第85話 聖霊眼

 学校でマティアスを見てから妙な違和感を感じていたが、コーデリアさんから【聖霊眼】の話を聞き、マティアスの眼を見てみると、もしかしてと思った事があった。

 本来ならマティアス本人に直接聞くのが早いのだが、マティアスを前にしては聞きにくい内容だったので、放課後にコーデリアさんから話を聞きたいと思った。


「コーデリアさん【聖霊眼】について2人だけで話したいんだけど、時間あるかな?」 


「えっ? 2人っきりですか……?」


「予定があるなら別の日にでも……。」


いきなり言っても予定があるかもしれないし、明日以降でも仕方ないけど、自分の予想が当たっていれば、出来れば早めに確認した方が良さそうなんだよな。


「え、はい、予定なんてありません! 今、この瞬間に暇になりました! ですから、今日お願いします!」


「本当に大丈夫?」


何か予定があったみたいな感じだったけど、大丈夫なのかな?


「はい! 全く問題ありません! ええ、何も有るはずがありません」


コーデリアさんの口調がちょっとおかしいけど、本人が大丈夫だと言うのなら大丈夫だろう。


「それじゃあ、今からどこかに行こうか」


「あっ、すいません、10分だけ用事がありますので、10分後に学園の入口で待ち合わせでも良いですか?」


「うん、大丈夫だよ」


自分がそう言うと、コーデリアさんは小走りで教室から出ていった。


それじゃあ、自分はゆっくりと学園の入口にでも向かうかな……




「はあ、はあ……」


「だ、大丈夫?」


「はい……ま、全く問題ありません」


ゆっくり学園の入口に向かってみると、息を切らしたコーデリアさんが既に自分よりも先に入口に到着していた……そんなに急がなくても良いのにと思ったが、ここはせっかくコーデリアさんが急いだのだから、時間を有効に使えるように気持ちを切り替えよう。


「それじゃあ、コーデリアさんはどこか子供だけで入れるカフェとか知らないかな?」


「ふふふ、こんな時のために街のカフェはほぼリサーチ済みです! 」


「……随分と準備がよいね?」


「はい、任せてください! それでどの様なカフェが良いですか?」


「どんなカフェか……2人でも入れて、なるべくゆっくり話せる感じで席自体が広いと良いかな……あとはコーデリアさんのお勧めがあるなら、金額などのことは気にしなくて良いから、そこに行きたいな。」


ってか、セシリアショップで話をすれば良かったかな?


あそこならある程度の自由は効くし……いや、たまには知らない店に行くのも良いだろう。


「そうですね……では」



 ☆


 自分とコーデリアさんは、コーデリアさんお勧めの某有名カフェに来ていた。


 店の雰囲気はとても良く、お客さんは女性ばかりで子供は1人もいなかったが、店員は学園の制服に視線を向けると何も詮索せずに席に案内してくれた。


学園の生徒は親と離れてく寮生活をしているのを理解しているからだろうか?


「へぇ、流石はコーデリアさんがお勧めする人気店だね、内装の雰囲気も良いし、店員は洗練されてる……」


「ふふ、相変わらずレイくんは見るところが斜め上をいってますよね。普通は美味しそうなメニューが気になるのに」


「確かに、言われてみればそうだね。えっとメニューは……」


最近、セシリアショップをオープンしたからか、メニューよりも先に雰囲気や店員の接客などが気になってしまうのは良くない癖だな。


「それにしても、レイくんの奢りなのに、こんなに高いカフェに来ても良かったんですか?」


「ん? ああ、大丈夫だよ。最近はクライブみたいに商売っぽいことを始めたから稼ぎはそこそこあるんだよ。」


「レイくんは凄いですね。私もお小遣い稼ぎで治療院のお手伝いをして、カフェやスイーツ店巡りをしていますが、なかなかここみたいなちょっと高いお店には来れないです」


「へぇ、コーデリアさんは治療院でお手伝いしているなんて凄いね。」


「ちょっとしたお手伝いしかしていませんから……それに最近は治療院へ来る人も減ってきているので、ちょっと暇なんです……」


「治療院にも暇な時期や忙しい時期があるんだね」


治療院がどこまでの範囲を治療するのかは分からないけど、暖かい今の季節よりは寒い季節の方が風邪やウィルス的なもののせいで忙しいのかな?


