第50話 シンシア
いつものロナルド先生の授業が終わり、今日は【魔導】の練習をしたかったので、1人で修練所に向かおうと思っていた。
「レイくん、ちょっとお話良いですか?」
「うん? 良いけど、何かな?」
と思っていたら、コーデリアさんとシンシアさんに話しかけられた。
そう言えば、シンシアさんとは超古代都市の話以降、あまり話した事が無かったな……。
「話は出来れば修練所でお願いしたいんですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ちょうど僕も1人で修練所に行く予定だったんだよ。」
「ありがとうございます」
それから自分とコーデリアさん、シンシアさんの3人は修練所に向かった。
おっ、今日は珍しく修練所が空いているな。
普段なら既に修練所には7、8人の生徒が居たりするのだが今日に限っていなかった。
何故だ?
「あの……相談しても良いですか?」
「ああ、ごめんね。相談の内容は何かな?」
「実は、隣にいるシンシアの事で相談があるんです。」
「シンシアさんの相談? 僕に解決出来る事なのかな?」
「実……私は魔力量が、多いせいなのか、【魔力操作】が……苦手なんです。それで、未だに、魔法系スキルを……ひとつも展開する事が、出来なくて、困っているんです……。」
「なるほど……確かにシンシアさんの魔力量は多いけど……。」
自分の【魔眼】でシンシアさんを見る限り、確かにシンシアさんの魔力量はクラスメートたちに比べたら遥かに多いけど、自分に比べるとそれ程多くはない。それと【魔力操作】が苦手なのは関係あるのかな?
自分の場合は魔力量が多くても【魔力操作】は普通に出来たから、感覚の問題かもしれないけど……
「この前、レイくんとエレナさんの模擬戦を見て、レイくんは魔法が得意そうだからアドバイスを貰えたらなって思いまして、シンシアに話してみたんです。」
「ロナルド先生には聞いた?」
「聞いて、先生の言う通りに、【魔力操作】したけど……ダメでした。」
ロナルド先生は剣士タイプだから【魔法使い】タイプのアドバイスは無理なのかな?
いや、それでも先生なのだから【魔力操作】位は教えられそうなものだけどな。
もしかしたら、【魔力操作】が苦手なのには別の要因でもあるのかな?
「僕で役に立つかは解らないけど、見るのは大丈夫だよ。」
「ありがとう」
「そう言えば、コーデリアさんとシンシアさんはよく一緒に居るけど同じ出身地なの?」
「うん。シンシアとは幼なじみで、一緒に学園に来ました。」
「はい……私はちょっと、【人見知り】で、コーデリアが、居てくれて、助かってます。」
「おお! 【人見知り】なんだ! 実は僕も【人見知り】なんですよ、シンシアさんとは仲間ですね」
「私の印象だとレイくんは【人見知り】じゃないですよね?」
コーデリアさんにレイくん何言ってるの?って感じの表情をされてしまった。
「いやいや、僕のステータスに【人見知り】ってスキルがあるから【人見知り】で間違いないよ。」
「「えっ!?」」
2人ともびっくりしているけど、本当に【人見知り】スキルはあるのだ。
「わたしは、【人見知り】スキルは無いけど、レイさんより【人見知り】、だと思います……」
「わたしもレイくんよりシンシアの方が【人見知り】だと思いますが不思議ですね?」
「……確かに言われたらそうだね。」
スキルがあるから【人見知り】だと思っていたけど、そう言えば前世に比べると全然【人見知り】じゃないよな?
……どういう事だろう。
「まあ、良いか……まずはシンシアさんの【魔力操作】を見ようか」
「お願いします……」
自分は修練所にある、射撃用の的の準備をする。
自分はこの的を使ったことはないが、これは生徒なら自由にスキルの訓練の為なら壊して良い的なのだ。
「まずはシンシアさんの【ボール】の【魔力操作】がどれ位出来るかを見せてもらっても良いですか?」
「わかりました、やってみます。」
するとシンシアさんは両手を前にかざして集中する。
自分は【魔眼】で集中しているシンシアさんをみる。
……ん?
【魔力】を込めているのをしばらく見ていたら、どんどんでかくなっていき、シンシアさんの手にはシンシアさんの身長位の大きな【魔力】が出来ていた!
オオィ!
【魔力】込めすぎだよ!
