第94話 職場見学⑦ 水族館

 鍛冶工場の見学後、次の見学場所である水族館に移動していた。


この水族館での見学は職場見学というよりは、せっかく旅行に来ているのだから、多少は観光も楽しもうという感じみたいだった。


なので水族館では最初に軽く職場内の説明をしたあとは直ぐに自由時間になった。


そして水族館での自由時間は3時間もあったので、自分はロナルド先生のサポートをする為、すぐに行動に移す。


自分は昨日の夜に計画した通り、【容姿変更ペンダント】でロナルド先生より容姿を頼りない感じの男性に変身した。


ふむ、年齢は30代でなかなか頼りない感じの容姿になったな。


この【魔導具】は一度変身してしまえば、同じ容姿になるのは簡単だけど、初期のイメージが決定してしまうので、ロナルド先生よりも頼りない感じになるかは賭けだったが、賭けには勝ったなと思った。


 自分がこの頼りない男性の容姿に変身した目的は、ロナルド先生の前でカリーヌ先生をナンパし、それを見たロナルド先生に男らしい対応をしてもらい、カリーヌ先生にもロナルド先生を意識してもらい、2人の間の起爆剤になればと思っている。


さてと……カリーヌ先生はどこにいるのかな?


ちょっと水族館内をキョロキョロしながら移動すると、すぐに、カリーヌ先生を発見する。


 ちょうどカリーヌ先生はエレナとマーティナさん、ブルーノの4人で行動していた。


ブルーノはマーティナさんとイチャイチャしているのか……ん?


よく4人を見てみると、マーティナさんを気遣うようにカリーヌ先生とブルーノがマーティナさんの両サイドに付き、エレナが水族館の案内をしている感じだった。


最近のマーティナさんは顔色が病的に白いと男子の間で話題になっていたけど、今日もそんなに体調が悪いのか?


う~ん、マーティナさんが体調悪いなら、カリーヌ先生をナンパするのは中止にするか?


今回、自分のやろうとしているのは必須という訳でもないしな……


そう思い、離れようとしたら……エレナが隠れている自分の方に顔を向け、作戦を実行しろと言わんばかりに手招きしてきた。


何でエレナは変身している筈の自分を発見出来たんだ?


そもそもエレナにはアクセサリーの件しか話してないから、今回のナンパ作戦は自分しか知らないはずなのに……


ん?


エレナは更に指で自分にだけ分かるように、違う方向を指してきたので、そっちに視線を向けると……そこには、少し離れた所でロナルド先生がチラチラと壁に隠れながらカリーヌ先生を見ていた、人のことは言えないが、あれでは、まるでストーカーだな……。


 時間もないし、エレナがやれって事は、エレナがサポートしてくれるのだろう……よし、行くか。


「そこの聖女マリアの様に綺麗なお姉さん……ちょっと良いですか?」


「えっ!? 私ですか?」


自分は正面からカリーヌ先生の前に立ち、話しかける。


ナンパなんてやったことはないので、直球勝負でいこうと考えていた。


「そうです! 先ほど水族館の前でお見かけした時にとても魅力的な女性だと思いまして、それで、良ければお話だけでも出来たらと……おっと、どうぞアナタの髪色に合わせた花束です!」


自分は事前に買っておいたオレンジ色の花を何種類か詰め合わせてもらった花束をカリーヌ先生へと渡す。


オレンジ色の花は種類が少なく、値段も少し高かったが、仕方ない。


「えーと、今は仕事中でして……すいません。」


カリーヌ先生は顔を赤らめながらも、残念そうな表情で断ってくる。


あれ?


これって、ちょっとは脈有りになってしまってるのか?


「カリーヌ先生、夕方になったら時間が空くんじゃないかにゃ?」


「えっ、ちょっと、エレナちゃん!?」


「ほう、そうなのですね……なら、仕事が終わってからで良いので会えませんが? 場所はそうですね……水族館の斜め前にあるカフェでお話をしませんか? 私はあなたが来てくれるのをずっと待ってます。 では!」


「あっ、待って下さい……」


 そして自分は早歩きで、その場を離脱する。




 変装を解き、とりあえずロナルド先生のサポートミッション前半は終わったかなと一息つく。


さてと、しばらくは1人で水族館内をふらふらしてからコーデリアさんとシンシアさんを探すかな……。


「レイ、またやらかしたにゃ……。」


「うわっ! エレナ?」


 なぜか背後に気配もなくエレナが居たのでびっくりしてしまう。


 いつもの事ながら、エレナに突然背後へ立たれると心臓に悪い。


「あのナンパの後どうするつもりにゃ?」


「いや、それよりなんでここに? というか、あの変装は完璧な筈なのに何で分かったの?」


「【野生の勘】が教えてくれるにゃよ~。」


「マジか、一応は夕方にカフェへ……。」


とりあえず、エレナには今後の予定パターンをいくつか説明する。


すると、エレナは首を振り……


「カリーヌ先生はレイの誘いに本気みたいにゃから、行かない方が良いかにゃ……これが婚期最後みたいな決意があったにゃ。」


「え? あんな下手なナンパで?」


「そうにゃ。しかも騙したと知られたら……レイの命がないにゃよ? カリーヌ先生は守る戦いが苦手なだけで、あれでも殲滅戦なら凄く強いにゃよ。」


「………じゃあカフェに行かずに予定を飛ばしてロナルド先生を焚きつけて終わるかな。」


「それが無難にゃ。」


よし、ならばロナルド先生に話をするか……



 ☆


 ロナルド先生は未だにカリーヌ先生へのストーカー行為をしていた。


「ロナルド先生……そんな感じだとストーカーで捕まりますよ?」


「うお、レイか、驚かすな……しかも捕まるってなんだ?」


「周りから見たら、今のロナルド先生は不審者ですよ?」


「マジか?」


「マジです。ちなみにカリーヌ先生の話は聞きましたよ。」


「なんでもう知ってんだよ……。」


「エレナ情報です。」


「……あいつはクラスの諜報員か?」


「間違いではないかも。それよりロナルド先生に猶予は無くなりました。とりあえずは買ったアクセサリーを渡して好意があることだけでも伝えましょう。」


「……わかった、ありがとうな。」


 決心がついたみたいだから、後はロナルド先生次第かな……。


「それでは頑張ってください。」




 ☆



 ロナルド先生の一件は終わったので、自分は水族館内にいる、コーデリアさんとシンシアさんを探したら割とすぐに見つかった。

 別れた地点の近くにある椅子に座っていたからだ。


 申し訳ないことしたなぁ


「コーデリアさん、シンシアさん。待たせてごめんね! 用事は済んだから一緒に見て回ろう!」


「あっ! レイくん!」

「やっと、来てくれた!」



 3人で見て回ることにした。



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