14 色々拗らせたティムの本音8
高貴なお客様が帰られたので、昼食をとりながら情報交換となった。食堂にある円卓に陛下と皇妃様、アレス卿に姫様、アスター卿、ユリウス卿そしてなぜか俺も同席して座る。
「こちらに来る途中、里からの使節とちょうど会うことが出来たので大体の事は聞いております」
さすがに暑苦しいので全員正装は脱ぎ、楽な服装で食卓に着いている。まずはアレス卿が口を開き、エルニアで別れてからの経緯を教えてくれた。彼は俺の事を気遣ってくださり、エヴィルの一団と合流するとすぐに先に行くように勧め、事情を知ったエヴィルの陛下は単騎では危険と判断し、配下の竜騎士を同行させてくれたらしい。
使者とは休憩のために立ち寄った砦で会い、要請を知った彼はエルニアで留守番をしているレイド卿にあてた手紙を一緒に託した。
「神官の身柄を移送するのは早くても10日はかかる見通しです」
「それは仕方ないだろう。議題が増えた分こちらの会期も延びるだろうから、終わるまでには着けばいい」
「そうですね」
移送手段として考えられるのは船だが、もしかしたら拘束した状態で飛竜に乗せてくるかもしれない。この辺りはレイド卿の考え方次第だが、エルニアで必要な竜騎士が不足している現状では無理な選択かもしれない。
ひどかった二日酔いも皇妃様特製の薬のおかげでいつの間にかどこかに消え失せていた。昨夜から大して食事をしていなかったせいか、猛烈な食欲がわいてくる。なじみのある人とはいえ同席しているのはいずれも高位の方々。がっつかないように自制していたが、目の前には次々とおいしそうな料理がのった皿が並べられる。結局話を聞きながら黙々とそれらを平らげていた。
「お前の方はもう大丈夫そうだな」
負傷の事を使者から聞いたのならば、誇張した情報が伝わっていたに違いない。アレス卿は半ばあきれた様子で俺に視線を向ける。心配して損したと言ったところか。
「……すみません」
口の中のものを大急ぎで飲み込んで謝罪する。だが、アレス卿は笑いながら「誇張されているだろうとは思った」と付け加えてくれた。
「ティムは、私を
隣に座る姫様が真剣な表情でアレス卿に訴える。あの時の事を思い出してしまったのか、少し顔色が良くない。俺は慌てて左腕を大げさに動かして見せる。
「姫様が治療してくださったおかげで痛みはなくなりました。もう、なんともないです」
「ごめんよ、コリン。君の騎士様を責めたんじゃないよ」
アレス卿も慌てたのか、姫様に優しい声で宥める。やはりまだ不安定なところがあるな……。もっと何か声をかけなければと思っていたら、皇妃様が少し休みましょうと声をかけて姫様を食堂から連れ出していく。
「参ったな」
その後ろ姿を見送ると、アレス卿が大きく息を吐いた。俺達がいなければ、その場に突っ伏していたかもしれない。
「やはり、影響は残っているか」
陛下の表情もさえない。改めてあの勘違い野郎への怒りがこみあげてくる。
「どうにかならないでしょうか?」
「こればかりは時間が必要らしい。今朝もちょっとしたことで取り乱した。フレアが機転を利かせてティムの治療に行かせたら少し落ち着いた」
「え?」
姫様が治療しに来てくれた経緯を知って驚いた。それにしても、あの時の恐怖が付きまとっている姫様が不憫だ。
「早く国に連れて帰ってやりたいが、先ほども言った通り、今回の国主会議は長引くだろう。始まってしまえば私達はそちらにかかりっきりになってしまう」
「俺に手伝えることはありますか?」
苦しむ娘に父親として何もできないと陛下は呟く。会議に出席できるような身分ではないが、何かしら手伝えることがあれば率先して引き受けるつもりだ。その旨を陛下に伝えている現状では無理な選択かもしれない。
「コリンの傍に居てやってくれないか? あの子が一番落ち着くのはフレアでも父親の私でもなく君の傍だ。国主会議が終わるまではコリンの護衛も兼ねてここにいてもらっても構わないだろうか?」
陛下の頼みとあれば即答するところだが、今の俺は神殿騎士団の一員としてアレス卿の指揮下に入っている。様子を伺うように上司の顔を見ると、彼は大きく頷いた。
「分かりました。俺で役に立つのであれば」
「頼むぞ」
「はい」
陛下が立ち上がって手を差し出してくる。俺も立ちあがるとその手を握り返した。国の英雄でもある陛下に頼りにされていると思うと、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
黒い長剣にすっかり魅入られてしまったティム。
竜騎士を引退するまで愛用することになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます