第104話 文化祭③ メイドカフェ

 文化祭の初日、クラスメイト達は準備を整えてオープンを待つのみの状態だった。

 みんな初めての事ばかりで、ちょっと緊張している表情をしていた。


……そろそろオープン時間かな?


 時間になったので、ロナルド先生の一言を貰い、オープンする事となった。


「よし、俺はお前達が低学年の中で一番頑張っていたと思っている、しかしなんでも予定通りに行かない時があるだろう。」


 そんなときは俺を呼べ!的なやつかな?


「そんな時はまずレイに相談しろ!」


自分かよっ!


「いや、ロナルド先生……そこは俺に相談しろじゃないんですか?」


「俺はカリー、いや……警備の見回りで忙しいから、まずはレイに相談して、それでもダメなら俺に言えって言おうとしたんだ……。」


今……ロナルド先生はカリーヌ先生って言おうとしなかったか?

 もしかして警備という事で文化祭を見て回るつもりか?

 もし、そうなら……ろくでもないのでは、前はこんな先生じゃなかったのに……。 


 恋愛による人の豹変に恐怖を感じた……。


 自分も中身は大人だが……恋愛経験は少ないのだから、恋愛をするときは慎重にならないとな……


 そして恋愛により向上する人と堕落する人がいるが、ロナルド先生はダメ人間になるタイプかもしれない。



 この学園の出し物をするクラスは1日目と2日目に分かれており、僕達の2年生Aクラスは1日目に出し物をして、2日目は他のクラスを見て回る事になっている。

 本当は1クラスを半分に分けられたら1日目と2日目で両方出来るけど、10人しかいなかったら人数的には分けられない。


「みんな、ロナルド先生には頼らずに今日1日を頑張ろう! 少しでも解らないことがあればロナルド先生ではなく僕を頼って欲しい。ロナルド先生に頼らず今日が終われば明日は遊べるから頑張ろう!」


「「お~!!」」


「いや、そこまで俺に頼らないって強調しなくても良いんだぞ?」


 ロナルド先生……文化祭での話に最初しか参加してないから詳細が解らないでしょ……



 ☆


 メイドカフェをオープンした当初は、まばらに入って来ただけだったが、すぐにお客さんがお客さんを呼び、さっき帰っていったお客さんが、また新たなお客さんと共に来ている謎現象が起きていた……。


 さっき来て、また数分後に別のお客さんを連れてリピーターとして来るのは、考えて無かったな……。


「接客グループはお疲れ様。午前中は大変だったけど、何とか良い形にはなっていたよ」


お客さんが完全に帰ったので、先に接客グループの作業が終わった。


厨房グループはまだ片付けなどが残っているので、作業中だった。


「思ったよりメイドカフェも面白いにゃね~」


エレナはミニスカタイプのメイド服のスカートをヒラヒラさせながらクルッと一回転していた。


 流石はエレナ案のメイド服、セシリアの着ているアダルトなメイド服とは違い、エレナ案のメイド服はちょっとゴシック感のある可愛さとミステリアスな雰囲気が合わさったもので、ファンタジー感のあるクラスメイトには何故か似合っていた。

