第76話 噂のお菓子屋
セシリアショップのオープンした翌日には、ダンディー執事に続き、露店の常連である女性騎士も噂を聞きつけて来店していた。
執事や女性騎士の情報収集能力が高いのか、みんな暇なのか解らないな……そういえばエレナも恐ろしく情報収集能力が高いな。
ダンディー執事と同じ条件で女性騎士も個別注文が出来て笑顔だったみたいだ。
こちらも本人は忙しい?らしく代理の騎士さんがくるらしい。
リリさんが、ついでに2階の雑貨も案内したら、『ポーション類も大量に注文出来きますか?』と聞かれたらしくて、自分は出来ると答えたら大量注文が入った。
【回復ポーション小】100本、【解毒ポーション小】50本
最近は王国内での魔獣出現率が増えているという理由から、ポーション類は常に品薄になってきているらしい、しかも本来はポーションを作るのに凄く時間がかかるらしいから、他のポーションを扱う店からは完売状態が続くと言われてるらしい。
自分の場合は【魔導工房】内で、素材さえ集めればボタン1つで出来上がるとは言えないな……。
念の為、素材不足になったら作れないと伝えたら、その時は必要な分の素材は持ってくると言っていたらしい。
現在、街では素材はいっぱいあるが制作者の作る時間が追い付かない状態らしい。
それならば注文数を増やしても良かったかもしれないな。
☆
セシリアショップはオープンしてから数日後……
近所の主婦達からの強い要望で、店舗部分の空いている庭にカフェテラスを作る事になった。
カフェテラスと言っても、草を刈ってから防腐処理した木材を敷き詰め、丸机を2卓と椅子を10脚だけ作っただけの簡易的なものにした。
何故、主婦達から店内で食べたいという要望が出たかというと予想外の理由で、とある主婦の1人がオープン2日目に家族分のお菓子を買って帰り、家で美味しく食べてくれたらしいが、次の日にその子供が昨日のお菓子をどうしても食べたいともの凄い駄々をこねるので、その日も買いに来てくれたらしいけど、お菓子の数量的にその日は完売になっていて、子供をなだめるのに大変だったと主婦達の間で話が広まり、主婦達は子供に【セシリアショップ】のお菓子を食べさせては良くないという謎の結論に至ったらしい。
そんな要望を受け、それなら主婦達が息抜きと世間話をする場を造ろうということになったのだ。
ちなみにお菓子の値段は400~600コルト(コルトはほぼ円と同じ価値)
平均で500コルトだから少し高い。
ポーション小は2000コルト。
アクセサリーは1万~3万コルト。
☆
【コーデリア視点】
私はチェスガンに来てから、学園が終わった夕方に時間が空いていれば毎日の様に治療院のお手伝いをしていた。
チェスガンの周辺は危険度が高くないらしく、基本的には治療院に来るお客さんは少ないらしいけど、2年前位から魔獣の危険度が少しずつ上がっているみたいで、治療院は忙しいけど回復スキルを持っている人は希少らしく、しかも【魔力量】が多い人は少ないので、私はお小遣い稼ぎ目的でお世話になっていた。
そもそも、そんな【魔力量】の多い【回復師】などは、チェスガンの治療院ではなく、もっと稼ぎの良いところはたくさんあるので来なかったりする。
しかし、一週間位前から治療院の忙しさに変化が起きていた。
「医院長、最近騎士団の方は来ているんですか?」
騎士団とはチェスガン在中の唯一の女性のみの騎士団で、訓練は過激らしくこの位の時間になると毎日のように誰かしらは来ていたはずなのに、一週間位誰も来なくなっていた。
訓練が変更されて、怪我をしににくなったのかな?
