第91話 職場見学④ デスロード
お父さんの後ろから話しかけてきた人達は、お父さんのパーティーメンバーだった。
「お父さんのパーティーメンバー?」
「ああ、レイはこいつらと会うのは初めてだったな。 俺と一緒にパーティーを組んでいる、【絶対防御】のベルナール、【サイレントキラー】のヒュース、【天滅】のローズだ。昔はこのパーティーにお母さんのソフィアがいたんだ」
「へぇ、そうだったんだ」
ってか、有名な冒険者になると二つ名みたいなのが付くものなのかな?
「俺はベルナール。盾職の【パラディン】だ。よろしくなレイくん。」
白銀色のフルプレートを着込んでおり、背中には身長以上の2メートル近い巨大な盾を背負った角刈りにあご髭を少し生やしたダンディーな雰囲気のおじさんだった。
「ベルナールさんはお父さんよりも年齢が高いんですね」
同じパーティーメンバーだから、みんな同世代なのかなと思っていたけど、ベルナールさんは見た感じお父さんよりも10歳くらい高く見えた。
そして、人族であり髪と瞳が茶色の土属性で、顔が少し日本人っぽくて、前世の自分からすると装備以外はファンタジー感の無い雰囲気なので、懐かしい感じもしていた。
「あははっ、そうだな。このパーティーでは2番目に年齢が高いかな」
「2番目?」
パッと見た感じではベルナールさんが一番の年長者だと思っていたけど、違ったか……
「まあ、それはおいおい分かるだろう」
「次は僕かな……名前はヒュース。【アサシン】をやってるよ。レイくん、よろしくね。」
「よろしくお願いします」
「うん、うん、やっぱりレオンとソフィアさんの息子とは思えないほどに性格は似てないんだね?」
ヒュースさんは黒いラフな服装の青年?で、【アサシン】という割には単純に黒い服が大好きな青年に見えた。
そしてヒュースさんは魔人族で褐色肌に肩までの黒い髪に金色の瞳の闇属性らしい。
「レイくんのことはレオンから良く聞いていてね、一度は会ってみたいと思ってたから、今日はラッキーだなぁ」
「お父さんはよく僕のことを話すんですか?」
「そうだよ、レイくんは天才だって自慢してるからね」
「僕はそんなに言われるほど天才じゃ……」
確かに自分には【ジョブホッパー】や【魔導】とか【魔眼】という他の人には無いスキルが沢山あるが、天才ではない気がする。
天才とはエレナやブラットみたいなのを言うんだと思う。
「なるほどね、レオンが言っていたのはこれなんだね。レイくん、天才にもいろいろなタイプがあってね。レオンみたいな生まれながらにして破壊の暴者みたいな強大な力を持ったタイプもいれば、レイくんみたいな本人が全くスキルの本質に気が付いていないタイプの天才もいるんだよ」
「スキルの本質に気が付いていない?」
そうなのだろうか?
【鑑定】により割と詳細にスキルなどは把握している気はするんだけど……
「そう……(僕にはスキルの【脅威度】を察知することが出来る特殊なスキルがあるんだけど、レイくんからはレオン以上の【脅威度】を感じるよ。だから、僕の予想ではレイくんはスキルの使い方というよりはスキルの認識を違えている可能性はあるね)」
ヒュースさんは小声で自分にだけ聞こえる声で話しかけてきた。
「(スキルの認識ですか?)」
「(そう、例えばレイくんの【魔眼】……【魔眼】とは本来はスキルでは無く、人のあり方の象徴であり、個人の生き様でもあるんだよ。それにスキルを文字通り解釈してしまうのは危険だよ)」
「おい、ヒュース。レイに変なことを教えるなよ?」
「あはは、これ以上はレオンというかソフィアさんに怒られちゃいそうだね~」
今、ヒュースさんは顔を近づけて話した瞬間、眼に魔法陣の様なものが浮かび上がっていたけど……あれは自分の知る【魔眼】とは全く異質なものだった……
「もしかして、このパーティーでの最年長ってヒュースさん?」
「そう、大正解! よく分かったね、まあ年齢は秘密だけどね~、次はローズだね」
「ヒュースのあとだとやりにくいわね……最後に私は【マルチキャスター】のローズよ。よろしくね、レイくん。」
ローズさんはなぜか赤いリクルートスーツを着た美人で、服装からしたら【魔法使い】には見えなかった。
「レイです、お父さんがお世話になっています。」
そして、ローズさんは王国内では珍しい純血の天人族の光属性で、真っ白な肌に長いストレートの銀髪、水色の瞳をした容姿で本当に同じ人族なとかと思えてくるほど神々しさがあった。
「【マルチキャスター】って複数属性が使えるって事ですか?」
「あら? 名前だけでよく分かったわね。まあ、正確にはちょっと違うけど、私には様々な【魔法】を使うことが出来るわ」
なるほど、【マルチキャスター】だと【魔導】みたいに複数属性が使えるのか……
ローズさんに複数属性の使うコツなんかを聞いたら、自分も雷属性以外も使える様になるのかな?
