第90話 職場見学③ 職業紹介所
職場見学の1日目は職業紹介所とパン工場に行くことになっている。
ちなみにうちのクラスが1日目に職業紹介所とパン工場に行くが、他のクラスは別の日だったり、時間調整したりしているみたいだ。
「職場見学1日目はまず、職業紹介所にいくぞ。この職業紹介所は国によってルールが違うから、とりあえず王国で仕事探すならと考えて見学して欲しい。」
「「はーい」」
「先生!」
「何だ、レイ? 変な質問には答えないぞ!」
エレナから聞いたのだが、ロナルド先生は生徒から質問された内容が現実のトラブルになるのではないかと恐れているみたいだった。
確かに、その可能性は完全否定出来ないが……
「いえ、変な質問と言えば変かもしれないけど……自分達の学園以外の制服を来ている人が何人もいるんですけど、この街って社会見学みたいなのが多いんですか?」
「レイにしては良い質問だ。確かに《ガスデール》は王国内でも屈指の産業都市だから、他の学生も沢山来ているぞ。まあ、ほとんどが高学年の学生だろうな。お前たちみたいな低学年で来ているのは居なくはないだろうが、少ないだろうな。」
「流石は産業都市ってことですね」
「だから、他校の生徒と問題を起こすなよ? ほとんどが高学年なんだからな? 特に、レイとブラットは気を付けろよ!」
「……先生、名指ししないで欲しいです。あたかも自分達が問題児みたいじゃないですか」
「そうだぜ! 俺達はそこまで問題を起こしてないだろ!」
「いや、学園内でもお前たち2人はまあまあ問題を起こしてる方だからな?」
「「えっ……?」」
そんな馬鹿な……
☆
職業紹介所に着いたら、今日の案内の女性が来てくれた。
「みなさん、おはようございます。今日、みなさんの職業紹介所内の案内担当をするベルタです。よろしくね。」
ベルタさんは短いボブカットの紫色の髪に赤い瞳で肌は少し褐色のある魔人族の女性でシンシアさんみたいなメガネをかけているので、若干シンシアさんに似ているなと思った。
……身長やスタイルを除けばだが。
「「お願いします!」」
「まずここは仕事を頼みたい人を仕事を探している人に紹介するところです。あとは冒険者への仕事依頼を適切な冒険者に紹介したりもしています。みなさんの中に冒険者をやりたいと思っている人がいれば、大きく関わる所だと思います。」
ハローワークと派遣会社の両方をやってる感じの場所なのかな?
「私達の仕事は主に依頼主の職場調査と仕事を探している人の相談を聞いて仕事を紹介します。私達の職場調査は、依頼する方の職場が依頼通りの仕事環境や資金繰り等を調べます。まず我々が自信を持って仕事を紹介しないといけませんからね。そして、紹介によって就職した人は不当な職場ではない限り、半年は働いて貰います。勝手に辞めた人には罰則もありますが、どうしても無理な方の相談を聞いて一緒に解決していきます。」
なるほど、しっかりと調査員が職場の状況などを調べてくれるのは凄いな。
ちょっとファンタジー世界だから、その辺は適当というか、雑な感じかと思っていた。
ベルタさんの話通りなら、この世界の……というか王国内の職業紹介所が紹介する会社はかなりホワイトな気がする。
前世ではブラックな会社以外働いたことが無かったからよく解らないが……
そして、アランとブラットが既に理解していない表情だな。
いや、むしろ他のクラスメイトがしっかり理解出来てる表情なのが凄いんだよな。
この世界の住人は基本的に前世よりも精神的な成長は早くて、それは5歳を過ぎると加速度的に成長するらしい。
本を読んだ限りでは、理由はハッキリとしていないみたいだけど、【認証の指輪】により精神が解放されるとか、【職種】に適した精神の成長をするとかいろいろな説が書いてあった。
とは言っても、前世の記憶を継承している自分には全く関係無いどころか、逆に精神的には幼くなっている気がするんだよな……何故だろう?
「あと冒険者は仕事が完了した時や依頼人から達成証明書と仕事の評価を貰います。評価は5段階あり、その数字とこちらが難易度により設定した倍率をかけたものが点数になり、依頼評価ランキングに表示されます。もう1つ、魔獣討伐ランキングがあり、これは魔獣の魔石に点数を付けていますので、討伐数に点数をかけたものがランキング表示されます。このランキングの最高得点などを見て依頼主は冒険者を判断したりしています。少し難しかったと思いますが、こんな感じの職場です。」
ほうほう……
ゲームのポイントランキングみたいな感じなのかな?
言葉を聞いただけでは微妙に分かりづらいが、きっと計算などは職業紹介所の人がやってくれるだろうから、ほとんどの冒険者は丸投げなんじゃないだろうか?
