第59話 バリー
【バリー視点】
夏の暑い教室での授業がやっと終わり、今日の授業は凄く疲れたので、このまま真っ直ぐに寮へ帰るか、修練所に行こうかを迷っていたら、珍しくクラスメートのレイに話しかけられた。
普段は真っ直ぐに帰るのに何だろう?
「最近のバリーは生傷が多いけど、今日もこれから修練でもするの?」
ああ、確かに最近は生傷が多かったけど、まさかレイにも気が付かれるほどの量だったのかと改めて自分にできた傷を見る。
レイとはあまり話したことはないが、不思議な奴だなというのが最初の印象だった。
エレナさんやブラットみたいに飛び抜けた才能があるようには見えなかったし、圧倒的な天才という雰囲気はなかったのに……
「確かに、この傷は毎日の修練が原因だけど……今日は修練をするか迷っていてな……というより、俺程度が訓練しても……」
そんなレイも話ではブラットと戦えば半分は勝ち、エレナさんにすら一度は勝ったことがあると聞いたときは、嘘だろと驚いた。
レイの戦い方は特殊で、【魔法剣士】らしいが剣はほとんど使えず、最近はトレーニングしているらしいが体力や身体能力も高くはないが、代わりに見えない何かを操るということが出来ていた。
ブラットやエレナさんみたいな天才肌な人なら見えない何かにも対応するみたいだけど、自分みたいな凡人には対応することは無理だろう。
「ん? なんか悩んでるの?」
「まあ、悩んでいると言えばそうだけど……」
「僕で良かったら悩みを聞くよ?」
そう言えば、レイはエレナさんと幼なじみだったな……レイに話してみようかな?
「エレナさんにアスレチックで勝ちたくてさ、修練しているんだけど、今のところ全敗なんだよな……。」
アスレチックとは、丸太で作られたトラップ部屋をいかに速くゴールするかの競技なんだが、俺はアスレチックのスピードにかなり自信あったんだけど、この前にエレナさんと初めて勝負してみたんだけど、絶望的な差で負けてしまい、それからは鍛えながら何度か挑んでいるけどエレナさんには全敗していた。
「ああ、その敗北感はよくわかるよ。僕なんて幼なじみだから特にね……。」
レイの言葉からは妙に重さを感じるときがあるんだよな。
しかし、レイはいつもエレナさんに負けながらも諦めずに戦いを挑んでいると聞いているので、相当なメンタルの持ち主なんだろうと思う。
「だけど、レイは魔法ありの勝負なら、かなり強くないか? 何度かエレナさんにも勝てているって聞いたことあるよ。」
「確かに、最近になって模擬戦でもエレナに勝てるようになったけど、新しい戦法を考えて試すとエレナに勝てたりするけど、すぐにエレナが新しい戦法に慣れて、あっと言う間に負け越すんだよ。」
「俺達の学年でエレナさん、ブラット、アランの実力は化け物級と言われているらしいからな。他のクラスにいる友達が話していたよ。」
「それは言えてる。しかし、何でもありの条件での模擬戦や森での戦いならブラットやアランは、ほとんどというか全くエレナに勝てないだろうね。何でもありのエレナはそれくらいに強いよ。」
「まじかよ。エレナさんは更に強いのか。」
ぶっちゃけ俺には戦闘能力に関しては低いと自覚しているので、エレナさんと戦ったことが無いから、実際の強さを想像出来ないでいたが、話を聞く限りは相当強いのが分かる。
「うん。エレナが模擬戦で氷属性魔法を使ってたりするのを見たこと無いでしょ? 僕も親から雷属性付与の使用を止められているけど、エレナも親から氷属性魔法の使用を止められてるんだよ。」
レイの話では、レイやエレナさんの使う属性魔法は強過ぎるために、人へ向けた使用は禁止されているみたいだった。
俺達の年齢でも属性魔法を使える人はいるけど、実用レベルまでの練度はほとんどないけど、レイやエレナさんの場合は使わない理由が違うのか。
