第83話 演劇

 自分は放課後にいつもの露店でアクセサリーやお菓子を販売していたら、常連のおじさんが話しかけてきた。


「おお、少年。 今日はいたんだね。 少年の販売している【魔道具】のおかげで良いアイデアが浮かんたのでお礼に私が脚本を書いている演劇を無料で見に来ないかな? もちろんお友達や家族を連れてきても構わないよ。」


「ありがとうございます。 家族は別の街なのであれですが、友達が来るか聞いてますから後日で構いませんか?」


「それは構わないよ。」


「あと、僕は変装して露店で販売しているのですが、露店をやっていることは秘密にして貰えませんか?」


 何となくだが、このおじさんは正体をばらしても大丈夫だと感じていた。 ある種の天才感がある。


「それも大丈夫だよ。 少年は私と似た感じがするからね。 きっと生産系の極みスキルを持っているね? 戦闘系の極みスキルは別だが、生産系の極みスキル同士は何故か解るんだよ。 ちなみに私は【執筆の極み】で書き始めたら人気の出るものを作り出せるスキルでね……。」


「なるほど、確かに僕も極みスキルはあります。 それでは後日、露店で……。」


「いや、良ければ私が運営している舞台場に来てみないか? 名前は【クリスタル】といって大通りにあるんだよ。」


「分かりました。 後日伺いますね。」


「ああ、是非来てくれるのを楽しみにしているよ。」




 ☆



 次の日、ブラットやエレナを誘ったらブラットは寝てしまいそうだからって理由で断られたが、エレナは凄く食いついていた。


「レイ、凄いにゃ! 【クリスタル】の公演は全席プレミアで子供が行けるような場所じゃないにゃ!」


「う、うん? そんなに有名なんだ……。 それじゃあ、今日の放課後にでも一緒に【クリスタル】へ行く?」


「行くにゃ!」


「後は誰か誘う?」


「コーデリアとシンシアはどうにゃ?」


 話を近くで聞いていたのか、凄い行きたい目をしていた。


「ふたりも行く? 一応、人数制限は無いみたいだからね。」


「「行きます!!」」




 ☆



 放課後に【クリスタル】へ来ていたのだが、もの凄い大きい劇場だった。 《チェスガン》にこんな劇場があるなんて……。


「こんな大通りにあったんだね。」


「レイは興味無い事に無関心過ぎるにゃ。 【クリスタル】を知らない男子は将来モテないにゃ。」


「な、なんだと……。 そんなに重要な場所なのか……。」


「ほ、本当に私達も来て良かったのですか? お金とか全然無いんですが……。」


「私も、ほとんど、お金ない。」


「それは大丈夫だよ。 それに今日は見に行く人数を報告しに行くだけだから。」



 劇場に入ると更に別世界の感じがしており、ゴージャスな雰囲気だった。 というか服装が制服だから違和感が凄いな……。


 受付とかあるのかなとキョロキョロしていたらスーツを着た綺麗なお姉さんが話しかけてきた。


「ここには遊びに来たのかな?」


 自分達が遊び場を求めてきたと勘違いしたのかな?


「えっと、シバさんに話があって来たんですが、忙しそうなら伝言だけお願いしたいのですが。」


「えっ? シバって支配人の事? 名前を聞いても良いかしら。」


「僕はレイです。」


 シバさんから自分が来るのを聞いていたのか、急に対応が変わる……。


「失礼しました。 レイ様が来たら案内するように言われております。 こちらにどうぞ。


 自分達はシバさんのところへ案内されるのだった。




 ☆



 自分達は【クリスタル】に来ており、入口付近で話しかけられた女性にシバさんの元まで案内してもらっていた。


「まさか、レイ様が子供だとは思わず失礼しました。 支配人が友人だと言っていましたから、支配人と同世代だと勘違いしました。」


「大丈夫ですよ。 僕も中に入った時に場違いな感じはしましたから。」


 支配人こと、シバさんはたぶん、年齢は40代前半位の人でダンディーなおじさんだった。




 それから支配人室に通されると、露店の時とは違い、タキシードをしっかりと着こなして髪はオールバックに整えてあり、支配人の貫禄があった。


「おお、レイくん。 良く来てくれたね。 そちらの子供達が一緒に演劇を見に来るのかな?」


「はい。 僕の同級生達です。」


 シバさんは後ろの3人で見たら何故か固まってしまった……。 どうしたのだろうか?