 こういうところがファッションセンスの差なのかなと思う。


「コーデリアさんとシンシアさんは……まだ大丈夫そうかな?」


「はい! ちょっと疲れましたが、まだまだ大丈夫です!」


コーデリアさんはまだまだ元気そうで、メイドカフェの提案者だけあって、接客なども楽しいみたいで良かったなと思うが……


「わ、私はちょっと体力よりも接客に疲れました……」


コーデリアさんとは違い、シンシアさんは精神的に疲れているみたいだった……


「あれ? そう言えばブルーノとマーティナさんは?」


ちょっと前までブルーノがいたのは見たのだけど……


「マーティナがちょっと体調を崩して、ブルーノが保健室に連れて行ったにゃ」


「なるほど……マーティナさんは最近、調子悪そうだし、心配だね……原因はなんだろう?」


マーティナさんはずっと調子が悪いわけではなく、急に悪くなるんだよな。


「ふぅ~、疲れたこん!」


「俺は注文が入りすぎて頭がクラクラするぜ……」


「俺もブラットと一緒で頭が……」


「そんなに頭を使う内容か?」


「あっ、みんなお疲れ様。」


厨房グループのクライブ、ブラット、アラン、バリーが作業を終えたみたいだ。


「ん? どうしたんだ?」


「またマーティナさんが体調不良になったから、ブルーノが保健室に連れて行ったって話をしていたんだよ」


「ああ、マーティナさんか……最近、急激に動きが良くなってるんだけどな。それなのに体調不良っておかしな話だよな」


ブラットはマーティナさんの体調不良を不思議がっている。


「動きは良くなってるの?」


「そうだな、パワーは俺やアランに比べたらまだまだだけど、スピードだけで言えば俺と同じレベルだぜ」


「えっ、ブラットレベル?」


自分はブラットの発言にかなりの衝撃を受ける。


ブラットのスピードはクラスというか、学年でも別格のレベルで速いとエレナが言っていた。

ということはマーティナさんのスピードも学年トップレベルということになる。


ちなみに、エレナのスピードレベルは秘密らしい。


「そう言えば、僕の露店でのお客さんでも似たような話を聞いたこん」


「似たような話?」


「お客さんの知り合いで身体能力が劇的に上がったけど、体調は優れないから体調を回復させるポーションを探しているって話だこん」


「それって確かにマーティナさんと似ているね……」


何かの病気や流行り病ならば、もっと噂になってもおかしくない気がするけど、エレナの話だとそんな噂は無いらしいし、よく分からないことばかりだな。


ガラッ


あ、ブルーノが帰ってきたな。


「お帰り、ブルーノ。マーティナさんはどんな感じ?」


「まだちょっと胸が苦しいらしいから、今日は安静にした方が良いって保健室の先生が言ってたよ」


「そっか、それは仕方ないね……まあ、代わりにブルーノがマーティナさんの分も働くから大丈夫かな」


「えっ、ちょっと、レイ?」


「さあ、午後の作戦を話そうか」


自分はブルーノをスルーして、メイドカフェの午後に向けての新たな作戦を話すことにした。



 ☆



 午後になり自分が予測した通り、お客さんの増え方がネズミ算みたいに爆発的なものになっていた。


 そのため、午後からは自分のポジションを変更し、全体の指示から、入り口の入場管理やお会計をずっとやる事にした。


「あっ、お客様! 来店するには整理券が必要になります!」


そして、午後からは整理券システムも導入した。


「いや、さっきは整理券なんて無かったよな?」


「午後になり入場後にお客様を待たせない様に、入場制限をさせて貰うことになりました。」


 というか、この整理券は最初から混雑を想定して作っていた。

 セシリアショップの前例もあるし、もしかしたら、大混雑になる可能性も考えていたのだ。


「俺達はずっと待たされてもいっこうに構わないぞ? なんなら数時間放置してくれても構わない。」


 ……このお客さんは何なんだ?


 そう言えば、さっきのお客さんも中で待ちたいってしつこかったな。


 なんだろう?


 自分の想定していた状況とは違うな……


「お客様、すいません。当店は混雑により入場後は1時間制限をさせて貰っています!」


「な、なんだと? 中に1時間しか居られないのか? 午前中にはそんな条件は無かっただろう?」


「はい、申し訳ありませんが午後からはそうなります。一応、入り口の説明書きにもあります」


「そんなことどこに……あった……わかった。整理券を貰い、待たせて貰おう。ちなみにどれ位待ちそうなんだ?」


書いてて良かった注意書き。


個人的に言葉で説明するだけよりも、入口などに注意書きが書いてあったと説明する方が従ってくれる。


「今だと……3時間待ちになります」


「さっ、3時間だと……ぐっ、仕方ない、整理券をくれ……」


 さっきから変なお客さんばかりな気がしてきたぞ。

 しかも男性だけではなく、女性も似たような事を言ってくるし。



 接客グループにはエレナがいるから大丈夫だとは思うが、厨房内は大丈夫かな……。


バリーは基本的に全てをそつなくこなす万能タイプだけど、戦闘特化のブラットとアラン、商売特化のクライブをバリーだけで制御出来ているのか、ちょっと不安だった。


 自分はお客さんの整理券配布、案内や説明、それにお会計をひとりでやっているから、中をのぞく余裕が無いんだよな……。


 入り口から見えるホール内は順調みたいだけど、厨房内はどうなってるかな……?