「治療院はそんな時期に左右されることはないですよ」

 

「そうなの? 風邪とかが流行ったり……あれ? そう言えば風邪になったことは無いな……」


「風邪は自然治癒力で寝れば治りますから、わざわざ治療院に来る人はいないですよ。」


そう言えば、この世界に転生してから、魔獣に殺されたりした死因は聞くけど、病気で死ぬって聞いたことがないな……この世界にはウィルス的なものは無いのか?


いや、生物なのだから無いって事はないだろうけど、前世よりも人族の身体はウィルスに負けない位に丈夫ってことか?


「そうなんだ……なら、何で治療院に来る人が減ったんだろうね?」


治療院に行く人が減るのは良いことだろうけど、理由がちょっと気になった。


お父さんの話では街の外にいる魔獣は増えつつあるから忙しいってことだから、普通なら怪我人は自然と増えそうなものだけどな……


「それが……最近になって格安で高性能ポーションを販売するお店がオープンしたからなんです」


「へぇ……え?」


格安で高性能ポーション?


「そこはセシリアショップっていう、以前クラスで話になった美味しいスイーツ販売するお店なんですけど、この時間にはもう閉まっているんでなかなか行く機会が無いんですよね」


やっぱりセシリアショップかぁ……


それにしても、セシリアショップのせいで治療院の仕事を奪っていたのか……少し販売量を減らそうかな?


いや、しかし……販売量を制限してしまうと欲しいと思っている人に回らなくなってしまうのはどうなのかな。


「そう言えば、レイくんの話って何ですか?」


「コーデリアさんに【聖霊眼】について聞きたかったけど、マティアスの前では聞きづらくてね。」


「……という事はもしかして【聖霊眼】のリスクを知っているんですか?」


「いや、推測だけだから正確には知らないよ。だけど推測が当たるかもしれないから念の為にね。」


「そうだったんですか、【聖霊眼】の詳細は部族でも一部の者にしか伝えられていませんから、リスクの話が出た時はびっくりしました。しかしあれだけの会話で分かってしまうなんてレイくんは凄いですね。やはり魔眼があるからですか?」


「僕の魔眼とはだいぶ違うけど、自分なりにいろいろ調べていたからね。結果から言えば【聖霊眼】を継承すると徐々に視力が低下していって最終的には失明しない?」


「っ!? やはりレイくんはやはり凄いですね……マティアスはまだ片眼で大丈夫ですが完全な継承者になると両目が【聖霊眼】になります。話では失明まで約10年しかないらしいです……。」


なるほど、やはり自分の【魔眼】と同じ様に視力は低下してしまうのか……しかし、自分の場合は【魔眼】による通常の視力低下の代わりに魔力の流れが完全に見える、違った世界が見えているので損している感覚は全く無いが……いや、ちょっとはあるか。


片眼が物理的なものが見えない事で、近接戦闘では少し不利になることだろうか。


遠距離戦闘ならば魔力の見える事は利点になるが、エレナやブラット動きが速い者との模擬戦では不利になる。


何故なら魔力の世界とは霧の様に揺らいでおり、近接戦闘時にはモザイクの様に見えてしまうので、実質片眼で戦っている事になるからだ。


「両眼が失明になっちゃうのか……身体の方は何か変化はないの?」


「身体は逆に強化されますが普通の人より長生きは出来ません。」


 マティアスの眼を見て思った第一印象的の違和感が、なにかに似ているなと思ったのだが、【虹結晶】の色輝きだけは似ている事だった。


 そしてコーデリアさん達が住むエルフ族の里があるエリアには風の【巨大結晶】がある。


【巨大結晶】の影響を受けやすい人が【聖霊眼】の適性者となっているのだろうと容易に想像出来たからだ。


 要するに聖霊様と【聖霊眼】の関係は、【同期】契約をした僕とセシリアみたいな関係に近いのではないだろうか。


「それにしてもレイくんは何故、失明するかもしれないとわかったのですか?」


まあ、コーデリアさんからしたらそう思うよね。


エルフの里でも一部の者にしか伝えられていない情報を自分が予想してしまったのだから……


「実は僕の魔眼も魔力世界が見える代わりに視力低下してるからだよ。」


「えっ?」


「だけど、僕の場合は生まれつき魔眼を持っていたし、魔眼により元々視力が低下していたから【聖霊眼】とは違うかな……他人とは世界の見え方が違うだけで今のところはあまり問題ないかな。」


