第89話 職場見学② お風呂

「一時はどうなるかと思ったが、何事もなくて良かったな。」


「先生としては減給に関わるからですか?」


結局、魔獣の襲撃はあっと言う間に解決したらしく、自分達は引き続きのんびりとした馬車の旅を続けることになった。


自分としてはどんな魔獣に襲われたのか興味があったが、それに関しては先生達にしか教えてもらえず、生徒には知らせてはならないという伝達があったらしい。


「今回の魔獣襲撃は俺には非は全くないから減給はされないから、そこは気にしてない。」


「襲ってきた魔獣がそんなに問題の種類だったんですか?」


「さっきも説明したが、魔獣の種類に関しては言えないから聞くな。何となくレイと話していると口を滑らせそうで怖いしな……それこそ、口を滑らせたら減給もあり得る。」


「……そしたら、この話題は忘れます」


「ああ、そうしてくれ」




ちなみに魔獣の襲撃や、襲撃後の対策会議、一部の馬車は血まみれになったらしいので【魔法使い】による洗車など6時間ほど足止めされるトラブルもあったりしたので、予定していない街で小休憩してから『ガスデール』に向かうことになった。




 ちょっとしたトラブルもあったが、何とか1日かけてやっと目的の産業都市 《ガスデール》に到着した。


 それにしても、最高峰の高級馬車でもお尻は流石に痛くなった。


 やはり低反発のクッションみたいなのとか欲しいな……。

 あの低反発の原理がわかっていれば作るんだけど、流石にそんな知識は無かった。


あっ、でも低反発にしなくてもファンタジー思考で、自然治癒機能付きのクッションを作れば良いのではないか?


多分、作れたとしても常時魔力を消費するような【魔道具】になり、魔力の燃費は凄く悪そうだから、自分専用になるかもしれないが、作ってみるのは良いかもしれない。




 この世界に転生してから自分の中での1番大きい街が 《チェスガン》だったから 《ガスデール》の想像以上な街の大きさにビックリしたのだった。


 先生による《ガスデール》情報によると、街の広さは 《チェスガン》の20倍近くあるらしい。

 王国で一番の産業都市だから当然かもしれない。


「よしお前ら、今日は疲れただろうから宿に直行するからな。」


「「はーい。」」


 馬車の停留所から徒歩で15分位歩いたら宿屋が見えてきた。

 宿屋は3階建てのビジネスホテルみたいな外見だった……。


 いや、むしろこれはビジネスホテルだな。


この世界にもコンクリートに近いものがあり、橋や街の外壁など聖教会が関わるものや、高級住宅や貴族の屋敷にはよく使われるらしいが、こうして住居の躯体に使われているのは初めて見たかもしれない。


まあ、自分が貴族やお金持ちとの家などに行ったことがないだけだが……



 ちなみに、全員がいっぺんに泊まれる様な巨大な旅館は流石に確保が出来なかったらしくて、クラス毎に宿が分かれているので、他のクラスがどんな宿に泊まっているかは分からなかった。


多分、そこまでの差は無いだろうが、自分の宿が当たりだと祈ろう。


「それじゃあ部屋に荷物を置いたらまずは風呂に行くぞ。男達は俺と一緒に入るからな、風呂場の入り口に集合だ。女子達のことはカリーヌ先生、お願いします!」


「わかりました。女子は私と一緒に部屋へ行きましょう~。」


「「はーい!」」


 カリーヌ先生は去年の遠足時、自分達と一緒に逃げてくれた巨乳の魔法師だ。


 オレンジ色の長い髪と瞳を持ち、珍しい熱属性である。

 本来なら魔狼位は余裕らしいが、カリーヌ先生が使える魔法は熱波関連のスキルばかりで、主に広範囲魔法になり、単体なら強いのだが、味方のいる集団戦では見方も巻き添えにしてしまうので集団戦は苦手らしい。


