第65話 マーティナ①

【マーティナ視点】


私は先日の遠足から帰ってきてから、日課にしているトレーニングの量を倍に増やしていた。


クラスの中で前衛職なのに明らかに他のクラスメイトより劣っており、特にエレナ、ブラットくん、レイくんの3人は大活躍しているのに対して、私は同級生の足を引っ張ってしまい、そのせいでブルーノくんの背中に大きな傷を残すことになってしまった……。


 私の将来の夢は《チェスガン》を拠点にしている王国の女性騎士団に入ることだけに、同級生のブルーノくんに庇われて怪我を負わせたのがショックだった。


今まで私なりに努力してきたつもりだったのだけど……私の努力は足りなかったのか、それとも私には向いていないのか……


あっ、そろそろブルーノくんの面会が可能になる時間だから行かないと。


ブルーノくんは3日間病院側の判断で面会謝絶になっていて、今日から面会が可能になるのだ。



 ☆


 ブルーノくんの病室前に行くと、ブルーノくんに会うのが怖くなってくる……ても勇気を出して病室にはいる。


「あれ? マーティナさん、来てくれたんだ? わざわざありがとう」


病室に入ると、ブルーノくんがひとりだけベットに座っていた。


ブルーノくんはいつも爽やかな笑顔でいる事が多いのだが、今日の笑顔は更に爽やかに感じた。


私のせいで怪我をしたのに笑顔で迎えてくれるなんて……ますます申し訳なくなる。


だけど、私は最初から考えていた謝罪をする。


「ブルーノくん、ごめんなさい。私があの場面で魔狼に気が付いていれば、ブルーノくんの背中に大きな傷を残さなかったのに……。」


「マーティナさん、俺のこの傷は気にしなくて良いよ。今は目立つかもしれないけど、今後もどこかで戦っていたら傷なんて増えるしさ……それに姉が珍しく女性を護ったことを誉められたくらいだしさ。姉が誉めてくれるのを見れただけラッキーかなと思っているくらいだよ」


ブルーノくんは優しいなと思った。


「でも、やっぱり……」


「本当に気にしなくても良いんだけどなぁ。俺もレイみたいな才能があればこんな事にはならなかったんだよな……」


「レイくん本人はいつも才能が無いって言って凄い努力しているよね」


レイくんは誰が見ても才能の塊みたいな人だと思うんだけど、本人だけが才能が無いと本気で思っているんだよね……


「レイの場合はエレナやブラットみたいな近接戦闘が得意な幼なじみと比べるから良くないんだと思うんだよね……ロナルド先生も言っていたけど、【魔法使い】として見たら既に冒険者としてやっていけるレベルの強さはあるらしいよ」


私達と同じ年で冒険者レベルの強さ……


「それは凄いですね……でも、それならあそこまで才能の無いと勘違いするのは何でなんですかね?」


「それはレイの【職種】が【魔法剣士】だからじゃない? 実際、レイの身体能力は酷いものだからね……何で【魔法使い】じゃなくて【魔法剣士】なのか謎だよね」


「確かにレイくんって剣は持っているけど、剣を振り回しているイメージは無いですよね……あれ? レイくんの戦う姿がイメージ出来ない?」


「ああ、マーティナさんはレイと戦ってみたこと無いの?」


「はい、レイくんとは無いですね……ブラットくんやエレナにはあっと言う間に負けましたけど」


「多分、ブラットに勝てないとレイには勝てないと思うよ。というか、俺は何もせずに負けてから戦ったことないけどね……」


「ブルーノくんが何もせずに負けたんですか?」


その話に私はびっくりする。


ブルーノくんは確かブラットくんみたいな直接攻撃してくる人よりも【魔法使い】みたいな人の方が得意だったはず……


「レイの攻撃は見えないんだよ……エレナやブラットは別として、ロナルド先生みたいな元冒険者でもあの見えない攻撃を戦闘中に回避するのは難しいらしいよ。しかも、変幻自在でエレナとの模擬戦を見る感じだと数十の見えない攻撃を回避しながら近づかないとダメらしい」


「……それ、私にも無理かな」


というか、どうやって見えない攻撃を回避するのだろうか?


エレナみたいな【野生の勘】で?


