第96話 職場見学⑨ 建設会社
水族館の至福の時間はあっと言う間に終わりを告げた……
「こんなことなら《ガスデール》に編入学でもするかな……?」
自分を思い付いたことながら、天才的な発想など気がしてきた。
「「えっ?」」
そうだよな……ペンギンのいる水族館の近くに住めば毎日水族館通いも可能だったりするし……お金はむしろ《ガスデール》の方が稼げるかもしれない。
「……ナイスアイデアだな」
「えっと、レイくん……本気ですか? 目が結構真面目な感じなのですが?」
「レイくん、考え直して……コーデリア、レイくんの目が別の世界に行ってる……」
「レイくん!」
コーデリアさんに肩を揺さぶれ、思考が現実に戻る。
「ん? ああ、ごめん。考え事しちゃってたよ」
「それは《ガスデール》に引っ越す考えですよね?」
「えっ? 何で分かったの?」
コーデリアさんは自分の心を読めるのか?
「レイくん……思考がダダ漏れでしたよ……」
「マジで?」
「それで……《ガスデール》に引っ越すのは冗談ですよね?」
「いや、割と良い考えかなと思っていたんだけど……」
そうか……2人は自分が《ガスデール》に引っ越したら、もう会えないと思っているのか……
それはそうだよな……せっかく仲良くなった友達が近くにいなくなれば悲しいのは当然か……
「それじゃあ、コーデリアさんやシンシアさん、それにブラットやエレナ、みんなで《ガスデール》に……」
ボゴッ!!
「あっいったあ!? え、なに?」
「レイ、暴走はそこまでにゃよ」
「あっ、エレナ……」
頭に強い痛みを感じ、振り返ると……紙ハリセンを持ったエレナが居た……
そのハリセンはどっから持ってきた……という疑問はこの際飲み込むとして、何故ここにいるのだろう?という疑問が言おうとしたら、エレナ…先に答えてくれた。
「そろそろレイが水族館で暴走するころかにゃと思って、止めにきたにゃよ」
「暴走って……みんなで《ガスデール》に編入学するのがベストじゃない?」
暴走って人聞きが悪いな……
「そんなことしたらソフィアさんに言いつけるにゃよ……?」
「ちょ……それは……うん。僕が間違っていたよ」
確かにエレナの言うとおり、お母さんに《ガスデール》へ友達と一緒に引っ越したいと話しら……自分が怒られる悪い未来しか見えない。
「それが賢明にゃね」
「せめて週1で《ガスデール》に来たいな……」
「距離的に無理にゃよ……」
その後は《ガスデール》への引っ越しは諦め、そのまま宿に戻った。
☆
宿の晩飯後、ロナルド先生とカリーヌ先生の件が気になったので、エレナに聞いてみた。
「あれからカリーヌ先生をカフェに誘った謎の男性(笑)は、カリーヌ先生がカフェに行った時にはいなかったらしいにゃけど……その後がちょっと大変だったにゃ~」
「……ちなみに、その後なにが大変だったの?」
エレナの言う、謎の男性とは変装した自分のことだろう……
「カフェで謎の男性(笑)が待って貰えなかったのは、『私がすぐに行けなかった今の職場が悪い!』と言いながら泣き崩れていたにゃ……。」
「マジか……。」
それを聞くとちょっとカリーヌ先生に罪悪感が出てくるな……。
「まあ、その後カリーヌ先生は再度カフェに向かって、カリーヌ先生をストーキン……見守っていたロナルド先生がカフェに入ってきて、そしてそのタイミングでロナルド先生がアクセサリーをプレゼントしたにゃ。」
「……ロナルド先生はいきなりアクセサリーを渡して大丈夫だったの?」
ってか、エレナは一度ロナルド先生がストーキングしてるって言いかけたよね?
しかも、傷心中の人にいきなりアクセサリーを渡すって、どうなの?
