第75話 セシリアショップ

 モロットからチェスガンに戻った自分は、店舗部の敷地で余っている場所があったので、早速アパートタイプの社員寮を造ることにした。


 造る社員寮は2階建ての全6部屋で、全て1DKの間取りにした。

 以前の住宅作成時に購入した加工済みの部材を少し加工すればアパートに利用出来る部材が多く余っていたから社員寮の作成は割とスムーズに終わった。


とは言え、普通の人ならば複数人で数週間はかかるであろう作業を、1日集中したとしても自分1人で終わらせることが出来たのは改めて考えると異常だなと思う。


 【建築】のスキルを使い、家などを建てていて気づいたのが戦闘の鍛錬をしているよりも身体にスキルが馴染んでいるのだ。

 建築家や調理師として、これだけで食べていけそうな気がする……やはり前世の職種や経験が大きく左右するのだろうか?


 しかもクオリティが低学年生の能力じゃないな……既に前世の一流レベルを超えているかもしれない。


 しかし、そこはいろいろ職種を経験したおじさんが中身だから仕方ないか。


 社畜癖が消えず、ギリギリまで働いている方が落ち着くんだよな……。



 ☆


 モロットより希望していた助っ人が到着し、セシリアショップの従業員が2名増える事になった。


「リリです。よろしくお願いします。」


「ネルぽん。よろしくお願いぽん。」


「2人共、シーラさんの食堂でお世話になっていたし、気軽にでいいですよ。」


 リリさんは人族で緑の長い髪に緑の瞳。背は160位。可愛らしい感じの笑顔をする女性で、シーラさん曰わく店長を任せても良いくらい仕事が出来るらしい。

 そんな仕事が出来る人をシーラさんの食堂から引っこ抜いて大丈夫なのか不安だったが、シーラさん曰わくこれがベストな選択だと言っていた。


 そして、語尾にぽんというネルさんは狸獣人の女性で、ブラットみたいな赤の短い髪に赤い瞳。背は150位と少し低め。そして特徴となる狸の耳とフワフワした尻尾も赤かった。

 あとはリリさんに比べるとちょっとほんわかした性格の様に見えた。


「私はセシリアです……よろしくお願いします。」


 セシリアもだいぶ喋るのがうまくなってきて、動きも良くなっている。

 身体が仮の完成してから微調整をすること400回は超えたのではないだろうか?

 未だに微調整はしているが、これほど人体が奇跡的なバランスで出来ているのかを思い知ることにもなった。

 少しでも筋肉の付け方を間違えるだけで、気持ち悪い表情や動きになるんだよな……


とは言え、セシリアの身体的可動域は新体操選手並みに広く……いや、正確には人体を超える柔らかさにしていた。

セシリアが今後何をしたいと言うかは分からないが、身体は柔らかく丈夫な方が良いだろうと、考えられる限界まで造りこんでいた。


「それでは、リリさんとネルさんには1階部分で展開するお菓子販売をメインに接客してもらい、セシリアには2階部分で雑貨販売してもらう事にします。セシリアは事情により身体や記憶にぎこちない部分があるかもしれませんが気にせずお願いします」


「はい、それはシーラさんからも言われていますから大丈夫です。」

「私も了解しているぽん」


「あと店名は【セシリアショップ】にします。それと登録の関係上、セシリアを店長にしましたが、セシリアと僕が共同経営みたいな形になります。だから、何かトラブルがあれば僕かセシリアに相談して下さい。一応オープン予定は来週にしますが、最初は宣伝をしないので暇になるかもしれないけど給与はしっかりと払えるので心配しないで下さい」


「お店の宣伝をしなくて経営は大丈夫なんですか?」


「お菓子を作るのが僕だけだから、あまり忙しいのも困るし、たぶん露店時の固定客が来ると売上は大丈夫かなと考えてます。」


「私はお菓子が食べられて、給与が貰えれば頑張るぽん!」


「お菓子の販売するものは1ヶ月単位で表を作り、売り出すお菓子を決めておきます。1日数種類を30個の限定販売にします。あと余裕があれば個別での大口注文も受けるけど、その時はセシリアに聞いてください。」


「わかりました。」

「わかったぽん!」


 たぶん、例のダンディー執事と女性騎士の人が露店時のお菓子をほとんど買い占めていたから、多分セシリアショップにも来るだろう、そして2階のアクセサリーで利益を出す感じかな?