「そうだったのですね……でも、もし【聖霊眼】と同じ結末になるのだったら……レイくんも長生き出来ないかも……?」


 コーデリアさんが途中で泣きそう表情になる。


「ああ、寿命とかの心配しなくて多分平気だよ……どちらかというと長生きしちゃうかもって心配はあるけどね。」


 【魔導王】の伝説の内容が正しいのなら、【魔眼王】は凄い長生きだったらしいから僕も同じの可能性がたかいんだよな……


むしろ不老になる事に対する不安があるくらいだ。


「本当ですか?」


「うん、僕の魔眼は特殊らしいからね。」


 これは完全な予想だが……【聖霊眼】になると細胞が常時活性化してしまい、癌みたいな細胞が出来るリスクが高まるのかもしれない、それなら実際には調べるのは難しいかもしれないか?


「それなら良かったです。」


「あ、もしかしてマティアスは族長候補から外れてる?」


「……レイくんの推察が当たり過ぎて、ちょっと怖いです。本人には知らされてないみたいですが、マティアスがエルフの里から出る許可が下りたということは、実質族長候補から外れたことを意味している筈です。」


「きっとマティアスの両親か族長はエルフの里から出れば、【聖霊眼】の進行は止まり、長生きが出来るのではと思ったんだね。」


「そうなんですか?」


「もしかしたらだけどね。」


 風の巨大結晶から離れれば影響を受け辛くなるからね。


「さてと、僕の知りたいことはいろいろ聞いたから、あとはここの美味しいスイーツを食べて楽しもうか。お金は僕が全て出すんだし、コーデリアさんも好きなスイーツを食べていいよ。」


「ありがとうございます! ここのスイーツで食べてみたいものはいっぱいあったのですが、高過ぎでなかなか来れなかったんですよね……あっ、変わってもらったシンシアに後で恨まれそう。」


やっぱりコーデリアさんは何か予定があったのか……そしてシンシアさんに予定を変わってもらったと……


「ならシンシアさんの分もテイクアウトしていいよ。ついでにコーデリアさんの分も追加でテイクアウトしていいよ」


「メニューを見ての通り、ここのスイーツは結構高いですよ?」


「これ位なら全然大丈夫だよ。」


 それを聞いてコーデリアさんは嬉しそうに選び始めた。




 そんなコーデリアさんを見ながら、世界には13個の巨大結晶があるとされているから、13種類の似たような魔眼があるのかなぁとぼんやり考えていた。




【コーデリア視点】



「コーデリア、このケーキは、美味しいですね」


「でしょ? レイくんには感謝しないとね!」


私はシンシアと部屋でレイくんに買ってもらったケーキを食べながら、カフェで話したことをシンシアにも話していた。


「それにしても、レイくんが【魔眼】持ちだとは知っていたけど、視力が低下していたんだね……」


「うん、私もレイくんは普通に生活していたから気が付かなかったよ。」


レイくんの話をシンシアには話すつもりは無かったけど、別れ際にレイくんはシンシアにも今日の話をしてみてよと言っていたので、レイくんの秘密も共有する事にした。


「コーデリア、レイくんはどこまでエルフの秘密にたどり着いていると思う……?」


「分からないわ。でも、今日の話をシンシアにも話して良いって言う事は……私達が思っている以上にエルフの秘密にたどり着いているのかも……」


そう、私達エルフには他種族には絶対に明かしてはならない秘密……いえ、これは契約、または呪いがある。


「私の魔女の呪いにも理解があったし……もしかしたら、レイくんは私達エルフを救える存在なんじゃ……」


「そうだったら……良いね」


レイくんは私達……いえ、全エルフ族の救世主になってくれるのではないかという予感というか、確信に近いものがあった。


「それはそうと、コーデリア……」


「な、なに? 急に真剣な表情になって……?」


「……少し太った?」


「え?」


私は自分のお腹を触ってみると……摘まめる量が増えていることに絶望した……




明日からの朝トレーニングの量を増やそうと決意した。

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