「私の情報通り?にロナルド先生は指輪をプレゼントしたにゃよ。」
「……僕も指輪を勧めといてあれだけど、その場面では普通は指輪をあげないよね?」
「カリーヌ先生はその指輪を受け取り少し考えた後、『分かりました、結婚しましょう!』と言いながら左の薬指にはめたにゃ……。」
「え……? なにそのカオスな急展開は。」
指輪を渡したロナルド先生もアレだけど……いきなり指輪を薬指にはめて、結婚って発言になるのはかなりヤバい感じがするんだけど……
「そして、ロナルド先生は了承して、2人は結婚前提に付き合いだしたにゃ。」
「えぇぇ~~!」
二人の付き合いはいろいろすっ飛ばした感じだった……。
☆
《ガスデール》滞在3日目。
今日は建設会社と商会に行く予定になっている。
明日は朝から馬車で帰るから、お土産を買うなら商会にあるお土産コーナーらしい。
そんな事より……。
「ロナルド先生! イチャイチャするなら旅行が終わって、帰ってからにしてくださいよ!」
自分らがロナルド先生とカリーヌ先生をくっつけるサポートはしたけど、まさか2人が生徒の前でイチャイチャするのは予想外だった……
「ホントだにゃ~。」
「変わりすぎて引くぜ……。」
「カリーヌ先生、うらや… しっかりしてください!」
「あ、ああ。みんなすまん……ちょっと幸せすぎてな。」
「(バクハツシロ……)」
「え?」
☆
自分がちょっと楽しみにしていた建設会社の前に到着した。
建設会社は12階建てのビルで、転生してから一番高い建物だった。
耐震性とか大丈夫なのか?
前世では耐震の勉強もかなりしたから知識がある分、逆に不安になるんだよな……。
建設会社の案内には美人のお姉さんがしてくれた。
「こちらの建物では、建築設計、建築積算、土木設計、土木積算、製造ライン設計、都市環境、新素材開発、貴族専用、営業、人材育成、資材管理の11部門に分かれていて、工場などは別にあり、ここでは室内業務のみになります。」
「やべぇ、また何言ってるかわからないパターンだ……。」
「……。」
早速、ブラットとアランの頭から煙が出そうだ。
「すいません! お姉さん質問があります!」
まあ、2人には申し訳ないが、質問したいことがいっぱいあったので、ガンガン質問させて貰おうかなと思っている。
「なにかしら?」
「こんなに高い建物で耐震や荷重に耐えられるように構造計算されてるのですか? 12階建ての建物にしては1階部分の柱が細い気がするんですが?」
日本の建築基準は厳しかったとは言え、前世の知識からすると、建設会社のビルの柱は見た感じ細い気がした。
しかし、柱の周辺には不思議な【魔力】が漂っているので、もしかしたら【魔法】的な効果により強度を強化しているのではないかと推測したのだ。
まあ、答えを教えてくれるかは分からないけど、建設関係の知識として科学以外の知識を吸収出来るならば、今後のためにも知りたいと思った。
「……最近の子供はここまで気にするのかしら?」
美人の女性は怪訝な顔をしていた。
七歳の子供がそんな質問をすれば誰でも怪訝な顔をするか、と少し反省する。
「すいません。この生徒だけ特別だと思ってください。」
「そ、そうよね? ちなみに構造計算はされているわ、柱が細いのは重量軽減の魔石のおかげね。耐震や明かり、水道、建物内ではいろいろな魔石が使われていて、その魔石等を一カ所で管理する部屋があるの、詳細は言えないけど数名の魔法師が常に交代で魔力補充しているわ。」
なるほど……そうなると……
自分は【魔眼】にて再度柱の太さと【魔力】の量などをざっと計算する。
正確な計算はすぐには出ないが、現場経験や構造計算経験が長い人は、簡易計算と経験によりある程度の概算は出来るのだ。
その結果、この建設会社の建物は正確な構造計算が出来てない気がした……もし、自分の予測が正しければ、3割位は魔力を削減出来る筈だ……もし、そうなら魔石や魔法師が勿体ない気がする。
「すごいんですね~。」
しかし、子供が変な事は言えないので、関心する事にした。
「このビルも王国では最先端ね。大陸の中央ではこことは次元の違う未知の技術があるって噂話もありますけど、真実では無いかもしれないかなと思ってますね。」
イーストエンド地方より西にある大陸中央か……?
この世界の世界地図というものは、見直に存在しないので、いまいち世界規模や場所が分からない。
その後、建設会社を見て回ったが、前世に比べるとレベルがかなり低くて落胆した。
王国の建設レベルには期待出来ないので、噂としてある大陸中央の次元の違う技術力に期待し、いつかは行ってみたいと思った。
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