「レイさん、質問があります」


「はい、なんでしょうか?」


リリさんは質問があるみたいなので聞いてみる。


お店の経営なんて初めてだから、何か抜けていることはあるだろう。


「レイさんのことは何て呼べば良いですか? オーナーとかですか?」


「ああ、呼び方か……僕としては何でも良いんだけど、セシリアは店長だし、僕はオーナーにして貰おうかな。」


「分かりました。それと統一の制服などはあるのでしょうか?」


「そっか、制服のことは失念していたな……制服をどうするかな……?」


またしても服のことを忘れていた。


セシリアの服の時もそうだけど、服に無頓着なせいか何故か忘れがちなんだよな……


「まだ決まっていないのでしたら、セシリア店長が着ているみたいな可愛らしいメイド服が着てみたいです。」


「私もその服が可愛いと思ったぽん!」


「メイド服が気に入るのは想定外ですね……それでしたら、セシリアの着ているメイド服の黒い部分を赤とピンクに変えて明るいイメージにしても良いですか? その方がお菓子売り場の雰囲気に合うと思います。セシリアの方は雑貨だから黒のままにしよう。」


「確かに店の外観もお菓子の家ですから、ピンクの方が似合いますね!」


「私もそれが良いぽん!」


 これでお菓子売り場にカフェを併設したら、まんまメイドカフェみたいだな……。



 ☆



【セシリアショップ】オープンの日。


 近隣の挨拶周りでお菓子を配布したのが噂になっていたらしく、オープン1時間でお菓子は完売していた。


「やっぱりレイさんのお菓子は中毒性があるから、一度食べたら買っちゃいますよね。」


「まさか、近所の主婦だけで完売は予想外だぽん。」


「確かに、近所の主婦を失念していたよ……お客さんが一気に来るから包装してある焼き菓子を常時置くかな?」


「それは良いかもしれませんね。」


「焼き菓子なら大量生産に向くぽん。」



 そんな話をしていると、ダンディー執事が来店してきた。


 あれ?


 まだ露店でセシリアショップの話はしていなかったはずだけど……何故、ここがわかった?


「こちらで至高のスイーツが販売すると聞いて来ました。」


ってか、ダンディー執事の諜報能力が高すぎて怖いんだけど……


「申し訳ございません。本日分の販売は終了しました。」


 リリさんがダンディー執事に説明すると、膝から崩れ落ちた。


「な、なんだと……私としたことがなんたる失態」


「な、泣いてる……?」


 ダンディー執事のガチな男泣きにリリさんがドン引きしていた。


「……リリさん、ちょっとこちらへ」


 リリさんをこっそり呼んで、明日以降なら個別注文も出来ると伝える。


「お客様、数量によりますが個別注文も受けられます。いかが致しますか?」


「おお! 神は私を見捨てなかった!」


ダンディー執事は泣きながら天を仰ぐ仕草をする。


「………。」


そして、リリさんはさらにドン引きする……


ああ、あの営業スマイルが完璧なリリさんの表情が引きつっている。


「はっ……すいませんお嬢さん、少し取り乱しました。個別注文の件は是非お願いします。可能なら毎日20個は欲しいのですが……。」


「確認して参ります。」



 ……。



「毎日は難しく、1週間に各5種類の50個なら大丈夫だそうです。」


「分かりました。それでお願いします。受け取りは代理の者がお金と共に持って来ます。」


「わかりました。3日後には50個用意しておきます。専用の保冷箱を付けますから、必ずそれに保存してください。次の商品の引き渡し時には保冷箱が必要になりますのでお忘れなく。破損時も保冷箱は回収致します。」


「わかりました。必ず持参させます。」





 そして予想通りだが、ダンディー執事からの大量個別注文が入るのだった。

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