「あの、変な質問をしますが、複数属性を使う時って単一の属性を使うときとコツみたいなのが違うんですか?」
「えっ、コツ? そうね……私はヒュースみたいな理論派じゃないから、分かり易く教えられないのよね……ごめんなさいね?」
「あ、分かりました。」
なるほど、ローズさんはブラットみたいな感覚派なのか……
それにしてもお父さんがアタッカー、盾役のベルナールさん、アサシンのヒュースさん、魔法全般を使える遠距離アタッカー兼支援のローズさん。
バランスの良いパーティーだなぁと思った。
そんな感想を思っていたところでコーデリアさんが話しかけてくる。
「レイくん! お父さんに私を紹介してください!」
「ん? 良いよ。お父さん、この子は同級生のコーデリアさんだよ。」
「おお、キミがソフィアの言っていた同級生のコーデリアさんか。」
「レイくん、私も自己紹介したいです」
シンシアさんも自己紹介みたいらしく、自分の制服の袖を引っ張ってきた。
「お父さん、この子はシンシアさん」
「そうか、2人ともレイをよろしく頼むよ。」
「はい! お父様!」
「お父様……」
なんかコーデリアさんとシンシアさんがいつもと違うな……。
「あの、お話中にすいません。自分はクラスの担任をしていますロナルドです。レオンさんの事は元冒険者として憧れていました」
「ああ、担任のロナルドさんですね、レイをよろしく頼みますよ。」
「はい! 任せて下さい! それにしても、まさかレイくんの親が有名なパーティー・【デスロード】だとは思いませんでした!」
「【デスロード】? なにその物騒なパーティー名は……。」
「レイはレオンさんの息子なのに知らなかったのか? 昔あった大規模な魔獣襲来時にパーティーが通った後には魔獣の屍で道が出来たからって言われてるよ。」
「いや、ロナルド先生? そのパーティー名はあまり息子で言いたくないんだが……。」
「え!? そうだったんですか! それはすいませんでした!」
「もう遅いから仕方ないか……。」
「お父さんは何でそんなパーティー名を乗ってるの?」
「いや、俺のパーティー名は元々は【プリエール】だったんだよ。しかし、お世話になってる貴族の人が【プリエール】だと可愛くて、活躍に名前が似合わないと、勝手に変えちゃってね。」
プリエールって前世のフランス語で祈りとかだったか?
「そんな事あるの?」
しかし、いくらお世話になっている貴族だからって、勝手にパーティー名を変えるなんて有りなのか?
「あったんだよ……。まあ、その点に関しては仕方ないんだよ」
祈りから死の道に変わるなんてね……。
「レオン様、すいませんがお話はそれくらいにして、職場見学の続きをしても良いですか?」
「ああ、申し訳ない。レイ、最近はこの辺も魔獣が増えているから気を付けるんだよ?」
「うん、わかったよ。」
挨拶してからお父さんとメンバーは一緒に出て行った。
「レオンさんは久しぶりだったにゃ~。」
「レオンさんが居たらしいな……。」
「あ、ブラットは復活したんだね。」
ブラット、アランが知恵熱から復帰して来た。
また、ベルタさんの容赦ない難しい説明が終わり?職業紹介所の職場見学は終了となった。
「 《ガスデール》に来た際は、是非うちの職業紹介所をよろしくお願いします。」
「よーし、ここでは予想外な展開があったが次のパン工場へ行くぞ!」
ロナルド先生はお父さんたちが居なくなってから雰囲気が戻ったのを見て、何故かロナルド先生が小さく見えた……。
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