「でもさ、なんでエレナと勝負を始めたの?」
「最初はさ……おれの職種が【シーフ】だからアスレチックなら誰にも負けないかなと思っていたんだ。だから似た職種の人に勝負しては全勝していたんだけどさ。」
「それで【レンジャー】のエレナに勝負を挑んだのか……。」
「おれも最初は自信があったんだよ。だけどエレナさんと競争したら完敗でさ、なんかエレナさんと勝負してたらおれも少しは上に行けるんじゃないかと思い始めたんだ。」
俺も才能には自信があったから、アスレチックをエレナさんと同じ様な攻略方で攻めれば俺もエレナさんと似たようなタイムは出せると思っていた。
「バリーすごいな……。」
レイは尊敬の眼差しで見てくれるが……違うんだ……
「しかし最近は勝負する度にドンドンとメンタル削られていって修練するか迷っているんだよ。」
「間違いない……けど、それならさ、エレナに勝負を挑むんじゃなくて、バリーのアスレチックで頑張っているところを見てもらって、アドバイスを貰えば?」
「おお! それは良いアイディアだけど、エレナさんはそこまでしてくれるかな?」
「僕が聞いてみるよ。」
レイは俺の為にエレナさん聞いてくれるらしい。
「たまになら良いにゃよ。」
そして、エレナさんはあっさりとオッケーしてくれた。
よし、このチャンスを絶対にものにしてみせる!
「お願いします!」
俺は1ヶ月位、アスレチックを挑み続けた。
☆
1ヶ月が経過した辺りでエレナさんはちょっと困った顔で質問してきた。
どうしたのだろう?
「バリーの取得しているスキルに身体強化的なのは無いのかにゃ?」
「いや、俺はそういうタイプのスキルは無いな……あるのは【鍵開け】【サーチ】だな」
「ん~。そっか~、バリーには言いづらいけどにゃ~。」
どうしたんだろう……?
「何かダメなとこがあれば言ってもらって大丈夫だから、どんどん言ってくれ。」
「なら言うにゃ、バリーはアスレチック修練のスピード勝負を挑むけど、バリーの特性はスピードじゃないにゃ~。」
「え?」
エレナさんの言ったことは俺にとっては衝撃過ぎて……よく言葉が入って来なかった。
「1ヶ月近くバリーを見たにゃけど、スピード系の成長速度が運動系の才能が無いレイより悪いにゃ~。」
スピード系の才能がないというのか?
しかも、運動神経がないと評判のレイより悪いだと……?
「おいエレナ! 僕が見学してるの知っていて、僕までディスるなよ!」
今日たまたま見に来ていたレイが文句を言ってくる。
「レイはほっといて、私は狩り全般が得意なタイプの【レンジャー】にゃ。だけどバリーは先行して【索敵】や【罠解除】する事に特化したタイプの【シーフ】な気がするにゃ。だから、このアスレチックのスピード勝負は技術的には向上しても、タイムとなると伸びが悪いと思うにゃ」
「そう言われると確かにすんなり納得が出来ちゃうな……。」
確かにアスレチックのスピードは上がっている実感はあるのに、タイムは劇的には伸びないのが不思議ではあったが……そうか、移動するスピードが大して上がっていなかったからタイムが伸びなかったのか……
「正確なところはわからないにゃ。不得意な事もあとはバリーの努力次第で何をしても可能性はあるにゃ。」
1ヶ月近く手伝ってくれたエレナさんの意見だ。
「修練の方向性をエレナさんが言ったみたいにしてみるよ。」
「頑張るにゃ~。」
「1ヶ月も修練に付き合って貰ってありがとうな!」
よし、今あるスキルを伸ばす感じて頑張るぞ!
俺はアスレチックのスピード勝負はきれいサッパリ諦め、罠解除や索敵などの技術を伸ばす訓練をする事に切り替えていた。
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