「それがワシにも分からんのじゃよ……ここまで誰も来ないのは初めてじゃし……何か不手際でもあったのかのう……」
「医院長でも分からないのですね……あまりお客さんが少なければ、私は休みましょうか?」
この治療院は医院長を入れて1日3人の【回復】スキル持ちを雇っているので、ある程度お客さんがいないと大変なんじゃないのかなと思った。
「コーデリアちゃん、子供はそんなことを気にしなくても大丈夫じゃよ。それにコーデリアちゃんの給金はそんなに高くはないから言うほどの負担にはならんよ」
「分かりました。それじゃあ、引き続きお世話になります」
「コーデリアちゃんが居てくれればわしらの癒やしになるから、助かるんじゃよ」
「それにしても、何で急にお客さんが減ったんでしょうね?」
「分からんのう……じゃが、治療院は本来暇な方が良いんじゃ……」
バンッ!!
「医院長!!」
私と医院長の話をしていると治療院の扉が勢いよく開き、今日休みだった治療院の男性スタッフが入ってきた。
「どうしたのじゃ?」
「治療院のお客さんが減っている理由が分かりました!」
「何が理由だったのじゃ!」
「実は一週間位前から【セシリアショップ】という回復ポーションを格安で販売しているお店が出来たんです!」
「な、なんじゃと!? 回復ポーションを格安じゃと……そんなことが可能なのか?」
「医院長、回復ポーションってそんなに作るのが大変なんですか?」
「ふむ、コーデリアちゃんは知らないかもしれないが、回復ポーションを作るのは時間と手間がかかるから、基本的に回復ポーションの価格は変動しないのじゃよ……」
「そうなんですか?」
私はレイくんが回復ポーションなど、複数のポーションを大量に作っていたのを見て、ポーション作りは簡単なのかと勘違いしていた。
あれ?
じゃあ、レイくんはどうやって大量のポーションを作っているのか疑問になった……
「【セシリアショップ】……名前からすると、セシリアという女性が回復ポーションを格安で作る秘訣を知ってるのかのう……ん? なんじゃ、そのカラフルな箱は……」
突然の話で気が付かなかったけど、男性スタッフは両手で四角いカラフルで可愛らしい箱を持っていた。
「あっ、これはその【セシリアショップ】で販売していた焼き菓子を買っちゃいました。凄い行列だったのできっと美味しいですよ!」
「えっ、ポーション販売店じゃないんですか?」
ポーションと焼き菓子……何だかイメージ出来ない組合せだなと正直に思った。
「僕も店前の行列を見たときは回復ポーションを買うために並んでいる人達かと思ったんですけど、実は店前の行列は全てお菓子目当ての人達だったので、ついつい気になって買っちゃいました。今日の焼き菓子でマドレーヌというものらしいんですけど、凄く美味しそうな匂いじゃないですか?」
男性スタッフは医院長の顔近くにマドレーヌの入った箱を近付けて匂いをかがせる。
「確かに美味しそうな匂いじゃが……バルムくん?」
医院長はいつになく険しい表情で男性スタッフであるバルムさんを睨む。
「は、はい!」
バルムさんも医院長がいつも以上に真剣な表情なので、身体がビクッとなる。
「ワシが知りたいのはポーションの情報であって、焼き菓子ではないのじゃよ?」
「は、はい! それは分かっています! ちゃんと回復ポーションも買ってきました! これで2000コルトでした!」
バルムさんは回復ポーションをついでに買ってきましたという感じで胸ポケットから取り出して医院長に渡す。
「ふむ……性能は試してみないと分からないが……2000コルトとは確かに安いのう……しかし、何じゃこの色は? 普通、回復ポーションだと水色ではないか?」
バルムさんが買ってきた回復ポーションはキラキラした緑色で光の当たり方によっては紫色や赤色にも見える不思議な色だけど……これってレイくんの持っていた回復ポーションと全く同じ色に見えた。
「すいません、医院長。ポーションについて詳しくないんですけど、水色以外の回復ポーションは珍しいのですか?」
「ふむ、コーデリアちゃんは知らないだろうが、回復ポーションと言っても使われる材料は様々あるから、本来は水色とは限らないことじゃが、回復ポーション(小)を販売するとなれば水色で定番なのじゃ」
