の皿洗いで筋肉痛になり、1人でのんびりと見て廻るらしい。
バリーやアランは他のクラスにも友達がおり、その人達と廻ると言っていた。
……そういえば、自分は他のクラスと交流がほとんど無いな。
クラブ活動もあまり交流が無いしなぁ。
「それでみんなは廻ってみたい場所はあるの?」
「俺は射的とか輪投げがあるらしくて、それをやってみたいな。」
「私は魚すくいってのをやってみたいにゃ。 捕った魚はもらえるらしいにゃ。」
「私は、お化け屋敷というのに、行きたいです。」
「私は、屋台を、廻りたい、です。」
「みんなが行きたいのを順に廻って行こうか。先に出店を廻って、最後にお化け屋敷かな。ちなみにエレナ、魚すくいは思っているのと違うかもしれないぞ?」
自分の中では魚すくいは、金魚すくいみたいなモノかなと思っていた。
「そうにゃ?」
出店はクラスの他に、野外スペースもあり、屋台とかは外になったりする。
まずは、『さかなすくい』と書いてあったので、魚すくいから廻る事にした。
大きい水槽?の中に、金魚すくいでは有り得ないサイズの魚が何匹も泳いでおり、他にも亀やエビ、水草、貝等も入っていた。
魚のサイズは5cm~30cmという大きさで、どうやってすくうのかと思ったら、巨大なポイの真ん中が普通の厚紙っぽいものが貼られていてあまり破けなさそうだった。
あれ?
あの厚紙は……
「すいませんにゃ! 1人3回分やりますにゃ。」
「はい! 1回200コルトで……。」
「じゃあ、3000コルトだから、これでお願いします。」
自分素早く計算して全員分のお金をまとめて出す。
「は、はい。丁度貰います。」
「さすが、レイは計算が速いにゃ。」
「まあ、学園では簡単な足し算しかやってないから、それに比べたら速いかもね。」
前世で散々勉強したから、これくらいは出来ないとね……。
「レイくん、今日は本当に全部奢ってもらって良かったのかな?」
「私も、払えますよ?」
「レイが奢るって言うんだから良いんじゃね?」
「そうにゃ。レイが奢りたいんだから気にしたら良くないにゃ。」
「まあ奢るのは今日だけだからね。低学年のお小遣いで遊ぶと残金が気になって楽しめないしね。」
今回の文化祭で出店などを廻るのにかかるお金を全部奢るのは、シンシアさんのお小遣い事情からであった。
理由は分からないけど、エレナから聞くにはコーデリアさんとシンシアさんは親からの仕送りがなく、治療院でお手伝いしているコーデリアさんは別として、働いていないシンシアさんは遊べるお金がほとんど無いらしい。
シンシアさんもちょっと働ける場所を探したみたいだけど、夕方の門限までという超短時間のお手伝いを探しているところは無かったらしい。
家庭や部族の事情だろうから聞かないが、文化祭位は楽しみたいからシンシアさんにだけ奢るのは変だから全員に奢る事にした。
「さあ! 魚を根絶やしにするにゃ!」
エレナはたまにやる気がマックスになるときがあるんだよな。
「……殺したらダメだからね? というかお客は他にもいるからあまり取らないようにね。」
ちなみに説明書きを見ると、ポイ1個で1匹制限があるので、根絶やしは出来ないはず……。
「にゃ! でかい魚が水草に隠れたにゃ!」
「うぁ、このポイは破けないと思ったけど、水を吸ってかなり柔らかくなってムズいぜ……。」
「にゃ!? ポイを水に浸けすぎて魚をすくったら簡単に破れたにゃ!」
「あっ! 俺のも簡単に破けたぞ!」
「あっ!」
エレナとブラット、シンシアさんのポイは速攻で破けていた……
このポイには隠された秘密があった。
「……よし。」
自分はポイに【魔導】を流す……
【魔硬紙】魔力を流すことにより硬くなる紙。
自分がこのポイを見たとき、不思議な紙だなと思って【鑑定】したら、この魚すくいは【魔力】を流すことにが前提の遊びなんだなと分かった。
だから、器用なエレナやブラットが失敗したのだろう。
自分はさっきエレナが失敗したゆっくりと泳いでいる魚をすくう。
「にゃ!? レイ、スゴイにゃ!」
「あともう少し……」
ってか、10cm位のちょっと大きいサイズの魚だから、普通の紙ならキツいが、【魔硬紙】に【魔導】を流していれば、簡単に取れると思ったが……この魚、予想を遥かに上回る重さなんだけど……
グギッ……
「ぐはっ」
あまりの重さに手首が耐えられなかった。
この魚、金属製の片手剣より重くないか?
