第58話 プール開き

 突然、寮の部屋での新たな同居仲間になった、【虹結晶】に名前をつけてあげようと考えていた。


 流石に、呼ぶときに【虹結晶】ってずっと言うのも、どうかなと思ったからだ。


 ただ、自分にはネーミングセンスが前世から皆無だった為、どうしようかと凄く悩んだ。


うーん


しかし、自分の場合は変に考えるより直感を信じた方が良いのではないか?と思った。


そう考えると、ひとつの名前がすぐに頭に浮かんできた。


うん、悪くないかもしれない……いや、むしろ良い気がしてきた。


「君の名前はセシリアにしたよ。【虹結晶】から聞こえてくる声が、女性っぽい感じだったから女性の名前にしたけど、もし嫌なら早めに言ってね。僕のネーミングセンスは信じられないからさ……。」


『ありがとうございます、ますたー。せしりあですね。きにいりましたのでだいじょうぶです。』


「セシリアも最初より声が聞こえやすくなったね。」


『だいぶなれてきました。』


「なんか昔のパソコンゲームの声みたいな感じだけど、慣れてきたなら良かったよ。」


『これからよろしくおねがいします。』


「セシリア、これからもよろしくね。」


【……により個体名・セシリアが承認されました。】


【セシリアとの契約が成立しました】


【セシリアとの契約により同期を開始します……】


「えっ? 契約? 同期?」


 いつもの謎アナウンスが脳内に響いてくる。


 【虹結晶】に名前をつけただけなのに、勝手に契約や同期が……


【セシリアとの生体同期に成功……】


【セシリアとの魔力同期に成功……】


【セシリアとの魔素通話が可能になりました。】


【セシリアとの魔素データ通信が可能になりました。】




 突然の出来事だったからよくわからないが、よくあるスキルが勝手に進化したりするのに似ているな。


 きっと自分はこの謎な流れに乗るしか出来ないんだろう……。



 ……そう、この謎アナウンスに突っ込んだら負けなのだ。




 ☆



 それからセシリアと、先ほどの謎アナウンスで流れた【魔素通話】や【魔素データ通信】について、いろいろと確認してみた結果、セシリアがスキルみたいなものを取得したって事らしい。


【魔素通話】 魔素が遮断されない限り、離れた所でも会話が出来る。


【魔素データ通信】 セシリアとステータスや視界の共有が出来る。


 スキルというか携帯電話とインターネットみたいな能力だった……。


 ちなみにセシリアを【鑑定】したら、この2つの能力と【同期】しかなかった。


 特に凄い力があるとか、スキルがあるとかは無い。


 今後はどうなるのかわからないが、とりあえずどこにいても【虹結晶】と会話が出来るようになったのだった……。



 こういう結果になったのは予想外だった。


 【虹結晶】を作ったのはこんな理由ではなかったはずなのに、自分のスキルなのによく暴走してる感じがするな。


 しかし、起こってしまったことは受け入れようと思う。


 これが転生してから学んでしまった事だ……。


「まあ、どこでもセシリアと話が出来ると思えば良いか?」


『そうですね、ますたー。』


自分には秘密にしていることが多かったので、セシリアと何気ない会話が出来るだけでも、自分としては楽しかったので、暇さえあればセシリアと話をしていた。



 ☆



 もちろん、セシリアの件は誰にも言える筈もなく、自分はいつも通りに学園へ登校していた。


 最近、家族や幼なじみに言えない話ばかり増えている気がする……。


 まあ、それは良いとして今日は学園のプール開きの日だった。


 自分は前世からプールで泳ぐのは好きだったりするので、ひさしぶりにプールに入れると思うと楽しみだった。


 しかし、泳ぐのが好きと言っても、競泳ではなく水中をゆっくり泳ぐ程度で、水中にいると何故かリラックスする事が出来た。



 学園での水着は男子は短パン、女子はスク水的なものだが、色は学年で違うらしく、自分の学年は水色だった。


 男子は直ぐに着替え終わってプールに来ていたが、女子はまだ着替え中らしい。 


 自分達は6歳だけどブラットとアランの脳筋ズは年齢に似合わず体格が良い。


 まだアランに関しては身長がそんなに高くないから6歳にも見えるが、ブラットなんかは10歳と言われても頷けてしまう程の体格だった。


 そして、バリーとブルーノの体格は普通だけど、ブルーノは超イケメンだ。


 いつも思うが、ブルーノはなんか身体の周りがキラキラしていないか?


