第88話 職場見学① 移動中

 自分達の2年生は職場見学をする為に馬車にて 《ガスデール》に向かっていた。


 先生10名、護衛10名、生徒30名。 馬車12台。


 2年生全員参加の旅行だから、先生はもちろんだけど、護衛の人達も入れると結構な人数になっている。 


 この人数を1日で移動するのはかなり大変だなと思ったけど、ファンタジー世界だと思ってをナメてたよ……。


 馬車の通る大通りはしっかり舗装されていて、荷台には重量軽減化の【魔道具】を使用し、馬には定期的に回復ポーションを投与して休憩時間を減らす等の対策をしており、馬車とは思えない速度と快適性で、まるでバスに乗ってる感じだった。


 そして自分達は定期的にある高速道路のサービスエリアみたいな休憩所でお昼を食べていた。


「それにしてもあの馬車すごいね、いつも帰省に使ってるの馬車とは全然違う感じだったね。」


というか、毎回あんな快適な馬車で帰れたら、楽で良いなと思った。


「なんでも今回の馬車はレンタル代だけでも、凄い金額の高級高速馬車らしいにゃよ。」


「そんなレンタル代も私達は無料なんて凄いですね。」


「全国の、学校を、こんな感じに、支援してる、聖教会が、凄すぎるよね……。」


「それは神様パワーが凄いんだにゃ。」


「おおう。 神様パワーはなんでも有りだな。」


 そんな感じでエレナ、コーデリアさん、シンシアさん、ブラットと話していると、先生が話に入ってきた。


「お前たち、勘違いして社会に出ると困るから訂正しておくぞ。」


「……勘違いって何ですか?」


「学校の行事だからって普段はこんな高い馬車は使わないからな。これは去年の魔狼襲撃の様な問題が起きない為の保険だ。そう言う理由もあって貴族やお金持ち用の舗装された道を使わせて貰っているんだ。通常この舗装された道を使うには年会費を払わないといけないから俺も初めてこんな馬車に乗るからな。」


 貴族やお金持ちが払う年会費で毎年舗装を修繕維持しているらしい。


 まあ、前世ですら街中の舗装道路すらガタガタな場所も結構あったのに、文明レベルが低いこの世界で、街中ですらない道中の舗装をここまでしっかりと管理しているのだから、それは維持費が凄いことになるだろうとは想像しやすい。


