第26話 体験学習

 この世界では6歳から12歳まで学校に行くことになっている。


 学校と言ってもいくつもタイプがあり、農作業が忙しい村人が行くような私塾みたいなものから、お金持ちや貴族が通うような私立学校みたいな豪華なものまでバラバラだった。 


 職種を得てから学校へ行くまでの間、自分の生活している町では体験学習という名の、仕事をお手伝いする事が伝統になっている。


 幼なじみのブラットは、親父さんの元で強制的に鍛冶屋の手伝いをやらされ、雑用をさせられており。 エレナは彼女の母親と一緒にハンターの体験をしていた。 一緒に森へ行き、獣を狩ったり、薬草取りなどしているらしい。


 そして自分はお母さんの推薦で、ブラットの母親であるシーラさんが経営している食堂で皿洗いをしていた。


 自分としては、簡単なお手伝いをしてお小遣いも貰い、仕事終わりに料理を教わることで自分が料理して旨すぎても違和感を無くす為の偽装工作を学べる良い体験学習だった。


 シーラさんや他の従業員に料理について、いろいろ話を聞いていたら、この町でも醤油や味噌が購入出来るらしい。 しかし塩やコショウより高く、それにあまり使われないらしい。




 ☆



 数ヶ月が経過して、食堂で働くのもだいぶ慣れてきていた。


 最近は【ハンド】の先端を手の形をした触手に作れるようになったので(ただし、まだ1本だけしか作れない。)、片手で皿を固定したら【ハンド】がスポンジで皿を洗い、もう片方の手ですすぐという技を覚えていた。 これにより、皿洗いの作業効率がもの凄く上がり、ピーク時は大人でも大変なレベルの量だけど1人で乗り切れる位になり、シーラさんに誉められた。


 もうすでに自分の握力より【ハンド】の握力の方が上という哀しい現実がそこにはあった……。


 そして仕上げにお皿に【クリーン】を使い、除菌をする。


 この【クリーン】さんは地味に万能でイメージを細かく指定でき、除菌から服に付いた砂埃まで落とせる。 しかし一部に効果が無いみたいだから謎な仕様だったりする。

 例えばドレッシングは落ちても油とかはダメとか……。 なので皿洗いは洗剤をつけた手洗いになる。


 ちなみに、【ハンド】は1本だけ使えると家族や食堂の人にも公表していて普段から使っている。 何本も触手が出せるとかは言っていないから、子供のうちはこのままでいこうと思っている。



【ハンド】が2本あったら堕落した生活しそうではある……。




 ☆



 今日はブラットと訓練をする為に修練場に来ていた。

 あと、付き添いでお母さんと妹が来ている。 妹にはお兄ちゃんの良いところは見せなくてはいけない。


 そのためにブラット、犠牲になってくれ……。



 しかし、最近になりブラットの体型は大きくなりとても5歳に見えなくなってきた。 父親が巨人のようなドワーフだからかな?


