第66話 1年生の終わりと成績表

 1年生の年間行事の中に遠足後、文化祭というの行事が通常年なら予定されているらしいが、今年は遠足での事件後は学園側がバタバタしていて一年生は中止になったらしい。


 運動会は途中で中止、遠足では魔狼襲撃事件、文化祭は中止。これだけ見るとなんかトラブルばかりの1年である。


 こんなにトラブルが続くのは学園創設以来初めてらしく、入学式でしか見たこと無い学園長は心労の為に吐血して入院中みたいだ。


 クラスメイトの誰かがトラブルメーカーなのか? ……みんな考えているかもしれないが、そんな事は考えてはいけない。それは誰も幸せにならなそうだから……。


ちなみに遠足後に実施された聖教会による特別指導者再教育プログラムという名のスーパーハードプログラムに参加した先生方は、あまりの辛さにほとんどの人が痩せ、中には倒れて最後までプログラムを実行出来なかった先生も数名居たらしい。


ロナルド先生の話では聖教会による倫理の話から始まり、指導者として必要な知識や技術を徹底的に叩き込まれたみたいだ。


ロナルド先生はちょっと痩せた事によりワイルドさが増してモテるようになったと、ウカれ気味に生徒の前で笑っていたが……本当に再教育プログラムは成功しているのだろうか?



 ☆


「今日はこれくらいにしようか」


自分はコーデリアさんとシンシアさんに朝トレーニングの終了を伝える。


「そうですね、そろそろ学園にいく準備をしなくてはいけませんからね」


「はあ…はあ…、疲れた……」


「シンシアさんは最近、凄く頑張ってるよね。僕も負けないようにしないとな」


シンシアさんは荒い息づかいで地面に座り込む。


自分たち3人は朝トレーニングのおかげで、最初にやっていたトレーニング量では疲れなくなったので各自が自分に合った量のトレーニングをする様にしたのだけど、シンシアさんは自分たちより多めのトレーニング量に設定して頑張っていた。


自分も増やしたいところだけど、朝にやり過ぎると夕方には眠くなってしまい、【魔導操作】などの訓練が出来なくなってしまうので、朝トレーニングはちょっと余力を残した感じで終わらせていた。


