第77話 待ち合わせ

 チェスガン学園の授業が休みの日……今回は珍しく週末にモロットへ帰らず、チェスガンに滞在していた。


お母さんや妹的には毎週帰って来て欲しいらしいが、護衛の人が無理な場合や空いているモロット行き馬車が無い場合は今回みたいに帰らなかったりしていた。


 そして、自分は休みの日に普段の制服とか違う服に着替え、待ち合わせの為に目的のカフェ入口前で待っていた。


 待ち合わせの相手はコーデリアさんとシンシアさんで、先日に、教室内でふたりが新しいカフェが出来た、という事を話していたのを自分はたまたま聞いた。


 そして、軽い気持ちで、新しいカフェがあるなら、『ふたりと一緒に行ってみたいな』と言ったらかなりの勢いで是非行きましょう!って感じになったので、つい頷いてしまったのだ。


 まあ、たまには敵情視察の意味も込めて《チェスガン》ではどんなカフェが流行っているのかを調べるのも良いかなと思うことにした。


「というか、ふたりは遅いな……約束の時間は過ぎているのに、どうしたんだろう?」  


 時計を見たら、約束の時間を既に20分も過ぎていた。

 普段から時間には正確なコーデリアさんが遅刻をしているのは、とても不安になる案件だった。

 普段からちょっと位遅刻しても気にしないような人ならもう少し待つんだけど……こういう時にスマホの様な連絡手段が欲しいと思ってしまう。


 それから10分待ってみたけど、ふたりは現れなかった。


 これは嫌な予感がしてきたぞ……


 自分は不安になり、2人を迎えに行く事にした。


 ふたりは学生寮からカフェに来ると思うので学生寮に向かうことにした……。 


 女子の学生寮前を出入りしていた女性にコーデリアさんとシンシアさんの部屋にいるかを確認してもらう事にした。

 学生寮は男女共に休みの外出時には入り口にあるボードを外出かどうかを判別する札があり、それを確認してもらう事にしたのだ。


「コーデリアさんとシンシアさんは外出になっていたわよ?」


外出になっている?


それなのに2人とも待ち合わせ場所に来ないのは明らかにおかしい……


「……そうですか。あっ、すいません、エレナも見てもらって良いですか? 居たらレイが相談したいことがあると伝えて下さい。」


「分かったわ。」


「ありがとうございます。」




 ☆



 しばらくしたら学生寮からエレナが眠そうな顔で出てくる。


 相変わらずエレナは朝弱いな……ってか、もう少しで昼だけどね!

 しかも、何故かエレナは休みの日だというのに生傷が絶えないんだよな……

 そもそもエレナが負傷する場面など最近は見たことがないのに、どこで生傷なんて作るのだろう?


「レイ、どうしたにゃ? 今日は確かコーデリアとシンシアの2人と一緒にカフェに行くんじゃなかったかにゃ?」


「その事で相談なんだけど、待ち合わせ時間になってもふたりが来なかったから学生寮まで迎えに来たんだけど、ふたりは外出になっているんだよね……入れ違いになった可能性もゼロではないけど、何だか嫌な予感がしてね。休みのところ悪いけど、エレナの力を借りたいなと思ったんだよ」


「……にゃるほど、う~ん……ここから新しく出来たカフェまでの道のりは最短で行くなら1つしか無いにゃから、レイが遭遇してないのなら、2人が何かトラブルに巻き込まれたかもしれないにゃね……。」


「エレナは念の為に先生に報告しといてもらっても良いかな?」


「分かったにゃ。もしコーデリアやシンシアが戻って来たらカフェに行くように伝えれば良いかにゃ?」


「うん、もしかしたら待ってもらうかもしれないけど、カフェに居てもらった方がよいかな。」


「分かったにゃ。私も先生に報告したあと、いろいろ探してみるにゃ」




 ☆



 それから自分はもう一度約束していたカフェに行ったが、ふたりは来てもいなかったみたいなので、学生寮からカフェまでの道のりにあるお店や家をエルフ族のふたりが通らなかったかを聞いて回った。