 ある意味、ブラットはドワーフのパワーと人族の万能さを合わせたハイブリッド的な脳筋かもしれない。


 それに比べると自分の身体は全体的に筋肉は付いておらずプニプニしている。 前世の5歳なら普通だけど、この世界ではちょっと成長が足りないみたいだ。


 自分は完全に魔法寄りだから、魔法無しだと確実にブラットに負ける。


 普段の模擬戦では魔法禁止にしている。加減がしっかりしていないと下手したらキルしてしまうからだ。


「今日は魔法解禁で行くから、いつもみたいに負けないからな!」


「おれも本当の力をみせてやるぜ!」


「という事でお母さん、何かあったら回復をお願いします。」


「お願いします!」


「大丈夫よ~。 流石に即死はダメだけど、腕くらいなら治せるわ。」


 怖い事言っているけど、お母さんが居れば安心だ。 お母さんは凄腕の回復魔法使いで町では一番らしい。



「じゃあ、準備が出来たら始めていいわよ~。」


「よし、いくぞ。」


「おう。いつでも良いぜ。」


 今日は【雷属性付与】と【サンダーブレード】は禁止だけど、それ以外の見えない攻撃をさせてもらう。 毎回負けてるからたまには勝たせて欲しい。


 まず【ハンド】で木剣を持ち、そして右手に【ブレード】を持ち、左手には木の丸盾を構える。


 本当はさらに【シールド】と【ボール】を同時に使いたいけど魔法の同時制御をするのはまだ2つしか出来ない。


【ボール】を制御せずに適当にばらまくなら、大量に【ボール】を作る事は出来るけど、確実にお母さんに怒られるのでやらない。


 自分は戦闘の準備が出来たから【ハンド】を使い先制攻撃をする。 現在の【ハンド】最大射程は3mもあり、長さ調節も可能だ。


「余裕でかわせるぜ。」


 ブラットは【ハンド】による木剣攻撃を回避しながら突っ込んで来て、自分の横まで一気に間合いを詰めてくると、そのまま横から木製の大剣を振り下ろしてくる。


(ここまでは計算通り、わざと横に来るように誘導したから丸盾で攻撃を防いだら、見えない透明剣である【ブレード】で胴体に攻撃させて貰うよ。)


 重心を下げて気合いでブラットの攻撃に耐えようとしたが、丸盾に当たると自分は後方に2m位バウンドしながら吹き飛ばされていた……。


「今までよりパワーが段違いなんだけど!」


 バウンドしたから擦り傷が痛い。


「これがおれの新しいスキル【重撃】だぜ!。」


「ブラットの新しいスキルか!」


「ああ、隙はデカいが強い攻撃を打てるんだぜ。」


(作戦変更して【シールド】と【ハンド】の何も持たない状態にして、それを5つ出していくか。 見た目が木剣と丸盾だけだからブラットの油断を誘えるはず。)


「今度は返り討ちにしてやるよ!」


「レイの体重だと【重撃】は防げないぜ?」


 またブラットが突っ込んできて、今度は上段から振り下ろしてくる。


 それを【シールド】で防ぐ。


「なっ! 見えない壁があるみたいだ!」


 そして隙が出来た所で【ハンド】を使い両手足と腰に巻き付ける。

 これで体が重く感じるはずだ。


【シールド】を解き、【ブレード】で鎖骨辺りに攻撃する。


「ぐあっ。」


 鎖骨が折れる音がして、ブラットがひざを突く。


「は~い。 そこまで! レイの勝ちね。」


「やった~。 やっとブラットに初勝利だよ。」


「あたたっ……。 レイに負けるのは地味にショックだな。」


「先にブラットくんの怪我を治しちゃうわね。」


 そう言うとお母さんはブラットの鎖骨あたりに手を当てる。

 そしたら優しい光がブラットの肩辺りを包む。


「はい。おしまい。 怪我はどう?」


 ブラットは肩を何回か回してみて確認している。


「はい。大丈夫です。 ありがとうございます。」


「【回復魔法】って便利だよね~。僕も覚えたいな。」


「【回復魔法】は回復系の専用職しか使えないからレイが覚えられるとしたら【自然治癒】かしら?」


「それも便利そうだね~。」


(危険な世界だから回復手段は欲しいな。)


「レイの後半に使ったスキルは何なんだ? 急に武器が弾かれたり、身体が重くなったぞ。」


「【魔力操作】で覚えた見えない攻撃だよ。」


「きっと【無属性魔法】のはずだけど、レイのは普通より強度が強いわね。 【シールド】も普通は属性付与してないとほとんど効果が無いはずだけど、不思議ね?」


(普通【無属性魔法】ってそんなものなのか。)


「そうなんだ。 そしたら【魔眼】のおかげかな?」




 ☆



 その後も魔法ありで戦ったが勝敗はトータルすると引き分けだった。


「レイの見えない攻撃もだいぶ慣れたぜ!」


「……これだから戦闘センスのあるやつは。 僕にももっと勝者の余韻を味あわせてよ!」


「レイの攻撃は奇襲などには良いかもしれないけど、戦闘になれた人なら【魔力感知】で対処出来ちゃうわね。 【魔力隠蔽】というスキルがあれば別だけどね。」


「そっかぁ。 もっと戦略を考えないとかな?」


「5歳でここまで出来たら2人共すごい方よ? 特にレイの【無属性魔法】はすごいわ。」




 もっと【魔力操作】を頑張って強くなろう。


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