第84話 もう1つの魔眼

【……視点】



ここはどこだ?


我は周りを見渡す。


我の立っている部屋は研究部屋の様で、部屋の中央に大きな机があり、部屋の周りには沢山の棚があり、そこには様々な物が無造作に置かれていた。


ふむ……


我は何故この様な見知らぬ部屋にいるのだろうか?


そこであることに気が付く。


む、我には記憶する無い?


何故記憶が無いのか分からないが、記憶が無いことに違和感はあるが記憶が無い絶望感は無かった。


強いて困ったこと言えば、我は名前も含めたほとんどのことを忘れていた。


ガチャ……


我はこれからどうしようかと悩んでいると、部屋の扉が開き、黒髪の女性が入ってきた。


我は何故かは分からないが、この女性がマスターである事を確信する。


「あら、歪な魔力を感じたがら来てみれば……」


「ガグガギガグ……」


我は女性に挨拶をしようとしたが、思ったように喋れなかった。


「なるほど、面白いですね……喋れてはいませんが、挨拶をしたいという意思は伝わりました。」


上手く喋れなくてもマスターには意思が伝わるらしい。


「それにしても【幻想機構】イグザムAF14Gに意思が目覚めるとは……」


マスターの言う【幻想機構】イグザムAF14Gとは我のことだろうか?


そこで我は部屋にあった姿鏡に視線を向けると、マスターの背後の後ろにSP14D38ExMと胸に蒼く輝かした漆黒の鎧があった。


もしや我はあの漆黒の鎧なのだろうか?


「イグザム、あなたは動くことは可能ですか?」






 自分は夏の暑い中やっと授業が終わり帰ろうとした時、教室に2人の小さい男の子が入ってきた。


「おれはマティアスだ! ここに魔眼使いがいるって聞いて来たぞ! どこにいるんだ?」


「だ、駄目だよ……マティアス、上級生にそんな言い方したら……。」


「何が駄目なんだよ、ジュリアン。俺は魔眼使いを見に来ただけだろ!」


「絶対に怒られるよ……。」


 なんか変なのが来たな……。


 マティアスと名乗った子は、短めに切った緑色の髪に、片目は緑色、もう片方は緑だけど深緑の色の瞳をしているヤンチャな感じの男の子だ。


 対してジュリアンの方は水色の短い髪と瞳。気の弱そうだけど、可愛い感じの男の子。


 そして2人共、背は90センチ位で小さい。あの背の高さはエルフかもしれないから年齢が分からないな……。


 そんな事を考えながら、魔眼使いを探しているという事は、確実に自分目当てに来ているのが分かったが、あんなおかしな子とは面識が無いし、面倒だから逃げようとしていたら……。


「マティアス! ジュリアン!なんで2人がここに居るのですか!」


 普段優しいのに、珍しく怒っているコーデリアさんがいた。


 というか、コーデリアさんが大声を出して怒っているのを見たのは初めてな気がするな……


「げっ、コーデリアねえちゃんだ!」


「えぇ! コーデリアねえちゃん? このクラスなんだ……ヤバいよ、マティアス……」


「ああ、予定外だけど、逃げるぞジュリアン!」


「あなた達、私から逃げる気ですか?」


普段のコーデリアさんからは発してはいけない恐ろしい雰囲気が教室を包む。


この気配は知っている……


何故なら、お母さんが切れた時の雰囲気、一緒だからだ……


 これは逃げられないパターンだと確信したので、諦めてコーデリアさんに話しかける。


「コーデリアさん、2人とは知り合いなの?」


「レイくん、すいません……この2人はエルフの里の隣の部族の子で、親が知り合いなんです。それで昔はたまにうちに来ていた子たちなのですが……まさか、レイくんに迷惑をかけようとするだなんて。」


 コーデリアさんは2人を睨みつける。


「「……。」」


コーデリアさんの睨みを受け、完全に固まるマティアスとジュリアンのふたり。


「……それで、あなた達はレイくんに何か用なの? 用件によっては許さないわよ?」


「えっと、その……いや、魔眼使いがいるってクラスで話題になったから、ちょっと見に来たんだ……。」


マティアスは小さな声で説明する。


「本当にそれだけなの? 本当の理由があるなら、ちゃんと言いなさい。」


「コーデリアねぇちゃん、本当に見に来ただけです……。」


今度はマティアスに代わり、ジュリアンが説明する。


「その魔眼使いは僕だけど、2人は僕を見に来てから、その後はどうするつもりだったの?」


マティアスの教室に入ってきた感じからして、自分の実力を確かめたいのかなと思う。


まあ、模擬戦みたいな感じで良いのなら、普段からブラットとやっているので、教室内での戦闘みたいな非常識な事でない限りは受けても良いかなと思っていた。


「特に……」


ん?


