第62話 遠足③
キャンプ場で謎にクオリティの高いカレーをみんなで食べ終わり、皿などを片付けをしているとエレナが叫んだ。
「あっちから魔獣の気配がするにゃ!」
エレナが叫ぶ声にロナルド先生がいち早く反応し、生徒たちに指示を出す。
「確かに魔獣の気配だ! みんな簡単に荷物をまとめて逃げるぞ! 先生がたは生徒の下山誘導をお願いします! 生徒は戦えるとしても前には出るなよ!」
みんな慌てながらも、先生達の指示を聞きながら逃げる準備をする。
出ないと言われていた魔獣が出てくるとは……
魔犬ならまだ良いのだが、この森には魔狼がいるって言うしな……
自分たちは先生に誘導されながら、下山していると後ろから魔獣が迫ってきた。
「くそっ、やっぱり魔狼か……何故、山頂付近にしかいない筈の魔狼がここにいるんだよ!」
ロナルド先生は珍しく、生徒たちの前で悪態をつく。
それだけ先生もピリピリしているのだろう。
しばらくしたら凶暴な雰囲気の魔狼がが数匹見える距離にまで迫ってきた……。
「魔狼どもめ……数が多いな!」
「この数の魔狼を相手にしながら守るのは無理だ! ここは俺と2人の先生は足止めだ。魔狼位の強さなら子供達さえ逃げてくれれば問題無く倒せる。」
「あなた達は私とゆっくり逃げるわよ。急に逃げると狙われて危ないからね。」
先生達が細かく逃げる指示をしてくれる。
戦ってくれてる先生達は担任のロナルド先生と他は剣士と魔法師の3人。
問題なく魔狼達の攻撃を捌いては倒し、注意を集めている。
流石は大人の先生、自分たちよりは確実に強い。
「もう少し先生達に注意が向いたら逃げるわよ。 バラバラになって逃げたら危ないから先生達に着いてきてね。」
「「はい……」」
逃げる側の先生はシーフっぽい軽装の男性と行きに話した巨乳の魔法師の2人。
「結婚もしてないのに死ねないわね……。」
「先生……それダメなフラグです……。」
……
「合図をしたら逃げるぞ。 いけ……。」
みんな気付かれないように逃げ始めた。
☆
逃げ始めて1時間位が経過した時にシンシアさんが少し遅れ始める。
元々疲れていたところを【パワフルポーション】で一時的に元気にしていただけだからな……まあ、たぶん体力的なもの以外にも緊張から来る疲れもあるんだろうな……自分も結構体力的に厳しくなってきたな。
他にもコーデリアさんもちょっと辛そうな顔をしている。
朝トレーニングをやっていなかったと思うと、ゾッとするな……
「ある程度魔狼からは離れただろうから、警戒しながら少し休むぞ……。」
そう思っていたら軽装の先生が休憩の指示を出してくれる。
そして休憩タイミングで自分は先生に提案する。
「先生、ポーション類を持ち込んでいるのですが、みんなに配っても良いですか?」
「ポーションだと? 君は随時と用意がいいな……それで何があるんだ?」
「こんなのがあります。」
【回復ポーション小】20本
【強化ポーション小】10本
【解毒ポーション小】10本
を見せる。
他のはとりあえず良いだろう。
危なくなれば躊躇わず中級ポーションを使うけど、子供がそんなに持ち歩いていたら怪しいからな……。
「いっぱいあるな……よし、これは後で先生が全部買い取るからすぐに生徒達に配るぞ。」
「はい」
【回復ポーション小】2本
【強化ポーション小】1本
【解毒ポーション小】1本
をみんなに配る。
「襲われて危なくなったら迷わず強化ポーションを使うんだ、効果は10分だけだが多少は違う。」
30分休憩を取り、また下山を再開する……。
「よし、いくぞ。あと半分も過ぎれば山は終わる。山さえ出てしまえば魔狼も諦めて帰るかもしれない。やつらの縄張りからは随時と離れているからな」
それから少し休憩したあと、また下山を開始した。
ブラット、エレナはまだまだ元気そうな表情だが、バリー、アラン、ブルーノ、マーティナさんは緊張し過ぎて精神的に参ってそうな感じだ。
そして、コーデリアさん、シンシアさん、クライブは肉体的・精神的に疲れている感じだ。
クライブは身体能力は普通にあるが、戦闘職では無いからか、体力は余りないのかもしれない。
無事に終われば良いなと思いながら下山していると、すんなりとはいかなかった。
「囲まれているな……このまま逃げると追い付かれて後ろから襲われそうだから俺が退治しながら後退する。」
「私が前面の敵を薙払うから着いて来てね。」
「横からの攻撃は各自で警戒するように。」
そして魔狼と先生2人+生徒10名の戦いが始まった。
横から来る魔狼の攻撃はブラット、アラン、ブルーノで防ぎ、エレナ、マーティナさん、バリーが攻撃とサポートをする。
自分、コーデリアさん、シンシアさんが魔法で近寄る魔狼を牽制をして進んだ。
基本的に自分たちは魔狼を倒すのではなく、守りに徹して魔狼を吹き飛ばしたりすれば先生たちがトドメを刺してくれた。
「もう少しだ! 頑張れ!」
ブラットはまだ表情的には大丈夫そうだが……アランとブルーノが既に疲労が限界を超えているかのような表情だ……よく見ると身体にいくつもの怪我も見える。
バキンッ!
