第79話 夏の湖へ

 自分達、クラスメートはみんなで湖へ向かう馬車2台に別れて乗っていた。


 大型の馬車と何台かすれ違うので先生に聞いてみる。


「あの馬車は湖からの帰りなんですか?」


「ん? この馬車もそうだが、湖まで安全に往復してくれる専用馬車が出ているんだ。だから、今回の課外授業の許可が下りたって理由でもあるんだがな。」


「湖まで専用の馬車が出てるんですか?」


確かに遠足で使ったボロい内装の馬車とは違い、内装にも壁紙が張ってあったり、クッション性のある席だったりと、なんか凄そうだなとは思っていたけど、そうか……専用馬車が出ているのか。


「ああ、これから向かう湖は別荘地でもあるからな。夏には湖周辺護衛の見回りや往復の専用馬車、観光用の店も出るんだ。」


イメージ的には海水浴場みたいなものかな……?


「へぇ、そんな良い場所って事は、この馬車とかも高いんじゃないですか?」


「……本来なら学生の課外授業で使うような場所ではないんだが、去年は一年間何かとトラブルに見まわれたから、良い思い出にとって聖教会からの支援で可能になったんだ。」


「そんな理由があったんですね……って、それを僕に話しても良いんですか?」


「まあ、これくらいは構わないだろう……それにしてもレイが持ってきたそのデカい荷物は何だ?」


「え? 今更それを馬車の中で聞くんですか?」


「いや、今が聞くタイミングな気がしてな……。」


「えっとですね。これは【ペンギンスーツ】なんです。」


「俺が知りたいのは名前ではなく、何に使うものなんだ?って事だ。」 


「この【ペンギンスーツ】の見た目はペンギンの着ぐるみですがダイバースーツに風魔石が搭載されている機能スーツでして、水中をペンギンのように泳げる【魔導服】なんです。」


「【魔導服】ってなんだ? 聞いたこと無いぞ。」


「簡単に言うと【魔道具】を搭載した服ですね。」


「装備する【魔道具】は武器かアクセサリーしか見たこと無いな……服の魔道具は意味あるのか?」


「まあ、普通はアクセサリーで十分ですからね。 昔に【魔導王】が考案したものとされている服で、着ると全身の【身体強化】を適切な魔力で運用してくれるパワードスーツみたいなものですね。」


「パワードスーツが分からないが、確かにアクセサリーで出来る【身体強化】はあるが全身に同じ魔力が使われてしまうから無駄が多いらしいな。ベテランは皆【身体強化】はアクセサリーに頼らないらしいな。」


 昔に【魔導王】は【魔導服】に幾つもの魔導具を搭載していたらしいので本当にパワードスーツみたいだったのかもしれない。


 自分はまだ子供体型だから作っていないが、セシリアは大人の体型だからセシリア用の【魔導服】を試行錯誤しながら作っているところだ。 


(今回の【ペンギンスーツ】は魔石の搭載が上手くいったので湖にて試運転用に持ってきたのだ。)



 ☆



 馬車がやっと湖に着いたのでみんなゾロゾロと降りる、そして目の前に広がる光景は素敵な観光地だった。

 前世の記憶にある湖はあまり綺麗ではなかったが、ここの湖は綺麗で透き通った色をしていた。

 湖周辺も綺麗に整備されていてゴミは一つも無かった。

 それに観光地というだけあって、湖周辺にはコテージのような建物が多いので宿泊客も多いのかもしれない。


あと屋台みたいな出店から、店舗を建した飲食店やお土産屋みたいなお店まであるので、もしかしたらセシリアショップの2号店をここに作っても良いかもしれないと思った。


セシリアショップは現在、一階部分は洋菓子が中心となっているが、それを湖名物みたいな感じでアレンジするのも悪くないなと思った。


セシリアショップを見ていると、洋菓子を売っているだけで自分は勝ち組人生を送れる気はするが、何故かは分からないけど、自分のやらなくてはいけないことは別にもあると言われている気がするのだ。


「俺はこのシートを拠点にして待機してるから、お前達は遊んでこい。ただし、遊んで良い範囲はあの黄色い球が浮いている範囲までだ。それより先はお前達に何かあっても助けるのに遅れてしまうからな……よし、じゃあ集合時間は3時間後だ! 思いっきり遊んでこい!」


「「は~い!」」


湖には景観を損なわない範囲で、黄色、赤色、黒色などと範囲別になっていて、それにより湖の深さなどの危険度が別れているらしい。


という訳で自分達が泳げる範囲は黄色い範囲なのだけど、この湖はかなり広くて日本の河口湖位の広さはあり、自分達の遊べる範囲ですら300メートル以上の広さはあった。


「っと、その前にコーデリアの使う水対策をやらないと意味がなかったな……それじゃあ、コーデリア頼むぞ」


「はい。では、みなさんに水中で呼吸が出来るようにします。この効果時間は30分だけなので注意してください。」


 コーデリアさんがをかけてくれると頭をスッポリ覆う水の球が出来るが普通の呼吸は出来るので不思議な感覚だった。


なんで水が頭を覆っているのに呼吸が出来るのだろう?


