第93話 職場見学⑥ 鍛冶工場
宿屋のお風呂から上がってからブラットと話を終わったあと、男子部屋で秘密の作戦会議が行われていた。
主催はクライブとバリーらしく、アドバイザーにブルーノという不思議な組み合わせだ。
自分やブラットは全く聞いていなかった作戦で、部屋に戻ったら、何故かロナルド先生も居たので疑問だったが、すぐに理由が分かった。
「ロナルド先生、明日の鍛冶工場でアクセサリーを買ってカリーヌ先生にプレゼントするこん!」
どうやらクライブとバリーはロナルド先生とカリーヌ先生をくっつける手伝いをしたいらしく、そこでイケメンのブルーノがアドバイザーとなったみたいだ。
確かに自分やブラットは戦力外かもしれないな……
「いや、いきなりプレゼントをあげるのはどうかと……それに実はカリーヌ先生とは仕事の話以外で話したことはないんだ。」
「何を悠長な事を言ってるこん! 今回の旅行がラストチャンスかもしれないこん!」
クライブがいつになくやる気だな。
「いや、今までも遠くから見ているだけで十分だったし……」
「その遠くから見ていることすら出来なくなっても知らないこんよ?」
「な……それはどういう意味だ、クライブ!?」
「仕入れた情報によると、カリーヌ先生は先生としての自信を無くしつつあるらしくて、実家に帰ろうかなって洩らしていたらしいこん!」
「な、なんだと……俺は初耳だぞ? その情報はどこから……?」
「それは俺が調べてきた情報だ」
「バリーか」
なるほど、情報源はバリーか。
バリーもエレナには負けるが、凄まじい情報通だよな……
そして、ロナルド先生の表情が一気に青ざめる。
「ロナルド先生は状況を理解したこん?」
「ああ……目が覚めた気分だ……それで俺はアクセサリーをプレゼントするんだったか?」
「それがベストだこん」
「あ~、クライブ、話の途中で悪いんだけど、一つ質問があるんだけど。」
ここでイケメン・ブルーノが手を挙げる。
「なんだこん?」
「アクセサリーと言ってもロナルド先生にカリーヌ先生の好みがわかるのかな?」
「……ロナルド先生、わかるこん?」
「いや、俺にはサッパリ分からないぞ……」
「僕は趣味の合わないアクセサリーを好きでもない人から貰っても、嬉しいものなのかという疑問があるんだけど……」
確かにブルーノのいう通りか……
「じゃあ俺はどうすれば……」
「「……。」」
会話が止まってしまったな……良い案は浮かばないらしい。
仕方ない、自分が手を上げる。
「ん? 何だこん?」
「困った時はエレナに聞こう。」
「「それだ!!」」
「じゃあ、レイ、あとは任せたこん!」
「は? 僕がエレナに聞くの?」
「そこは幼なじみの出番だこん!」
まじかよ……。
☆
「エレナ、ちょっと相談があるんだけど、良いかな?」
自分は最終的にロナルド先生の土下座を見せられるという状況になり、仕方なく引き受けてしまった為、エレナの宿泊している部屋へ来ていた。
「何かにゃ? パン工場でのパンケーキ問題を解決するのは流石に私でも無理にゃよ?」
「いや、それも相談したかったけど、今日は違う相談なんだ。」
ああ、エレナに言われてパンケーキ問題を思い出してしまった……。
しかし、今日は別件で来たので、とりあえずは目的を優先しよう……
「……他には心当たりは無いにゃけど……とりあえず言ってみるにゃ。」
「実はロナルド先生に好きな人がいるって解ったんだけど、その相手がカリーヌ先生で、自分を含めた男子達でロナルド先生を支援する事にしたんだ。そこで、明日の鍛冶工場でロナルド先生がカリーヌ先生の為にアクセサリーを買ってプレゼントさせようって事になったんだけど、カリーヌ先生の好みのアクセサリーがサッパリ分からないからエレナに調べて欲しいんだ。」
「なるほどにゃ……それならカリーヌ先生の好みは朝までに調べておくにゃよ。」
「流石エレナ、頼りになるよ!」
「あ、そう言えば私も新しい服が欲しいと思ってたんだにゃ。」
ふむ、やはりいくら幼なじみでもタダというのは良くないよな。
「……それ位なら買いに行こうか。」
「ありがとうだにゃ! あと、服はレイに選んで欲しいんだにゃ」
「僕のセンスで良いの?」
「その方がたまには良いんだにゃ」
「まあ、それくらいなら良いよ」
エレナの買い物選びに付き合うよりは自分の好みで買った方が早く終わるだろうから、その方がありがたいが、自分のセンスで良いのかが不安ではあるな。
「あっ、ちなみにコーデリアやシンシアには絶対に内緒にゃよ?」
「えっ?」
「そこは絶対だにゃ!」
「分かったよ……なんか弱みを握られた人みたいになってきたな……。」
☆
朝になったらエレナはカリーヌ先生の好きなアクセサリーを教えてくれた。
流石、エレナだな……頼んでから半日しか経っていないのにもう調べてくれているとは仕事が早いな。
