第54話 結晶化 そして夏イベント?
シンシアさんの暴発事件から数日後、自分は部屋で考え事をしていた……。
「どうしたものか……」
考え事とは【巨大血液濃縮循環機】が、今も寮の部屋を半分を占拠して稼動中なのだが……思うような成果が出ていないからである。
【巨大血液濃縮循環機】の内部で作られているものを【鑑定】しても【虹魔石】でしかない。
自分が目指して開発しているのは疑似【巨大結晶】であり、【魔石】ではなく【結晶】が欲しいのだ。
毎日の様に【鑑定】しては、名称に変化が無い事にガッカリし、これだけの予算を投じたのに予測が外れているのでは?という不安を感じてしまう。
「少し頭の中を整理するかな……」
とりあえず今、自分が作っている【虹魔石】は、言わば身体でいう胆石みたいなものである。
再度、図書館などで調べたが、血液濃縮循環により擬似的に魔獣の体内を再現して【魔石】などを再精製する方法はどこにも載っていなかった。
先生や【魔石】屋の人にも話を聞きたかったが、何となく禁忌に触れてる可能性が少しあるかなと思えたので、他人に聞くのは止めておいた。
どうせなら禁忌リストでも作っておいて欲しいところだけど、それをすると名前から禁忌に触れる何かを連想出来てしまうだろうから、無理だろうなと思い直した。
そう言えば【邪神】の力を14個に分散して、封印したものが【巨大結晶】であると書いてあった。
封印か……
封印と言えば……閉じ込める……?
もしかして、濃縮の他に圧縮かそれに近いことも必要ではないか……?
しかし【魔素】をそのまま圧縮か。
それって普通に【魔導操作】でいつも自分がやっているような作業だよな……
仮に圧縮が必要ないならば、自分が【魔導弾】などを発動するのは……ちょっとヤバいことになりそうだな……いや、それは無いか。
う~ん。
解らない時は、試しにいろいろな【魔導具】を作ってみるかな……。
☆
またまた自分は試行錯誤して、いろいろな【魔導具】を開発していた。
今回はいろいろな可能性を考え、試しに作ってみた感じが強かった。
その中でも何となく正解に近いのではないかと、思える【魔導具】があった。
【魔素圧縮封印珠】
周囲の魔素を圧縮封印してくれる珠。
ふむ……。
自分はこれをそっと【巨大血液濃縮循環機】の【虹魔石】付近に沈めた……。
よし、あとは結果が出れば良いな。
☆
数日後…。
【虹魔石】は圧縮されたのか、小さくなっており、名前が【虹結晶】になっていた。
原理が解らないが、偶然欲しいと思ったものが作れるという事に、無邪気に喜べない自分がいた……。
正直、これがスキル効果なら嬉しいけど……。
何か変な力が働いてないか?
例えば、自分に何かを作らせようとしているとか……。
気にしたらダメなのかな……?
……そう言えば、そろそろ【魔導技師】の練度が3.1になるんだよなぁ。
それに比べて、【魔導剣士】は4.1から全く上がらなくなった。
毎日、日課のように基礎体力を上げるトレーニングや素振りなどしているんだけどな……
今までは訓練してれば上がっていたのに、次のステージに上がって、練度が上がる条件が変わったのかな?
そういえば、ブルーノくんから身体正しい使い方をそろそろ習いに行こうかな。
そのときはコーデリアさんやシンシアさんも誘ってみようかな。
エレナやブラットには今更な感じもいるしな……。
☆
「身体の正しい使い方を習いに来たのか?」
ブルーノくんはちょっと呆れた表情で言ってきた。
あれ?
「前に身体の正しい使い方を教えてくれるって言ってなかった?」
ブルーノくんの表情からすると、アレは本気ではなかったのだろうか?
