第36話 マリア
【とある少女の視点】
わたしは小さな村に生まれ、両親は優しく幼なじみもいて、楽しく過ごしていて今年で5歳になる。
そして、ちいさな村では今日、わたしと同い年のアーサーと一緒に【認証の指輪】を貰い、祝福を受ける為に小さな集会所に来ていた。
アーサーとは、この小さな村で唯一の同い年で、しかも同世代の子供がアーサーしかいないので、外で遊ぶときはいつも一緒で優しくしてくれるので最近、気になる男の子でもある。
大きな街ではいろいろ遊ぶものや本など娯楽というものがいっぱいあるらしいが、わたしはアーサーと一緒に遊ぶのが好きだし、両親の畑をお手伝いしか出来ないけど、おいしい野菜のために毎日頑張っていた。
このまま、貧乏でも良いからこの村でアーサーと一緒に幸せに暮らしたいと思っていた……だけど、祝福を受けてからわたしの人生は激変した。
☆
わたしとアーサーが聖教会の職員から祝福を受ける集会所は今までに無いくらい話題になった。
良い意味でも、悪い意味でも……。
わたしは祝福を貰い、すぐに【認証の指輪】を付けた。
【職種・聖女を取得しました。】
【聖女を取得したことにより禁忌レベルが1上がりました。】
【禁忌レベル1の情報が解禁されます。】
わたしの職種は【聖女】になった。
【聖女】は小さな村では初めて出る希少な【職種】らしく、聖教会の職員からの話では、中央の国に行き聖教会の職員になる為の勉強をしてもらう事になると両親が説明されていた。
【聖女】の職種に就く人は、将来【聖人】のスキルを継承するかもしれないとお父さんは言っていたけど、意味はよく分からなかった。
とりあえず凄い事みたいでお父さんとお母さんは喜んでいたが……わたしとしてはずっとこの村で暮らすと思っていたし、アーサーと別れるのは嫌だった。
「ふはははっ、やっとこの時が来たかっ!」
そして、アーサーが【認証の指輪】を付けた瞬間、普段は大人しく大きな声もあまり出さない感じだったのに突然、別人の様に高笑いしだした。
「ど、どうしたのアーサー? 急に笑い出したりして……」
「あ? ああ……マリアか。なるほど、5歳までの記憶も残ってはいるんだな……だが、何だか映画を見ていた様な感覚だから、俺の人生という感じはしないな……」
「え、なにを言ってるの……?」
「こっちの話だから気にしないでくれ……しかし、何でこんな田舎町に生まれたんだ? 俺はてっきり貴族辺りに転生させてくれると思ったが……いや、これはこれで成り上がりパターンも有りだな! 幼なじみは可愛いし、どちらにしても勝ち組は確定みたいなものだな、ふはははっ、笑いが止まらないぜ!」
「あ、アーサー? どうしたんだ? 何か変な【職種】にでもなっておかしくなったのか? 私はどんな【職種】でも構わないと思っているぞ」
アーサーの変わりぶりにアーサーのお父さんも心配になったみたいだ……。
「俺の【職種】が聞きたいのか? なら教えてやろう! 俺の【職種】は【勇者】だっ!!」
「「……え?」」
「な、なんということだ……【勇者】が現れるだなんて……」
アーサーの両親や町の人達は、【勇者】とは聞いたこと無いだとか言ってる中、聖教会の人だけがみるみる顔色が青ざめていくのが分かった。
そしてわたしも【勇者】という言葉を聞くと胸のどこかでざわつく嫌な感じになっていた。
そこで聖教会の祝福は終了になり、聖教会の人がわたしの両親やアーサーの両親、町長のおじさんだけを残して解散になった。
「マリア、お前は俺の嫁候補にしてやるからな」
「アーサー……」
幼なじみのアーサーは【勇者】という職種になったのだけど……なんだか本当に様子がおかしくなっていた。
確かにアーサーのお嫁さんになりたいとは思ったけど、今のアーサーは何だか分からないけど……好きにはなれなかった。
☆
その日の夜、お父さんに内緒だと言いつつ、聖教会の人から【勇者】とは不吉な象徴の【職種】であり、世界に災いが起きる前兆だとも言っていた。
「良いかいマリア……難しい話になるから、まだマリアには分からないかもしれないけど……聖教会の人の話では本来、遙か昔の時代には【勇者】とは世界の危機を救う必要がある場合にのみ現れる救世主の役割があるらしいのだけどね……現在は人類が対応する事が出来ないレベルの【天災級】である魔獣や竜種は【魔王】様と【聖人】様が助けてくださるから、【勇者】という【職種】はいらないらしい。」
遙か昔に、邪神とその眷属達が登場した時も、少し前には【勇者】が出たという話だと教えてくれた。
アーサーが【勇者】の職種に就いた事の対応も、中央の国に判断を仰ぐという事になった。
☆
そして祝福を受けてから、アーサーは急に性格が変わってしまった……。
「レベルの上げ方がわからないぞ! 何でステータス画面にレベルの項目が無いんだよっ! くそっ、獄界と同じ設定の世界じゃないのかよ!」
……
「俺はいつか魔王を倒す凄いやつなんだ。それなのに何で魔獣倒しをさせてくれないんだ! さては貴様ら、俺が活躍するのが妬ましいんだな!」
……
「勇者なんだからもっと旨いものを食わせろよ! なんだよ、この臭い肉は! 唐揚げが食べたい! くっ、この世界にラーメンとか無いのか? ってか、コンビニみたいな店は無いのか?」
……
「俺の言うことを聞かないと将来後悔するぞ。」
……
「この村から領地改革してやるから、言うことを聞いていれば良いのに……何故、誰も俺の言うとおりに動かないんだ……。」
そんなことを叫んだりしていた、アーサーは元々そんなに叫んだり怒ったりしない優しい性格だったのに……
そして、村人達のみんなはアーサーの変貌ぶりに恐怖した……。
みんな、裏ではアーサーが悪魔に呪われたとか言っていた。
それに世界を守ってくれている【魔王】様を倒すという事は、子供でも冗談で言って良いことではないのは分かるのに……
☆
わたしとアーサーは中央から迎えに来てくださった美しい女性の【聖人】様と一緒に中央の国に行くことになった。
アーサーは冒険の始まりだ!とか叫んでいたが、実際は悪魔憑きかもしれないので中央の国で【聖人】様が隔離して様子を見ることになったらしい。
わたしはアーサーが、元の優しいアーサーに早く戻って欲しいとお祈りした……。
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名前・マリア(5歳)
状態・良好
属性・光
職種・聖女
種族・人族
パッシブ・信仰
アクティブ・祈り、聖域化
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