第78話 プールとペンギン君
季節は夏になり学園でもプールの授業が始まっている。
1年生時は自分とエレナが勝手にクラスメートに泳ぎ方を教えていたが、2年生になるとしっかりと泳ぎを教える授業がスタートするのだが……
「このクラスは俺が教える必要が無いな……」
ロナルド先生は教えてもいないのに軽快に泳ぐ生徒達を見て、指導する必要はないと判断していた。
「ロナルド先生、それは教師としてどうなんですか?」
「いや、俺よりも効率的な泳ぎ方を去年のうちにクラスメートへ教えていたレイが言うことか? 逆に俺が教えたら泳ぎが下手になるぞ?」
「……」
自分は前世で習ったクロールを教え、エレナは平泳ぎをクラスメートに教えたのだが、それがロナルド先生の泳ぎ方よりも効率的らしい。
まあ、自分の泳ぎ方は前世で学んだクロールだから、効率的ではあるかもしれない。
しかし、何故エレナは平泳ぎが去年から出来ていたか謎だったので聞いてみたら、エレナの平泳ぎはエレナのお母さんであるエリーさんから習ったらしい。
……エリーさんは不思議な人なんだよな。
印象的にはエレナが大人になったらああなるのではないかと思えるほどにエレナと瓜二つなんだよな…まあ、親子だから似るのは分かるけど、似すぎている気もする……
「どうしたんだ、レイ? お前も泳ぎの練習をしないのか?」
「あっ、はい。泳いできます」
「とは言っても、あと数分で自由自由だけどな」
泳ぎの授業をした後が自由時間になっていた。
そして、その短い時間で効率良く遊ぶために、自分はプールを早く泳ぐ魔導具を開発した。
その名も【滑走ペンギン君1号】だ。
全長2メートルほどのペンギン型水中ジェットの上に乗り、水上を滑走するものだ。
完全防水仕様のペンギン型カバーは本体の【魔導具】を保護する目的は無くて、単純にペンギン型にしたかっただけで、本体の【魔導具】は10センチ四方位の小さい。
安全の為、あまりスピードは出ないようにしてあり、操作も左右に傾けるだけと、子供でも簡単に使えるシンプルな仕様にしてある。
「先生! この魔道具で遊んで良いですか?」
「レイ……何だそれは? 危険なものなら許可はしないぞ、というよりお願いだから、問題だけは起こすなよ?」
「この上に乗って、水上を滑るだけものですから、特に危険は無いです」
「それは本当に安全なのか? これ以上の事故は許されないんだぞ?」
「……大丈夫です!」
「おい、今の間は何だ? 本当の本当に大丈夫なのか?」
「一度試してるから大丈夫です。僕を信じて下さい」
「お前の場合はわざとじゃなくても油断出来ないからな……俺の前でしかそれは絶対に使うなよ?」
「分かりました」
何だかロナルド先生の印象では自分がトラブルを起こしてばかりみたいな感じだけど、実際はほとんど自分のせいではないと言いたい。
まあ、これに関しては実験済みだし、かなり安全面には気を付けてあるので、大丈夫だろう。
とりあえず【滑走ペンギン君1号】に【魔導】を流し、エネルギーをチャージさせ、起動させる。
これで30分は稼働するだろう。
まずはペンギン型のカバーの上にある窪みに座り、両手付近まで伸びている操作バーを握る。
「よし、発進!」
水面にプカプカと浮いていた【滑走ペンギン君1号】はホバークラフトみたいにゆっくりと浮かぶ。
そして時速15キロ位のスピードでプール上を自在に滑走する。
これの操作方法はバイクに少し似ていて、曲がりたい方向に重心を少し傾けるだけで、【魔導具】に内蔵されているバランサーが作動して曲がってくれる。
(スリルがあって楽しい。)
「どうですか。先生! 結構安全でしょ?」
「ああ、確かに危険は少ないの……か?」
「うぉ、何でこんなところに!?」
「ん? どうした、アラン?」
急にびっくりする声が聞こえたから振り返ると、驚愕が顔をしたアランがいた。
「って、作り物か……これはレイが作ったのか?」
「そうだけど、なんで?」
「いや、何でレイがペンギン様の容姿を知ってるのかなと疑問に思ってな……ペンギン様のことは魔人族しか見たこと無いはずなんだが……」
「ペンギン様? 魔大陸では皇帝ペンギンがペンギン様なの?」
【滑走ペンギン君1号】の見た目は、自分が一番大好きな皇帝ペンギンをモデルにしているのだけど、皇帝ペンギンがペンギン様なのか?
いや、ペンギンに様をつけるのは間違ってはいない。
むしろ正しい。
「ああ、詳しくは魔人族の掟で言えないが、あまりそのペンギン様の容姿の作り物に乗るのは止めた方が良いかもしれないぞ? 俺は良いけど、大人の魔人族が見たら怒るかもしれないからな……」
「むぅ、そうなのか……なら、こっちにしようか」
自分は予備で作っておいた【滑走ペンギン様1号マーク2】を取り出す。
この見た目はアデリーペンギンをモデルにしているから大丈夫だろう。
以前、アランが魔大陸にいっぱいいるといっていたからな。
「ああ、それなら大丈夫だな。レイ、ちょっと俺にもそれを貸してくれないか?」
水嫌いのアランが食いついてきた。
「ああ。まだ持ってきているから貸すよ! だけど僕が使うより更にスピードが落ちるよ?」
「むしろその方が助かるよ。」
……。
「あはははっ。 これ楽しいな!」
「そうだろ、そうだろ!」
結局、ブラット、バリー、エレナが参加してきた。
(雑貨屋の商品にするかな?)
「そう言えばアラン、水は大丈夫なのか?」
「まだ苦手ではあるかな。去年よりはましかな、だけど息継ぎが出来ないんだよな……。」
「ちょっとやってみてよ。」
「ああ……。」
アランが泳ぐのを見るが、泳ぎもぎこちないが息継ぎする時に無駄に息を大量に吸うからバランスを崩している。
「浮き輪とか使わないの?」
「……先生にも言われたけど、なんかあれつけるの恥ずかしいんだよな。」
「………わかるけど、あれは効率いいと思うよ?」
「水嫌いを治す方向はどうですか?」
コーデリアさんがそんな提案をしてきた。
「そんな方法あるの?」
「最近、覚えた水精霊魔法に水中で息が出来るようになるものがあるんです。そこで、みんなで湖に行きませんか? 」
「湖の中を泳いで水嫌いを克服?」
「街から馬車で1時間位の所にある湖の中がとても綺麗らしいです。だから、綺麗な水中を見ながら泳ぎの練習をすれば、水を克服出来るんじゃないですか?」
「なるほど……それは有りかもしれないね」
皆に聞いたら、明後日の学園が休みの日なら大丈夫らしい……後は。
「先生……。」
チラッと先生を見る。
「言いたいことはわかる、保護者になってもらいたいんだろ? ちょっと学園長のところで聞いてくるよ。」
☆
「明後日ではなく、明日の授業中に湖での課外授業にしてならいい事になったよ。」
「「おお~」」
「ちなみに問題起きたら、俺のクビが飛ぶからな、マジでな。」
そんな事を言いながら自分を見てくる。
「先生、何故に僕を見るんですか!」
「いや、ほとんどレイが問題の中心だろ?」
「そんな事はないでしょ。ねえ、みんなも……?」
「「……。」」
「みんなひどい……。」
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