「それは何故?」
「理由は簡単で、材料が違っても回復ポーション(小)の性能は同じじゃから、普通は安くて手に入りやすい材料を選択するからのう、そうするとほぼ水色の回復ポーションになるのじゃ」
「なるほど……じゃあ、この回復ポーションの性能が(小)では無い場合は?」
「それこそ2000コルトで作るなんて無理じゃよ。回復ポーション(中)になれば、材料一つとっても2000コルトは超えてくるはずじゃ、もしこれが回復ポーション(小)以上の性能ならば、この販売店は商売をする気がないか馬鹿のどちらかじゃろう」
医院長の話を聞きながらも、何故か私のアタマの中にはレイくんの顔が思い浮かんでいたけど、流石にレイくんでも露店はしても、お店をオープンして商売するなんてしないだろうと思い直す。
そして、マドレーヌという焼き菓子はもの凄い美味くて、治療院のスタッフみんなが一瞬にして【セシリアショップ】のファンになっていた。
結局、回復ポーションに関しては何も分からなかった……
☆
セシリアショップがオープンして1ヶ月位経過したとある日。
放課後にシンシアさんが珍しく教室で話をかけてきた。
たまに学園の図書館で一緒に調べ物をしたりはするけど、基本的にシンシアさんとは教室では話すことが少なかった。
「レイさん、最近住宅街に美味しいと噂のお菓子屋さんがあるらしくて、一緒に行きませんか?」
「……そ、そうなんだ?」
それってほぼ【セシリアショップ】のことだよね?
「シンシア、そこって【セシリアショップ】じゃないですか?」
コーデリアさんまで話に入ってきた。
ってか、コーデリアさんも【セシリアショップ】を知ってるの?
お店の場所は完全に住宅地の中だし、宣伝もしていないから、学生寮暮らしのクラスメートには知る手段は無いと思うんだけど……何でだろう?
「うん、その名前のお店……流石は甘いもの好きなコーデリアだね。私はちょっと前からお菓子とは別に気になっていたんだよね」
「そこは私も気になってました! 私も一緒に行きたいです!」
「えっと、そんなに有名なの?」
「なんでも主婦の間で話題らしいです。」
主婦達の間で有名なのは知ってるけど、どこまで浸透してるのだろう?
「一度食べたら止められないとか。」
「そのお菓子屋なら俺も聞いたことあるよ。」
まさかのお菓子には興味が無さそうなブルーノも会話に入ってきた。
何でブルーノも知ってるの?
「ブルーノも甘いもの好きなの?」
「俺ではなくて、この前レイに紹介した騎士団に入っている姉さんから聞いたんだよ。今、女性騎士団内で奪い合いになる至高のお菓子があるらしくてね、最近まではそれこそ本当の意味での奪い合いだったらしいけど、今は騎士団内で活躍ポイントを作ってランキング上位だけが食べられるんだってさ。」
「ご褒美的なやつか。」
ああ、そっか……ブルーノのお姉さんは騎士団に所属しているんだったな。
すっかりと忘れていたよ……あれ?
そうすると、買いに来ていた女性騎士の中にブルーノのお姉さんも居たのかな?
あまり女性の顔などがよく覚えられないからハッキリとは分からないが……ブルーノのお姉さんっぽい人はかなりの頻度で買いに来る人か?
「その影響で女性騎士団は凄い活躍らしいよ。」
「僕もそのお菓子屋の噂は聞いたこん。」
今度はクライブが……。
「貴族の間で噂らしくて、権力を使い買おうとした貴族が居たらしいけど、王族の力でそのお菓子屋は保護されていて買えなかったらしいこん。」
「それは本当の噂だよね?」
「かなりマジみたいだこん。」
「……。」
嫌な汗が止まらない。
(まだ1ヶ月経ってないのに、低学年の子供すら知ってる噂になるとは……。)
ぽんぽんとエレナに肩を叩かれる。
「(そのお菓子屋、レイが関わってるにゃ?)」
「(なぜそれを……。)」
「(最近、シーラさんの食堂で噂になってるにゃ。 凄く美味しいスイーツを作りだしたとにゃ……そこから推理すれば簡単なことにゃ)」
「(……エレナさんや、内緒にして貰えないかな?)」
「(大丈夫、秘密にしておくにゃ。)」
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