第48話 週末の帰省 ②

 自分達はいつもの様に週末の帰省が終わり、【チェスガン学園】へ戻る馬車の中でトラブルが起きていた……。


「うぅ……悪いなお前達……。」


「おっさん大丈夫か?」


「何故か急に腹が痛くなってな……昨日の食べた物が悪かったのかもしれない……。」


いつも自分達を送迎してくれるのは、現役の冒険者をしているおじさんなのだが……出発してしばらくしたらおじさんが突然お腹を抑えて倒れだしたのだ。


この世界は魔法技術が発達している代わりに科学的なものが発展していないので、食の衛生という感覚はほとんど無く、モロットでは食中毒がかなりの頻度で発生していた。


 一応、腹痛だから【クリーン】を使ってみるが効果は無いみたいだ。


食材に【クリーン】を使うと殺菌効果があり、有効なのだが、食中毒になってしまうと【クリーン】は無効で、食中毒は何故か【解毒魔法】の範囲になってしまうんだよな……


「おじさんはゆっくり休んでると良いにゃ。」


「いや、そうしたいところだが、この辺は魔犬や魔兎がかなり徘徊しているから……子供では対処するの危ない……。」


 確かにいつも帰省している時は大人の人が簡単に魔犬などを追い払っているけど、自分達3人では確かに、もしもの時に危ないかもしれない。


「おっさん、俺達もそこそこ強いから心配するなよ。」


「そうにゃ。私達だけで半日頑張るにゃ!」


「うん。流石に今から引き返すと学園の授業に間に合わなくなりそうだからね。馬車の操作はエレナが出来たよね?」


「大丈夫にゃ。」


「あと、レイくんは必ず無傷でいてくれ……怪我が残るようなら俺がガチでソフィアさんに……あああっ!?」


「お、おじさん!?」


 お母さんの話になったら何故かおじさんが恐慌状態になって気絶してしまった……。



「「……。」」



「俺の親は多少の傷は大丈夫な筈だぜ。」


「私も多分、大丈夫にゃ。レイは無傷で学園に連れて行かないと、おじさんが危ないにゃ……。」


 とりあえず自分だけは無傷で学園に戻らないとダメらしい……。


「エレナはそのまま馬車の操作をよろしく。僕とブラットは周囲の警戒をしながら行こう。」


「了解。」「了解にゃ。」



 ☆


 本当は何事もなく学園に戻りたかったのだが、相手の方はそれを許してはくれなかった。 


「レイ、たぶんこのまま進んだら魔獣と遭遇しそうだにゃ。」


「エレナ、数とかは流石に分からないよね?」


「無理にゃ……魔獣が居そうな気がするのが分かる程度にゃ、種類や数は分からないにゃ。」


「そっか。そしたら馬車を加速させて。 僕が馬車を防御しながら、正面の敵は僕の遠距離攻撃で払いのけるよ。 ブラットは横と後ろからの敵を払いのけて。 魔獣は殺さなくても追いかけられないようにするだけで良いから。」


 しばらくしたらエレナの勘が当たり、魔犬の群がこちらを待ちかまえているエリアがあった。 魔犬が警戒している間に走り抜けたかったが、馬車の速度と魔犬の速度が似たような感じだったので、自分とブラットが飛びかかって来る魔犬の脚などを攻撃して転倒させたりしていった。


「レイ、ブラット。 馬が走らせすぎで疲れてきたにゃ。」


「レイ。 追って来ている魔犬は5匹だけだから倒さないか? 馬がダメになったらヤバいぞ。」


「分かったよ。 一旦、馬車を止めて魔犬を迎撃していこう。 僕は馬車を守るからブラットとエレナは魔犬を頼むよ。 無理はしないでね。」


「おう、任せろ。」


「任せるにゃ。」


 3人で戦うよりも、動きの速いブラットとエレナに魔犬の撃退を任せた方が良いだろうと判断した。 遠距離攻撃なら良いが、近接戦闘になったら、自分の身体能力では魔犬の動きについていけるとは思えなかったからだ。


 自分は遠距離攻撃をしながら3匹の魔犬を牽制していた。 ふたりは1対1でなら魔犬の相手を十分に出来ていた。




 そして、エレナが最後の魔犬を倒したのだが、急にこちらを向き叫ぶ。


「レイ! 後ろにゃ!」


「えっ?」


 何とか最後の魔犬を倒したことで、油断しており背後からゆっくりと接近していた魔犬に気が付かなかった。


 魔犬は既に自分の首にめがけて噛みつこうとしており、自分の反射神経では回避は不能で、恐怖で目をつぶってしまった。



 ……あれ? 攻撃されない?


 目を開けると、目の前には身を挺して魔犬から自分を守ってくれているおっさんがいた。 


「おっさん! 大丈夫!?」


「ああ、危機一髪だったぜ……。 危うくソフィアさんに死よりも怖い制裁を受けるところだったぜ。」


 おっさんは魔犬に噛まれているところを気にしていないかの様に安堵の表情をしていた。 そんなにうちのお母さんは怖いのか……? かなり優しいとは思うんだけど。


「それよりもおっさんは魔犬に噛まれてるけど大丈夫なの?」


「ん? ああ、俺は騎士団出身でな、打たれ強さだけは自信があるんだよ……。」


 そんな事を言いながら魔犬の頭部を掴んだと思ったら、そのまま握りつぶしてしまった……。


 その後、おっさんは腹痛…… たぶん、食中毒の為にまたぶっ倒れてしまい、 《チェスガン》に無事到着するまで目を覚まさなかった。


「もっと僕達は強くならないとダメだね……。」


「ああ、そうだな。 魔犬位は余裕で倒せないとな。」


「3人で頑張って強くなるにゃ。」



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