 そして、果物屋をやっているおじさんがエルフ族にふたりが魔法師風の格好をした人と一緒にいるのをみたらしかった。


「たぶん、坊主の探しているエルフ族ふたりだと思うぞ。髪色も同じだし、この街にあまりエルフ族が居ないからな。」


「そうなんですか、それでふたりと一緒にいた人とはどんな感じでしたか?」


「うーん。お客さんなら覚えているが、それ以外だとそこまでハッキリとは覚えていないんだよな……あっ、確かふたりが前を歩いていて道案内をしているようにも見えたな。方角的にはあっちだな。」


 おじさんが指した方は、カフェより少し方角が違うがもしかしたらついでに道案内も出来ると思っていたら何かしらのトラブルに巻き込まれたのかもしれないな……。


「おじさん、ありがとう。今度、果物をいっぱい買わせてもらうよ。」


「おう、坊主も何かあったら近くの大人を頼るんだぞ?」


 こうして自分はコーデリアさんとシンシアさんの足取りを追うのだった。




 ☆




 自分は果物屋のおじさんが教えてくれた方角に向かうとそこは何件もの住宅が密集しており、下町の様な感じになっていた。


「これは手がかりを探すのが大変そうだな……。」


 それからは地道な街を歩いている人達にエルフ族のふたりを見なかったかと聞いて廻ることにした。 自分は子供なので、ふたりの事を聞いても友達とはぐれたのかな?というレベルにしか思われないので、怪しまれることはなく、みんな優しく話を聞いてくれていた。


 やはり、コーデリアさんとシンシアさんはぱっと見ではエルフ族と分からなくても、可愛い幼女ふたりと魔法師風の大人のセットはかなり目立っていたらしくて記憶に残っている人が多かった。


 しかし、こんなにいろいろな人に見られても気にしないという事は、本当に道案内をしているだけなのだろうか?

 《チェスガン》は 《モロット》に比べたらでかい街だけど、前世で都内に住んでいた自分からしたら、幼女に道案内を頼むほどの広さとは思えなかった。


 そして街の人達の情報をまとめると、急に目撃情報が少なくなったエリアがあった。

 しかも、そのエリアは廃墟になっている家が何件か建っていたので、あからさまに怪しいと思った。


「廃墟を単独で調べるか、しかし、どうしよう……応援を呼ぶか?……いや、もう少し情報を仕入れてからでも良いか。」




 ☆



 その後、廃墟は全部で6件有ったが、3件目で悪い方にヒットしてしまった。


 コーデリアさんとシンシアさんは誘拐されていたのだ……。


 ふたりは元店舗だと思われる平屋の廃墟に、手足を縛られて拘束されていた。誘拐をしたと思われる犯人は近くにはいなかったので、ふたりを助けるなら今かもしれない……。


 自分は足音をたてない様にゆっくりとふたりに接近する。


「(コーデリアさんとシンシアさん。大丈夫ですか?)」


「(レイくん? どうしてここに? 私達は道案内をして欲しいと言われて案内していたら、急に後ろから拘束されてしまいました。)」


「(騙された……。)」


 だいたい、聞き込みから考えていた事と同じ状況だな。


「(それでしたら、早急にここから脱出しましょう。)」


「あっ! レイくん、後ろ!」


 パンッ! 


 音と共に自分の背中に物凄い衝撃と痛みが走る……。


 な、何だ……?


