第63話 遠足④

 クラスメイト達から別れて、かなりの距離を魔狼から逃げながら走っていた。


【脱兎のブーツ】はぶっつけ本番だったので【鑑定】結果を信じた賭みたいなものだったが、逃げる事に関しては【脱兎のブーツ】はウルトラレア品質位のぶっ壊れ性能だから安心して道中逃げることが出来た。


 しかも体力や脚の疲労に耐えられるかなど不安があったのだけど、【脱兎のブーツ】を履いて逃げている間はほとんど体力や脚などの疲労を一切感じない意味が分からないレベルのことが起きていた。


 そして後ろを少し見ると、かなりの数の魔狼が迫って来てビビった。


 軽く見ても80匹は超えてる……。




 迎え撃つ場所は出来れば視界が開けていて一本道みたいなところが良いと思ったが、さっきから走っているがなかなか良いところがない。


全力で放つ雷属性の【魔導弾】は魔力的には周りの魔素を使うから何発でも撃てるが制御の面で連射出来ない欠点もあった。


 ちなみに魔狼に向かって【鎮静化ポーション小】を投げたが、全く効かない。

 まるで親の敵の様な執拗さだ……先生の話だと魔狼はほとんど山頂付近から動かないから安心だと言っていたに、この魔狼のしつこさは異常だと思う、誰かが魔狼に嫌がらせでもしたのではないかというレベルだ。


 こういうピンチな時にラノベなどに出てくる主人公ならは自分の中に流れる才能が覚醒して無双するところだが、そういうことは今のところ無さそうだ。




『ますたー……だいじょうぶですか?』


セシリアが心配して話しかけてくれた。


セシリアとは視界を共有しているから、魔狼に追われているのを見て心配してくれているみたいだ。


しかし、心配してくれるだなんて、セシリアはもうほとんど人族と変わらないレベルの人格が形成されているな。


『大量な魔狼に追われて絶賛ピンチ中だよ。』


『……そのようですね。』


『だけど、ちょうど寂しかったから話が出来て助かるよ。』


『ますたーはわりとよゆうがあるようにおもえますね。』


『確かにそうかもしれないけど、最終的な隠し玉もあるからね。』


『?』


『まだやりたいこともいっぱいあるから魔狼には邪魔はさせないよ……。』


『しなないでくださいね……。』


『うん、頑張るよ……。』


不吉なフラグを立てるのは止めて欲しいな……




バキンッ……


えっ、足元から嫌な音が聞こえてきたぞ……


バキンッ……


早く目的に適した場所を探さないとヤバいかもしれないな……


おっ、あそこなんていいかもしれないな。


 少し走るとちょうど良い?崖があった。


 見る人によっては追い詰められているが、あそこが良いだろう。



 逃げている最中に迎撃の準備はしっかりとしていたので、迎撃する場所さえ見つけられば数秒で撃てる様にしていた。


迎撃方法は【魔導操作】で【魔導圧縮銃】の巨大版を作り、雷属性の【魔導弾】を制御出来る範囲で圧縮する。そして銃身を長めに作り、魔狼達に固定、臨界まで圧縮した【魔導弾】の魔狼側の銃身を解放して撃ち出す。


普通の人には走りながらいくつもの複雑な【魔力操作】が必要なスキル外制御は無理らしいが、自分には【パラレル思考】という複数の思考を同時に出来るスキルがあるため、可能になっていた。


とっておいて良かった【パラレル思考】。


それにしても、透明ではあるが銃の巨大版を初めて作ってみたけど、これはもう固定砲台だな。


キュィーーーン


雷属性の【魔導弾】をギリギリまで圧縮していくと、耳がキーンとなりそうな音が響く。


全ての魔狼が後もう少しで攻撃の斜線上に入る。


もう少し……


魔狼があとどれくらいいるのか分からないが、逃げられて仲間を呼ばれる事だけは避けねばならないので、可能な限り一度で全ての魔狼を倒したい。


よし!


今だっ!!


自分は魔狼たちに向かって超圧縮された【魔導弾】を発射する。


 ズドーーーン!!


眩しい!?