「う、美しい! レイくんに友達3人を見たら創作意欲が!?」


 いきなり机に座り、紙に何かを殴り書きしていく……。 


「……シバさん?」


「レイくん、ちょっと待ってくれ!」


 ああ、デザイナーとかにたまにあるあれか……。


「(レイくん、この人はいったいどうしたのですか?)」


「(いきなり、豹変した、感じ……。)」


「(たぶん、何かのアイデアが降臨したんだよ……。 閃いている内にキーワードとか絵を何かに残しているんだよ。 すぐにアイデアを忘れてしまう時もあるからね。)」


「(なるほど。 ちょっと狂気を感じますね。)」


 確かにシバさんを見たら急に何かが乗り移ったみたいな印象すらうける。


「(それだけ本気って事だよ。)」





 それから数分後、シバさんは元の穏やかなダンディーおじさんに戻っていた。


「レイくん、すまなかったね。 ちょっとアイデアが閃いてしまってね。」


「まあ、そういう事もありますよね。」


「それで来て貰ったのにいきなりで悪いのだが、お友達3人を題材にした劇を書きたくてね。 一度で良いから舞台に上がってみないかい?」


「「えっ!?」」


「出るにゃ!!」


「ちょ、エレナ。 ふたりの意見も聞かないと……。」


 エレナは普段、眠そうな目をしているのに情報通な上にオシャレや娯楽系が大好きだから、こういう時は行動が早いんだよな。


「そうだったにゃ。 コーデリアとシンシアはどうするにゃ? こんな機会は今後無いかもしれないにゃ!」


「ちなみに、どんな内容なんですか?」


「わ、私は、あまり台詞は……。」


「ふむ…… 簡単に伝えれば、継承権の無い王子がいて……」


 シバさんの説明では、継承権の無い王子が毎回別々の変装をしながら街中を自由に遊んでおり、その中で3人の女の子が違う変装の王子に恋をしてしまう。 


 3人の女の子は王子だとは知らずに告白するが、王子は変装している事を秘密にしてたので、3人からの告白を保留にしてしまう。


 そんな中、継承権のある王子の兄が事故により亡くなり、王子に継承権が回ってきてしまうが、王子は王の器ではないからと3人の女の子と共に逃げてしまう。


 王子と女の子3人は幸せに暮らしていたが、王子を国に戻そうとする集団が女の子達を暗殺する計画をたてる。 暗殺は王子が女の子を庇うことにより、王子は刺されて死んでしまう。 

 王子の遺体担ぎながらも女の子3人が必死に逃げ、最後には女の子3人も追い込まれて崖から転落して死亡してしまう。


「えっ! 王子は刺されちゃうし、3人とも死んでしまうの?」


 ハーレムバットエンドか? しかし、設定がややこしいな。


「しかし、本当は王子達も暗殺計画を事前に察知して、王子と女の子3人は計画を利用して、王子と女の子3人の死亡を演出して異国の地に無事逃げて幸せに暮らす話です。」


「な、なるほど。 最後はハッピーエンドなんですね。」


「今のは大筋だけですから、そこから実際にはかなり修正は入ります。」


【執筆の極み】で実際にはヒット作に修正されるのか……。 最終的にスキル補正が入るのは、【素材の極み】に近いな……。


「ふたりはどう?」


「私は王子役次第で大丈夫です。」


「私も、王子役は、気になる。 あと、素顔は、隠したい。」


「ふむ、そしたら王子役はレイくんで、仮面を付けていれば良いのかな?」


「えっ! 僕?」


「「それでお願いします!」」

「オッケーにゃ!」


「それじゃあ、決まりだね。」




 えっ……。 自分の意見は?




 ☆




 劇場【クリスタル】に劇を予約するために訪問したのに、何故か自分達が劇に参加する事になっていた。


「そう言えば、今日は劇を見る予約の為に来て貰ったのだったね。 4人だけなら今日も見ていけるけど、なにか見たい演目はあるかな?」


「ありますにゃ!」


 エレナはいくつか候補をすらすらと話し出したが、本当に楽しみにしていたんだなと思った。 前世みたいな映画館は無いし、部屋にはもちろん娯楽のためのテレビなんか無い。 あるとしたら図書館にある本くらいだろう。

 自分の場合は研究したり、物を作るのが好きだから暇にはならないけど、他の人は何をして暇を潰しているのだろうか?


「ふむふむ。 エレナくんは詳しいね。 そんなに好きなら特別にフリーパスカードをあげよう。 もちろん事前に席予約は必要だけど、席代金は無料だよ。」


「やったにゃ!」


「コーデリアくんとシンシアくんもフリーパスカードはどうだい? それともレイくんと一緒に来るかな?」


「レイくんと一緒が良いです!」

「わたしも!」


「レイくんはモテてうらやましいな。」


 それから後日、演劇を見る日取りとエレナにはフリーパスカードの発行。 

 それと例の演劇の脚本が出来次第、練習をするらしい。


 本当はエレナが今日も演劇を見ていきたい感じだったが、見ていったら確実に学生寮の門限をオーバーするので諦めさせた。 門限の時間を延長したい場合は申請用紙に理由を記入して認可が下りないと駄目なのだ。 




 ☆



 数日後、シバさんから脚本が完成したと報告があったので、また4人で【クリスタル】に向かった。


 それから支配人室に案内されるとシバさんが自分達用の台本と小説風に書かれた本が用意されていた。

 演劇に関しては一度限りの公演になるので、せっかくだから小説も販売するつもりらしい。


 というかシバさん……。 数日だけで、脚本とラノベ一冊分位の小説、他にも支配人としての仕事をこなしてしまうなんて、バケモノか……? 


 それにしても、この物語は……。 素晴らしいな、【執筆の極み】の効果もあり、完成品を読み始めたら止まらなくなってしまった。


「シバさん、素晴らしいです! しかし、王子の暗殺阻止のシーンは変更出来ないのですか?」


「ん? もう読めたのかい? まだ20分も経っていないだろうに……。」


「僕は本を読むのが早いんですよ。 それより王子の……」


「それは女の子3人次第にすれば良いさ。 それにフリで大丈夫だよ。」


 実は最後まで読んでみたら、暗殺計画を阻止したあと、お互いが助かったのを喜び、王子は女の子3人とのキスシーンが書かれているのだ。


 まあ、自分以外は読み終わるには1日か2日はかかるだろうから、今日は持ち帰って読んでもらうことになった。




 そして、キスシーンがあっても頬にすれば良いという結論になり、多少の修正はあったが、ほとんどが当初の予定通りになることになった。


 それから、週3日で放課後に演劇レッスンを受けることになっていた。




 ちなみに【クリスタル】にはエレナ専用席が出来たらしい……。 どんだけ通ってるんだよっ!と思った。


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