ドボンッ!
「あ~、残念! もう少しで激レアな金剛魚をすくえたのに~」
魚すくいを出していた生徒がニヤニヤしながら、残念そうに言ってきた。
というか、この生徒の表情を見る限り、この金剛魚は取らせる気は一切無いというのが分かる……
「金剛魚?」
「はい、世界三大金属魚の幼魚なんですよ。売れば一万コルトはいく高級魚だったのに、残念だなぁ~」
「金属魚って、反則じゃないのか? それ……」
金属魚って初めて聞いたけど、それならばあの重さは納得出来る……
ニヤニヤされているのが悔しいが、何度やっても無理そうだから、違う魚を狙うか?
「レイくん、今度は私がその金属魚を狙ってみます!」
「えっ、流石にあの重さは……」
コーデリアさんの腕力じゃ無理だよって言おうとしたら、コーデリアさんはポイを軽く金属魚の周囲をすくっただけで、金属魚は簡単に跳ね上がり、かごの中に入っていった。
「あっ! コーデリアさん、凄い!」
「ふふ、水の事なら私は負けません!」
「な、なんで金属魚があんなに簡単に……?」
魚すくいの生徒は、目の前の光景にびっくりしていた……
「店員さん、相談ですが、この金属魚を5000コルトで買い取りませんか?」
☆
コーデリアさんは結局、金属製を5000コルトで買い取らせ、ホクホクな表情だった。
まあ、あんなに重たい魚を持ち歩くのは大変だし、魚すくいの店からしても半額でも回収しないと損をするし、あそこは売るのが一番だろう。
「しかし、コーデリアさんはよくあんなに重たい魚をすくったね」
「ふふ」
「レイ、あれはコーデリアの【精霊魔法】にゃよ」
「えっ? 【精霊魔法】?」
「な、何のことですか。わ、私は水流を操作して金属魚の周りの水ごと持ち上げてなんかしてませんよ?」
コーデリアさんはそんなことしていたのか……。
「コーデリアさん、ちょっとスカッとしたから、グッジョブ!」
「ぐ、グッジョブ……?」
「しかし、結局はコーデリアさんのすくった金属魚以外は普通の魚だったから、1人で2匹をすくえたね。」
あの金属魚以外は全て普通の魚だったから、ポイに【魔力】を流すと分かったみんなは簡単に魚をすくっていた。
「でも魚すくいは面白かったにゃ。次もあればやりたいにゃ。」
「おう。俺も後半は大きな魚すくいにも慣れたぜ。」
「……私は、たまたま、取れた感じだったのに。」
シンシアさんだけ素で魚すくいが苦手みたいで、ギリギリ2匹すくえていた。
「だけど、その魚はどうすの?」
自分たちがすくった魚はエレナが欲しいと言ったので、全てエレナが持っているが、もしかして食べるのかな?
「部屋で飼うんだにゃ」
「えっ、エレナが?」
「そうだにゃ、私は魚を飼うのが好きなんだにゃ~」
エレナに魚を飼育する趣味があるのは初見でびっくりした。
☆
「次はあっちでやってる、輪投げと射的をしようぜ!」
「「了解!」」
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