このシステムをアランやブラットが理解出来てるとは……
あっ!?
「ロナルド先生! アランとブラットの頭から煙が出ています!」
そして2人はふらふらしながら倒れてしまう。
「うお! なんだと!? これは知恵熱か? すいませんがベルタさん、ちょっとこのふたりを休ませても良いですか?」
アランとブラットは雑に見えて、何気に真面目だからか、関心のある冒険者のシステムを必死に理解しようとしたのか、頭がオーバーヒートしたみたいに煙というか湯気が立ちこめていた。
「は、はい! 私の方も難しく話し過ぎて、すいません。」
「コーデリアさん、念のために2人に回復を使ってもらっても良いかな?」
「はい! それはもちろんやります!」
それにしても、頭から湯気ってヤバいな……更に馬鹿にならないか心配だ……。
それからブラットとアランはコーデリアさんの回復により落ち着いた感じになったので、職業紹介所の休憩室で寝かせてもらうことになった。
そんな感じでバタバタしていたら……《ガスデール》なのに何故か知ってる人が現れた。
「ん? なんでレイがここにいるんだ!?」
「お父さん!」
何故かこんな所に実家ではあまり見ない完全武装のお父さんがいたのだ……。
確かお父さんは突然の長期護衛依頼中の筈だが……前回の帰省時にお母さんが、自分に会いたがっていたお父さんのことを話してくれた。
ちなみに、お父さんの装備は簡易的な軽武装と通常時の準武装、危険時に装備する完全武装があり、今は完全武装中だった。
そして、お父さんの完全武装中は金色の鎧の他に金色の籠手や肘当て、様々な魔剣を身体の至る所に装着していた。
もしかして、危険な護衛依頼中なのだろうか?
そもそも自分はお父さんがどんな貴族を護衛しているかすら知らないんだよな。
「僕は学園の職場見学でここに来てるんだよ!」
「な、なんだと! 俺はそんな話、ソフィアから聞いてないぞ?」
まあ、それはそうだろう。
職場見学のことはお母さんですら、書面でしか知らないだろうし、旅行が決定してから多分お父さんが実家に帰れてないだろうから、知らなくて当然だと思う。
むしろ、ここで偶然居合わせたことが凄い気がする。
「あ、あの……すいません、こちらはレオンさん、レオン様の息子さんなんですか?」
ベルタさんはお父さんに緊張しながら話しかけていた。
お父さんの活動をメインにしている街から《ガスデール》まではかなりの距離があるから、ベルタさんがお父さんの名前を知っていてびっくりした。
「そうです。まさかこんな所で息子に会うとは思って無かったですけどね……」
「そ、それでレオン様は何故、ガスデールへ? 来訪して頂けるのでしたら、事前に連絡を頂ければ迎えを……」
「いや、《ガスデール》周辺でちょっとした戦闘があってな。それでたまたま報告に来ただけなんだ。」
「レオン様直々に報告ですか? はっ、それは緊急事態ですか!?」
「いやいや、だだの事後報告と調べたいことがあっただけだから気にしないでくれ。えっと名前はベルタさん? 息子を頼みますね」
お父さんはベルタさんの胸に付いている名札をみて自分のことを頼んだ。
「は、はい! 任せて下さい!」
「お父さんってやっぱり有名だったんだね……」
「まあ……一般冒険者よりは知名度があるかもな」
職業紹介所の端の方で冒険者っぽい装備を身に付けたおじさんや青年達がコソコソと話しているのが聞こえてきた。
「(やべぇ、【ソウルイーター】に息子がいたのか……。)」
「(……将来また地図が変わるのか?)」
「(みんなにレオンさんの息子がこの街に居ることを知らせないと!)」
「(間違って息子に怪我させたら街ごと俺達は塵になるぞ……。)」
「お父さん……」
これはお父さんの悪名なのか?
「おい、お前ら……聞こえてるからな?」
お父さんはコソコソと話していた冒険者達に、軽く睨みながら威圧感を出していた。
「「レオンさん、すいませんでした!」」
おっさんたちは謝って脱兎の如く逃げていった……。
「もしかして……お父さんは恐れられてる?」
「い、いや……そんなことはないぞ? ですよねベルタさん?」
「えっ? は、はい、レオンさんは凄い人ですよ!? たまに山を湖に変えてしまったりするだけで、冒険者達の憧れです!」
「……ベルタさん、それは」
「これは、確実にヤバい人扱いだよね……?」
「れ、レイ、これはきっと拠点が違うから、変な噂を信じているんだ」
お父さんに疑惑の視線を向けていると、お父さんの後ろから声をかけてくる集団が居た。
「レオン、俺達にも息子を紹介してくれよ。」
今度は誰だ?
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