というか、アスファルト舗装や石畳ではないのに舗装は何故かしっかりとしているのが不思議だったのでそのうち調べたいな……


「それにしても鍛冶工場と建設会社は楽しみだな~。」


この世界での鍛冶や建設に興味があったので、今回の旅行先を聞いてから楽しみにしていた。


「あれ? レイくんは鍛冶や建設に興味あるんですか?」


コーデリアさんが不思議そうな表情で聞いてくる。


そう言えばエレナやブラット以外のクラスメートには自分が鍛冶や建築スキルを持っていることを知らないんだっけか。


まあ、職種を【魔法剣士】って伝えてあるのに、鍛冶や建築スキルを持っている理由を説明出来ないので、クラスメートに教えるつもりは今のところ無かった。


「就職先の候補としてね。」


 鍛冶はスキルがあるのに使えてないから見てみたいって理由で、建設は前世の技術に比べてどれくらいの差があるかを知りたいと思っていた。


「レイくんの職種の【魔法剣士】って前衛職ですよね? それなのに生産職に就職するんですか?」


「僕は職種関係無く前衛職より生産職が向いていると思ってるんだよね。」


「……これは(レイくんとの将来設計を)見直さないと?」


「え? 何の話?」


「いえ、なんでも無いですよ?」


 【ジョブホッパー】のスキルを隠していると、こういう時に不便だとは思うな。


 だけど子供の間はセシリアにしか秘密を言うつもりは今のところ無いしなぁ……。




 ☆


 馬車内にて、コーデリアさんとシンシアさんに文化祭について聞いてみた。


「そういえば、コーデリアさんとシンシアさんは文化祭の出し物について何が良いか考えた?」


「私はカフェをやりたいかな、可愛い服で給仕したいですね。(セシリアショップみたいな……)」


「私は、古代遺跡の分布図や難易度などを、描いたものを出したいです。」


「カフェは無難な気がするけど……シンシアさんの古代遺跡の分布図とかって、僕はみたいけど……他に見たい人がいるのかな?」


というか、古代遺跡関連をやると他のクラスメートが手伝えなくて、自分とシンシアさんが地獄を見る未来しか想像出来ないので、出来ればやりたくないな……


「やっぱりダメですかね……」


「低学年の学園でやるにはレベルが高すぎるかな……」


「レイくんは何かやりたいのですか?」


「スペースがとれるなら迷路系やりたいな~。」


「迷路系?」


「名付けて魔獣パニックやスライムパニックとか?」


「……なんか物騒なネーミングですね。」


「迷路を作って使役した魔獣などを使い、生徒を驚かすやつをやりたくてね。何の魔獣が出るかは秘密だけどね。」


「おっ、レイにしては面白そうなアイデアだな! 俺も最近は罠とかにハマってるから、迷路作るなら簡単な罠を設置したいな!」


ハリーが自分の迷路案に乗って来てくれた。


「それ、面白いかもね」


危険な罠じゃなければ良いんだし、魔獣と罠があれば本物の縮小版みたいなダンジョンが出来るんじゃないか?


もしくは安全な銃などを貸し出して、銃で攻略してもらうのも良いな。


「……それこそ低学年の生徒だと漏らしたり気絶すると思うんですが大丈夫ですか?」


「……ああ、それは有りえるな。そこまでは考えて無かった。」


「そして先生は減給確定ですね……。」


「お前達、さっきから黙って聞いてれば、物騒な話ばかりしやがって……問題はマジでやめてくれよ……? これ以上、減給されたら生活が出来ないんだからな?」


先生が本気でヤバそうな表情をしているのを見て、可哀想という感想しか出てこなかった……あれ?


先生の表情がいつも以上に真剣だな。


「お前たち、俺の指示があるまで絶対に馬車から出るなよ?」


「えっ、それって……あ、魔獣から襲撃を受けてる?」


さっきまでは分からなかったが、どんどんと外が騒がしくなる。


「ああ、しかも騒ぎ方からすると魔狼みたいな弱い魔獣じゃないかもしれない……クソっ、俺は何かに呪われてるのか!?」





【レオン視点】



「はぁ……」


俺は深いため息をつく。


「レオンさん、流石に護衛中なんですから、深いため息は止めて下さいよ~」


深いため息をついたのをパーティーメンバーのヒュースに注意される。


「ああ、悪い、悪い。最近、息子に会えるタイミングが少なくてな……」


「そりゃあ、依頼主の護衛予定が詰まってしまったのは申し訳ないですけど~」


日程管理をしているヒュースが謝ってくるが、別にヒュースが悪いわけでも、依頼主が悪いわけでもないので、怒りはしないが……若干のストレスは溜まるんだよな。


「レオンさんって相変わらずソフィアと息子のレイくんが大好きよね。今だとレイくんの妹さんも溺愛してるわよね」


「ああ、俺にとっては家族が全てだからな! あ~、ストレス解消にどっかから魔竜位の雑魚が飛んでこないかな……」


「ちょ、レオンさん、魔竜フラグは止めて下さいよ……レオンさんにしたら魔竜が雑魚でも、一般冒険者から見たら、出会ったら死を覚悟するレベルの敵なんですからね~」


「お前らだってソロで魔竜の群位は倒せるだろ?」


俺のパーティーメンバーは集団戦が得意だが、ソロでもかなり強い。


昔に魔竜を率いた属性竜の群を討伐したことさえある。


さすがに属性竜は強いが、魔竜なんて長い首をハネればすぐに死ぬ雑魚竜だ。


「いやいや、俺は魔竜1匹すらソロではギリギリですからね? 群を倒せるのは……レオンさん以外だとローズさんだけじゃないですか?」


「私? 私だって開幕に遠距離攻撃を全力で撃たせて貰わないと無理よ? それにあの魔竜たちを討伐した時のことを言ってるなら、ソフィアが居ないと無理よ」


「そうですね~、ソフィアさんがいれば魔竜数匹は倒せるかもしれないっすね~」


ソフィアかぁ、アイツも魔竜なら余裕で討伐出来るしな……ん?


