16 色々拗らせたティムの本音10
翌朝、国主会議の会場に向かう馬車になぜか俺も陛下と同乗していた。いつも通り姫様の護衛として留守番だと思い込んでいたが、今朝になって「お前も当事者だろう」と陛下に指摘され、同行することになった。
かくして車の中にガタイのいい男が2人向かい合って座っている構図が出来上がっていた。本当ならば、補佐兼護衛として同行しているアスター卿と同じように馬を駆りたかったのだが、一応重傷者となっているので元気に走り回っていては困るとたしなめられたのだ。
「黒い雷光ともあろう者が緊張しているのか?」
「……陛下と差し向かいだからですよ」
俺の返答に陛下はクツクツとお笑いになられる。元々、御者をしたことはあっても馬車の中に乗ったことなど数えるほどしかない。しかも生涯の主と定めている陛下と差し向かいで座っているのだ。緊張しない方がおかしい。
「今のうちに慣れておいた方がいいぞ。いずれお前はコリンの伴侶になるのだからな」
ごもっともで。あまり意識しないようにしていたが、近い将来この方が俺の
そうしているうちに会場となっている建物に着いた。里の中枢を担う場所だが、今まで見たどの国の宮殿よりも巨大で壮麗だった。
既に他の国の国主方も集まっていた。俺が馬車から降りると、異様なくらいに視線を浴びる。けが人だと見せかけるために、今回も左腕を吊っているから余計に目立つのかもしれない。本当は治りかけで痒いくらいなのだが……。
「控えの間で待っていなさい」
アレス卿と少年王と落ち合った陛下は、俺にそう指示をすると国主会議専用の部屋へ向かう。補佐のアスター卿も同席できるのだが、今回は俺に付き添ってくれている。控えの間から本会場の様子を伺いながら会議が始まるのを待った。
やがて時間となり、当代様がお出ましになられて会議が始まった。末席には特別にこの場へ呼ばれた例の黒幕がいる。既に賢者になったつもりでいるのか、彼は不敵な笑みを浮かべていた。
そこへ当初の手筈通り、急使役の竜騎士が会場に現れる。この場に立ち会うために用意された俺の出番ももうすぐだ。懐に忍ばせた証拠の書簡を確認すると、アスター卿に頭を下げて会議の間に向かった。
正面の扉があくと、俺は居並ぶ国主や賢者の方々に頭を下げると、作法通りに当代様の前に進み出る。
「この度の事件、このティム・ディ・バウワーの働きにより未然に防がれた。既に中心となった南部の領主、そして関係者はすべて捕縛された」
それまで俯いていたアレス卿が口火を切り、黒幕への追及が始まった。手始めに俺があの指示書を突きつける。男は平然と「知らぬ」と答えたばかりか、嫌味まで言われてしまった。
だが、これは序の口。ここから当代様の容赦ない追及が始まった。最初は余裕の表情だった黒幕も次々と明らかにされる事実に顔色が悪くなってくる。当人は平静を装っているつもりのようだが、既に始まっていた関係各所への捜索によって発見された書類保管箱を持ち込まれると蒼白となっていた。
もとは厳重にカギをかけられていたそれも既に開けられている。中の書類を手に取った賢者方の話では、エルニア介入の資金調達の為の裏帳簿まであるらしい。観念したのか、黒幕は膝から崩れるようにしてその場に座り込んだ。
「この者を捕らえよ。証拠の精査が済み次第、改めて審理の場を設ける。申し開きはその場でせよ」
当代様はそう言い渡すと、最後まで往生際の悪かった黒幕に腹を立て、一顧だにせず部屋を出て行かれた。入れ違いに多数の兵が現れて黒幕を取り囲む。そして問答無用で拘束すると部屋の外へと連れ出そうとするが、その前にエルニアの陛下が立ちはだかった。
「陛下、危険です」
すかさずアレス卿が
「僕はそなたを許さない。己の欲の為に罪もない人々を巻き込んだ。我が国の民を傷つけ、命まで奪ったのだ。絶対に許さない」
少年王は怒りを露わにして強く拳を握る。その真っすぐな目と合わせられなかったのか、黒幕は目をそらした。
「連れて行け」
アレス卿が少年王を素早く背中に庇う。そしていつになく厳しい声で兵士達に命じた。まだこの結末が信じられない黒幕は、引きずられるように連れ出されていった。
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