アランの方を見ると、持っていた剣が刃の真ん中辺りで折れていた……
そして、そんな限界のアランは魔狼に向かって、持っている金属製の剣を力任せに叩こうとしたら、魔狼に回避され地面にある岩を叩いてしまったみたいだ……
只でさえ肉体的、精神的に疲労困憊のアランは半分に折れた剣を使い、頑張って魔狼の相手をするが……一匹の魔狼に抜かれてしまう。
「ヤバい! 一匹そっちに行った!」
アランを抜けた先にはマーティナさんが……
しかし、ちょうどマーティナさんは反対側のサポートをしていたので、魔狼が接近してくるのが見えていなかった。
「マーティナさん危ない!」
自分は咄嗟に【シールド】を展開しようとするが、このタイミングでは【シールド】もギリギリ間に合わない!
「えっ……?」
マーティナさんが自分の声に反応し、振り返った時には既に魔狼の爪がマーティナさんの顔を目指して襲いかかっていた……ヤバい!と思った瞬間、ブルーノがマーティナさんを抱きつくようにして魔狼から庇う。
「ぐあっ!」
マーティナさんを庇ったブルーノの背中にバッサリと魔狼の爪が食い込む。
「くそっ!」
自分は【シールド】をキャンセルし、至近距離から魔狼にチャージ済みの魔導圧縮銃をぶっ放して倒す。
そして急いでブルーノに駆け寄るが傷口がかなりひどい事になっていた。
この怪我にポーションは……ポーションだけでは無理だ、傷が酷すぎる……背中の骨が見えている。
「コーデリアさん! ブルーノの回復は出来ますか?」
自分は直ぐにコーデリアさんを呼び、回復出来るか見て貰う。
コーデリアさんは傷口を見て、絶望的な表情をする。
「……やってみますが、ここまでひどいと私の精霊魔法では回復が間に合わないです!」
お母さんみたいなぶっ飛んだ性能の【回復魔法師】ならばあっと言う間に治せてしまうのかもしれないが、コーデリアさんがどのレベルまで治せるかは分からないが、明らかに治せる範囲を超えてしまっているのだろう。
ブルーノの怪我に集中したいが……魔狼は攻撃を待ってくれない、というよりチャンスとみたのか攻撃が激しくなってきた。
とりあえず、自分は魔狼の攻撃を防ぎながら【ストレージ】から中級の回復ポーションを全部出してコーデリアさんに渡す。
「回復ポーションの中級です! これも使ってください。」
効くのかは分からないが、回復ポーションとコーデリアさんの【精霊魔法】の組み合わせでブルーノが治るか試して貰おう。
「っ! わかりました。やってみます。」
その後も魔狼が襲って来るのを捌き続けるがブルーノは一向に良くならない。
ヤバいな……ブルーノが回復しないことには魔狼が次々と襲ってくるこの状況ではみんなで移動することも出来ない。
「なんとか回復ポーションの中級で傷口は安定してますが早く専門の回復師にみせないと危ないです。」
くそっ、こんな時に全力の雷属性を付与した魔導弾が使えれば倒せるけど……それでは確実に周りにいるクラスメイト達まで巻き込んでしまうな……。
あっ、そうか、周りに人が居なければ大丈夫なんだったら自分が魔狼を引きつければ良いのか?
現在【ストレージ】内にある【魔導具】でこの状況を打破できるか考える。
うーん、【魔導具】が自分の想定している性能ならば、何とか出来るかもしれないな……あとは自分の全力攻撃でどこまでいけるかだな。
遠足前に遊び半分で作った【魔導具】がこんなところで役に立つかもしれないな……しかし、無事でも後で絶対怒られるだろうな……。
いや、迷っている場合ではない……
カバンに手を入れ【ストレージ】から【挑発し過ぎる仮面】を取り出す。
【挑発し過ぎる仮面】
仮面を被る姿で敵対心を急激に増加させる。
(敵対心の無い人には効かない。)
この仮面はピエロみたいな顔に、バ~カとかいろいろな悪口が書いてあるもので、悪ふざけで作ったらこんな性能になってしまったから【ストレージ】に封印していたゴミ【魔導具】なんだよな……。
「先生! 僕が総ての魔狼を引き連れて逃げます! なのでブルーノを絶対助けてください!」
「はぁ? こんな時に馬鹿なこと言うな! そんな事を生徒にさせられる訳ないだろ!」
「時間がありません! 説教は後で受けます!」
【挑発し過ぎる仮面】をかぶり、みんなに薄い【シールド】をはる。そして魔狼に弱めの【魔導弾】を広範囲にターゲットして制御無しで大量にバラまく。そうすることで自分に全魔狼の敵対心が乗る。
おお……ヤバい、魔狼全ての敵意がこっちに向くと凄く怖いんだけど……
お父さんやお母さんのキレた圧に比べれば、全く低レベルな殺気なのだろうが、怖いものは怖いな……
あとは【脱兎のブーツ】をはき、自分はその場から全力で逃げる……よし、魔狼は全てついてきているな……そしたら離れて纏めて殲滅だ。
ってか、魔狼の数が多すぎないか?
何故、これほどの数の魔狼が自分たちを襲うのか謎だけど……上手くいくかな?
そして後ろからは微かにコーデリアさんとシンシアさんの悲鳴を聞きながら、自分は魔狼トレインをして逃げた。
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