それだとちょっと恥ずかしい状況になってしまうな……何故なら、今コーデリアさんとシンシアさんを誘って一緒に来ていたからだ。
「ああ、確かに言ったよ。むしろ、もっと早く来ると思っていたくらいなんだけど、全然レイくんが来ないから、あまり興味は無いのかなと思っていたよ」
「なるほど……それはごめんね。ちょっとやりたいことがいっぱいあってね」
「まあ、それは良いよ。それでコーデリアさんとシンシアさんも一緒にやるんだね?」
「はい、よろしくお願いします。私の尊敬する【回復魔法師】も身体能力は高いらしいので、私も身体能力を高めたいんです」
「私も、将来、遺跡調査とか、したいから、身体能力は、欲しいです……」
「なるほど、分かりました。それじゃあ、みんなで一緒に頑張りましょう」
それからブルーノくんに身体の正しい使い方を教わったが、簡単に言うと自分がイメージしている身体の動きと実際の動きでは微妙な差があり、それを無くしていく事で身体を自在に操れるようにするというものだった。
これと共にブルーノくんからは身体能力を向上させるためのトレーニングも同時に習うことにした。
「レイくん、良かったら学校へいく前か、学校が終わったあとに集まってトレーニングしませんか? ひとりで黙々とやるより続けられると思います」
ブルーノくんから一通りのトレーニング方法を習ったが、天才ではないのですぐに成果が出るわけでもなく、毎日やることになったのでコーデリアさんは自分とシンシアさんの3人で毎日一緒にトレーニングしようと提案してくれた。
「うん、その方が長続き出来そうだから賛成だよ」
「……わたしも、参加します」
自分とシンシアさんもコーデリアさんの提案に賛同する。
「それでは毎日お願いします」
「うん、よろしくね」
「お願いします」
こうして3人による身体能力向上を目的とした日課が増えることになった。
☆
運動会が終わり、自分は毎日身体を鍛えたり、【魔導具】を作ったりと忙しくしていた。
そんな中、学園の授業にて新たなイベントがスタートする。
「そろそろ夏になる。夏と言えばプール開きだ!」
ロナルド先生が汗をかきながら、教室で暑っ苦しく叫んでいた。
この世界にも四季がある……というか、王国内限定ではあるが。
【巨大結晶】の影響により、場所によっては雪国、砂漠、密林、火山などあるらしいが、王国は中央の火山寄りなので少し暑いが四季はあり、日本に近い気候なのかもしれない。
「出身地によっては泳いだことがない者も居るだろう。たが王国にある学園としては、在学中に是非泳げるようになってもらいたい。」
これが高校生の夏イベントなら嬉しいけど、6歳の水着イベントとか誰得だよ?と思うが、ちょっと楽しみだったりする。
それは前世で走るのは苦手だったが、泳ぐのは割と得意な方だったから、この身体でも泳げるのではないかと思っていた。
「来週にはスクール水着が配布されるから楽しみにしているように。」
☆
プール開きの話の後から元気の無い奴が1人いた。
「アラン、どうした……元気が無いね」
「ああ……レイか、実は俺は水が怖くてな……顔を洗うだけなら出来るが全身を冷たい水に浸かるのが怖いんだ……。」
「まさかアランが水嫌いとは予想外だね。」
アランは水に浸かっている状況を想像してしまったのか、少し身体が震えてる。
これは……完全に水恐怖症たろう。
「そうでもないぜ、おれら魔人族の大半が水嫌いだ。」
「……なんで魔人族は水嫌いなの?」
「俺らの魔人族の出身地はここから北にいった、氷の大陸なんだが、4歳の頃に友達と外で遊んでる時に氷が割れる事故があって、友達が数人亡くなったんだよ。それからずっと水が怖いんだ。」
「……結構、ヘビーな話だね。」
「ああ、氷の大陸では毎年、そういう事故があるんだ。」
「そういう意味では王国は良いところですね。 私は知り合いが蛇に飲み込まれる事故があってから、爬虫類が苦手です。」
コーデリアさんもヘビーな話に参戦してきた。
「他の地域はいろいろ事故があるんだね……王国から出たくないかも……。」
「良いところもいっぱいあるこん。火山地帯は温泉、密林は果物とか甘くて美味しいこん。 湖が綺麗な所や氷の大陸も変わった生き物が多いから、好きな人は好きだこん。」
今度はクライブがおしえてくれる。
「……変わった生き物?」
「白熊とかアザラシ、シャチ、ペンギンとかいるこん。」
「ペンギン!? ペンギンがいるのか! おいアラン! どうなんだ?」
「ん? ああ、ペンギンならいるぜ? 可愛くて女性には人気あるな。 種類もいくつかいるし。」
「マジか! 僕、ちょっと休学して氷の大陸に行ってくるよ!」
アランに肩を掴まれる。
その手を離せアラン……。
自分にはやらなくてはいけない使命が出来たんだ。
「いやいや、どうしたんだレイ、急に。」
「はぁ? ペンギンだぞ! 氷の大陸にペンギンが居るのに、なんで僕はここにいるんだよ?」
「それは王国出身だからだろ……ってかレイ、目がこええよ……」
みんなが可哀想な目を自分に向けてきた……。
「なんだ。みんなして痛い子を見るような目をして!」
「普段から痛い子のレイがさらに痛くなったからだにゃ。それにレイの場合は両親が休学をまず許さないにゃ~。」
確かに、両親というかお母さんを怒らせると怖いな。
「……確かに冷静じゃなかった。」
「レイはソフィアさんの話になると、急に現実に帰ってくるにゃ。」
だって、お母さんを怒らせたら怖いし……。
「よし、将来の夢は氷の大陸専門の冒険者になることにするよ!」
「……全然、わかってないにゃ。」
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