これはエレナに買ってあげる服も一着と言わず、数着は買ってあげても良い気がしてきた。
「こんな短時間で調べてくれてありがとうエレナ。」
「レイのお願いの中では簡単ほうにゃね~」
「そっか、でもお礼は楽しみにしておいてよ」
「にゃはっ、それじゃあ、楽しみにしているにゃよ」
それから、自分はエレナにお礼を言って、早速ロナルド先生のいる部屋へと向かう。
「おっ、レイか。どうした?」
朝早いからか、眠そうなロナルド先生が部屋から出てきた。
そう言えば、自分は元々早起きだから、早く起きても辛くはないけど、朝が極端に弱いエレナが早朝から自分の部屋に伝えに来てくれたのは奇跡に近いなと思った……。
「昨日言っていたカリーヌ先生のアクセサリーの趣味を伝えに来ましたよ」
「なに? ……もう調べてくれたのか? 俺はもう少し時間がかかると思っていたが……」
「まあ、調べたのは僕ではなくてエレナですけどね」
「エレナか……レイもそうだが、アイツは子供とは思えない程、何をやらせても優秀だな。」
確かに……優秀過ぎる気はするけど。
「それでロナルド先生、カリーヌ先生はピンク色の花柄が好きらしいですよ。魔法を使う時の【魔道具】は範囲制御用の髪留めと威力制御用のネックレス、防御面で物理耐性用のピアスを使っているらしいので、プレゼントをするなら付与効果のある指輪が無難らしいですよ。」
「……そこまで調べて貰ったんなら、付与効果のある指輪を探してみるか。」
「ロナルド先生、頑張ってください。」
あとは成功を祈るのと、もし見込みがないのならカリーヌ先生ごめんなさい!という謝る位だった。
☆
「ようこそギャリングワークスへ! ここは様々な金属を加工している鍛冶工場です。今日は自由に見学していって下さい!」
今日は鍛冶工場へ来たけど、ここは完全に作業スペースと見学スペースで別れていて、自分達みたいな見学する人は安全な距離を保ったスペースで自由に見て回るスタイルだった。そして、鍛冶工場とは呼ばれていたけど、パッと見た感じではどちらかというと前世でいう鉄鋼所みたいな場所だった。
難しそうな内容のエリアは先生と一緒に見て廻り、他の見て分かりやすいエリアは各自が自由に見て廻る事になり、自分はブラットと一緒に見て廻る事にした。
「それにしても、鍛冶工場って名前だからブラットの家みたいな鍛冶場を巨大化させたイメージだったけど、全然イメージと違ったよ」
「ああ、確かにな……ここは見たこと無い機械で鉄鉱とかいろいろな鉱石を溶かして金属板などを大量生産する感じだから俺の知っている鍛冶工程とは少し違うな。」
ここの鍛冶工場は何故か前世の鉄鋼所の影がちらほらと見え隠れしている。
何だか分からない違和感を感じるな。
そして、他のエリアに移動すると様々な金属加工品を大量生産していた。
「武器や防具も型で作っているんだね。」
このエリアで作られている金属加工品は、先ほど作られていた金属板をプレス機でパーツごとに型抜きし、それを組み合わせて武具から家庭品までいろいろなものを組み立ていた。
「そうだな。仕上げは職人技がいるが、安く、大量にって感じなのか? 剣とか強度とか切れ味が微妙な気がするんだが……」
まるで【魔導工房】にある金属加工機械室に工程が似ていた……というか、仕上がりを見る感じだと金属加工機械室の劣化版みたいな感じか?
「あっ、あそこに見たこと無い種類の調理器具もかなりあるから後でお土産にいくつか買おうかな。」
自分用は自分で作れてしまうからいらないが、セシリアショップの2人とかに買って帰るのも良いかなと思った。
「レイはそんな金があるのか?」
「……まあ、ちょっと臨時収入があったからね。」
「そうなのか……あっちで金細工の売場もあるんだな。」
「あっ、既にロナルド先生がいる!」
金細工売場の指輪コーナーで食い入るように吟味しているロナルド先生がいた。
端から見るとちょっと怖い感じだけど、ロナルド先生はそれだけ真剣ってことなのだろう。
「……あとは見守るしかないか?」
「いや、これから僕達も攻める手伝いをするんだよ。」
「……攻める? どういうことだ?」
「ふふふ。」
☆
今日は鍛冶工場の見学後にお昼ご飯を食べて、その後は水族館に行くことになっていた。
「レイくん、水族館を一緒に回りましょ」
「レイさん、私も一緒に、回りたいです。」
コーデリアさんとシンシアさんに誘われたけど……
「ごめん! 1時間後なら大丈夫だから空いたら見つけに行くよ!」
「ああ!」
「逃げられた!?」
自分はロナルド先生のサポートをするため、人気の無いところで【容姿変更ペンダント】を起動する。
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