第97話 職場見学⑩ 商会
建設会社の見学が終わり、次の見学先である商会まで来ていた。
ここで実家とセシリアショップのメンバーへのお土産を買いたいなと思っている。
あとはエレナに似合いそうな服やアクセサリーがあれば買ってあげるのも良いかなと思っていた。
何だかんだ言って、エレナには日頃からお世話になっているからな。
この商会でも女性の案内の人が来てくれた。
「みなさん。ようこそホーエンハイム商会にいらっしゃいました。 今日は私が案内をさせても……え?」
ん?
急に女性がびっくりした表情で固まってしまう……
「……クライブ様? 何故ここに来るのを事前に知らせてくれなかったのですか?」
「「えっ?」」
クライブ様?
みんながクライブを見る。
クライブは照れくさい感じだったので、自分が代表して質問してみる。
「ここはクライブの親が経営している商会とか?」
「いや、それは違うこん。実はここのホーエンハイム商会には親同士が決めた婚約者が居るこん……」
「婚約者!?」
みんながクライブに婚約者がいるという事実にびっくりする。
「本日はエミル様はご不在なので残念です。クライブ様がいらっしゃると分かっていればエミル様もあらゆる予定をキャンセルして……」
「ははは……それはざんねんだこん……」
「何だかクライブさん、棒読みじゃないですか?」
うん、ものすごく棒読みで残念感が全くないな……
もしかして、クライブは婚約者のエミルさんがあまり好きじゃないのかな?
「そ、そんな事は無いこんよ?」
しかし、親が商人をしているとは聞いていたが……こんな大きな商会の娘さんと婚約する位だから……
「もしかして、クライブってお金持ちの息子だったの?」
「ここのホーエンハイム商会程ではないけど、親は獣人族の国で獣人を相手にしたブレイザー商会という商会をやってるこん。」
「それは思ってる以上にお金持ちっぽいね。」
「まあ、親がお金持ちかもしれないけど、僕はお金持ってないからみんなと変わらないこん。」
まあ、確かに親がお金持ちでもクライブ自体からはお金持ちって雰囲気は今まで一切無かった。
クライブも露店でコツコツ稼ぎながら情報収集したりするくらいだしな。
「ちなみに婚約者ってどんな人なの?」
「……それは、また今度話すこんよ。」
「そうか……。」
やっぱり婚約者とはなにかあるのかもしれないな。
☆
ここのホーエンハイム商会では個人で商売してる商人に売り場を提供したり、安く買い取った商品を販売したりする。デパートみたいな事をしているビルを《ガスデール》内で4店舗も展開しているらしく、今日来たのはホーエンハイム商会本社と併設している本店で、《ガスデール》内でも一番大きな店舗ということだった。
確かに、ホーエンハイム商会本店は大きく、先ほど見学した建設会社よりも遙かに広い5階建てのビルだ。
ちなみに、構造は建設会社と似た仕様っぽいから、《ガスデール》内の巨大建築物はほとんど一緒なのかもしれない。
「商人なら誰でもホーエンハイム商会のビルで売り場を提供してもらえるのですか?」
仮に自分がホーエンハイム商会の店舗でセシリアショップの商品を販売したい時は売場を借りられるのかを知りたいと思った。
引っ越しの話は別として、《ガスデール》内にもセシリアショップの商品を少量だが流して、もっと欲しかったら《チェスガン》に来て下さいと誘導するのも有りかなと思っていた。
「ホーエンハイム商会の店舗で売り場を借りたい場合は我が商会の定めた一定レベル以上の実績を得ないと借りられません。」
「なるほど……」
そりゃあ、店舗で売場を貸すのだから、誰でも大丈夫ってことは無いのだろう。
ちなみに、クライブの商会も似た感じらしい。
☆
商会の説明も終わり、お昼ご飯を食べたあとはホーエンハイム商会本店でお土産を買う時間になった。
「本日はホーエンハイム商会の見学をしてもらったので、ホーエンハイム商会本店の全商品2割引で購入出来るようになっています。良かったらお土産にご利用下さい」
「「やったぁ!」」
全商品2割引きって凄いサービスだな。
あ、でも子供がお土産で買う位ならば2割引にしても大して痛くはないか。
それよりも子供のうちからホーエンハイム商会の印象をよくしておけば、将来大物になった時に利用してもらえれば得かもしれないな。
「う~ん、どれにしよう?」
自分はコーデリアさん、シンシアさんと共に店舗内をグルグルと回りながら、何を買って帰るかすごく迷っていた。
このホーエンハイム商会本店は広くて、様々な商品が売っていて、素晴らしいのだが……素晴らし過ぎて逆になににするか迷ってしまうんだよな。
セシリアショップのメンバーには書きやすそうな万年筆があったので仕事にも使えるし柄が違うのを選んで買った。
コーデリアさんとシンシアさんは特にお土産をエルフ族の里に持って帰る訳ではないらしく、特に買うものはないらしい。
「レイくんは他に誰あてお土産を買うのですか?」
「う~ん、お父さんは会ったばかりだし……お土産はいらないかな……? お母さんとフローラには確実に何かを買って帰らないと駄目だから迷うな。」
「レイくんは妹さんも居るんですね。」
「うん。僕には3歳離れた妹が居るんだよ。名前はフローラで、将来こっちの学校に来ると思うよ。」
「それでしたら私達が4年生の時に来るんですね。妹さんが来るのは今から楽しみですね。」
「うーん、なんかフローラが学園に来るって考えると、どうしても嫌な予感はするんだよね。」
「そうなんですか?」