「ちょ、シンシアさん! ストップ!ストップ!」
「えっ、あっ、はい?」
シンシアさんは自分の声で集めていた【魔力】を解除する。
すると溜まっていた【魔力】は霧散していく。
危ないな、この子。
あの【魔力】量だと下手したら修練所の一部が吹き飛んでたぞ……。
「シンシアさん、込めている【魔力】が多すぎるので、それの10分の1位に出来るかな?」
「そんなに、少なくても、良いんですか?」
「えっ? うん、それぐらいが妥当な量だと思うよ」
シンシアさんは不思議そうな表情をしているな……これはもしかして……
「ちなみにシンシアさんは今、どの位の【魔力】の塊が出来ていたか分かる?」
「て、手の大きさ、位かな……?」
なるほど……
「……原因はそれだね。ちなみに今、シンシアさんの身長位の【魔力】の塊が出来ていたよ。だから【ボール】の難易度がかなり上がってしまってスキルが発動しなかったのかもしれないね」
「「えええ~。」」
【ボール】は本来、難易度はかなり低いスキルで、シンシアさんの場合、あれだけ大きな【魔力】を集められるだけの【魔力操作】があれば、普通は発動してもおかしくはないが……
それは手のひらサイズの【ボール】を発動する場合の話で、シンシアさんの身長位の【ボール】を発動させようとしたら、別次元の【魔力操作】が要求される。
自分なら出来るが、まだ慣れていないシンシアさんには発動されるのは無理だろう。
一応、奇跡的に発動したら危ないから途中で止めさせたけどね……
「そしたら、僕は【魔眼】で【魔力】が見えるから、【魔力】の大きさを教えていくよ、そしたらシンシアさんは感覚のズレが直るかもしれない。」
「おねがいします。」
とりあえずシンシアさんには【魔力操作】をしてもらい、自分は【魔眼】を使いながらシンシアさんの【魔力】がどうなっているか見ていたら、先ほどは大きさに意識がいきすぎて分からなかったけど、シンシアさんの【魔力】の中に違う【魔力】があるように見えた。
どういうことだ?
普通、人の【魔力】はひとりにつき一種類で、それが【属性】としてステータスに表記されているのだろうけど……
よく分からないな……
それから更にシンシアさんの【魔力操作】を見ていて分かったことは……
シンシアさんの体内にはやはり2種類の【魔力】が混在していて、実際にシンシアさんがイメージしている【魔力】の外側を巨大な別の【魔力】が包み混んでいるのが分かった。
うん、これじゃあ【魔眼】が無いと分からないし、シンシアさんも自身の【魔力】が巨大になっているのは分からないはずだと思った。
だって属性は一緒で【魔力】の質もほとんど同質なのに、スキルを発動させようとすると勝手に超ブーストされて、難易度が跳ね上がってしまうのだ。
これはシンシアさんの【魔力操作】という以前の問題だった……
それをシンシアさんに話してみると……
「もしかして、私の部族に伝わる、伝説が関係しているかも……?」
「超古代都市以外にも何か伝えられてるの?」
「はい、私の遠い御先祖さまは、超古代文明時代の【魔女】らしく、私の家系には、魔女の呪いが発動する場合が、あるらしいんです……」
シンシアさんはその話をしながら、表情がどんどん暗くなっていくのが分かった。
そして、若干泣き始めた……
魔女の呪いとは、それ程やばいものなのだろうか?
「その魔女の呪いって発動すると、どんなことが起きるの?」
「うぐっ……魔女の呪い、は……スキルが、発動しなくなります……」
「マジか……」
この世界のスキルとは、ある意味個性であり、普通に生きて行くには必須のものと言っても良いほど重要だ。
ましてや、シンシアさんの【職種】はスキルなしではほとんど無意味に等しくなってしまうほど絶望的な呪いだろう。
ついにはコーデリアさんに抱きついて本格的に泣き出してしまった。
うーん、泣いている女の子に話しかける言葉が思い浮かばないぞ……
「シンシアさん、とりあえず僕も協力出来る事が……」
そう言いながらシンシアさんの肩に触れた瞬間……
『ああ、やっとシン様にたどり着けたのですね……』
微かな声でシンシアさんの声に似ていてはいるが、違う女性の声が聞こえた。
すると、シンシアさんの中に混在していた別の【魔力】は急速に消えていった。
まさか、今の声が魔女の呪い?
でも何か想いを成就したかのような……
しかし、これなら……
「レイくん?」
自分はシンシアさんの肩にずっと手を乗せていたのを忘れていたので、すぐに手を放す。
「ああ、ごめんね! ちょっと……あっ、そうだ。もう一度だけ【ボール】をチャレンジしてみない?」
「えっ……でも魔女の呪いが、ある限り……」
シンシアさんは相当ショックを受けたのだろう、もう【ボール】すらチャレンジしたくないといった感じだな。
「シンシアさん、ショックを受けているのは分かるけど、僕を信じてもう一度チャレンジしてみよう」
「わ、分かりました。最後の1回なら……」
シンシアさんは最後ならばと集中して【魔力操作】を始める。
その様子を【魔眼】にてずっと見ているが、先ほどのシンシアさんの意志とは無関係に動いていた【魔力】が存在はしているが、今度は動く事はなかった。
「やったぁ!! 【ボール】を覚えられました!」
「レイくん凄いです……1時間もかからずシンシアに【ボール】を使えるようにしてしまうなんて。」
「いや、シンシアさんには元々才能があるんだよ。 属性付与もすぐに出来るかもね。」
「わかりました。 がんばって、みます!」
レイはシンシアの才能を開花させる事に成功したのだが、将来あの声の存在に……。
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