第61話 遠足②

 今日は自分たちがいる、1年生のAクラスが遠足に来ていた。

 1年生全員で来れば楽なんじゃないかな?と最初は思ったが、護衛する観点から守る生徒は少ない方が良いらしい。


 護衛として同行している普段見たことの無い先生も何人かいる。


 生徒10名に対して先生は5名、先生一人が生徒二人を担当するイメージだろうか。


 まだ1年生は戦闘になってもあまり役には立たないから、護衛役の先生が多いらしい。


「秋だから紅葉が綺麗だね。」


 上を見上げれば綺麗に紅葉した木々がみえたので後ろを歩いているコーデリアさんに話しかける。


「そうですね。私の出身地も森の中でしたが紅葉にはならないのでとても新鮮です。」


エルフと言えば、森の中というイメージだから、紅葉もありそうな気がするけど……?


「森なのに紅葉が無いの?」


もしかして王国みたいに四季がないから紅葉も無いのかな?


「理由はわかりませんが、エルフ族の住む森は常に新緑で、枯れることはないので見た目の変化はほとんど無いですよ。」


「……それはまた凄いね。」


常に葉が枯れない木が沢山ある森か。


そう言う品種の木が自生している森なのか、それともファンタジー的な要因がある森なのだろうか?


「いつか僕もエルフ族のいる森に行ってみたいな」


シンシアさんの里にいる族長に聞きたいこともあるし、将来冒険者になったら行ってみるのも良いなと思った。


「私達エルフ族の森は空気も綺麗で良いところですからお勧めです! まあ、爬虫類が居なければ……更に良いですが……。」


「コーデリアさんは爬虫類が苦手だもんね……。」


「まあ、それ以外は良いところなので是非来て下さい。その時は私が案内しますよ」


「ありがとう。コーデリアさんに案内してもらえたら安心だよ」


やっぱりせっかく異世界に転生したのだから、世界各地を旅して回らないと損だなと思った。


そのためには世界各地にいる凶暴な魔獣を簡単に倒せる位の力は最低限ないとダメだろうなとも思った。



 ☆



「はあ、はあ……」


「シンシアさん、大丈夫?」


「はい……何とか大丈夫です……」


シンシアさんは大丈夫と言いながらも、自分からしたら全然大丈夫には見えなかった。


シンシアさんも自分との朝トレーニングで少しは体力がついてきたのだが、この遠足とは思えない山道は体力的に辛いみたいだ。


「無理そうなら先生に相談したら? 少しは止まって休めるかもよ?」


「いえ、それだと、みんなに迷惑が……かかるので、頑張ります……」


「そっか……あっ」


そうだ。


用意した各種ポーションの他に、レア品質のポーションがあったのを思い出した。


「どうしました?」


「シンシアさん、良かったらこれ飲んでみない? 元気が出るポーションなんだけど」


自分はシンシアさんに【パワフルポーション】というポーションを扱う雑貨屋では見たことのないポーションをシンシアさんに渡す。


「ありがとうございます……ですが、本当に飲んでも良いのですか? 私はお金とかほとんど無いんですが……」


「いやいや、僕が作ったポーションだから気にしなくて良いよ」


「えっ!? レイくんはポーションも作れるのですか? ポーションは特殊な職種の人しか作れないのかと思っていました。」


シンシアさんの言うことは多分正しい、ポーションは基本的に【薬師】【錬金術師】【調合師】【合成師】などそれらに類する職種の人しかまともな性能のポーションは作れないと雑貨屋を人から聞いていた。


「まあ、僕の場合は特殊なスキルがあるから作れるんだけど、内緒ね?」


「は、はい。分かりました。絶対に秘密にします!」


それからシンシアさんは【パワフルポーション】を飲んだら30分位はずっと元気に歩いていた。


このポーションが安定して作れたら売れそうだが、稀にしか作れないから残念だなと思った。



 ☆



 山を登り始めて3時間位が経過した辺りで、自分もそうだがクラスメイトのほとんどが疲れてきたので一旦休憩を取ることになった……。


「そういえば、この山に名前はあるのかな……」


コーデリアさんと休憩中に話していたら、ふと気になったので呟いていた。


前世ならばほとんどの山に名前がありそうだが、この世界の山にも名前はあるのかなと気になった。


「えっと……確か魔狼の山でしたっけ?」


「えっ? 魔狼の住処なの? なんか凄く危ない感じなんだけど……。」


名前からして絶対に魔狼が出る山じゃん!


そして危険な匂いがプンプンするのだが、大丈夫なのか?