「特に?」


「何も考えてなかった……です。」


「……え? 本当にそれだけなの?」


「はい……」


マジか


「前にも考えてから行動しなさいって言ったでしょ!」


「コーデリアねえちゃん、ごめん……。」


「レイくん、2人が失礼なことしてごめんなさい。」


「なんかあった訳でもないから怒らなくて大丈夫だよ。それにしてもマティアスくんは魔眼使いなの?」


何となくだけど、マティアスの眼には不思議な魔力が宿っている感じはしたが……自分の魔眼とはちょっと違う感じだったので、興味があった。


「おう! 去年、やっと魔眼を継承されたんだぜ!」


「ん? 魔眼を継承?」


予想外の答えに、自分は戸惑う。


スキルのなかには継承出来るものもあるのは知っているが、魔眼を継承ってどういうことだろうか?


魔眼を移植とかするのか?


「そうだぜ、俺には魔眼の適性があったからな。」


「……?」


「ああ、レイくん、すいません。私達エルフには【聖霊眼】と呼ばれる魔眼があるのですが、その魔眼はレイくんみたいに生まれつきもっているものではなく、適性のある者が聖霊様から魔眼を授かるんです。なので、私達エルフは聖霊様から授かる魔眼の事を継承すると表現するんです。」


「へぇ、生まれつきではなく、後天的に魔眼を取得出来るのか……」


エルフ族というか、エルフの里は聞けば聞くほど面白そうな場所だなと思った。


超古代文明の情報や魂の情報、そして聖霊様に【聖霊眼】……そして、もしかしたらコーデリアさんの【精霊魔法】もエルフ族特有のものかもしれないな。


ますます将来、行ってみたいな。


ネックなのは移動距離と時間と移動手段だろうか。


コーデリアさんやシンシアさんも一度こっちに来てからはエルフの里に一度も帰っていないらしいし……でも、マティアスやジュリアンがこっちに来たということは、移動手段が無いのではなく少ないんだろうな。


「あと、エルフの【聖霊眼】は、レイくんのような魔力が見える事はなく、強力な風の鎧を纏う事が出来る【風鎧化】する為の魔眼なんです。」


「魔眼にもそういう種類もあるんだね。てっきり全ての魔眼は、僕の魔眼みたいに魔力が見えるのかと思っていたよ。」


「へ~。俺の魔眼と違うのか?」


「マティアスは継承されたのになんで知らないのですか!」


「……ご、ごめん。」


「コーデリアさんはずいぶん詳しいんだね。」


「はい、私の親も【聖霊眼】持ちなので……というより、マティアスが知らなすぎるだけで、私達の部族では常識なんですよ」


「【聖霊眼】って割といるの?」


「いえ、部族でも少数で、私の父は族長をしています。そして【聖霊眼】持ちは族長候補になります。」


「マティアスくんも族長候補なんだね。」


「おう! すげーだろ!  ……いや、すいません。」


 自分の後ろでコーデリアさんが睨んでいた。


 自分の魔眼はたぶん本が読めたから【魔導王】のいう特殊な魔眼なんだろうか……。


 魔眼と言っても種類がいっぱいあるのなら調べた方な良いかな?


それにしても【聖霊眼】の様にあとから継承するタイプもあるのは予想外だったな……ん?


そしたら、自分も更に魔眼を増やせるかもしれないのか?


これは是非とも調べておきたいな。


そして、マティアスの【聖霊眼】をよく見ていると、ある疑問が浮かんできた。


しかし、それはあり得るのだろうか?


「どうしましたか、レイくん」


「ああ、ちょっと魔眼について考え事をしていてね……ちなみに聖霊様ってコーデリアさんがいつも力を借りている普通の精霊ではないんだよね?」


ちょっと、コーデリアさんに確認してみるか。


「はい。普通の精霊は私のような精霊使いが願いにて力を使うことが出来ますが、聖霊様はエルフの森の守り神と言われていて、【聖霊眼】の力を継承する事で自分の意思で自由に力を使うことが出来るらしいです。その点はレイくんの魔眼みたいな感じだと思います。」


「そうなんだ? 【聖霊眼】があっても聖霊様は目に見えないのかな?」


「見えないらしいです。ですが、継承者は見えなくても近くに感じることはあるみたいです。」


「なるほどね……もしかしてエルフ族で【聖霊眼】を継承する人って属性が風のみじゃない?」


「え! どうしてレイくんが知ってるんですか? エルフ族しかしらないことの筈なのに」


「……ちょっと【聖霊眼】に興味が出てきたな。」


「えっ……?」


そして、【聖霊眼】のヤバさも感じ始めていた。







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