 ☆


 接客グループのクラスメイト。



「お帰りなさいませ、ご主人様!」


「おっ、君は、可愛いね。ブルーちゃんか……。」


「ありがとうございます。ご主人様、お食事はいかが致しましょうか?」


「それじゃあ、このラブオムライスを2つ貰おうかな。」


「かしこまりました、ご主人様!」


「あっ、ブルーちゃん! お水のお代わりを頼めるかな?」


「俺もブルーちゃんの運んだ水が欲しい!」


「俺も!」


「かしこまりました! 少々お待ち下さい。」



「(ブルーちゃん、マジ天使だな。)」

「(あんな天使がこの学園に居たか?)」

「(俺の妹になってくれないかな……)」

「(いや、それは無理だろ。)」

「(ブルーちゃんに兄か姉が居たときに、その人と付き合えたら妹になるぞ……)」

「(やべぇ、お前、天才だな!)」



 ……。


「(ブルーノくんがやっぱり人気あり過ぎますね……私達が少し暇な位ですし……。)」


「(確かに、ブルーノくん、可愛い……。」


「(ブルーノくんは素材も美形だけど、レイくんのメイクも反則的に可愛くしていると思います)」


「(うん、あれはメイクしているように、見えない……)」


「(あれはすっぴんに見えるナチュラルメイクにゃ)」


「(なるほど……)」





(コーデリアとシンシアは、ブルーノの可愛さを認めたら女として負けにゃよ……。)




 ☆


 厨房グループのクラスメイト。


「アラン! チキンライスを早く用意してくれよ! 薄焼き卵が乗せられないだろ。」


「いや、チキンライスを盛り付ける皿が足りないんだ!」


「クライブ! オムライスのお皿が足りなくなったから直ぐに洗ってくれ!」


「ちょっと待って欲しいこん! 直ぐにお皿をふくこん!」


「くそっ! 何でオムライスと水ばかりと同じ注文が入るんだよ!」


「このペースだとクローズ前にオムライスが無くなるぞ?」


「薄焼き卵はあと4枚しかないぜ?」


「まじかよ、チキンライスが余るぞ?」


「もう薄焼き卵が無くなり次第、オムライスはやまにするぞ!」


「「了解!」」



「そろそろ休みたいぜ……。」


「ああ、戦いより疲れるぜ。」


「手がふやけるこん……」


「3人とも、あともう少しだから、頑張れよ」



 ☆


【レイ視点】


 何故か午後に修羅場モードへ突入したメイドカフェも文化祭の終了時間と共に終わりを告げた。



「みんな、本当にお疲れ様! 僕はこのメイドカフェが大成功だと思っているよ!」


「「お疲れ様!」」


「やっと終わったぜ……」


「一生分のオムライスを作った気がする……」


「何故かラブオムライスが完売したから無いけど、ナポリタン、ポテチ、ホットドックは僕が少しアレンジして用意したから、今から簡単な打ち上げをしよう!」


「「お~!」」



 オムライスの話を接客グループだった女性陣に聞いたら、衝撃的な事実が分かった。


「あんなにオムライスが出たのは、オムライスを頼むとケチャップで絵を書いてくれる時に話が出来るからって理由だったの?」


確かにオムライスには店員がサービスでケチャップアートのサービスがありますとは書いてあったけど、それが話すタイミングとなっていたのか……


「そうです。あと水が多いのも似た理由でした。」


「そうにゃ、しかも8割位が女装ブルーノが目当ての客だったにゃ……。」


「嘘だろ……? ブルーちゃんは確かに可愛かったけど、あんな行列を作るレベルだったのか?」


自分たちは中身がブルーノだと分かっているから、可愛くてもブルーノはブルーノだけど、女装しているって知らないお客さんからしたら、そんなに違うものなのか……


「レイ、私達も認めたくないけど、事実にゃ……。」


「しかし、あの行列はブルーノが凄いのか、客がヤバいのか分からないな……。」


「あとはレイのメイク技術もヤバいのが分かったにゃ……」


「えっ、僕がブルーノにしたメイク?」


「そうにゃ……多分、他の人が全く同じ様にメイクしても、仕上がりが違う様になる気がするにゃよ」


「……マジか」


それってブルーノに施した女装メイクに【素材の極み】が発動したってことか?


それならば、あの行列や狂気じみたお客さんにも納得出来るのか……?


いや、そもそもブルーノのメイクに【素材の極み】が発動するはずは無いんだけどな……謎だ。



 そんな自分の疑問とは裏腹に、今日一番活躍したブルーノだが、お姉さんに似合っていると褒められて満足げだった。


 ……イケメンブルーノの唯一残念な点が、お姉さん好きなところか。



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