第3章 大団円円舞曲(エピローグ)

1 幸せを掴んだコリンシアの想い1

 タランテラに帰国して父様はすぐに私の成人の儀を行い、その祝いの席でティムとの婚約を公表してくれた。そしてすぐにでも婚礼を挙げるげるように勧めてくれたけど、あらかじめ2人で相談していた私達は1年待ってもらう事にした。

 私はフォルビア大公位を引き継ぐために、現在フォルビア総督をしているヒースの元で勉強することになっていた。一方、第3騎士団に戻るティムは、里で聖騎士となってしまったのでいきなり副団長に抜擢されてしまい、彼もまた指揮官としての経験を積むためにリーガスの元で勉強することになった。

 別に結婚してからでもいいのではないかと周囲は言うけれど、私もティムもそれぞれの役目をおろそかにしたくないという思いは同じ。だから2人で話し合い、私が正式なフォルビア公に就任するまで婚礼は待つことにした。

 留学前はお互いの立場に気兼ねし、留学中は距離が離れすぎていた。けれども婚約した私達は恋人同士として堂々と付き合えるようになったし、ロベリアとフォルビアならいつでも会いに行ける。勉強の合間に時間を合わせて逢瀬を重ね、婚礼と就任式の準備を進めているうちに、あっという間に1年が経っていた。




 優しく頭を撫でる感触に少しずつ意識が浮上していく。この幸せなまどろみから覚めたくない。すっかり慣れてしまった傍らの温もりに体を摺り寄せると、しっかりと抱きしめてくれた。

 不意に頭を撫でてくれる感触が止んで傍らから温もりが消える。再び寝入りそうになっていたのに一気に目が覚めた。

「ティム?」

「あ、起こしてごめん」

 彼は窓辺にいて既に普段着に着替えていた。

「どうしたの?」

 彼は返事のかわりに窓の外を指さす。私は寝台から降りると、夜着の上にショールをかけて彼の傍に行き、窓の外を覗く。

「あの子達……」

 見えたのは3人の子供。金髪、赤毛、そしてもう1人は帽子で隠しているが、私と同じプラチナブロンドをしている。特徴的な髪色をしているその子達は、わんぱく3人組として知られている弟エルヴィンとその学友達だった。

「今日はだめだって父様に言われているのに……」

 早朝にもかかわらず、彼らがこそこそと様子を伺いながら庭を歩いている理由はただ1つ、賑わう皇都に出て遊んでくるつもりなのだ。今年は父様が即位して10周年になる。残念ながらアレス叔父様は都合が悪くて欠席となったけれど、ブレシッドのお祖父様やお祖母様を初めとして各国からたくさんのお客様を招き、今日は即位10周年のお祝いと私のフォルビア公就任式が開かれ、明日は大神殿で私達の婚礼が行われる。皇都ではお祭りが開かれ、他国からも商人が訪れて夏至祭以上の賑わいとなっていた。

 外を出歩く楽しさを知った3人は普段から本宮を抜け出している。父様もそれを知っていてあまり厳しく言わないのはそれも勉強の1つだと思っているからだ。ただし、いつになく賑わう街中では、ひそかに付けている護衛では守りきれない可能性もある。加えてエルヴィンは10周年の式典に出席することになっているので、この数日間は外出禁止を言い渡されていた。昨日までは大人しくしていたのだけど、我慢できなくなったのかもしれない。

「とりあえず追いかける。君の就任式までには戻るよ」

 いち早く気配を察した彼は、彼らを追いかけるつもりで着替えていたらしい。

「ごめんね」

「俺達にも責任があるから」

 最初に彼らを街に連れ出したのはルークで、ティムはその時に護衛として付いて行っていた。庶民の暮らしを体感させたいと父様の頼みで連れ出してくれただけなのに、いつまでも責任を感じなくてもいいのだけど……。

「行ってくる」

「気を付けてね」

 ティムは私に口づけると、一度窓の外を確認して部屋を出て行った。彼を見送り、窓の外を見てみると、わんぱく3人組の姿はもうなかった。ティムがいれば式典が始まるまでの緊張も少しはほぐれると思っていたのに……。勝手に出かけてティムの手をわずらわせる弟になんだか腹が立つ。式典に間に合っても、絶対に父様に報告しておこうと心に決めた。


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