しかも、コーデリアさんの使う【精霊魔法】は発動の前兆が【魔眼】を持ってしても全くわからず、未だに【魔素】を媒介にしているのすら分からなかった。


【精霊魔法】とは自分の使う【魔導】以上に特殊なものなのかもしれないな……自分の【魔導】もそうだけど、ほとんどのスキルは【魔素】を【魔力】や【魔導】に体内で変換して使っているが、コーデリアさんの体内にある【魔力】も全く変化がないのだ。


「25分経つと球が水色から赤色に変わるので、変わったら私のところに来てください。また掛け直しますから。」


 そして、クラスメートは湖の中へと入っていく。


自分もとりあえずみんなと一緒に湖の中へと入っていく。


水中に入ってみるが、元々自分には水中でも呼吸が出来たのではないかと錯覚するほど水中での呼吸は滑らかだった。


それにしても、水中で息が出来るなんて本当に便利な魔法だなと思う。


 しかし……


今の自分には不要だ。


 何故なら【ペンギンスーツ】は全身を覆い、ほぼペンギンになれるダイバースーツで、風魔石を使い、呼吸も出来き、泳ぎも完璧になれる。



「レイ、なんだその着ぐるみは、へんな生き物みたいだな。」


 ブラットに笑われた……。


「ブラットはペンギンの素晴らしさが解らないのか? おい、身近にペンギンのいる環境で育ったアラン、ペンギンの素晴らしさを言ってやれよ!」


「……いや、ペンギンは馴染みの動物って以外は特に思入れはない……というか、ペンギン様のことは言えないし……しかし、レイの身長だとペンギンの本物にしか見えないな……。」


「完成度は高いからな。」


「レイくん、【ペンギンスーツ】可愛いですね。」


「おお! 流石はコーデリアさん。 女子にはペンギンの良さがわかるのかも!」


「ペンギンは鳥みたいですが、空を飛んだりするんですか?」


「ペンギンは飛ばないかな……代わりに水中を飛ぶように泳ぐよ。」


「レイくん、私と一緒に泳ぎませんか?」


「わ、わたしも一緒に、泳ぎたいです。」


「そしたら3人で一緒に泳ごうか。【ペンギンスーツ】の背中にしがみついてくれればゆっくり水中に潜るよ。」


 30分おきに戻り、コーデリアさんが魔法をかけてはまた水中に戻って泳ぐのを繰り返した。





『セシリア、湖の中は見えてるかい?』


自分は湖の中でセシリアに話しかける。


『はい、マスター。とても幻想的な輝きです。』


セシリアは自分の視界を見ることが出来るから、連れては来れなかったが、こういう時には便利だなと思った。


『大人になったらセシリアと旅をしてこういう自然を見せて上げたいよ。』


『良いですね。私もマスターと多くの景色を一緒に見たいです。』


セシリアと共に旅をするのも楽しそうだなと思う。


それから自分は湖から出て休憩する。


他のクラスメートはまだ遊んでいるのを見て穏やかな気持ちになる。


身体的には疲れてはいないが……


「むっ、そこにいるのはレイではないか?」


「えっ?」


突然名前を呼ばれたので、声の方に振り向くと黄色い水着を着た銀髪のイケメン男子と湖なのにキッチリと服を着た執事の2人がいたのだけど……誰だ?


「やっぱりレイではないか! あれから元気にしていたか?」


銀髪のイケメン男子は明らかに自分の事を知っているみたいで、近寄ってきて気さくに肩を叩いてくる。


自分の名前も知っているし、明らかに自分の知り合いっぽいのだが、自分は全く記憶にない。


ブルーノが普通の男子に見えてきてしまうほどのこんなイケメン男子と知り合いなら忘れるはずはないのだが……


「えっと、すいません。誰ですか?」


申し訳ないと思いながらも自分は正直に聞くことにした。


「は? ……まさか俺を忘れたのか?」


「はい……すいません」


イケメン男子は絶望的な表情になる……


「俺はアルフレードだ。名前を聞けば思い出しただろう?」


「アルフレード……さん?」


アルフレード?


うーん。


名前を聞いても全く思い出せないぞ……


「そんな。俺の事を忘れるとは……」


「アルフレード様、もしかしたらレイ様は……」


隣に控えていた執事がアルフレードさんになにやら小声で話をしており、アルフレードさんはなるほど、なるほどと真剣な表情で頷いている。


というか、アルフレードさんは執事を連れているということは身分の高い子供なのだろうか?


「なるほどな……レイ!」


「はい、なんですか?」


「俺のことは兄と思って良いからな!」


「……は? 兄ですか?」


アルフレードさんの言うことが唐突過ぎて言葉の意味がよく分からなかった。


兄ってなんだ?


「ああ、レイは本来ならば俺の弟になっていたかもしれないのだからな……妹のことはレイにとっても記憶を忘れたがるほどの悲しい出来事だっただろう……」


「いったいなにを……」


「無理に思い出そうとするのは辛いだろうから、だが俺はそこそこ権力のある貴族だからレイに困った事があればいくらでも助けになろう。それが妹の願いでもあるだろうからな。ババム、アレをレイに渡しておけ」


「はっ、レイ様……アルフレード様に用事がある場合はこちらに【魔力】を流して下さい。」


「久し振りにレイに会えて良かったぞ!」


アルフレードさんはなにかよく分からない勘違い?をしているみたいだが、そのままどこかへ行ってしまった……


そう言えば、もらったものを見てみると【魔石】っぽい宝石の付いた指輪だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る