第52話 運動会 1年目 後半

 運動会も後半になり、残っているのはクラス対抗の団体競技が多かった。


 やはり団体競技に必要なのは個人能力と連携する為の組織力じゃないかと思っている。



 第5競技 玉当て


 まあ、簡単に言うとクレー射撃の魔法版。


 6歳になると魔法系でなくても戦闘系の【職種】ならば、ほとんどの人が【ボール】位の【魔法】は使えたりする。


 この競技は、先生が魔法で投げてくれる的に向かって、4~5人で編制したチームが連携しながら的を落としていくものだ。


 自分達のチーム編制は自分、ブラット、エレナ、アラン、クライブ。

 自分とエレナ以外も【ボール】は使えるが【魔力操作】が微妙なので、スピードやパワーの他にコントロールも微妙な精度になるから、たぶん的には当たらないから戦力外だ……。


 どうしてこのチーム編成かというと、自分の【魔導操作】は子供にしては、チート級のコントロールだと自負しているからだ。

 というか、ここで活躍出来なければ自分のプライドは粉々に砕け散るだろう。



「ハッハッハ! 遂に僕の時代が来たね! ここだけは全力でいくよ!」


「レイくん、俺はコントロールが苦手だから頼んだよ」


アランくんはブラットと同等位のコントロールだと自覚しているので、自分に頼ってきた。


「任せてよ、ここからはずっと僕のターンだからね!」


「こういう調子のったレイは危険だにゃ~。」


「ああ、いつもああなったレイは危険だ……。」


エレナとブラットは心配そうな表情をしているが、的当てならば危険な要素は全くないのだから、いらない心配だろうと思う。

これが人に向けて撃つのなら、万が一という事もあるが……


「えっ? 僕たち大丈夫こん?」


「どうかにゃ……。」


「無事に終わることを祈るしかないぜ。」


「……マジか。」


 そんなチームメンバーが失礼な事を言ってるが、コーデリアさんとシンシアさんは違った。


「あれだけコントロールが得意なレイくんなら私はトップも狙えると思っているので頑張って下さい!」


「レイさんの全力、見てみたいです。私もレイくん教えて貰った、【ボール】で頑張ります!」


「僕の本当の力を見せるよ!」


「……コーデリアとシンシアは余計なことをレイに言っちゃダメにゃ。」


「レイくんのコントロールなら、大丈夫じゃないですか?」


「普通ならそうにゃけどね……」


 身体能力が皆無の自分が活躍するところは、【魔法】系の競技である、これしかないんだよ!



競技は1年生からスタートするので、すぐに自分達の順番になった。


 今までのチームを見ると先生は約1秒間に3個ペースで的を投げている。


 的を投げている担当の先生が9人。

 的を打漏らしたり、的を貫通した時の【ボール】が他の生徒に被害を出さないよう、競技スペースを【防御壁】で守る担当の先生が5人いた。 


 先生達も【魔力】が見えないらしく、常時【シールド】系の上位【魔法】を交代で使っている。


 自分は競技のスタート前に【魔導弾】を40個ほど起動し、待機状態にさせる。

 自分の【魔導操作】ならば待機させなくてもパーフェクトを狙えそうだが、念のために待機状態にすることにした。


「……レイ、やりすぎはダメにゃよ?」


 エレナには自分の【魔導弾】は見えない筈なのだが、【野生の勘】で【魔力】を感じられるらしく、エレナは自分が40個もの【魔導弾】が待機しているのが分かるらしい。

 本当に制御が出来るのかが、不安なんだろう。

 相変わらず【野生の勘】って凄いスキルだよな。

 

 ちなみに【パラレル思考】を取得した自分からしたら、これ位の【魔導弾】の数なら余裕で制御可能である。


「大丈夫だよエレナ。僕はまだ余裕を残してるし、制御は完璧だ!」


「違うにゃ! そういう意味じゃないにゃよ!」


「えっ?」


 エレナと話していると競技がスタートしてしまった。


「エレナ! スタートしちゃったから競技に集中だ!」


「目立っても知らないにゃ……。」


自分はプライドをかけて集中したので、エレナの言葉は自分の耳には届かなかった。


 先生が投げた的が射撃ゾーンに入った瞬間、待機中の【魔導弾】的確に動かし的を簡単に撃ち抜く。


うん、思っていたよりも、この競技はイージーかもしれないな。


クラスメイトの使う【ボール】は基本的には【魔力操作】の技術の関係で直線軌道でしか飛ばせないが、自分の【魔導弾】は自分を中心としたある程度の範囲内なら、自分の意志通りで変幻自在に動かす事が出来るので、的に当てる難易度は劇的に下がっていた。


 パーフェクトを目指すつもりでどんどん撃ち抜く……のだが、競技の舞台裏のはずの先生たちの叫び声が聞こえてきた。


「なっ!? 何だと!」


「なんだ、この子の命中率は! これで6歳とか化け物か?」


「……俺より凄いかも。」


 これ位の的なら、エレナに当てるより楽だから外すわけがない。

 しかし、先生達の反応は、予想以上に驚愕の表情をしていた。


 そして、最後の的も楽々撃ち抜く。


「……ぱ、パーフェクトだと!」




 【チェスガン学園】の歴代最高得点を叩き出してしまった……。


 ……やりすぎたかもしれないが、自分の活躍はここしかなかったんだ。

 いつも負けてるから、またには勝ちたかったから良いかと勝手に納得していた。



 こうして普段、ブラットやエレナの模擬戦等で削られたプライドが少し回復した気がしたのだった。




 ☆


 自分の番では問題は起きなかったが、続いてシンシアさん達のチームの番になり、事件は起きてしまった……。


「シンシアさん! 頑張って!」


 シンシアさんは自分と似たような身体能力なので、運動会の競技ではほとんど活躍出来てないので、自分としてはシンシアさんにも、この的当てる競技で良い成績を残して欲しかったので自分はシンシアさんを応援した。


「あっ、レイくんが応援してくれてる……」


 シンシアさんは緊張はしているが、集中は出来ているみたいだから、良い成績が出るのではないかと予想していた。


 シンシアさんはスタートに合わせて、手のひらに【ボール】を作り出す……ん?


えっ、なんで?


先日、自分はシンシアさんの中にある別の【魔力】が過剰に込められてしまう謎の現象を知らぬ間に解決していたので油断していたが、今のシンシアさんが作る【ボール】には、その時以上の【魔力】が込められていた……


 ちょ!【ボール】に込めている【魔力】量が以前の何倍もあるよ!


 しかも悪いことに【ボール】の【魔力操作】が奇跡的に出来ているので、【ボール】が発動してしまう!


「先生、あぶなーーーい!!!」


ドッガーン!!


 大声で叫んだときには、的は簡単に消失し、正面のシールド展開を担当していた先生が宙を舞っていた!





 ……的は吹き飛んだ。


 ……防御壁の正面担当の先生は吹き飛んだ。


 ……グランドの一部も吹き飛んだ。





 そして魔力暴発?事件により先生が怪我をしてしまい、運動会は途中で終わってしまった……。


 この年から玉当て競技は禁止になってしまった……。


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