熱属性を極めると、戦略兵器なみの超危険な広範囲魔法を使えるようになり、過去に一瞬にして城を蒸発させたという5大伝説のひとつがあるらしい。


ちなみに、5大伝説とは……


灼熱魔法・マドラアーテ城

 灼熱魔法により一夜にして消滅したマドラアーテ城。


雷帝の怒り・魔剣湖

 雷帝の怒りにより一瞬にして出来上がった魔剣湖。


邪術の呪い・腐蝕都市

 邪術の失敗により大都市が生物の住めない場所に変貌した腐蝕都市。


蟲の氾濫・ベヘリアス

 お金持ちの癒しとされていた秘境が、突如として発生した大量の虫の氾濫により飲み込まれた悲境ベヘリアス。


大森林の永久氷結・オリアス神殿

 大森林の中にありながら常に凍り続ける最古のオリアス神殿。



 ☆



【コーデリア視点】


 女子風呂にて……。


私達は旅の汚れを落とす為、宿泊施設内にある巨大なお風呂場にみんなで来ていた。


「凄く大きなお風呂場ですね!」


お風呂場は30人位は同時に入れるのではないかという広さがあるのに、今は私達のクラスメイトと隣クラスと先生のだった8人で貸切にしてくれた。


しかも、普通のお風呂ではなく自然感満載の岩や木が室内なのにいっぱい配置されていて、既に別のクラスの女子が入っていた。


「こんなに大きなお風呂場は初めて……」


シンシアも大きなお風呂場に感動しているみたいで、一緒に入ると足が伸ばせて気持ちよかった。


学園寮にもお風呂場はあるけど、数人しか入れない大きなで、時間制限もあるからのんびりと入れないのが不満点だった。


「はぁ……気持ち良い。」


「コーデリア、おばさんみたい……」


「な、何を言うんですか!」


シンシアがボソッと言ったおばさんみたいって言葉がグサッと刺さる……


たまにチェスガン内でもエルフ族だからと、実は年齢が高いの?って質問されたりするので、仕草とかがおばさん臭いのかな?と心配していたのに……


「何がおばさん臭いよ! あなた達がそんなだったら、私なんてどうなるのよ!」


「あっ、カリーヌ先生?」


カリーヌ先生は先に入っていたみたいだけど、岩陰に隠れていたので、居るのが分からなかった。


「あれ? マーティナちゃんは? 一緒じゃないの?」


「えっ?」


「さっきまでいたのに……?」


更衣室では一緒に居たのに……


お風呂場にはいなかった。


もしかして、まだ更衣室にいるのかな?


更衣室に戻ってみると、マーティナが辛そうにしゃがんでいた……


「マーティナ、大丈夫ですか!?」


「え、あ……コーデリアか、うん、大丈夫だよ。ちょっと立ち眩みしただけだから……」


私にはそうは見えないけど……マーティナが大丈夫だというから、それ以上なにも言えなかったけど……とりあえず回復しておこう。


マーティナは元々私と同じ歳とは思えないほどスラッとしていたけど、今のマーティナはちょっと痩せすぎな気がした。


「ありがとう、少しは楽になったよ」


「良かった。」


「マーティナちゃんは大丈夫そうね!」


カリーヌ先生は安心したのか、何故かマーティナに抱きついた。


「ちょ、カリーヌ先生、胸が……息できなくて苦しい……」


「あっ、ごめんなさい!」


「凄い……カリーヌ先生の胸でマーティナが窒息死って……」


「はあ、はあ、カリーヌ先生の胸は凶器ですね……」


「先生、私に胸を大きくするアドバイスをください!」


「私も、知りたい、です!」


 カリーヌ先生はかなり胸が大きいのは服の上からも分かっていたけど、お風呂に入ると絶望的な戦力差を感じさせる大きさがあった。


「え? コーデリアさんとシンシアさんは急にどうしたの?」


「2人はレイが巨乳好きだと勘違いしてるにゃ~。」


「きゃっ!? エレナ!?」


さっきまでエレナがいなかった筈なのに、突然隣に居てびっくりする。


……いつの間に、ってそれよりも。


「エレナ、私達が勘違いしているって、どういうこと? だってレイくんはいつも胸の大きな人を見るんですよ?」


「しかも、いつもにやにやしています!」


「……それは男子はほとんどみんな見るわよ? 大人でもみんなエロい目で見るだけでその後の発展が無いし……。(ブツブツ……)」


「コーデリア、そもそもエルフ族に巨乳はいるのかにゃ?」


「え?」

「あっ!」


「「いない!」」


 私は雷に打たれた様なショックを受けた。

 そう言えば村の人達に巨乳は居ない……。

 村では話題にすらならなかったから学園に来るまで気にもしていなかったのだ。


「何か申し訳ない質問をしたにゃ……。」


「そういえば、マーティナさんはブルーノくんと、どうなったんですか?」


「え、いきなり私に振るの!?」


「この前、街で2人が並んで歩いてるのを見ましたよ!」


「いや、それはたぶん一緒に騎士団に行ってるだけで……。」


「それはデートですか!?」


「ち、違う! ブルーノくんのお姉さんに会いに行ったんだよ……」


「もう、お姉さん、公認の、仲?」


「ええっ~~~!」


 まさかマーティナさんがそんなに進んでるなんて……


「な、7歳に負けてる……?」


 カリーヌ先生…… お風呂の温度が熱いです……


「ち、違いますよ!」




 ☆


【レイ視点】


 男子風呂にて。


「ロナルド先生。聞きたいことがあります。」


「ん? なんだ?」


「先生ってもう30歳位ですよね?」


「あ、ああ、そうだが……それでなんだ?」


「見た目も悪くないのに何で結婚しないのかな?と思って。」


「……生徒に話すことでもないが、ずっと好きな人は居るんだよ。」


「ええっ。それって相手の女性が貴族とかで結婚が出来ないとかですか?」


「いや、振られるのが怖くてな……。」


(学生かよっ!)


「……それで、相手はどんな人なんですか?」 


「いや、それは……流石に生徒には言えないな……。」


「え? いかがわしいお店の人?」


「違うわ! なんで子供がそんな知識あるんだよ……。」


「まあ、無理に聞くこともないか。そうだ、ブルーノはマーティナさんとどうなってるんだ?」


「マーティナさん? 普通だよ?」


 そんな返答を聞いてクライブが話してくる。


「レイ、ブルーノはシスコンだからそういう話は無理だこん。」


「ブルーノは……姉が好きなのか?」


「そうなるこん……。」


「……僕達の年だと大抵は年上が好きだよね? 例えばカリーヌ先生みたいな巨乳美人とかさ。」


「か、カリーヌ先生だと……!」


「「え?」」


「いや、何でもない……。」




「(クライブ、今のロナルド先生を見た感じ、カリーヌ先生で決まりだろ)」


「(今の反応は間違いないこん……。)」


「(ここは僕達で先生達を助けるぞ!)」


「(こん!)」

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