激しい音と共に自分の視界は一緒、真っ白になる。


 ズガガガガ………


そして、視界が回復した時には大量の砂埃が舞っていた……


一応、自分は魔狼が砂埃の中から突進してくるのを警戒して【魔導壁】を多重展開しておく。


徐々に砂埃がはれていく……今のところ魔狼が突っ込んでくる事は無いみたいだ。


あっ。


 ……綺麗サッパリ魔狼達は消えていた。


 そして、魔狼達が攻めてきていた地面に大きく抉れ、かなり遠くまで一本道が出来ていた。


 これ…… ヤバくね?


 未だに耳を塞いでいたのにキンキンする。


 魔狼を倒したことで緊張が切れ、自分はその場に大の字に横になる。


 ああ、何とか無事に終わったな……。


 ブルーノとかみんな無事だと良いな。


 全ての魔狼を引っ張れたかは解らないけど、かなりは楽になったはずだ。



『セシリア、無事終わったよ。』


『おつかれさまです。 ますたー。』


『ちょっとやりすぎたから、あとが怖いよ。』


『ますたーがぶじでうれしいです。』


『……ありがとう。』






 ☆



 自分は歩いて下山していると担任のロナルド先生を発見した。


 既にロナルド先生にはひとりで囮になり魔狼を殲滅したがバレており、めちゃくちゃ怒られた。


 まあ、これは怒られて当然か……。


 ロナルド先生達はあれから魔狼を殲滅して後を追ったらしい。


 山を抜けた位で生徒達と合流するが、自分が囮になったのを聞いてロナルド先生だけ探しに来たんだとか。


 ブルーノに関してはわからないけど、ロナルド先生と一緒にいた魔法師の人が回復魔法も出来る凄い人らしい。


 だから街に着くまでは大丈夫だろうと言っていた。


「本当はもっと怒りたいが……レイのおかげでクラスメイト達が無事だったから怒りづらい。」


「本当にすいません。」


「いや、無事なら良いんだ。まあ、なんだ良くやった」


 頭を撫でられた。


「後は友達達にも心配させたから謝るんだぞ。特にコーデリア、シンシア、マーティナが泣いていたな。何故かブラットとエレナは大丈夫だからほっとけば歩いて帰ってくると苦笑いしてたな……。」


「泣いていたのか、気が重いな……。」


「ちなみに今回の事件は学園の責任だが、みんなの両親にも謝罪と説明しないといけないから、両親にもバレるぞ。」


「……先生。」


「なんだ?」


「僕は見つからなかったって事にしてもらって逃げて良いですか?」


「ダメに決まってるだろ生徒の怪我だけでも減給なのに、そのうえ行方不明なんて居たらクビになるわ!」


「ですよね~。」




 諦めて学園に向かうのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーー


 名前・レイ(6歳)

 状態・良好

 属性・雷

 職種・魔導技師3.3 魔導剣士4.6

 種族・人族


 パッシブ・人見知り、建築、土木、料理

      素材の極み、鍛冶、パラレル思考

      共感覚、魔導科学


 アクティブ・魔導操作、鑑定、クリーン、ストレージ

       武器強化、雷属性付与

       魔導工房、魔導具作成、魔導弾

       魔導手、魔導壁、魔導剣

       圧縮魔導砲


 固有スキル・ジョブホッパー

       鑑定の魔眼


 装備・

 神木の小太刀

 魔導圧縮銃

 印象阻害の銀ブレスレット

 容姿変更ペンダント

 身代わりネックレス

 重力カウンターの指輪

 雷属性擬態の指輪

 脱兎のブーツ(破壊)



 ーーーーーーーーーーーーーーー






「例の計画の報告書がまだ出ていないが、どうなった? ちゃんと始末は出来たんだろう? 早く報告書を書いておけよ」


「いや、例の計画は失敗した。」


「は? 何故だ? あの学園の教師に魔狼の大群を捌く程の実力はないだろう?」


「原因は調査中だ……報告書は調査が終わり次第書く」


「調査も何も……監視者はどうした? 監視者からの報告をまとめるだけだろう」


「あまり近くで監視すると、何故か行方不明になるのだ……だから、今回は監視者は付かず、実行役が魔狼の扇動するまでしかしていない」


「なら次はもっと強い魔獣をぶつけろ。何なら魔竜レベルをぶつければ確実だろう」


「チェスガン周辺に魔竜の生息地なんてないぞ?」


「そんなものテイムしてくれば良いだろう?」


「いや、そんな不自然な事をしたらやつの親に人為的だとバレるだろ……バレたら、それこそ組織ごと潰されるぞ。またのタイミングを待て……」


「くそっ、仕方ないか……」

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