第2章 国主会議奇想曲
1 変わらないコリンシアの想い1
礎の里での3年間は思っていたよりもあっという間に過ぎていた。私は16歳になり、昨年の誕生日の折に略式の成人の儀を済ませて大人の仲間入りをした。正式な儀式は国元に帰ったときに父様と母様が改めて開いてくれることになっている。
来たばかりの頃はタランテラが恋しくて泣いたこともあったけれど、同じ年頃の同性の友達が少なかった私には毎日が新鮮でその寂しさもすぐに感じなくなった。今回一緒に里で学んだのは各国の王家の血筋に連なる令嬢10名。そして半数はこのまま里に残って大母になる為の勉強をつづけ、私を含めた残り半数は国元に戻ることになっていた。
ただ、今までだとこの時点で帰る私達には里で学んだ学歴が残るだけだったのが、今回からは上位の高神官としての地位が約束され、時に大母の名代としての役割を与えられることになっていた。
今日はその全ての課程を終えたお祝いが開かれていた。私達生徒の他に講師役の神官や学者、そして間近に控えた国主会議の為に礎の里へ来た各国の国主も何人か招かれていた。
「よく頑張ったな、コリン」
「随分と大人になったわね」
昼間だし、主役が私達なのでお酒は用意されていない。甘みを抑えた果実水を手にした父様が私の姿を見つけて話しかけてきた。でも、傍らに母様がいてちょっと驚いた。昨年、妹を出産したばかりだから来れないだろうと思っていたから。
「父様、母様」
父様に会うのは前回の国主会議以来2年ぶり。母様はその時に来れなかったので国を出て以来になる。私は嬉しくて2人に抱き着いた。
「あらあら、甘えんぼさんなのは変わらないのね?」
苦笑しながらも母様は私を抱きしめてくれる。国元にいたころは見上げるようだった母の顔も、3年の間に背が伸びたからかほとんど同じ位置にある。変わりない様子に安堵したけれど、彼女の目の代わりをしていたのが見慣れない小竜だったのが残念だった。
仲良しのルルーも寿命と言われている10才を過ぎた。私が国元にいたころから老化が
「コリンのお友達を紹介してくださいな」
母様に指摘されてようやく友達と一緒だったことを思い出す。振り返るとダーバの王女クレメンティーナが父様と母様に見惚れていた。見慣れている私はなんともないけど、父様と母様の美しさに誰もがくぎ付けになり、こういった場でいつも会場中の視線を一身に浴びるのだけど、互いしか目に入らないのであまり気にしている様子はない。私は慌てて彼女を呼ぶと両親に紹介した。
「私達とはまた夜に話をすればいいから、皆さんにちゃんと挨拶していらっしゃい」
今日で学び舎を卒業するので、国主会議が終わるまではタランテラの宿舎としてあてがわれている離宮の1つに父様や母様と一緒に滞在する。そういった離宮は礎の里の広い敷地に点在していて、国主会議の間は各国にそれぞれあてがわれていた。
「はーい。また後で」
もう一緒にタランテラへ帰るのだ。積もる話はまた後ですればいいので、今は友達やお世話になった講師方に挨拶をするのが先。母様とお祝いの席が終われば、一緒に離宮に行くのを約束し、我に返った友達と一緒に再び会場内へ繰り出した。
「コリンのお父様とお母様、素敵ね」
一通り挨拶を済ませて疲れた私達はテラスに面した椅子に座っておしゃべりをしていた。あまりにも鮮烈だったのか、父様と母様の事をあれこれ聞かれたのだけど、感嘆のため息とともに褒められると悪い気はしない。
一緒に離宮に行くと約束した当の2人は、実は急用が出来て先に戻ってしまっていた。父様だけ帰ってもいいのだけど、母様が1人になるから心配だったみたい。後から誰か迎えを寄越してくれると言って、2人は仲良く会場を後にしていった。
「そういえばコリンの婚約者様はいらっしゃらなかったわね」
急に話を振られて私は飲みかけていた果実水でむせそうになる。
「今を時めく黒い雷光様が恋人だなんて羨ましいわぁ」
アレス叔父様と行動を共にしていたティムは、いつの間にか黒い雷光の異名で呼ばれるようになっていた。大陸全土にその才能が認められたのは嬉しいのだけど、各国の有力者が彼を手に入れるために競うように縁談を持ちかけていると聞くとちょっと複雑。
そこで今回の国主会議の折にティムも同意してくれたのでやっと婚約を公表することになった。一番仲の良いクレメンティーナには彼の事をよく話していたので事情を心得てくれている。去年は彼が叔父様の使いで礎の里に来たので、その時に彼女に紹介した。
「貴女だって婚約者がいらっしゃるじゃない」
私も負けずに言い返す。クレメンティーナはダーバ国内の有力貴族の跡取りと婚約していた。絵姿を見せてもらったけどなかなか美形だった。ただ、見かけによらずかなりの曲者なのだと言う。
そんな話をしていると、なんだか周囲が騒がしくなる。するとテラスへやけにキラキラとまぶしい笑顔の若者がやってくる。その姿を見た瞬間、クレメンティーナは逃げ出そうとしたのだけど、若者にがっちりと捕まって……というか抱きしめられていた。
「ハニー、会いたかったよ」
「ご、ごきげんよう」
若者の姿はいつか見せてもらった彼女の婚約者の絵姿そっくりだった。いや、どちらかというと実物の方がかっこいいというか、装飾品を付けているわけでもないのにやたらキラキラしていてまぶしい。
来ると思っていなかったらしい彼女は彼の腕の中で固まっていた。そんな彼女に彼は人目をはばからず口づけの嵐を降らしている。と、いうか、もしかして私の事目に入っていない?
今度は唇を合わせているし。しかもこれ、父様が母様によくしているいわゆる大人の口づけ? 長い口づけに彼女の体から力が抜けてくたりとしている。彼はそんな彼女を優しく抱き上げた。
「さあ、ハニー場所を変えて2人でゆっくりしよう」
我に返ったクレメンティーナから縋るような眼を向けられるが私に止めるすべはなかった。そのまま彼女は
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