そもそもエレナの【野生の勘】もおかしいなと思う。


スキル名からしたら、ちょっと鋭くなるかなって思える感じだけど、実際は未来が見えているんじゃ無いかと思う時があるんだよね。


この前もシンシアさんがつまづいて転けるからと、30秒前にあそこは危ないから避けるように言ったりとしていた。


「あれほどあっさりと負けたのも姉に挑んだ時以来かな……」


「そう言えばブルーノくんにはお姉さんがいるんですね? 私は一人っ子だから、羨ましいです。」


「うん、年の離れた12歳上の姉がいるよ。数年前に創設された王国女性騎士団に入隊しているよ。」


「女性騎士団! ブルーノくん! 私の夢は女性騎士団に入る事なんです!」


「おお……そうなんだね。俺も将来は騎士団に入りたいんだよ。」


「そうだったんですね、夢が一緒の人は初めてです!」


 ブルーノくんが微笑みながら……


「マーティナさんがやっと笑ってくれたね。マーティナさんは笑顔の方が可愛いよ。」


「!?」


 ヤバい。


 ブルーノくんみたいなイケメンに可愛いなんて言われたら……。


「どうしたの? 急に顔が赤くなったよ?」


「な、何でもないです!」


「そう? それなら良いけど。」


「そう言えば、ブルーノくんの退院はいつ頃なんですか?」


「うーん、1週間位って言われたかな?」


「それでしたら毎日お見舞いに来ます! 何か欲しいものはありますか?」


「欲しいものは特にないかな。それに毎日は悪いよ。」


「大丈夫、せめてお見舞い位はさせて。」


「わかったよ。それならよろしくね。」



 それから1週間、マーティナと他のお見舞い達との熾烈な戦いが続いた……。




 ☆



 1週間が経過して、退院前日。


「やっと明日で退院ですね。思ったより傷が残らなそうですね?」


「そうだね、聖教会から回復魔法師が来てくれたのも大きいかもね。」


 回復専門の魔法師なんて完全に勝ち組の職種と呼ばれていた。凄いなぁと思っていたら…


 ブルーノくんそっくりな白銀色の髪と金色の瞳をした大人の女性が入ってきた。


「おっ、退院前日にやっと噂の女の子に会えたね~。 騎士団の仕事があるといつも病院の面会ギリギリになっちゃうんだよね~。」


「お姉さん、まずは自己紹介しないと……。」


「そうだったね~。私はブルーノの姉でアリエルって言うの。よろしくね~。」


「は、はじめまして! マーティナです! 王国女性騎士団に憧れています!」


「嬉しいね~。でも私も入ったばかりだから偉そうには出来ないなぁ。最近は副隊長のお使いに行かされたりするかなぁ~。そうだ今度の休みにブルーノと一緒に騎士団へ遊びに来る?」


「えっ! 是非行きたいです!」


「じゃあ、よろしくね~。」





私はブルーノくんのお姉さんと話をしたあと、ウキウキで寮に戻っていたら、途中の帰り道で知らない女性に声をかけられた。


「ちょっといいかな?」


話をしてきた女性は、最初は聖教会の人かな?と思わせる黒っぽい服を着た人で、ブルーノくんのお姉さんを見た後だからか、ずいぶんと堅い雰囲気の人だなと思った。


「はい、なんですか?」


「あなたって凄い才能があるわね」


「えっ? 私がですか? 何かの間違えじゃないですか?」


私に才能があるって……間違いだよね?


「間違いなんてことは無いですよ。私が見る限りあなたほど才能のある子供は見たことが無いわよ」


「そんな……私は今まで才能があるだなんて言われたことなんて一度も無かったですよ? 実際、クラスでも足を引っ張っりましたし……」


「それはまだあなたが才能を開花させられていないからですよ」


「才能の開花……」


女性は真剣な表情で、私には才能があるけど開花されていないだけだと力説してくれていた。


そう言えば、この人は誰なのだろう?


「ああ、私としたことが……あまりにも才能があったので自己紹介するのを忘れていたわ。私は人材開発総合企業【バベル】の人材発掘調査員、マグナ・ドローチです。今日は支部の無い【チェスガン】に初めて来たのですが……私はついているかもしれませんね」


「人材開発……?」


私は聞き慣れない言葉を言うマグナさんに戸惑う。


「はい、私達【バベル】は無償で未発見の才能ある人材を開花させるお手伝いをさせて貰っている会社です。お金は一切かからずに才能を開花出来ますが、どうですか?」


「えっと、急にどうと言われても……」


「ああ、すいませんね。まだ才能の開花方法を教えていませんでしたね。方法は簡単で、【バベル】の提供する人体に完全無害な薬品を定期的に注射で投与するだけで良いのです!」


私はマグナさんの勢いに押されながらも、凄く魅力的な話だなと思った。


完全無害な薬品というものを注射するだけで才能が開花するだなんて……


だけど、子供の私ひとりでそんなことを決めて良いのかなと迷っていた。


現在、私の親はエルフの里みたいに遠くもないけど、【チェスガン】には私しか来ていなかった。


「学園の先生に聞いてからでも良いですか?」


「ああ、そうですよね……でもこの話を他人に話すとなると、この話は無かったことになります」


「えっ? 何故ですか?」


「それは才能のある人以外には話してはいけないという会社の決まりなんですよ。我々は才能が埋もれてしまうのを防ぎ活躍してもらうのが目的なのですが、才能の無い方の中にはそれが納得出来ない方も多いみたいで、以前にとある組織から才能ある人材が拉致されてしまう事件が多発しまして、それ以降は他人には秘密にしてもらっています。他人に話したのが発覚し次第、我々は今後一切あなたの前に現れることはありません」


「そ、そうなんですね……」


話の半分以上が分からなかったけど、妬みみたいなそういうものがあるのかなと納得した……


「それで、どうしますか? 我々の支援を受けるか今決めて下さい」


「えっと……」


私の選択は……


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