あまりの痛みですぐには振り向けなかったが、やっと後ろを振り返ると、拳銃を持った若い女性がいた。


バタッ……


パリンッ。


「チッ、なんでこんなところに人族のガキがいるのよ? エルフ族が救出に来たのかと思って撃っちゃったじゃない。」


「きゃああっっ! レイくん、大丈夫ですか!?」


「レイくん!?」


「やっぱり、知り合いだったのね。それなら撃たないで拘束して売れば良かったかしら?」



 自分は背後から拳銃で胸の辺りを撃たれたが装備していた【身代わりネックレス】が砕け散り、そのおかげで無傷で済んでいた。


 だが、撃たれた時の衝撃は子供の体には大きかったから倒れてしまっていた。


 撃たれたのが1発だけで助かったなと思った。


 たぶん、間隔を開けて2発撃たれていたら自分は今頃あの世行きだったかもしれない。


 相手の女性は自分が死んだか、動けないかどちらかだと思いこんでいるようだから、ここは死んだ様に見せかけて女性が油断したところを一撃で逆転出来るような攻撃をしたい。


 ちなみに撃たれた箇所は死ぬほど痛くて、のたうち回りそうだったけど、必死に我慢した。


「レイくん! しっかりして下さい! ああ、こんなに沢山の血が……」


コーデリアさんとシンシアさんは手足が縛られながらも自分のところまで、這って来てくれていた。


しかも、かなり泣いている……


相手の隙をつくためとはいえ、何だか罪悪感が凄い。


「(コーデリアさん、シンシアさん。僕は大丈夫です、だけど相手には僕が反撃するまで死んでいる事にしたいので、合わせて貰えますか?)」


自分はコーデリアさんとシンシアさんが近くに来たタイミングで、2人にしか聞こえないレベルの小声で話しかける。


「(えっ……はい、分かりました。)」

「(分かった……)」


「ちっ、ガキに反応が無いって事は死んだか? 血の量も凄いからな。」


「何でこんな事をするんですか!」


「お前たちエルフ族は一部の人間には高値で売れるからな。子供でそんなに可愛ければ更に高く売れるよ。」


「そんな事しても直ぐに【認証の指輪】でばれますよ!」


「普通はばれるが、私達は生まれつき【認証の指輪】を付けていないから、お前たちの指を切り落とせば問題無いんだよ。」


「そんな……。」


 まさか、【認証の指輪】を付けていない人が居るとは聞いていたけど、誘拐犯にも居るなんて……。 仲間が居そうだから早急にここから脱出したいな。


 現在の遠距離からの最高の攻撃は【魔導圧縮銃】だけど……これはオーバーキル過ぎるんだよな。


しかも、魔狼の時より改良されていて、さらにパワーアップしているのだ。


 そもそも自分は人に攻撃するのを目的とした【魔導具】はほとんどなく、魔獣を一撃で殲滅出来るものばかりだった。


 あっ、そうだ、あれを使おう。


「(コーデリアさんとシンシアさん。5秒後に眼と耳を10秒間位ふさいでおいて下さい。かなり大きな音と光がします。)」


「「(分かりました。)」」


【魔導手】を使い、【ストレージ】から夏のイベントの為に開発中の火薬量の減らした打ち上げ花火を誘拐犯に投げつけたあと、【魔導壁】を展開して爆発を防ぐ。


「あ?  ぎゃあああっ!」




 10秒後、全身火傷を負った真っ黒な女性を逃げられないように簀巻きにした後、死なれると困るので【回復ポーション 中】を振りかけて回復させる。


 誘拐犯だとしても人殺しはしたくないからな……。


それにしても誘拐犯は2人いたはずなんだけど……あれ?


しかも、この女性は聞き込みしていた時の魔法師風の格好とは全く違うぞ……?


 そして、自分は他にも誘拐犯がいると警戒しながら近隣の大人に助けを求めた。



 その後、誘拐犯の女性は逮捕された事でエルフ族の誘拐事件は終わりみたいになってしまったが自分の中ではモヤモヤした感じの解決になってしまった。





 この誘拐犯の主犯格達が逃げ出した事で、犯罪組織が動き出すのだが……そんなことになっているとは自分には分からなかった。





 ☆



「レイくん、助けてくれてありがとうございました。」


「レイくん。ありがとう。」


 今回はふたりに何も無くて本当に良かったと思う。

 前世の日本以上に、こちらの世界では犯罪が少ないから油断していたな。


「ふたりが無事で良かったよ。ふたりとも凄く可愛いんだから、街中だからって知らない人について行ったらダメだよ……?」



「……レイくんに凄く可愛いって言われました。」


「凄く、可愛いって……。」



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