 イケメンなんて水爆死すればいいのにと思う……。


 クライブは……自分と同じプニプニ体型だな。 しかも、モフモフしている。


「クライブ! お前はずっと僕と友達だ!」


「なんかこの状況で言われても嬉しくないこん……。」


「気にするなよ。 はっはっは。」




 そして、少ししたら女子達が着替えを終えてプールに来た。


 コーデリアさんとシンシアさんはなぜかこちらに真っ直ぐ向かって来て。


「レイくん、水着どうですか?」

「レイさん、似合って、ますか?」


 と質問しながら見上げてくる。


 2人を見ると完全に4歳児位の体型だなと思う。 しかし、自分にはそんな失礼なことは言えない。 だから答えは、


「2人共、水着が似合っていて可愛いよ!」


「「ありがとうございます!」」


 とりあえず褒めておこう……。





「将来レイは女性問題で揉めそうにゃ……。」



 ☆




 プールの授業が始まったが、みんな自由にプールを泳ぐ訳ではなく、水中を歩きながら遊んでいた。


 1年生の最初は水に慣れる為に遊ぶのが授業内容みたいだ。確かに前世でもそんな感じだったか?


ちなみにモロットにはプールなんてものはないし、町の周辺に川はあるけど浅いし、湖みたいなものはないのでブラットやエレナは泳いだことは無いはずだ。


だから自分はブラットやエレナにカッコ良く泳げるところを見せたあとに泳ぎを教えて上げようと思っていた。


学園に来てからと言うもの、自分はエレナに教える様なことは全く無かったので昔みたいにいろいろ教えて……あれ?


モロットにいるとき、ブラットにはいろいろ教えていた気はするけど……エレナには文字の読み書き位しか教えた記憶が無いな……まあ、いいか。


しかし、プールと言っても水位が腰より下位の高さまでしか無いので、非常に泳ぎづらいと思っていたら、クラスメイト達が騒ぎ出した。


「おお! すげえな、エレナ!」

「エレナさん、凄いです!」

「まじかよ……」


 ん?


 エレナ……!?


自分はみんなが騒いでいる方を見たらエレナが歩いていた……


いや、水中ではなく水上をピョンピョンとスキップするみたいに歩いているのだ……


そもそも水の上って歩けるものなのか?


うーん、あっ、自分ならば【ハンド】で擬似的に飛ばしたりする要領でそれっぽくは出来るか。あとは【シールド】を水面に発動させれば透明な板の上を歩いているみたいに水面を歩く様に見せることは可能だ。


しかし、【魔眼】でエレナの周りを見てみても【魔力】の揺らぎは無いので、スキルを使っている雰囲気は無い……


ってことは、あれはスキルではなくて普通にアルイテイルノカ?


「ちょ、エレナ?」


「ん? レイ、なんだにゃ?」


ジャポン……


エレナは自分の声に反応し、立ち止まると水中に落ちていく。


なるほど、立ち止まることは出来ないのか。


「エレナはどうやって水上を歩いていたの?」


「にゃ? 水面の動きを使って歩くだけにゃ」


「え??」

 

久しぶりにエレナが何を言っているのか分からなかった。


なに、水面の動きを使うって……?


「レイにはまだ無理じゃないかにゃ? もう一回やってみるにゃ」


そう言い、エレナは水中から軽くジャンプして、今度は移動せずに水面をジャンプし続けた……


うん……水中から水上にジャンプするのも異常だが、前世の記憶がある自分には水面は歩けないという常識があるせいなのか、自分はクラスメイトの中で一番驚いているのではないだろうか……


「どうにゃ?」


「どうにゃって言われても、さっぱり原理が分からないよ……ってかそんなことが出来るのはエレナ位じゃないの?」


「ママは水の上で立ってられるにゃよ」


「うーん、エリーさん基準にされてもな……」


自分の中でエレナをこんな超人娘にしたのはエリーさんのスパルタ特訓が理由ではないかと疑っている。


あのお母さんが、エリーさんは凄い伝説的の人って言う位だから、相当なんだと思う。


「そう言えばエレナは泳げるの?」


「ちょっとなら泳げるにゃよ」


くっ、水面を歩くというとんでもない事をする位だから、何となく想像は出来ていたけど、やっぱり泳げるのか……


「泳ぎもエリーさんに教わったのか」


「泳ぎはママに教わる前に、何となくすぐに泳げたにゃよ」


そう言うとエレナは自分の周りを器用に平泳ぎで泳ぎ回る。


「なんだって……!?」


平泳ぎを本能的に出来たってこと?


自分は前世でもスイミングスクールで子供の頃から一生懸命頑張って覚えたのに……


自分の中でのエレナの天才度が更に上がった。


この状況でクラスメイトに泳ぎを教えるのは恥ずかしかったので、普通にみんなと遊ぶことにした。




 みんなと遊んだ後、自分はひとりで水中を泳いでいたらセシリアが話しかけてきた。


『みずのなかはきれいですね。』


『ああ、本当はプールより魚とかいる海の方が綺麗だけどね。』


『そうなのですか? うみをいつかみてみたいです。』


『それなら将来海に行こうな。』


 水中でもセシリアと会話が出来てるのは【魔素通話】のおかげで、話さなくても念じるだけで良いから、まるで念話みたいだった。

 セシリアと視界を共有が出来たので、セシリアには学園生活を見せて社会勉強をしてもらっていた。


「ほら、アラン! 水面に顔をつけろ!」


 自分達が十分にプールを楽しんでいる片隅で、アランは先生と水に顔をつける練習をしていたのだった。



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