「魔狼が生息するのは山頂付近にだけで、遠足範囲に魔狼が出たという記録はなく、居るのは普通の動物だけだから大丈夫よ。」


 コーデリアさんと話をしていたら、横にいた巨乳な女性の先生が教えてくれた。


「そ、そうなんですね。」


 と言いながら無意識で胸に目がいってしまう……。


「……レイくんは胸が大きい人が好きなんですか?」


な、なんだ?


急に寒気と身の危険を感じるのだが……


この感じ、どこかで感じたことがある気がするんだけど、どこだったかな?



 しかし、チラ見しただけのはずなのに、何故コーデリアさんに視線がバレたんだ?


「そうではないよ。無意識に目がいってしまうんだ。潜在的に母性に視線がいくみたいな?」


「納得は出来ませんが……そういうことにしておきますか……」


「……」


ああ、この感じはお母さんみたいなんだな……


お母さんみたいな圧倒的な感じは無いけど、どことなく似ているのだ……


意図しないとしても、あまりコーデリアさんの反感を買う行為は良くないなと思ってしまった。


「先生、胸が大きいとモテますか?」


「若い内はモテたわね……でも周りの友達は最近結婚ばかりで私はここで子供達と遠足……胸の大きさと結婚は関係ないわよ……」


 ……ブツブツ。


 先生の目が闇を抱え始めて、自分とコーデリアさんは触れてはいけないモノに触れてしまったと知る……。


「……僕は先生みたいな人、良いと思いますよ…?」


「…私の胸はデカくなるかな。」


「私もそろそろ結婚したいわ………。」


 なんか負の連鎖が出来てしまった。




 ☆



『ますたー。けしきがきれいですね。』


『そうだね、僕も街の外は移動でしか出たこと無いから新鮮だよ。』


『それにしても結構な距離、セシリアと離れてるけど【魔素通話】と【魔素データ通信】は問題無く使えてるね。 限界の範囲とかあるのかな?』


『たぶんですがまそがきれなければだいじょうぶだとおもいます。』


『魔素が切れるって事は遮断される場所かな? そんな場所あるのかな? 魔素なんて空気みたいな感覚だしな。 【魔素通話】なんて便利だから将来的に普及させたいな。 【虹魔石】や【虹結晶】同士で通話とか出来ないかな?』


 スマホ的な感覚で……


『にじませきとはつうしんやつうわはできませんでした。にじけっしょうはわかりません。』


『帰ったら【虹結晶】を増やしてみるかな? 自我が芽生えればセシリアの仲間が増えて楽しいかもな。』


『なかまがふえたらうれしいです。ますたー。』




 ☆



 キャンプ場所に着いてからみんなで昼ご飯を作ることになったが、ブラットが余計な一言を言う。


「アラン、レイの作るご飯は凄い旨いんだぜ! 絶対食わないと損するレベルだよ。」


「マジで? 超楽しみだな!」


「俺達の実家近くでは有名だったぜ。」


「レイくん、料理出来るんだね…。 私も頑張らないと。」


「レイさんの、食事、楽しみです。」


「レイのご飯は久しぶりにゃ~。」


 ……。


「いや、みんなで作るんだからな? 僕が作るみたいな流れだったけどさ。」


 そこでロナルド先生が会話に入ってくる。


「おい、みんなで協力してやるんだぞ? レイに料理をさせるにしても他の材料切ったり、洗ったりをみんなでやるんだ。」


「……やっぱり僕が作るんだ?」


「俺もそんなに美味しいと言われたら食べたい。」


「まあ、作るのがカレーライスとサラダだから、僕がカレーを作り盛り付けとしても女性陣は野菜切るのを、男性陣はご飯を炊いたり、薪拾い、皿洗いをしてもらおうかな。」


(こっそり【ストレージ】からスパイスとか調味料出そうかな。)



 ☆


 そしてみんなで分担作業してお昼ご飯が完成する。


「カレーは一応、子供用は蜂蜜とヨーグルトの入った甘いやつで、大人用は辛いやつだけど、好きな方を食べてください。」


【究極のカレーライス(辛口)】


【天上のカレーライス(甘口)】


【神々の好むミックスサラダ】


(ネーミングは気にしたらダメだ。)



 みんな、黙々と食べる……。


(あれ? 微妙だったか?)


 みんな泣き出した。



「うまい……。」

「うますぎるにゃ。」

「レイくんには勝てないかも……」

「レイさんと、結婚すれば、毎日これが……」

 ……


 ……


 まあ、変な発言もあるけど、考えるのは止めよう。





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