理由は分からないが、何故かフローラが学園に入学するといろいろと波乱が起きそうな気配がするけど、それは今考えても仕方ないか。
「なんとなくね……あ、そうだ! フローラにはこの文具セットにしようかな! ……お母さんには名物のお菓子でいいかな。」
「レイくん、お土産選びが、割と雑になってない……?」
「最近は両親や妹と一緒にいないから何が欲しいか、わからないんだよね。好きなものがしっかり分かれば別だけどさ。」
「ちなみに、レイくんの好きなものはなんですか?」
「ペンギングッズとかかな?」
「なるほど……確かに分かりやすいですね。」
そう言えば……他にも買いたいものがあったな。
「あっ、そうだ! コーデリアさんとシンシアさんには悪いけど、ちょっと用事があるから別行動でお願いね!」
「えっ!」
「あっ、レイくん!」
自分は理由を追及されても困るから、逃げるようにその場を離れた。
☆
自分はコーデリアさんとシンシアさんから離れ、お馴染みの変装【魔導具】で頼りない男性に変装し、洋服売り場を見て回っていた。
服売り場もかなりの広さで、紳士服から淑女服、子供服、若者用の服など様々あり、自分は女の子の服が売っているフロアを探索しているのだが……種類はあるのだけど、どうにも前世の記憶が邪魔しているのか、自分が思うエレナに似合う服とかなかな合致しないでいた。
だけど、エレナ本人が選ぶ服はどれも似合っていて可愛いと思うから、これがファッションセンスの違いなのかと、思ってしまう。
「何かお探しですか?」
おっと、ガッツリと見ていたら店員女性に声をかけられてしまった。
「えっと……娘に服をプレゼントしようと思っているんだけど、なかなかコレだって服が無くてね……ああ、お店の品揃えが悪いのではなく、私のイメージの問題なんだけど……」
「それは興味深いお話ですね……ちなみに娘さんに似合う服のイメージはある程度固まっているのですか?」
「ええ、まあ……理想とするものは漠然とあります」
エレナの私服は制服とは違い、基本的に動きやすいショートパンツにシャツなどが多く、たまに短めのスカートやワンピースを着たりもするけど、やっぱりエレナに似合うのはショートパンツにシャツとは思うんだけど、ちょっとデザインが違うんだよな……
「もし良ければ、こちらの紙にイメージを書いてみてもらえませんか?」
「えっ? イメージをですか?」
自分は店員女性に予想外の事を言われ、戸惑う。
何でイメージを紙に?
「ああ、すいません! 現在、こちらのお店ではお客様のイメージを2時間以内に形にするチャレンジ企画を展開していまして、お客様みたいな方を探していたのです!」
「2時間でイメージを形にするって、素人考えでもかなり無謀な感じに思えるのですが?」
量産された服とは訳が違うのだから、イメージした服を2時間で形にするって無理じゃないか?
「ふふ、ほとんどのお客様が最初はそう言いますが……2時間後には皆様満足されて帰られます。」
そう言って、店員女性はチラシみたいな紙とラフ画を描くようなスケッチブックとペンを渡してくる。
自分はチラシを見てなるほどと思い、是非頼んでみたいと思った……
そのチラシには、洋服店とコラボ企画をしているカリスマ服飾士のスキル一覧が載っていて、その中に【服飾の極み】【高速作業】【身体強化】【ワールドトリップ】など様々なスキルがあり、これならば可能かもしれないと思わせるものだった。
特に【服飾の極み】にはもの凄く興味が湧いていた。
まあ、【ワールドトリップ】って謎スキルにも興味があったが、今はスルーしよう。
そして、この企画がミソは作成費はタダではなく、しっかりとというより、かなりを高額を要求されるところだろうか?
とは言っても、ぼったくり価格ではなく、多分普通にこのカリスマ服飾士に頼んだ適正価格なのだろ金額だ。
「それじゃあ、このイメージでお願いしても良いですか? お代は先に払っておきます」
「えっ? お代は完成してからで良いですよ? しかも、納得出来なければお代はタダでも良いのですが、一度支払いをされると返金不可になるのですが……」
「いえ、このカリスマ服飾士のスキルが正しければ、返金などしないので大丈夫ですよ。それじゃあ、お願いしますね」
そう言って自分がその場を立ち去った。
☆
「ちょっとクライブにお願いがあるんだけど。」
「ん? なんかレイが頼むなんて珍しいこん。」
「この商会で鋼材とか扱ってないかな?」
「たぶんやってると思うけど、子供が買う様な物では無いこんよ?」
「知り合いから、もし鋼材が買えるお店があったら知りたいって感じで、頼まれ事されてたんだよ。」
「そうなのかこん? さっきのお姉さんは各部門を管理してる偉い人だから聞いてみるこん。」
そしてお姉さんを呼んでもらった。
「なにか用ですか? クライブ様。」
「まだ婚約だけだから様はやめて欲しいこん。こっちのレイが鋼材を買いたいらしいこん。」
「鋼材ですか? 販売単位が10kgになるので子供には……。」
「予算は金額30万コルトで買える分を欲しいんだ。 受け取りと支払いは後日、別の女性が来るし、運搬も馬車に積んでくれれば大丈夫です。」
「普段は個別でこういう話は受けませんが、クライブさんの知り合いという事でお請けしましょう。」
「詳細は後日来る人に聞いて欲しいんですが大丈夫ですか?。」
「わかりました。 大丈夫ですよ。」
よし、これで鋼材を使い、いろいろ遊べるぞ!
そして職場見学は無事に終わり、次の日に馬車で帰ったのだった。
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