俺は高速で移動する物体を感知する。


「アレって魔竜の群だよな?」


まさか、本当に魔竜の群がいるなんてな。


「……レオンさんが変なフラグを立てるからっすよ……ん? こっちには来ないみたいですね」


「本当ね……」


「いや、俺のせいみたいな言い方を良くないぞ……それにあの動き方は不自然だから、何者かに操られてる魔竜だろ」


魔竜は基本的に集団で移動する時はゆっくりと飛ぶのだが、あんな高速移動するのは操られてるか激怒しているときだ。


そして、あんなに綺麗に揃って高速移動する時は操られてる可能性が高い。


「本当っすね……どうします?」


「流石に魔竜はほっとけないだろ。俺1人が行って倒してくるから、護衛は任せても良いか?」


「俺たちは良いっすけど、依頼主次第ですね」


「まあ、そうだな。」






結局、依頼主は王国内に魔竜の群れが飛ぶこと自体が危険だと判断し、俺に魔竜討伐を指示した。


そして、俺は魔竜の群れを追って走っていた。


「それにしても、あっちの方角は『ガスデール』か? いや、ちょっと違うか?」


当初は魔竜を使って『ガスデール』を襲撃させるのかと焦ったが、どうやら『ガスデール』とは少し飛んでいる方角が違っていた。


しかし魔竜の目標はなんだ?


おっ、高速移動していた魔竜達が旋回を始めたので、あの辺が目標地らしい。


なるほど、目標はあの馬車集団か。


馬車の規模は中程度……だが、護衛している奴らは魔竜を見てビビってるのか?


あれじゃあ、魔竜一匹倒すのすら無理だな……本来なら加勢して良いかを確認するものだが、被害が出る前に数匹は殺しておこうと考えた。


俺は腰に差している魔剣を抜き、魔竜の群に跳躍する。


跳躍して直線上にいた魔竜の首を4つ切り裂く。


やっぱり魔竜は雑魚竜だな。


ドサ、ドサ、ドサ、ドサ……


「ヒィ……魔竜の首が……」


「いったい、何が?」


予想通り、護衛の冒険者達は魔竜の群を見て錯乱気味だった。


魔竜が馬車集団を攻撃するまえに間に合って良かったな。


「俺は冒険者のレオンだ! 魔竜の群を見かけたから加勢するために来た。魔竜討伐の自信が無い奴は馬車の守りに集中してくれ、魔竜は全て俺が討伐する!」


「あ、あの金色の鎧は……レオン様?」


「た、助かった……レオン様がいれば……」


上空を旋回している魔竜は全部で26匹か……属性竜はいないな……これは操られてるのは確定だな。


魔竜を操りながらあの長距離を移動させるという事は、操っているやつはどこかで見ている筈だが……俺みたいに魔竜の高速移動に着いてこれるような奴なら、そもそも魔竜を操るよりも本人が直接攻撃した方が強いだろう。


そうなると、高速馬車での移動だな……


操っている奴を見つける前に魔竜を一気に倒すと、逃げられる可能性があるから、魔竜を半分以上倒す前には発見したいが……流石に視認できる範囲には居なそうだ。


ならば、仕方ないな。


俺は腰から短剣の魔剣を取り出す。


「蛇龍の魔剣よ、【限定能力解放・参】……範囲10キロ、見つけ次第拘束しろ。」


この蛇龍の魔剣の、通常の能力は500m位の範囲を索敵してくれるものだが、【魔剣士】である俺のスキルのひとつ【限定能力解放】、これは俺の魔剣使いとしての能力で、俺の魔力により魔剣の本来もつ能力を解放してくれるもので、今回は三段階解放した。


蛇龍の魔剣は俺の意思に従い、短剣の刀身から半透明な蛇が大量に出現し、四方へあっと言う間に広がっていった。


このスキルは便利だが、運が悪いと魔剣が崩壊してしまうが、魔竜を操るような危険なやつを野放しにするよりはマシだろう。


さてと、蛇龍からの発見報告が来るまで手加減しながら魔竜と遊んでやるかな。

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