「はい、私が目標としている冒険者になり、超古代文明の遺跡は長いと数週間単位の探索になるらしいので、今のうちから体力をつけておこうと思いまして……」


「なるほどね……コーデリアさんはスイーツ店で働きたいんだっけ?」


シンシアさんの目標はかなり大変そうだけど、自分としても超古代文明の探索などは夢があって楽しそうだなと思った。


自分も冒険者になって世界を見て回りたいと思っているから、似たようなものだ。


その点、コーデリアさんの夢はシンシアさんとは真逆な感じで、これまた良いと思った。


というか、コーデリアさんの夢は自分のスキルと相性は凄く良いだろうなと思う。


「はい、最終目標は自分のお店を開くことですけど、私もシンシアみたいに冒険者になって世界各地のスイーツを食べて回る旅も良いかなと思っています」


「ああ、それは凄く良いかも。僕も冒険者になって世界各地を回ってみたいしね。最終的には強くなって魔大陸を支配下に……」


「レイくん……それは魔人族と戦争になっちゃいますよ?」


ふむ……魔人族が自分のペンギン覇道を阻止するのならば……


「野望の為には戦争も仕方ないかも……」


「冗談ですよね……?」


コーデリアさんがちょっと引き気味で訪ねてくる。


「あはは、もちろん冗談だよ」


「「……」」


「いや、本当に冗談だよ? まあ、世界のペンギンを絶滅させると言い出す国があれば戦争だけどね!」


その時は自分も容赦なく戦おう。



 ☆



 冬になり遂にマイホームの住宅部と店舗部が完成した。


 住宅は目立たないように普通の外見にしている。

 外壁はクリーム色のレンガ風になっているボードを採用して雨で汚れが落ちる特殊加工をしている。

 屋根にも特殊加工されたボードが張られていて少しの衝撃では割れないようにしてある。

 人族の平均寿命が100年位なので一応100年は大丈夫な作りにしてある。


 店舗部は見た目が夢のお菓子ハウスになっている。

 家というか小さな城かな……。

 本来はひっそりとしたレンガ風の店舗予定だったが、自分のデザイナー魂が悪さをして外見だけ遊んでみた。

 外壁にはクッキー型のボードを張り付けてあり、窓や屋根部分はいろいろなお菓子の形をしている。

 色は周りの住宅に馴染むようにしてあるがインパクトは凄い事になっている。

 普通の店舗に特殊加工のボードを張って遊んでいるだけなので外観にクレームが入れば直ぐに変更出来るようにしてある。


 住宅部の入り口付近に小さな噴水を作り、リラクゼーション効果のあるポーションを循環させて流している。



 まだ店舗を作っただけで、人を雇ったり商品の検討も終わって無いからオープン予定は半年後の夏頃を予定している。


 今のところ1階のお菓子部は日替わりのお菓子を1種類だけ販売して席などは作らずに店頭販売のみにするつもりだ。


 2階の雑貨部は適当に失敗したポーションやアクセサリーを置いて雑貨屋の雰囲気を出していくつもりだ。

 失敗作と言っても見た目は悪くなく、効果が期待したものにならなかっただけで欲しい人には売れるだろう。


 ちなみに【虹結晶】のセシリアは住宅地下1階に作ってある研究室に移動してある。



 ☆



 そんな感じで冬が過ぎ、学園の1年生が終わろうとしていた。


 1年生が終わるなら付いてくるものが成績表。


 この時期だけはほとんどの人が自宅に帰される。


うちのクラスではコーデリアさん、シンシアさん、アランは家が遠すぎるので、いつも通り学園の寮に泊まるみたいだ。


 冬休み期間は2ヶ月間もあるので戻るときは2年生になっている。


 という事で自分、ブラット、エレナは帰るための馬車に乗っている。


「はぁ~。やべえ、オヤジに怒られる……。」


「そんなに悪かったの?」


「たぶんブラットは計算とか文字が壊滅状態にゃ~。」


「ああ、ブラットの両親は鍛冶屋と食堂で商売してるから計算とか文字がダメだと厳しそうだね。」


「そうなんだよな……。」


「私は単純に勉強不足を怒られると思うにゃ。」


「というかエレナが勉強してるところは見たことあるけど、ブラットの勉強してるところを見たことが無いんだけど?」


「私も放課後のブラットは修練所でしか見たこと無いにゃ。」


「……俺もしてないけど、レイも勉強してなくね?」


「僕は入学前から低学年部分の勉強は終わっているんだよ……。」


 正確に言えば高学年の基礎部分もだけどね……。


「ずるいな……。」


ずるいって……


確かに前世の知識があるから一部のものに関してはずるいかもしれないが、ほとんどは転生後に勉強して得た知識なので、ずるい訳ではない。


「そう言えばレイの成績はどうだったにゃ?」


「……成績部分は良かったよ?」


「成績以外に何があるんだ?」


「担任のコメント欄が酷いかもしれない。」


「そんなことあるのか……? ちなみに何て書いてあるんだ?」


「『落ち着きがなく、もう少し考えてから行動しましょう。 他人の意見をもっと聞くと良いでしょう。 成績は良いですが、授業中に別のことを考えてるように見られますので……』その後もいろいろと書かれてる。」


「……結構な事を書かれてるな。」


「……そうだにゃ。」




 ☆



 家に着いたら両親と妹が出迎えてくれた。


「おかえり! レイ。」

「レイ、おかえりなさいね。」

「にぃさま。おかえり~」


「ただいま、お父さんは久しぶりだね。」


「ちょうど仕事のキリが良くてな。レイの帰宅に間に合って良かったよ。」


「にぃさま~。」


 妹が腰にしがみついてきて離れない。


妹のフローラは自分が家の中に居るときはほとんどしがみついていたりする。

当初は成長すれば離れていくかなと思っていたけど、自分にだけフローラは甘えてくる。

まあ、自分も可愛い妹に嫌われるよりは好かれている方が良いので気にはしない。


「相変わらずフローラは可愛いな~。」


「えへへ~。」


 可愛いから頭をナデナデする。

 なんかコーデリアさんやシンシアさんより背が高いな?


「フローラは大きくなったね。」


「うん!」


 将来は自分と同じ位の身長になるかもしれないな。


「ほら、フローラ。レイにばかりじゃなく、久しぶりのお父さんに」


「やっ!」


フローラは一瞬お父さんの方を見たが、拒絶の反応と共にすぐ自分の方に向き直る。


「ぐほっ……」


お父さんにフローラの精神攻撃がクリティカルヒットしたらしく、お父さんは膝から崩れ落ちる。


「な、何故だ……」


自分もフローラと会うのは数週間振りだけど、お父さんも同じくらいフローラと会っていなかったみたいなので、もう少しフローラとコミュニケーションを取りたかったのだろうが、まさかの拒絶反応とは。


ちょっとお父さんが可哀想に思えてきたな……


「フローラ、お父さんにも優しくしないと可哀想だよ?」


「にぃさまがいい!」


「それは嬉しいけど、お父さんにも……」


「にぃさまがいい! ダメ?」


フローラが悲しそうな表情で自分のことを見てくる……うむ


「それなら仕方ないね……」


自分はフローラの頭を撫でながら、お父さんのことは諦めることにした。



 ☆



 夕食の時にお父さんから遠足時の事を聞かれる。


「レイは魔狼に襲われて怖くなかったか?」


「数が多くて少し怖かったけど、大丈夫だったよ。」


「あの山には本来、そんな大量の魔狼が出る様な場所ではない安全な山だった筈なんだが、大量に出たって事は魔素がかなり濃くなってるのかもな。 今度俺達のパーティーが暇な時に周りの魔獣を全滅させておくか。」


「私が学園の近くに住んでいたら魔狼位は軽く全滅したのにね~。」


「えっ? お母さんは回復専門の魔法師だよね?」


「ん? レイ、ソフィアの通り名は【死神メイサー】って……。 いや、忘れてくれ。」


 お母さんから危ない気配がしたのをお父さんは敏感に察知したらしく途中で言うのを止めたが、もう既にほとんど話した後である……。


それにしても夫婦揃って中二病みたいな異名ばかりなんだなと思った……この世界がそうなのか?


「まあ、いいわ。私達の強さになれば魔狼は雑魚だから余裕よ?」


「魔狼が雑魚なんだ?」


「そうだな。魔狼の単体脅威度はかなり低いぞ。だから初心者冒険者でも余裕で討伐可能レベルなんだが……今回みたいに群れてれば少し難易度は上がるが、所詮は魔狼だからな、苦戦するレベルではないな。ベテラン冒険者になればいくら来ても負けるやつはいないな。まあ、今回はレイとか子供がいたから先生達は大変だっただろうがな」


「お父さん達は凄いんだね~。」


「まあ、俺も【魔剣召喚】が無くてもそこそこ強いからな。」


「【魔剣召喚】を使ったら?」


「はっはっは、【魔剣召喚】を使ったら魔狼の山ごと無くなるよ……」


「それはヤバいね……。」


「そう言えばレイ、成績表は?」


「これです……。」


 成績表をお母さんに渡す。


「……レイ。」


「はい。お母さん。」


「この担任のコメント欄は何かしら?」



 ……。


 両親に怒られた。




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